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魔術学園でのあれこれ  作者: あめ
第ニ章
32/41

タリト共和国のある女生徒の独白

どうして、あの方はあんなにも素敵なのかしら?

気づいたらあの方に視線が向いてしまう。


始めて見かけた時、そう、式典の時からだわ。

あの人に私の心は既に奪われていたのよ。あの時、あの方は興味深そうに色んな所へ視線をやっていたわ。

そして、私の方を見て心配そうに、あの碧い吸い込まれるような瞳で見つめたの。


きっと、あの人も私のことを好いているに違いないわ。


あの傲慢なリタ国の女王リザから私を救い出してくださった時も私のことをじっと見つめていたんだもの。


そうよ。きっとそうに違いないわ。


見たところによると、金髪に碧眼に白い肌だから典型的なブリテン人ね。混血でないようだから、血統としても由緒正しいでしょうし、従者をつけているから、一般受験で入学してきたといっても身分は高いはずよ。

だから、私達との婚姻は身分的にも現実的。


それに、国全体としても益は大きいはずよ。

私の国、タリト共和国は魔力がないけれど、代わりに多くの国の思想や文化そして技術を外交を駆使して受け入れ、独自に改良し発展してきた。

ブリテンは深い森に囲まれて、今までに他国との交流は持てなかったから、リタやドリオスの勢力が拡大している今、タリト共和国の外交技術は喉から手が出る程欲しいはずだわ。

お互いリタに隣接している近い国同士、今後交流が増えるのは目に見えているわ。

私は名ばかりの皇女だけれど、あの方との婚姻で両国との交流の足掛かりになるはずよ。


けれど、この頃の一番の懸念はあのハルという子ね。


ここで、リザと言わない所が重要よ。リザはあのリタ人に特徴的なピンク色の巻毛を振りながら、この頃毎日のようにあの方に駆け寄っている。けれど、その内容は全て、私との睨み合いが発端となった郷土料理別決闘実行委員の業務よ。

つまり、あの方との接点はそれのみ。


一方で私には接点があるかというと、今作っている最中。

何故出遅れているのかというと、全てあのハルに邪魔されているから。



初めては魔術回路の課題が出た時だった。あの方が苦戦しているようだったから、私が教えようとしたら、あの方はハルって子の所へ直行したわ。

それ以降も全てハルハルハル。

その他の科目の課題についても全部ハルハルハル。


一方でハルって子はそれを全部、「自分で考えろ」もしくは、「マルクスに教われ」としか答えないんだもの。


一度だけ教えてあげた事があったけどね。

あの方が課題のレポートを手に持って、ハルって子を探している時に。


それでも、やっぱりハルハルハル。


なんなのかしら?



私がハルって子を危惧しているのは、これだけが理由という訳ではないのよ?


ある時、講義棟から図書館を通って学生寮に戻ろうとした時、急に腕を掴まれたの。

振り向いたらハルって子だったわ。

あの怪しげな瓶底眼鏡をかけて、私に言ったの。


「貴方の国について知りたいんです。」


それからはもう質問の嵐よ。

詳細な政治形態に始まり、国民性やら皇族制度への考え、皇女として今後の国の在り方についてどう考えるかとか、…自国についてこんな風に聞かれたのは初めてだった。

その時、真正面でぶつかりそうなくらい近い所で聞かれて、瓶底眼鏡の奥が垣間見れたの。


いつもはその眼鏡で邪魔されて見えないんだけどね。

ほんの一瞬だったけれど、その奥の瞳はこの世の物とは思えない程美しかったわ。

世界で唯一の芸術大国と呼ばれるタリト共和国の皇女が言うのだから本当よ。


その瞳は果てのない闇の様で、周りからの光を、秘めた情熱によって反射して、輝きを放っているの。

いつの間にか、眼鏡を取ろうと手が動いてしまったわ。


それに気付いたようで、直ぐ私から離れて、浮かれすぎでしたと詫びてい去って行ったけれど…。


あの瞳は危険。

男も女も皆虜にしてしまう目よ。

私は一瞬しか見えてなかったから大丈夫だけど、眼鏡を掛けずにあの瞳で見つめられたら危なかったわ。


あの方があの瞳の餌食にならないように私が守らなきゃいけない。

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