服
また夢です。
「で、どうして急に服を脱ごうとしたんですか?女王陛下?」
片眉を釣り上げながら聞いてきた。
いつも通りの"どうして"より声音がきついわ。
貴方のこと考えてのことなのに…。
「貴方に良かれと思って。」
「だからって服を脱ぐとか、私はどんな変態ヤローですか。どうしてそう思ったんです?」
少し声音が優しくなった。
良かった。
「貴方の目に、光が失われようとしていたから…。」
ジンは次の言葉を待つ。
「さっき、エルフの身体が見たいって言ったじゃない!目をキラキラさせて。またその目に戻って欲しくて。」
「はぁ、それでは違う光を宿してしまうことになりますよ。」
「え?どういうこと?」
「気にしないでください。貴方には心配をかけてしまったようですから…」
ジンは徐にナイフを取り出すと、近くの枝を拾って薄く長軸方向に刃を入れ、長く薄い長方形の木片を作っていった。
「何を作っているの?」
「貴方へのお礼です。」
「お礼?」
「まぁ、待ってて下さい。」
そう言いながら一つの枝からどんどん切り出していく。
ふと思っていたことが口に出てしまった。
「人間って、難しいわ。思っていることが全然伝わらない。」
「エルフだって一緒じゃないですか?」
「エルフはクリュオンを通じて心は通じ合っているのよ。あ、でもさっき言った島を出て行く男のエルフは別だけどね。」
ジンは木片を7つ作り出し、ナイフの柄で擦り付け木片を弾力を持たせるまで柔らかくしていった。
「そのクリュオンっていまいち分からないんですよね。妖精達や精霊達の言うエーテルと同じで良いんですか?」
「そう、それよ。エーテルを構成しているのがクリュオンと言っていいかしら。クリュオンにまで見えるのは私達エルフだけなの。あとはまぁ龍かしらね、あれは見えるっていうのかしら。」
「竜?」
「龍よ。貴方たちには見えないわ。エルフの中でもクリュオンに乗れるアタラクシアしか見ることは出来ないの。」
今度は木片を曲げながらまたさらに柔らかくしていく。
「私もクリュオンを見えたら良かった。そうすれば貴方の言っている意味がすぐわかるのに…。」
「それは私の台詞よ。貴方の考えていることも、私の考えていることも、クリュオンを見れるようになったエルフだったらすぐ見通せられるわ。人間ってなんて不便なの。」
「…、まぁだから貴方方エルフよりずっと言葉や行動に意味を持たせるんでしょうね。」
ジンは小さなウロのついた枝を見つけ出し、そのウロに木片を巻きつけながら編んでいった。
何を作るのか皆目見当がつかないわ。
「でも、考えが伝わらないというのも良いものです。」
「どうして?私は今不便でならないけど。」
「貴方はそうでしょう。けれど人間の場合、他人に隠しておきたい考えや感情がごまんとあるんです。」
「そういうもの?貴方も私に隠したいものがあるの?」
「ええ、ごまんとね。」
今度は直角に分枝した枝を見つけ、直角に伸びた枝を少し本軸に残して切り落とす。
「何だかそれって不公平だわ。私は貴方に隠し事なくこんなにペラペラと話してしまって…」
「いいんですよ。それも貴方の魅力です。」
ジンの口角が上がった。
微笑みながら手元を見ている。
私はその様子に引きこまれた。
編んだ木片をウロから外し、本軸から少し残った枝に刺す。
風で編んだ木片が回り始めた。
「はい。お礼です。風、アニマを感じられるように。」
私に差し出された。
風でクルクルと回っている。
「とても嬉しい。こんな時人間は何て言うの?」
「ありがとう、じゃないですかね?」
ジンは言葉に意味を持たせるといった。言葉に私自身の気持ちを乗せよう。
「ありがとう。」
ジンは目を見開くと私から顔を逸らした。
いけなかったのかしら?
酷く焦り始める。
「え、悪いこと言っちゃったかしら?乗せたらいけなかったの?」
私はジンの顔を覗こうとする。
耳が赤い。何がどうなってしまったのかしら?
「違います。気にしないでください。」
顔を背けながら私の追随を許さないように手を突き出す。そんな事言ったって気にするわ。やっぱり人間ってわからない。
ジンは一息つき落ち着いたようだ。
私と顔を合わせてきた。
「ふー、私謝りませんからね。」
「え、そんな。貴方に謝れだなんて言ってないじゃない。」
「いいんです。こっちの問題です。」
一言で片付けられてしまった。
人間は沢山の問題を抱えているんだろう。アタラクシアの記憶に追記だわ。ジンはそれで私に秘密が多いのよ、きっと。
「僕らの所でも、エーテルという概念はあるんです。妖精達や貴方方の考えているものと同じかわからないんですが…」
「どんなものと考えているの?」
「魔力の源で、生きとし生きるものに全て流れ空間に充満し世界を巡っているものですかね。私もエーテルは感じることは出来ますので。貴方のようにクリュオンは見えませんがね。」
「同じと考えていいと思うわ。」
「よかった…。」
ジンは私が持っている風車がクルクルと回っている様子を見つめている。
「さっき思い出したんですが、私達の親戚はその自らのエーテルの糸を紡いで貴方達のように意思伝達をしています。限られた者しか出来ませんが」
「私達は糸を紡がなくても自らを周りのクリュオンと同期させて相手の考えや感情を感じるの。
その人達は糸に体内で巡っているクリュオンの震えを伝わらせて相手に意思を伝わらせているのね。」
「なるほど…。彼らは私達よりエーテルに語りかけるのが上手いと言われていましたからね。そういうことなんでしょう。私もそれくらい上手かったら貴方と通じ合っていたのでしょうか。」
「多分、感情までは伝わらないわ。口を開かないで話すのと殆ど同じだもの。」
「妖精や精霊もエーテルで話すと言ってましたけど」
「私達エルフと原理は一緒だわ。でも同期は私達の方が上だから、結局貴方達の親戚と同じくらいの会話になるわね。」
なるほど、と言いながらジンの目線の先は同じままだ。
話を変えようかしら。
「その糸を紡ぐ親戚さんってルルカの民のこと?」
「えっどうしてわかったんですか!?」
ジンは驚いて私を見る。よし。
「その糸でエルフの衣は作られているのよ。」
「え、これが…」
ジンは私の衣をじっと見た。
「でも、何故ルルカの民が貴方方に衣を?」
「必要になるでしょうって。私が生まれた時にやってきて渡してくれたの」
「え、じゃその前は…」
「着てなかったわ。」
ジンは呆然となり固まった。
「因みにそれはいつ頃のことですか?」
「つい最近ね。私まだ若いから。」
さらに硬直する。
「な、何年くらい前に?」
「さぁ?季節は5、60くらい回ったのかしら?」
ジンは暫く動かなかった。




