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魔術学園でのあれこれ  作者: あめ
第一章
19/41

試合

アーサー視点です

今日から選択科目が始まる。


昨日配られた時間割によれば、今日はウンディーネの日だから午前が選択武術で午後が魔術だ。午後イチに魔力検査が行われるから皆んなソワソワしている。


魔力検査はここスコーラでしかできない。賢者が魔術を開発する前は魔法が主流だった。魔力の大きさを測ることは死活問題だったが、なんせ技術がなかった。しかし15年くらい前だろうか、今代魔術賢人が魔力量測定器を開発したのだ。


これによって隠れた人材を発掘し、スコーラに引き抜きたいらしい。


これは、トーマス先生が言っていた。


学生も二つの意味でこの検査を注目している。

まず、単純に自分の魔力量が知りたいから。そして、他国の勢力をこれで見極めようとしているのだ。

そこで注目されているのはリタにドリオス位だが…。両国に匹敵する位の国力は他の国には持ち合わせていない。


両国にとっては、相手国がどれ程の総魔力量を所持しているかを推定する手引きとなる。

一方で他国にとっては何かあった時何方の国につくのが有利かを見極める手引きとなっているのだ。

ああ、大変だ。


そんなことより身体を動かそう。

俺は午前のこの選択武術の方で朝からソワソワだった。

水に濡れることがなかったくらいにな。


講義棟のさらに奥に実習棟がある。

実習棟は講義棟に近い方が実験室やら魔術実習室がある建物で、その奥にグラウンドがある。俺らは入り口近くにて待てという指示を受け、皆んなでたむろしていた。


どれどれ、如何程の奴らが揃っているだろうか?


単科武術学園であるブレス学園は脳筋根性で人間の限界を超えていくことをモットーにしているが、各国の意図としては幹部育成と情報収集を目的としている。


そんな軍事の幹部はほとんど世襲が多い。よって学生は皆さん猛々しい。


因みに何故幹部の育成になるかというと、スコーラでは兵法の研究が優れているからだ。

また、長年の研究の蓄積そして更新があるため世界水準として、幹部家系の若者を何人か入学させ自国にその知識を持って帰らせている。


さて、知り合いはいるかなっと。

周りを見渡してみると。

お、いた!あの黄金角を知る者だ。


俺は喜び勇んで類友の方へ向かおうと、誰かに手を掴まれた。

誰だ?

ここにはマーリンはいないんだぞ?


「王子!久…」


俺は躊躇わずそいつの口を音が鳴るほど手で思いっきり抑えた。


「ケイ。ここが何所かという認識はないのか?」


声を潜めて言う。


「えー、王子の場合あだ名にしか聞こえませんって」

「切ってくれってことか?」

「それより、どうしてまた厄介そうな奴に近づいたんです?」

「決まっている。類友だからだ。」

「いやぁ、さっきの貴方の発言そのまま貴方にお返ししますよ。」


何時だってこいつは笑っている。


「認識はあるさ。俺の立場的に出来るだけ繋がりを持っていることに越したことはない。」

「でも身分隠すつもりなんでしょ?意味なくない?」

「俺の立場は危ういからな。」


ケイは肩を竦めた。


「でも、あいつは厄介なんでやめてください。機嫌損ねたら直ぐ殺してしまうらしいですよ。」

「なんだ、面白い奴じゃないか」

「……正気を疑いますわ〜」


そんなこんなで昔馴染みの奴と話していると講師がやってきた。


「今日は皆の実力を見るため試合を行う。リーグ形式で上位1名を選出後トーナメントで順位付けだ。」


講師助手が木の棒を持ってきた。


「使っていいのは渡された木の棒のみ。」


助手が学生にどんどん棒を渡していく。直ぐ折れそうだ。


「ここでの殺しはなしだからな。その棒で急所を寸止めしたら勝利。当てたら負けだ。以上、身体を慣らしておけ」


寸止めか…中々な条件だな。

俺は身体をほぐしていった。

自主練はやっているが試合形式はここに来てからやってないからな。

ケイを見つけ出して付き合わせればよかった。

ケイをチラ見すると、顔をそらせている。

こいつ今まで逃げてやがったんだな。

これから毎日付き合わせよう。




俺のリーグメンバーには類友もケイもいなかった。

残念でならない。

しかし、メンバー構成は操作されているようだ。ドリオスとリタは別々になるようにしている。

俺の所は俺以外ドリオス人だった。俺以外が髪は青色で緑色の瞳、肌は黄土色という容貌なのでひどく浮いていた。


それぞれの試合会場には講師助手がおり審判を務める。一斉に始めという号令がかかった。学生の掛け声が色んな所で聞こえる。


そして、まぁ普通に勝てた。

特に様子を伺うことなく突っ込んでくる相手にどうぞどうぞと頭を差し出してやったのだ。

皆勢いを減じることはできずそのまま負けだ。


そして他の試合も見てみると、俺と同じ手法を使っている奴がいた。

リタの多いリーグで、ただ一人髪は臙脂色で黄土色の瞳、褐色の肌をしている。イリアム人のブレス生だった。弱いくせにと唾を足元に吐かれていた。


様子を見ている俺の近くで同じリーグだった奴らの話が聞こえてくる。


「だからリタは弱いんだよなー」

「勝者には敬意を表せよな。」

「でもまぁ、弱い奴に有利なルールだよな。」

「…先生は何考えてんだろうな」


俺も同意してそちらを見ると、話していた奴らは此方に気づき睨まれた。そしてつっかかれた。


「お前、ルールのおかげで勝てたんだかんな。勘違いすんなよ。」

「そうだ。が、何とかしてお前が入賞くらいはしてもらえねぇと、父上に会わす顔がない。」

「「何が何でも勝ってくれよな。」」

「お、おう。」


激励の言葉をもらった。

なんだか、気持ちのいい奴らだ。


向こうで歓声が上がっている。

「あれはきっとチノア様だ。」

「ああ、そうだな。気がここまで感じる。」

「気?」

「ああ、お前ブリテン人だっけ?」

「ああ。」

「ブリテンの言葉にはないのか?こう、相手の威力みたいな…」

「そうそう。相手と対峙する時にこ、こいつスゲー!みたいな」


二人は身振り手振りで教えてくれている。手をウニャウニャさせながら、とても怪しく教えてくれた。


「タオとは違うのか?」

「タオは外に放出される魔力のことだろ?」

「そうじゃないんだよなー。こう対峙すると相手の、うーん、力量?が直感でわかるんだよ。」


やっと理解はできた。


「へー。ブリテンにはそういうのを意味する言葉はないな…。じゃ俺は気を持ってないんだな。」

「「それはわからなかった。」」


おい。


「さっき弱いって。」

「いやー、初対面の奴の気が読めるのは、チノア様くらい気を持ってないとできないんだよ。」

「俺らは3〜4回くらい対峙してやっと読めるようになる。」

「そうなのか。」

「弱いって言っとかないと俺たちが悲しくなるだろ」


あいわかった。


「けど、急所を差し出す度胸とタイミングを計る目は確かだよ。」


褒められた。


そうこうしていると、トーナメントが始まった。

顔触れを見てみると殆どがドリオスだった。あとはイリアムがちらほら…。ブリテンは俺とケイくらいだ。


トーナメントに勝ち残るほどだ、皆寸止めできなくなるほどの勢いで飛び込んでこない。ある程度間合いを取りながら様子をうかがってくる。


やはりドリオスは強い。

あれだけの剣筋の早さで的確な所で寸止めをするのは滅多にできることではない。


ケイは持ち前の素早さで準々決勝まで突破したが、類友に負かされてしまった。


俺はというと、試合を経るにつれて急所を差し出す戦法が磨かれ、勝ち残っていた。


そして準決勝まで勝ち進んでしまった。

リーグメンバーには肩をたくさん叩かれた。痛い。


準決勝はあのイリアム人だった。磨きがかった俺の戦法は使えない。

対峙すると、ドリオスの奴らが言っていた気というのが何となくわかった。

こいつは強い。

直感でそう感じた。

さぁ、どうしたものか…。

俺らは同じような動きを相手に合わせて行っていた。

動き始めたのは向こうからだった。

俺の喉元目掛けて、手加減なく攻めてきた。俺がそのまま前に出ても勢いを殺す自信があるのだろう。

俺は木の棒でそれをいなし、そのまま身体を低くしながら相手の喉へ攻める。相手の動きに沿って姿勢を低くし剣先も腕を支えに上に向けていくことで、喉元に当たらないようにした。


で、勝った。

久しぶりに楽しい試合だった。

名前を聞こうとしたら、向こうも聞いてきた。

アリというらしい。

よし、覚えた。


「君も随分愛されているね、覆われているのが残念だ」

「どういうことだ?」

「まぁまたすぐにでも…」


そう言い残して去っていった。

イリアムは独自の思考体系を築いていると聞いてはいたが、理解不能だった。



頭の中をグルグルさせながら、決勝へと進んだ。


おお、類友よ。

お前だったか。


ドリオスの集団からも声援があがっている。チノア、チノアと野太い声があがっていた。

類友があのチノア様か。

あとで気はどれくらいあるか聞いてみよう。


審判から始めという合図があった。


対峙すると、なるほどすごい気だ。

地面に押さえつけられるような、ビリビリとした感覚…


うん、いいね。


どれくらいの時間が経ったろうか、お互いが同じ間合いで常に相手を探りあっていた。


先手は俺だった。

体格差があったので、相手の懐に一気に入りこみ鳩尾を狙おうとした。

速さは此方が有利かと思ったんだがな…。

チノアにいなされ棒を折られてしまった。そのまま距離をとる。

マジか。

見誤った…。


二本になった棒の一方を捨てまた相手の様子を伺う。

リーチが一気になくなったからな。

まぁ、速さで勝負なら丁度いいか。


今度はチノアの方から動いた。

ちょい焦ってないか?

チノアは俺の脳天を狙い繰り出そうとしていた。

俺は横へと移動しながらそれをいなそうとする、が駄目だった。

チノアは軌道を移し、たかが木の棒で俺を吹き飛ばしてそのまま顔面に突きつけた。


スゴく睨まれている。

マーリンレベルに背筋が凍える。


「なぜ手加減した。」


返答を間違えたら即殺すという声音だった。


「俺は手加減した覚えはない。買い被りすぎだ」


正直に答えた。

が、類友は引いてくれなかった。


「嘘だ、お前ほどの気があれば…」

「はいはいはいはい。終わり終わり」


パンパンっと手を叩きアリがやってきた。


「優勝はそこの兄さんでしょ。それで終わり」

「お前も察しているのだろう、こいつは俺を侮辱した」

「意図してやってないなら侮辱にはならんでしょ。」


ボソリとアリが言った。

チノアも声を潜める。


「…、どういうことだ?」

「アーサーは何かで覆われている。アグニ…、兄さんの国で言うマラルが告げた」

「…お前、本当にイリアムの者か?」

「イリアムにも宗派があるのでね。俺んとこは極小だけど」


何を言ってんのか全く分からん。


「と、まぁ情報開示はこれくらいにして、アーサー、腕折れてる。」


アリの言葉に腕を見ると、

本当だ真っ赤かだ。

ケイが走ってきて、さっき折れて捨てた棒を挿木に固定してくれた。


「チノア、ありがとう。楽しい試合だった。またやろう。」

「俺もだ。…あと、俺の名前はハブルだ。」

「そうだったのか。ハブル、また手合わせしてくれよな。」

「覆いが解かれたらな」


やった。

約束できた。


「先に腕が治ってからだね。」


ケイに笑いながら諌められた。




「取り敢えず固定したけど、直ぐあの黒従者に見せるんですよ」

「あいあい」

ケイに言い聞かされたのでマーリンに見せたらあの目で睨まれた。

チノアより怖い。


マーリンには骨のズレを直してもらい、固定しなおしてもらった。が、今日1日は痛みを以って反省しろと言われ魔法で治癒してもらえなかった。


何を反省すんだ?


部屋で固定後、マーリンが魔法陣が描かれた紙から昼食を出した。

便利だな。


そして、試合の一部始終を報告した。

マーリンは少し考え込んでいた。


「俺がブリテンに来る前に何か変化はなかったか?」

「いや…でも記憶が所々抜けてるかな?自覚はないんだけどな。」

「…、どうしてわかった?」

「お前がこっちに来る少し前にオウェインやエクターに何があったって凄い勢いで問われたんだ。」

「具体的に、何て聞かれたんだ?」

「感じるだけで見えないのか?とか話せないのか?とか」

「何を」

「妖精を…」

「…、師匠はその後何かしたか?」

「色々調べさせられたよ、変な器具使って…でも謝られた。力不足ですまないと。」

「そうか…」


また、マーリンは考え込んでいた。





一人当りの戦闘力はドリオスが一番です。次にイリアムです。

リタは弱いです。人が多いのでドリオスとどっこいになります。

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