プロローグ
太陽の光に照らされ黄金に彩られた草原は、涼やかな風に揺られている。
地平まで続く青々とした森林はこの世の果てしなさを感じさせた。
誰かに名前を呼ばれた。
その声に導かれて振り向こうとすると、視界は鱗が剥がれるかのようにバラバラと崩れた。
その先にあるのは…。
瞼は勢いよく開き、黒い瞳が現れた。
ボサボサの短髪を両手でかきあげながら、一息口から漏れた。
(なんてことない夢だけど、こうも繰り返されると気になるな。)
ベッドから立ち上がり、本棚に置いてあるコップに無詠唱で指から水を注ぐ。
(繰り返される夢は何か意味があるのだろうか。信じてはいないが占術の本でも読んでみるか。)
彼方を見ながら考えごとをしているせいで、コップから水が溢れ、素足にかかるまで気づかなかった。
「つめて!わ、わ、わ」
すぐに注水の魔法を解いて、水を飲みながら暖風を指から吹き出させて床を乾かす。
(あの風景、見覚えがある。それに鱗のようなものが気になる。名前も私の真名だし、声もどこかで聞いた気がするし。あー、喉まで出かけているのにもどかしい!)
少し苛立ったのか指から出ている暖風が強まった。
「お前、器用だか、不器用だかわかんねぇな。」
分厚い瓶底のような眼鏡をかけ、白衣を羽織った男が開かれたドアにもたれながら言った。
「うるさいです。その通りですが…。いつから見てました?」
「水を注ぐとこから。」
「最初から見ているじゃないですか。零したところで声を掛けて下さい。」
「考え事をしている時に話しかけられるの、嫌いだろ?さっきのも独り言だから気にするな。」
(気にするわ。)
「で、何の用ですか?父さん。」
「そうそう、お前、今度からクスリス魔術学園に通え。ほれ、制服。」
男から制服を受け取りながら、
「そもそも、受験もしてないし、授業料にあてるほど余裕はないですよ。」
「受かれ。特待生枠ももぎ取れ。制服まで準備したんだからな。」
「そんな、無茶な…」
(他国からも多くの受験生が来るのに、合格ならいざ知らず特待生枠までも…。)
嘆息しながら制服を確認する。
目の前にあるのは着古された、黒いローブにネクタイとズボンにシャツ…
明らかに男性用である。
「父さん、制服って女はスカート、男はズボンですよね。」
「そうだが?」
「これ、ズボンですけど。」
「お前男だろ?性別忘れた?」
「…男で出願したのですか?もう出願期限って過ぎました?」
「ああ。というか、受験は今日だ。」
「ハァァァ!!?」




