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魔術学園でのあれこれ  作者: あめ
第一章
3/41

受験

『それにしても、すごいテュフロスの数ね。』


真紅の肌の炎を司る妖精、パンタレイは肩の上で胡座をかきながら呟いた。


『それだけスコーラの学園は魅力的なんだよ。』

『テュフロスのことはどうでもいいわ。』


ピシリと言う。


『ピロスが花を咲かせていたから心配なのよ。』

『心配して頂いてありがとうございます。貴方が来てくれてから大分楽になりました。』


(人が多すぎて酔ってしまって、面目無い。)


『テュフロスのエーテルを遮断したからね。今は私とピロスのだけで周囲を満たすようにしたの。』

『なるほど』


パンタレイは瓶底眼鏡の奥の瞳を輝かせたことに気を良くした。


『四年に一度、みんなこの魔法を使いだすのよ。だから周囲が感ぜられなくなっていつの間にかぶつかっていたりして…』


瓶底眼鏡の奥の瞳はただじっと妖精を見る。

パンタレイはギギギと顔を逸らし口笛を吹く。


(エーテルを遮断させることで周囲への注意を散漫させる効果もあるのか。)


周囲を一瞥する。なるほど、つい先ほどまでは魔術具に身を包んだ人達ばかりだったのに、今では殆どいなくなっている。


(確か開始はヘリオスの刻だったはず。今から引き返せば間に合うか…?知らず知らずの内にぶつかっていたんだ…)


人差し指で天を指し無詠唱で追跡の魔術を行う。

上手くいったらしい、人差し指は右後方を指した。


(すごく失礼な奴だよな。ぶつかった人に謝らなければ。)


どのくらいの人に迷惑をかけたのかと不安を胸に、指し示された方向に走り出した。


(受験開始に間に合えばいいんだけど…)


人の波に逆らって走って行くうちに、段々と周りはリクリスの受験生らしい波へと変わっていった。

所持している物からして違うのだ。

小動物の頭蓋骨やら水晶やら何かしらの魔術具を手にしており、何より年齢が違う。殆どが成人を二、三回は繰り返している。


(不幸中の幸というべきか、ぶつかった人達は多分クスリスの受験生なのだろう。これなら受験開始に間に合いそうだ。)


『あーあ。間に合ってしまったみたいね。』


(受験させないことが目的だったということか?)


パンタレイはエーテル遮断の魔法を解いたようだ。

一気に人のざわつきと匂いが入り込んできた。


『それでも、貴方のおかげで調子が良くなりました。ありがとうございます。』


礼を言うとパンタレイはニコリと笑った。

ざわつきが段々と収まり、移動も緩やかになってきた。

会場に着いたようだ。

人差し指も段々と上を示そうとしている。

ぶつかってしまった人が近いのだ。


(何て謝ろうか。でも、ぶつかったのがたった一人だったのも奇跡的だよな。相手にとっては不運だろうけど)


人差し指は天近くを指し始めた。


(あの人か。)


金髪碧眼というスコーラから最も近い王国ブリテンに特徴的な外見をしている男子が立っていた。


(関わるのが厄介そうな奴だな…)


他の受験生よりも目立っていたのだ。年齢は周りにいる人よりもずっと若く、何より服装が違う。上質な生地で誂えた臙脂色のローブをはおり、姿勢や所作も流麗だ。傍らには従者らしき人も控えている。見た目からして貴族なのだ。


(ええぃ、度胸だ。)


「あの、先程はぶつかってしまい申し訳ありませんでした。」

「ん?あ、さっきの妖精墜ち!」


(う、あながち間違っていない…)


「戻ってきたか、良かったな。」

「え、あ、はい。ありがとうございます…?」


(誤解をといたほうがよかっただろうか?)


「それにしても、その格好暑くないのか?それにその瓶底!相当目悪いんだな。」


「はぁ。」

「アレン様、初対面の人に失礼ですよ。」


傍らにいた従者らしき人が言った。黒髪黒目の男だった。


「はは、そうだな。じゃ、また学園で会おうな。」

「え?」

「えって何だよ。お前なら楽勝だろ。な、マルクス。」

「はい。その前にアレン様が受かるかどうか…」


従者にしては随分の物言いである。


「分かってるよ。んじゃな。」


いつの間にか受験会場が見えてきて、受験番号毎に入場を開始していた。

二人はそのまま人混みで見えなくなった。


(何だか、嵐のような人だ…)


『で、貴方はどうしてそんな所に隠れているのですか?』


パンタレイはいつの間にかローブの下に隠れていた。


『見える子だったからね。一応。』

「…そう。」



会場は白亜の石畳みの建物だった。

試練の島は火山で形成された島のため、こういった石が多く採石されている。

中は涼しく音もよく響いた。

そろそろ試験が開始される時間だ。

受験生は番号毎に指定された机につく。

試験官が紙の束と大きな砂時計を持ってやってきた。


「時間はレプラコーンの刻までです。この砂時計が落ちきるのは、およそ四時間ですので目安にして下さい。」


紙を配りながら注意事項を述べていった。


「早く終わった人は順次退出して結構です。では始めて下さい。」


始めという合図から一気に筆記の音が鳴り出した。

試験問題は基本から応用的な魔術回路、魔術論理だった。


『必死ねぇ、みんな。』

『人生がかかってますから。私は父さんの鉄拳回避がかかってます』


パンタレイは眠たくなったのだろうかローブの下へ潜り込んで寝息が聞こえる。

取り敢えず試験に集中して回答していく。

集中すると時間はどんどん過ぎるもので、


『ティックタックトゥーティックタックトゥーティックタックトゥー』


レプラコーンの唄が聞こえ始めた。


(終わりか。)


席から立ち上がり答案用紙を試験官に渡す。

試験官は一瞥し


「おめでとう」


とボソリと言った。

頭から疑問符が絶えず部屋から出る。


(出ているのは私含め5人か、服装と頭髪からして、先程の貴族と従者、ホーミーとルルカの民か。)


ホーミーの民とはドリアスの南に位置する騎馬民族、ルルカの民は最も竜の国に近いと言われている半島に住んでおり人間で唯一竜との交流ができる民である。

どれも若い年齢である。

彼らは特に話すでもなく、出口へと向かっており背中しか見えない。


(レプラコーンの唄が聞こえるかどうかが合否に関わるということだろうか。まぁ、試験が出来ていなければそれも意味ないのかもしれない。)


一つ息を吐き出し、伸びをする。


(早く帰ろう。)


パンタレイはローブから這い出し定位置に胡座をかく。


『ピロス、そろそろお別れのようね。困ったことがあればいつでも言ってね!』

『ありがとうございます。』

『ピロスが涙を流すと私たちも涙を流すのだから。』

『?それは、どういう…』

『いけない、それじゃ!』


パンタレイは慌てたように去っていった。


(どういうことだ)


考え事をしながら歩いていたせいで、受験会場を出、多くの人が待機している船着場周辺では行き交う人の殆どにぶつかったことに気付くことなく、帰途へと向かった。


ヘリオスの刻:正午

レプラコーンの刻:16時くらい

因みにパンタレイは時間を示す言葉の一つで日が変わる頃0時を意味します。


ギリシャ語で

ヘリオス:太陽

パンタレイ:流転

という意味です。

レプラコーンは16時くらいに唄を歌って靴を作ります。

他の言葉の意味は今後説明します。


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