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魔術学園でのあれこれ  作者: あめ
第ニ章
34/41

既視感

ハルの視点です、

目の前の出来事に、また既視感を覚える。

あちらの世界では、フランスという国の言語でこれをデジャヴというらしい。

しかし、厳密には違う。

私の場合、次に何が起こるのかわかるからだ。



○○○○


記憶を取り戻す前、魔力検査で見た鱗の結晶によって、私の視界は黒く塗りつぶされ、それによって記憶が全て蘇った。


記憶を取り戻した今ならわかる。


記憶が蘇ったのは、アニマの私に対する憎しみと同調したからだと。


それを越えて私でいられるのは、私の中の人間の部分に依拠しているからだと。


そして、もう一度自らの進む道を見出そうと決意できたのは、他者からの言葉で自分の存在場所を感じとれたからだと。


何故ジン、アニマそしてエルフ達は殺されたのか?

その蓋を開けて私がどうなるのか、どうするのかはまだわからない。


再び黒く塗りつぶされ、アニマのように憎しみに染まってしまうのではないか。

不安はある。

一歩足をずらせば遥か奥底に落ちてしまうからだ。

しかし、戻る場所があると信じて、ただ知りたかったのだ。

私が向かう先を見極めるために。


ピンク色の頭髪と黒色ローブを着た人間…。


その人物が使役していたあの精霊…、人間による分類では悪魔とされていることは後になって知ったが、アーサーの覆いにもなっていた。

エルフの島に来た時も、アーサーの覆いとして現れた時も、あれほどの魔力を使いながらも本来の姿ではなかった。

今の私では足元を歩くアリを踏み潰すかのように殺されてしまうだろう、それほど強く、根源的な存在だと考えられた。



そのような精霊をどのように使役させているのだろうか?


そして、魔力検査の鱗の結晶。

これによって、首謀者がスコーラの可能性が大きくなった。

しかし、スコーラとの関連性について考えたところでその目的が分からない。

他の可能性、スコーラが首謀者に与している場合と全く関係がない場合も頭に入れておかなければならないだろう。


記憶を取り戻したというのに分からないことだらけで溜息をつきながら、目の前に積み重ねた民族系譜についての本と史学、そして魔術史の本を手に取る。


一つずつ疑問を解決しよう。

まず、ピンク色の頭髪はリタに特徴的なものだが、他の民族にもいるのだろうか?

次に、強力な精霊を使役させる魔法、又は魔術は存在するのか?

そして、これらがスコーラと何か関連がないかどうか。

取り敢えず、当面はこの事に集中しよう。


しかし、答えは案外簡単に出た。

第一の疑問。

まず、民族系譜についての本から、ピンク色の頭髪は純粋なリタ人に特異的である事、次に魔術史についての本から、スコーラの賢者、そして初代の七賢人は全てリタ人である事がわかった。つまり、あの人物はリタ、スコーラに関わる人物の可能性がある。


第二の疑問。

史学と魔術史についての本から、リタでは昔から妖精や精霊を使役させる術が信者の間で脈々と受け継がれていたということがわかった。賢者はこの術を発展させて、現在の魔術を構築したということだった。


ここまでわかって、司書のひとからもう授業が始まると注意された。

本を元の書棚に戻していく。


何故リタ人である賢者、賢人が祖国を離れここへやってきたのかは分からなかった。読んだ史学の本は全て事実の羅列だったからだ。

今後見えてくるのだろうか?


どちらにせよ、スコーラの中でも当代の七賢人あたりを今後潰していくことが必要だろう。

スコーラは学問を行うという目的で纏められた多民族国家だ。

スコーラ全体の意図か、それとも賢人を中心とした一部の意図かどうかも見極めなければならない。



疑問が疑問を呼び悶々と考えながらクスリスの講義棟へ向かっていると後ろからローブを掴まれた。


「ぐぇ。」


変な声が出た。

振り向くと朝見た顔が並んでいる。

因みに掴んだのは黒い方だ。


「アレン様にぶつかってましたよ。」


「え?」


そんな馬鹿な。

私は前を向いて…いたか?

アレンという名のアーサーを見ると固定された腕を抑えている。


「ハル、クリーンヒット…」

「も、申し訳ない。考え事をしていて…。」


あたふたしながらアーサーの腕を触れる。…これで治ったはずだ。


「あ、なんか痛くない!ハル、なんかやったのか?」

「魔法で…。本当にすみません。」

「いや、ありがとう!マルクスは意地が悪いからな。治してくれなかったんだ。」

「ハル、甘やかしては困ります。アレン様の教育の為にそのままにしておいたのに。」

「あ、じゃ元に戻そうか?」

「や、やめてくれ。マ、マルクスも今日治すつもりだったんだよな?な?」


そんなふうに話しながら階段を昇っていると、前の方から口論が聞こえた。前に視線をやるとリタとタリトの女生徒の集団があった。

すると、突然タリトの女生徒が降ってきた。

アーサーがそれを抱きとめる。


見た事がある。


その後、女生徒は顔を真っ赤にしながら固まるのだ。

抱きとめた男子生徒は顔を覗き込みながら傷がないか尋ねるはずだ。

そして、上から見下ろす女生徒が憎々しげにその様子を見ているのだ。


降ってきたタリトの女生徒は顔を真っ赤にしながら固まっている。

アーサーは顔を覗き込みながら傷がないか確かめている。

女生徒が降ってきた所を見るとリタの女生徒が憎々しげにその様子を見ていた。




私は人間の血によって、私と同じ鱗の波形を有している異なる世界の人間の記憶を覗く事が出来るようになった。


しかし、その記憶と現在が何故か同じように進んでいる…。


こんな事があるのだろうか?


アタラクシアの記憶にもこんな事はなかった。

まぁ、人間の混血など生れて初めてだからな…。



それからもずっと、こういった既視感めいた事はずっと続いていった。


それらは、ある一人の、その世界では日本という国の、女子高生の記憶である。

彼女は第一志望の高校に入学してから、2人の女生徒が1人の男子生徒を巡って争っていく所を傍目で見つつ、淡々と学生生活を送っていた。

その時の記憶が私の世界と類似しているのだ。

最終的には、最初に階段で上から降ってきた女生徒が、その男子生徒を射止める所までを認めて高校を卒業する。現在、彼女は大学の入学を控えている。


○○○○○


今、彼女達は飽きることなくどちらが早くアーサーの気を向かせることが出来るかを、競うように話し掛けている。

アーサーはそれを分かっているのか、分かっていないのか、のらりくらりとかわしている。


『アーサーも器用だな。』


つい頭の中で呟いてしまった。これをやるとマーリンに聞こえるのだ。


『まぁ、昔からああいう奴はいたからな。慣れてるよ』


やっぱり聞かれてた。

聞いてないのに答えてくれる。

なんだかんだで世話好きなんじゃなかろうか。


『なるほどね、メスにとって生存に有利なオスを見つけだすのは遺伝子に定められた最重要事項だから、アーサーのように優秀なオスは小さい頃だといっても狙われるわけか。』

『そんな冷静に分析するな。…何だ?遺伝子って?』

『世代に受け継がれる生命構造の設計図だ。いや〜、面白いよ。人間の記憶って。どんどんのめり込んでしまう。』

『この世界の記憶か?聞いたことないぞ?』

『違う世界の人間の記憶だよ。』

『今度詳しく聞かせろよ。』


マーリンがこちらを向いてジロリと睨んだ。


墓穴を掘った気がする。


これは何とか頭で言わないようにした。




もしここの世界が記憶と同様な方向に進むのであれば、あのタリト共和国の女生徒がアーサーと結ばれるのだろう。


もしそうなら、将来は既に決まっていることになる。

私達は決められた道に従って進んでいるだけなのだろうか?それとも特に関連性はないのだろうか?


今までのアタラクシアならば、それが流れの中にあるなら受け入れると言うだろう。

しかし、人間の血を受け継いだ今、決められた道に従うことに何故か反感を覚えてしまうのだ。

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