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魔術学園でのあれこれ  作者: あめ
第一章
18/41

溶解

ハルの視点です。

夢でもハルの視点です。

一気に飛んで行きます。

結局、パンタレイの方法を応用して鼻と口の周辺だけ外界の鱗と遮断した。

これによって授業も聞けるし、誰ともぶつからない、と思い教室に入った。先生が丁度いたので選択科目届けを提出する。


そして授業が始まる。


スコーラの授業を聞いた。

受験から帰った時までの自分を思い出した。

論理や実験で得られた結果が真実であると確信していた自分…。


あの時のエーテルの実験結果によって今までの常識は覆され、見えていたと思っていたものが、実は見えていなかった事に気付かされた。私という存在さえも。

そしてアタラクシアとしての記憶が思い出されつつある今、全ては流動し確固となる何かはないと感覚で訴えている。

理性でも感覚でも"何か"を否定されたのだ。

シビュラの歌で目の前に現れたジンが消えた時の感じと似ている。


机の上の文章に目を落とす。

全てが不確かであるなら、今までもそして今日も明日も続いていくだろうこの行為に、そして己の存在に何の意味があるのだろう。

ふと、そんな事を考えた。


思考の渦に埋もれたまま、時間は過ぎた。

その渦に埋もれたまま、足は勝手に図書館へと向かった。

膨大な蔵書を見つめ、先代達の行為の重みと、一方でその重みで床が抜けるような感覚に陥った。

重みが増すばかりで上には上がれないのだ。いつまで経っても。


すると、いつの間にか鱗が私の周りに集まり取り巻いてきた。その渦の中に自分がいて、水の中にいるようだった。

生徒の声は段々遠く、鼻と口に施した遮断の魔法も自然と溶け出した。


鱗に埋もれて夢を見ている。


私の中で起きつつあるアタラクシアが教えてくれた、私の故郷。

そこは何度も夢に出てきた通り、草が太陽の光を黄金色に反射して、それを風によってキラキラと輝かせていた。

草原の向こうは木々が広がり、果てしなさに胸がいっぱいになる。


私は風になったのだろうか、風に背中を押されたと思った瞬間、風と同じ早さで森の中へと入っていった。


そこには仲睦まじそうな男女の影があった。


今までの夢ではアニマ中に私がいるような感覚で見ていたけれど、今度は二人を見ている。


「この木々達で、クリュオンを浄化しているのよ」

「それはどんな仕組みなんですか?」


アニマとジンだった。

アニマは頬を上気させ、ジンは黒真珠のような瞳でアニマの説明を待っている。


「よくはわからないわ。でもこの葉っぱからクリュオンが木の中に入ってイリオスの力を借りて黒い部分を自らの栄養としているの。浄化されたクリュオンは黄金色の樹液となって木肌から出てくるのよ。」


エルフの木々は茶褐色で、出てくる樹液の色に黒色を混ぜ合わせたような色だった。


「まるで普通の木々と逆ですね。」


そう、普通の木々は水を根から吸い上げ葉脈で光合成を行い、葉孔から大気中へ拡散していく。それによって循環しているのだ。


「「おもしろい…」」


ジンと私は同時に呟いていた。

私は驚いてジンを見る。

ジンは気づかない。

私はずっとジンを見続けた。



風に背中を押された。

光景がまた違った。

今度は草原の上で二人は腰を下ろしている。

ジンはまたあの風車を作っている。


「なぜ、クリュオンは黒くなるんだ?」

「あら、貴方が言うのね。」


ジンはアニマを一瞥し、また手元に目線を戻して質問を続ける。


「人間が元凶なのか?」

「に決まってるでしょ?」


にべもない。


「どうして言い切れるんだ?以前、確かなものは何もないと…」

「まぁ、そうなんだけどね。けど、要はジンが人間で私はエルフって言っているのと同じよ。そんな時くらい断定したっていいじゃない。虐めないで。」


ジンは難しい顔で、アニマは涼しい顔をしていた。

私は、わからなかった。



風がまた背中を押す。

今度は木の上だ。

木の天辺までアニマに連れて行ってもらったらしい。

是非その一部始終を見てみたかった。

木の天辺の枝に二人で腰を下ろしていた。


「ここは一つの世界ではないの。だから私にだって知らない世界はあるわ。」

「でも、とても物知りじゃないか。こうやって人間の言葉だって話せる…全てを把握しているんじゃないのか?」

「なわけないでしょ。」


ビシリとアニマが言う。


「いい?この世界は何重もの層を作っているの。以前言った始祖の龍だけど、あれだって一つの層からの一つの見方でしかないわ。」


ジンは眉を潜めるが目はずっと輝いたままだった。

私も同じ目をしていることに気付いた。


「実際に貴方の見る妖精や精霊は貴方とは違う層で生きている。クリュオンが媒介することで私達の層と繋がっているけれどね」


アニマは川のように穏やかに流れるクリュオンの束を撫でているようだった。


「彼らは私達とは違う見方でクリュオンを見ているのよ。私達には一生知り得ない…」


撫でられたクリュオンの束はそれに反応するように跳ねた。

それが波のようにまた流れていった。


アニマはジンに微笑んだ。

その微笑みがとても優しくて温かくて私の、ジンの心を身体を溶かしていった。




私は気付いた時には、目覚めたあの草原に立っていた。

耳と目にかけていた魔法も溶け出していた。

ただ呆然と、しかし温かさを感じながら…


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