記憶
これから夢(記憶)と現実を交互に書いていきます。
今日も快晴。
太陽の光が何ものにも邪魔されずに木々達に光を届けている。
『アタラクシア、今日もご機嫌ですね。』
私の身の回りの世話をしてくれる子が言った。
『天気が良いからね。』
『それだけではないでしょう。またあの人ですね。』
『ええ、そうなの。それにしても、随分クリュオンを見るのが得意になったわね。』
『そりゃ、そろそろ成人ですから。』
『もうそんなに流れていったのね。って今日も流れが早いわ。行ってくる!』
私は枝を足がかりにして、周りの木々の様子を確認しながら地面まで下りていった。
「ぐぇ」
着地したと思ったら何かの上に立っていた。声はゴブリンに似ているけど何かしら。腰を下ろして顔を覗き込むとあの人だった。
「おはよう、ジン」
私の顔を見ず地面から顔を離そうとしない。大地は偉大だけど、そんなにずっと接吻する習慣があるのかしら?
「おはようございます。女王陛下。」
「何しているの?こんなところで?」
「女王陛下に足蹴にされて踏まれていました。」
「あ、それはごめんなさい。」
私の謝罪の言葉を聞くとムクリと起き上がった。
顔には土がこびりついている。
ジンは瓶底のような眼鏡を取って、壊れていないか確認していた。
僅かだが、ブスッとした顔をしている。
その時顔についた土を払ってやった。
「それにしても、ジンはその眼鏡取った方いいんじゃない?綺麗な目をしているんだし。まるで黒真珠のようよ。」
「元々いた所ではこれが厄介だったので見えにくくするようかけていたのです。習慣になってしまいましてね。」
「厄介事が多かったから、そんなに顔の表情が岩のように凝り固まっているの?」
「どうでしょうね。」
確認すると壊れていなかったようだ、眼鏡をかけてしまった。残念。
「私達より固いわよ。人間なのにエルフより固いってどういう事なの?」
「貴方は普通の人間よりずっとコロコロと変わるじゃないですか。」
「だって、アタラクシアだから。」
「いや、意味わからないですよ。」
「なんて言えばいいのかしら。エルフで唯一、女なのはアタラクシアなの。つまり代々のアタラクシアがエルフを産んだのよ。多分あの子達を、なんて言えばいいのかしら、大事に思う気持ち?があるからだと思うわ。」
「エルフって貴方以外男なんですか?なんて逆ハーレム。」
「違うわ。逆ハーレムって何よ?性はないの。好意を芽生えた子がだんだん男になるのよ。好意の相手はアタラクシアでなくても人間でもいいの。アタラクシアの記憶にはあるけど、私は若いから男になったエルフは実際に見たことないけどね」
瓶底眼鏡の奥で黒真珠がキラキラと輝き始めた。
「それは面白い。」
ボソリと言った。
「貴方の言っている意味の方がわからないわ。」
私もボソリと言った。
「流石に解剖とかダメだよな。」
怖いことをブツブツ言っている。
話題を切り替えよう…。
「ジン、ほら約束通り草木の名前を教えてくれるんでしょ!妖精や精霊のお話も!」
私は立ち上がった、
「え、またにしません?それより、エルフの身体見せてくれません?」
ジンは座りこんだままだ。
キラキラした目を見てはダメだ。
「こっちの方が先!行きましょ。」
ジンの腕を引っ張る。
「えー」
ジンは渋々という感じで立ち上がった。
腕を引っ張りながら、ちらっとジンを見る。
ジンは周りを興味深そうに見渡していた。口角が少しだけ上がっている。
それを見ると嬉しくなって、つい早く歩きすぎてしまった。
腕の感触がなくなったと思って振り返るとジンはまた地面に接吻していた。
トトトトっトトトトっホブゴブリンの足音で瞼が開かれた。
(母親の記憶か…今まで無意識の内に閉ざしていた記憶が昨日の同調によって蘇ったのか…)
今日から授業が始まる。
(現実との境が分からなくなりそうだ)
上体を起こし、今日見た記憶を日が出てくるまで反芻していた。
アタラクシアさんが言っていた流れは時間のことで=鱗の流れです。




