鳥
ハルの視点です。
進みが遅いです汗
授業が始まるまで、まだ時間があったのでマーリンが淹れてくれた紅茶を飲んだ。
性格は悪いが、紅茶は上手いんだ…。いや、器用ということなんだろうな…。
アーサーもアーサーで、何か抱えながらも、明るい気質だ。
この二人には私にないものを持っている。
シビュラは、私が立ち止まらないように、多分そういった中から学べと言っているのだろう。
そんなことを考えていると、窓から鳥の形をした葉っぱが入ってきた。
ドリュアスか…。
思った瞬間、顔にぶつかってきた。
「ぐぇ。」
変な声がでた。
「うわわ、なんだ?」
アーサーが驚きの声をあげる。
私は顔に張り付いていた鳥を取る。
「私の兄弟。」
「え?ハルは兄弟がいたのか?」
「マーリンにとってのシビュラみたいな関係だよ。」
私はその鳥に魔力の餌をやると喋り始めた。
「アデル、随分冷たいじゃないか。」
「はは、連絡せずごめん。色々思い出していたんだ。」
「ナノスではなくなったことはここからでも感じ取っていたよ。炎の君とフィロスを巻き込んでカラーさ。」
「アデルが炎の君と親しいなんて知らなかった。父さんを巻き込んだんだ…。ぶーたれていただろ?」
「その口にそのまま樹酒を入れてやったさ。へべれけへべれけ。」
「うわー、見たかったなぁ。」
「今度帰るだろう?いつ帰るんだ?」
「季節が巡ったらだね。すぐには帰れないよ。」
「なんだって!?」
「あれ、言ってなかったっけ?」
「言ってない!」
鳥はプルプルと身を震わせている。
「ってことは、その間アデルの周りにいるのとずっと一緒に過ごすわけだね?」
「まぁ、ずっとって訳じゃないけど」
鳥は急に姿勢を正し周りの様子を伺った。
「馬鹿な!皆んなデスミオスじゃないか⁉︎」
私は慌てて鱗を介して理由を言う。
『話しただろう?父さんが男だと間違えていたって。それに結果的には男だと言うことでアタラクシアであることは隠されるんだし』
『隠されるんだとしても許せないよ。ああ、心配だ。一人は半分エルフのようだが、テュフロスであることは変わりない。アデルは世間知らずだからデスミオスの怖さを知らないんだ…。』
『父さんだって、デスミオスじゃないか。』
『あれはアデルと一緒でカルディナに魅せられてゲヘンナへ堕ちているから違うよ。もういい、一言僕から言っておく!』
『へ?』
鳥は威勢よくアーサーとマーリンに向かって飛びだった。
「デスミオス、僕のアデルに手を出してみろ。呪ってやるからな。」
翼で風を起こし、それをマーリンとアーサーにぶち当てる。
マーリンは器用に避けたが、アーサーは呆気に取られ正面に当たった。
「いでっ」
「あ、そうだ。フィロスから手紙が来てるよ。君のこと心配してた。」
鳥は何処からか出してきたのか、紙の束を私の膝に落とした。
「それで?黒真珠は黒真珠のままかい?」
「うーん、どうだろう?…、でもこれからかな。多分。」
「うん。それでいい。」
鳥は以前やってくれたように私の両瞼に嘴でキスをした。
「アデルには本当に感謝している。アデルがいなかったら目に色すら映ってなかっただろう。」
「感謝しているんだったら早く帰ってくれよ。じゃ。」
鳥はそのまま出て行った。
私がドリュアスの姿が見えなくなるまで見送っていた。
「なぁ、ハルのアデルってエルフか?」
「ん?あ、紹介し忘れていたな。木の妖精ドリュアスだよ。」
「え⁉︎あのドリュアス?人間嫌いの?」
「え、人間嫌いなんだな。」
「ああ、そうか。ハルはエルフだもんな。ブリテンだと畏れられてるんだよ。」
「そうなんだ…。」
「それにしても、どうしてクリュオン…、妖精で言うエーテル介して話せんのに、人間の言葉を話すんだ?」
「どうしてって言われてもな…。元々、人間である私の育ての父親と古い友達だったみたいだし…。」
「そんなこともあるんだな…。」
アーサーはいつものことながら、口が閉じないようだ。
「ハルの父親は相当妖精に愛されているんだな。人間でそんな話、先ず聞いたことない。」
「アーサーも中々だと思うけど…。」
「そうか?」
「もう、流れは感じ取れるんだろう?それに、小さい頃は妖精と話していたと聞いたけど。」
「今はなんとなく感じ取れるくらいだよ。さっきハル達が話しているのもなんとなく分かった。内容は分からなかったけどな。」
「何年か使ってこなかった感覚だから、徐々に思い出すはずだ。」
「そうなんだ!」
アーサーは目をキラキラさせながら私を見てきた。
ジンや父さんの瞳を思い出した。
「アーサーが妖精に好かれる理由が分かった気がする。」
「は?どういう事?」
「いや、何でもない…。マーリン、紅茶をありがとう。とても美味しかった。」
「お粗末様。」
マーリンは茶器を魔法で洗ってそのまま棚へ戻していった。
「そういえば、父親の手紙は読まなくていいのか?」
「ああ、夜帰ったら読むよ。」
「へー。」
「アーサー、鬱陶しいぞ。」
マーリンが入ってきた。
「だって、気になるじゃん。ハルの父親。」
「あのなぁ。」
「いいよ、見せれたら見せるよ。まぁ、見ても面白い所はないと思うけど。」
「「いや、それはない。」」
二人揃って言ってきた。
心外だ。
しかも、マーリンだって気になっているんじゃないか。
「何故断定…。」
「鏡を見てみろ。」
「ハルの存在自体で証明されているようなもんだし…。」
酷い言われようだ。
私は束をローブの胸ポケットにしまった。
「わかったよ。いや、わかりたくないけど、取り敢えず私は図書館に行く。昨日は看病してくれてどうもありがとう。」
「いや、困った時はお互い様だ。気にすんな。」
アーサーの言葉が心に沁みた。
「授業が終わったら勉強会だからな。忘れるなよ。」
マーリンの言葉で一気に冷めた。
「わかってるよ。それじゃ、失礼します。」
「元々、ハルの部屋でもあるんだから、その言い方はないだろ。」
アーサーがわざわざつっこんでくる。
「え…」
「いってきます、だ。」
「…、いってきます。」
「「いってらっしゃい。」」
私はドアを閉じた。
そうか、私はここに、いていいんだ。
カラー:祝宴 (ギリシャ語)
デスミオスはギリシャ語で囚人ですが、ここでは男性という意味で使ってます。
カルディナ:内部・心 (ギリシャ語)
ゲヘンナ:地獄 (ギリシャ語)




