夢見*
ハルの視点です。
残酷描写等入ります。
お気をつけください。
アーサーの話を聞いて幾日か経った。
既視感は相変わらずだった。
自分でも意図せずその筋道通りに行動してしまうこともあった。
その身の上話の時にネヴィが実はグィネヴィアでタリト共和国の皇女だと分かり、私は彼女に政治体制など聞きたいことがたくさんあったのだ。そして、つい見かけた彼女の腕を取って質問攻めにしてしまったのだ。
後になって異世界の記憶と同じことをしてしまった事に気付いた…。
何故そのような質問をしたかというと、タリト共和国は異世界の日本という国とほぼ似通っているからだ。
仕方あるまい。
聞いた所によると、異なる所は皇族の求心力位で、他は殆ど類似していた。
あの世界では、エルフがいない。ケンタウロスも竜もいない。
それなのに、国内で鱗が淀んでいる所が何故か殆どなかったのだ。
タリト共和国をこの目で見てみたい、とつよく思った。
あの人物については全く進展がなかった。
勉強会では皆頭が柔らかく、クリュオンといった聞きなれない言葉をどんどん吸収していくし、それぞれの国の魔法や魔術についての考え方が知れてよかった。
伝統的な考えではブリテンもイリアムもドリオス、何れの国も魔法が主流だったのだそうだ。
しかし、イリアムとドリオスではスコーラの影響力拡大に伴って魔術がそれにとって変わりつつある。
今では、魔法を使うのは限られた者しかいないらしい。
ハブルは祖母に養われたため魔法に対する素養が高く、アリは宗派として魔法を、励行しているから両方とも魔力の貯蔵の仕方については熟達していた。
一方ブリテンでは未だ魔法が主流らしい。アーサーは覆いのせいで長く流れを読めていなかったが、教えたらすぐできるようになった。
今後はいかに魔力消費を抑えて陣を作るかを目標にするつもりだ。
1日1日が充実していると、時間はどんどん過ぎてしまう。
定期試験の季節になった。
試験は3科目だ。
魔術と、選択科目2つ。
魔術に関しては、勉強会で魔法陣を描くとき魔術回路と比較しているので、なんとかなるだろう。
後はそれぞれの科目だが、アーサーは大変そうだった。
もちろん法の試験だ。
なぜかわたしも巻き込まれてアーサーの法学の勉強を勉強会前後に行うことになった。
まぁブリテンから見た世界の情勢についてをマーリンから聞き出せたのは大きかった。
結果的に無事みんな試験をパスすることができた。
試験が終わり一息つく頃、私はまた夢見が悪くなっていった。
目の前でエルフや黒髪に黒い瞳をした人間達がこちらに手を振っている。
ああ、私は帰ってきたのだ。
彼らの方へ駆け出した。
しかし、彼らは膨れ出した。
四肢はまるで丸太のように、腹部はりんごのように、顔は見る影もなく目は見えなくなり、唇も厚ぼったくなっている。
至る所で破裂音がした。
エルフの矢によって割れる鱗の結晶を思い出した。
そうだ、あの結晶はこういう音を出して花のような光をだすんだ。
その通りに、血の花が咲き、私を赤く染めていった。
目の前にエルフなのか人間なのかわからない首が飛んできた。
口が動く。
目の前で囁かれたかのように聞こえる。
「お前のせいだ。」
場面が変わり、全裸で抱き合う男女がいた。
二人は微笑み合い、何処からか出してきたナイフを二人で持ちながら女の腹部を刺し始めた。
「「お前のせいだ。」」
汗をかきすぎて気持ちが悪く起きてしまった。
以前は同じ夢がただ繰り返されるだけだったが、今では色んな仕方で心を抉ってくるような夢ばかりだ。
頭では整理出来たと思っていたのだ。
が、そうではなっていないらしい。
ベッドから起きだして、指先に光を出しながら、コップに水を入れて喉を鳴らした飲む。
今はスコトスの刻だ。
光を自分でつけなければ周りが全く見えない。
「スコトスに誘われているのか。」
自嘲気味に笑いながらつい口にだしてしまった。
コップを起き、ベッドの端に座った。
指先についた光を消す。
瞼を閉じた時と同じだ。
頭を空っぽにしたくて、そのまま鱗の流れに身を任せた。
目を開くと、自分の部屋ではない所に立っていた。
臭いでわかった。
途轍もなく臭うのだ。
ここは何処だ?
周りを見回すと、真っ黒な視界の中で一つだけ黄金色に輝く鱗の結晶があった。
それを手に取る。
まだ、あるはずだ。
『やっと来たか。遅いぞ。』
突然頭の中に声が響いた。
一瞬にして全身に鳥肌が立った。
あいつだ。
『ハルシオンか…。ふむ、なかなか面白い匂いがする。』
気配は感じないのに、目の前で匂いを嗅がれている気がする。
『味は未だ未熟だな。』
頬を舐められた。
『身体が未熟なせいだからか』
胸と臀部を触られた。
大きなお世話だ。
『お前ほどの者がどうして人間に使役されている?』
震えまい、屈しまい、と自分を懸命に奮い立たせる。
『使役?違うな、気まぐれだよ。』
私から離れたようだ。
『そなたは来るのが早い。スコトスに導かれたようだが、』
突然うしろの髪を引っ張られるような感覚があった。
『去れ。』
あいつから一気に遠ざかっているようだ。あたまに響く声がちいさくなっている。
『だが、そうだな。この気まぐれにも飽きてきた。』
微かな声となって頭に響くと、頭の中に一瞬、私が今まで立っていただろう部屋の光景が浮かび上がった。
銀色に輝くローブが目に入った。
あれは、式典の時魔術賢人が着ていたローブだ。
次の瞬間、瞼を開いた。
朝だ。
トトトトっ、トトトトっ
ホブゴブリンの足音が聞こえる。
魔術賢人が関わっているのか?
頭の中はずっとその疑問で満たされていた。
今日の授業の準備をして、すぐに図書館へと向かった。




