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魔術学園でのあれこれ  作者: あめ
第ニ章
36/41

未来

アーサー視点です。

長ったらしい説明で恐縮です。

今日は心臓に悪かった。


朝っぱらからハルとマーリンの口論が始まり、ハルが珍しく温かな表情で話す妖精に何故か脅された。

心臓に悪かったのはそのせいではない。

ハルが部屋を出るとき笑顔を見せた。まず、それが一つ。


以前、トーマス先生に見せた笑みは不気味さで肝が冷えたが、今回は心臓を掴まれたような感覚だ。

マーリンも滅多に表情が動かないがこんな感覚になったことはない。


徐々に嬉しさがこみ上げてきて、マーリンを見たら何故だか難しい顔をしていた。

何故だ?

まぁ、マーリンは置いておこう。

俺はハルとの距離をさらに縮めようと教室で席を同じにすることを決意したのだ。



次に毎回課題が出されたのが一つ。


うたた寝をしながら、イリウスの温もりを感じていると課題有りという一言によって冷水を浴びせられるのを3回やられたのだ。

俺の天才的な集中力によって全く聞いていなかった授業内容に目を通し、授業合間に課題を終わらせたが。そのせいで、何人かの声が聞こえたが、適当にあしらってしまった。まぁ、わからない所は後でマーリンに聞こう。




次に内容に驚いたのが一つ。

一限目の物性では、天体についてだったのだが、俺たちは太陽の周りを回っているんだそうだ。

そして身の回りの現象を数式化することで、未来の予測を行えるという。

ブリテンでは天体云々の話などしたことがなかったので目から鱗だ。

俺は太陽に振り回されて目が回る自分を想像した。

2限目の数・音。

音のハーモニーは数としての規則性があり、それを学ぶことで人間の感性を操作できるという。

マーリンはこれを選択科目にすべきだった。

とても刺激的な授業だった。

良い意味で心臓に悪かったのだ。




次に、昼飯を食べ始めた途端マーリンに怒られたのが一つ。

なんと、あの階段で降ってきた女生徒はタリト共和国の皇女グィネヴィアで、彼女に決闘を挑んだ女生徒はリタの王女リザだったのだ。

いや、それを早く言ってくれ。

俺から王女を委員長に指名してしまったじゃないか。

ま、でも双方、立場を公言してるわけではないからな。

グィネヴィアは自分のことをネヴィと言っていたし。

俺、悪くなくないか?

頭の隅にでも置いておこう。


と、思っていたらマーリンに釘を刺された。

授業中でも周辺の様子を伺えと言われた。

今日午前中の授業内容は物性ではリタを、数・音ではタリト共和国に喧嘩を売るようなものだったらしい。

俺以外が皆、緊張感をもってその2つの国の様子を伺っていたというのだ。

仲間はずれか。


結局、端的に言うと、

スコーラ側は今回の授業で、

“学問を以って世界への正しい認識を身につけよ”

と主張し、

リタとタリトは終始口を閉ざし、

“関せず”

ことを主張。


なかなか緊張感のある授業だったんだな…。



まぁ、こんな感じで俺の寿命は縮んでいったわけだ。

午後の魔術の授業は実習で、水を湧き出させる魔術回路を作る作業だった。トーマス先生から合格が出ない限り終わらない…。

マーリンは毎日やっているため即終了。ハルも難なく終了し、マーリンが何やらハルに声をかけて実習室を出て行った。


俺だけ仲間はずれにしやがって…。

何くそ、という気持ちを力に変えて、まぁ俺の才能もあって、暫くして合格をもらった。


俺は自室へと戻ってみると、マーリンとハルが話していた。

俺が入ってきたことに気づくと、すぐに口を閉ざし、多分あの双子が話していたのと同じような方法で話し始めた。

仲間はずれにしやがって。


「俺、いるんだけど。」


口を尖らせる。


「ああ、すまん。」


取り敢えずマーリンが謝った。


「で、何の話しをしてたんだ?」


マーリンはハルの顔を窺う。

ハルは少し考えた後うなづき、自分から話し始めた。


「前置きが長くなるがいいか?」

「もちろんだ。仲間はずれは嫌だ。」


ハルはうなづくと話し始めた。


「シビュラ、あの双子が言っていたアタラクシアはエルフの中でも鱗…クリュオンに乗るのが特に上手い者を言うんだ。」

「クリュオンに乗る?」

「自分のクリュオンを外界のクリュオンと同期させるといってもいい。」

「そういうことか。それで魔力を貯められるんだよな。」

「ああ、だがクリュオンに乗る場合それだけではない。」

「他にもあるのか?」

「例えば、クリュオンを介した会話を例にすると、シビュラや妖精、そしてマーリンのレベルだったら頭に直接会話をすることができる。やった事はあるだろう?」

「ああ。あれか。」

「エルフは感情や奥底の考えが筒抜けになる程の会話を行う。」

「うわ、そうなのか?」


それは嫌だな…。


「嫌そうだな。」

「いやぁだって、自分で大切にしておきたいものってあるだろ?」


ハルは考え込む。

こいつにはないのか?


「まぁ、それがエルフにとっての常識なんだろ。で、アタラクシアはどうなんだ?」

「アタラクシアの場合、同じレベルで会話できる相手は性交するまでエルフ達と同じレベルだ。会話する相手がいないからな。性交後はその相手と一心同体ともいうべき状態になる。」

「うわ、すごいな。」

「徐々に失っていくがな。…ここからが本題だが、アタラクシアは更にクリュオンを介して異なる世界を見る事ができる。」

「どういう事だ?」

「この世界は一つだけではない。無限に沢山の世界があるんだ。そして、全てのもの…草や石そして獣や意思のあるものに対応して、異なる世界に同じクリュオンの波形をもつものがいる。」


またまた、俺の世界の見方を壊すような話しになった。


「同じ世界にはいないのか?」

「祖先は殆ど同じ波形だな。だから私はアタラクシアの記憶を持つ事ができている。普通のエルフもある程度持つ事ができるが。」

「エルフってスゲーんだな。」

「話しを戻すが、アタラクシアは異なる世界の同じ波形を有する者の記憶を覗けるが、今まで人間と波形が同じになる事はなかった…、しかし私は人間の血が半分流れていることで、異なる世界の人間の記憶を覗けるようになったんだ。」

「それの何が問題なんだ?」

「ここからマーリンに言おうとした事なんだが、未来がわかるかもしれないんだ。」

「は?」

「は?」


そろそろ容量オーバーだぞ?

どうすればいいんだ?

エルフってどうなってんだ?


「何故か所々似通っているんだ。私と同じ波形の人間の記憶で、アーサーとマーリンそしてリザ、ネヴィに当たる人物が出てきた。」

「面白そうだなぁ。」

「呑気だな。」


思考を放棄した俺にマーリンが口を出してきた。


「しかし、偶然という場合もあるだろう?それくらい異世界が多いわけなのだから。」

「それも考えたが、君たちが関わる出来事に関しては全て一緒だったんだ。今日の階段での出来事からね。」

「随分と奇妙な話だな。じゃ、俺の未来はどうなってた?」


ハルは驚きの表情で俺を見る。


「え?言うのまずいのか?」

「まずい、という事はないが…。」

「ここまで言っておいてそれはないだろ?」

「まぁ、それもそうだが…。」


何がいけないんだ?


「聞いて君は何をする?」


あー、特に何も考えてなかったな…。


「いや、興味本位に聞いただけだからな…。」

「ハル、こいつはいつだって感性で行動している。気にしない方がいい。」

「なるほ。」


いや、納得するなし。


「君はタリト共和国のネヴィと付き合うことになるだろう。」

「は?なして?」

「いや、理由は知らないが、お互い好意を持って交際していたけど…。」

「うーん。わかった。」


頭の隅にでも置いておこう。

マーリンは難しい顔をしているが。

そんなマーリンが口火を切った。


「ネヴィはタリト共和国の皇女だ。」


あ、それ言ってしまうんだ。


「ハル、言ってなかったが、アーサーはブリテンの王子だ。まだ公表はできていないが。」


あ、それも言ってしまうんだ。

ハル驚きの顔…、をしなかった!

知っていたのか?


「まぁ、何となく察していた…。だが婚姻までいけば、ブリテンの王に即位出来なくなるな。」


え、そうなのか?

マーリンがハルに頷く。


「そうだ。だから変えないといけない…。」

「人の恋路を邪魔するのか?」

「いやいや、待てよ。その前にどうして王に即位出来なくなるんだ?」


質問したらマーリンの顔が冷たくなった。


「周辺国の情勢を把握しとけ。まず、ネヴィはこのままいくと女皇になるだろう。今の皇には他に子供はいないからな。タリト国民は皇族に厚い尊敬の念を抱いているが、政治は国民によって選任された代表者によって行われる議会政治で皇族による関与は許されていない。」

「じゃ、つまり…。」

「まぁ、婚姻までいけばの話しだ…。」

「……。」


その前に俺がネヴィを好くかどうかだろ?


「婚姻もない話しでもないしな。皇族に男児が生まれる場合とモルガン派が優勢になる場合か。」


話しているとハルが話しに入ってきた。


「君たちの話に入ってすまないが、モルガンとは?」

「俺の姉だよ。」

「リタに洗脳された気狂いだ。」


マーリンが中々酷いことを言う。

まぁ、その通りだが…。


「モルガンの実家はリタに接する領地で、当主の大貴族ルフェ卿はリタ側から秘密裏に洗礼を受けていた。それが分かったのは俺の師であるオウェインが魔法師団長になってからだな。それ以前はリタ側の魔術によって上手く隠されていた。」

「わかった時点で後継者候補として名を外されなかったのか?」

「ルフェ卿は元々力が大きいからな。現時点では後継者もモルガンしかいない事になっているから何も出来ない。」

「何故、王子がいる事を公表しないんだ?」

「元々アーサーの母親は妾で後ろ盾がないからだ。」


ハルは少し考えてまた口を開いた。


「いや、それだけではないはずだ。目の覆いはモルガンに繋がっているんだろう?」

「察しがいいな。ブリテンでは後継者選抜の条件が、どれだけ妖精に愛されているか、なんだ。」

「…成る程な。よく生きてたな。」


本当だよ。


「周りの協力がなかったら此奴は死んでただろう。」

「…そうか。」


何だか辛気臭くなってきたぞ。


「だが、何故私にここまで君たちの事を知らせたんだ?」

「教わるのにフェアじゃないと思ってな…。まあ、出来たら協力して欲しいという下心もある。」


マーリンにしては珍しいな…。


「そうか…。まぁ、出来る範囲なら協力するよ。」

「ありがとう。」


熱でもあるんじゃなかろうか?

俺はマーリンの額に手を当てたら払われて頭を下げらせられた。

あ、そうか俺の話しだった。


「ありがとう。」


そうこうしていると、ドアがノックされた。

ハブルとアリが来たようだ。


それからは、以前聞いた事のあるクリュオンの話しを中心に今日の勉強会は終えた。


「いやー、今日は疲れた。」


俺はソファで伸びをする。

マーリンがお茶を淹れてくれている。やった。

と思ったらハルの分だけだった。

おい。


「そうだ。今日の授業で分からない所があったんだよな。」


俺はごそごそと鞄からレポートを取り出す。


「物性なんだけど、どうして俺たちは太陽の周りを回っているのに吹っ飛んでいかないんだ?」


マーリンは答えに窮していた。

そりゃそうか。

そしたら、ハルが答えた。


「それは引力と釣り合っているからだ。」

「「引力?」」

「質量あるものには全てモノを引きつける力が存在する。」

「どうして、…あ、そうか。クリュオンに乗るんだっけか。」

「ああ。それで知ってるだけだ。その力、重力は時空の歪みで起こると言われているが、何故そのような力が存在するかはまだ解明されていないようだ。」


歪みだって?

何を話しているのか全く理解できないが、おもしろい!


「な、な、時空ってなんだ?そもそも、その世界とここは同じ世界と言えるのか?歪んだら重力が出るってどういう事だよ?な、な。」


思いついた事を全部口に出したら、ハルは中々渋い顔をしながらも丁寧に答えてくれた。


結局、眠りについたのは夜更けになってしまった。


それからは授業で疑問に思った事はハルに聞くようになった。

まず第一声が自分でやれ、かマーリンに聞けだが、めげずに聞いている。最終的には丁寧に教えてくれるからだ。

やはりハルは面白い。


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