プロローグ
正義とは何か
それは人が決めることであって自分が決めることではない
では、人を正義で殺していいのか?
正義で人を壊してもいいのか?
正義で不幸にしてもいいのか?
では、
正義で『悪』を作ってもいいのか?
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「……ここはどこだ?」
暗闇の中、『彼』は目を覚ました。
横たわっていたその身を起こそうとするが、地面がないためふわりと浮かぶ。
「何もねぇな…。」
辺り一面闇で覆われて何も見えない。全てを支配しているのは静寂しかない。
普通の人なら発狂して頭がおかしくなりそうなところなのに、世界を満たすその闇は彼にとって心地よく感じた。
「そもそもどうしてこうなったんだっけ?」
少しばかり思案してみる。
「思い出した…
俺、死んだんだっけ…。」
するとここはあの世なのではないか?
そう思い、今までの人生を振り返ってみる。
良いことは…ほとんどなかった。妹から罵声され、恋人の幼なじみにも振られ、やっと恋人ができたと思ったら死んだ。
思わず目から汗が出るほど悲しい人生に『彼』は顔をしかめた。
今度は今いるのはどこなのかを思案してみた。天国か地獄か?もしかしたら地獄かもしれない…。天国はこんなに暗くはないはずだ。結局不幸は死んだ後も続くか……。自嘲気味に苦笑した。
すると何も見えない暗闇から一筋の光が差し込んできた。何事かと『彼』は光が差し込んできた方向に顔を向けた。
その光はどんどん大きく、明るく輝いていき……やがてその暗闇は全て暖かい、しかし強い光に塗りつぶされた。突然の明るい光に目を覆う。
恐る恐る目を開けてみた。そして思わず目を見張った。
目の前に白い大理石でできた美しく立派な巨大神殿が存在していた。円柱の柱で屋根は支えられ、入口からは巨大な玉座が見える。さっきまでいた暗い虚無の空間とは全然違い世界には光が降り注いでいた。
最初はあまりの光景に呆然としていたが、ついに覚悟を決め『彼』は神殿に入っていった。
「何なんだここは?」
中は様々な絵画が壁際に並んでいた。それぞれには人間が神々しく描かれている。しげしげと見ていたがふとあることに気づく。
「これらは…ギリシャの神々だ…。何でこんなところに?」
「どうかな?これらの作品は?」
突然声をかけられさっと振り向く。さっきまで空っぽだった玉座に大男が座っていた。
その男は太陽のように輝く長い金色の髪を持っており、服装はギリシャの男性と同じ方形のウール布を右肩を露出して体に巻きつけていた。身分が高いらしく、丈の長い衣装を着て威厳が満ちていた。そしてその目は輝く星々のようにキラキラと輝いていた。
「『太陽のように』、ではなくて『きらめく雷のように』と言ってほしい。太陽はアポロンの領域だからな。」
「心を読めるのか?雷……お前まさか!?」
「私はゼウス。神々の王でありオリンポス12神を束ねる者なり。」
「やはり…。………サインください!!お願いします!!」
「はっ?」
「俺、ずっとゼウスさんに憧れてたんですよ!!いやー
想像していたよりもずっとかっけぇです!!あなたの神話すべて読みました!!怪物テュポンと戦った時とかめちゃくちゃ読みました!!うわーこれが噂のライトニングボルト、雷撃ですね!?すごくかっけぇです!!さわってもいいですよね!?ぐぎゃぁぁぁ!!威力ぱねぇです!!握手してください!!」
「………………………てい。」
「あべし!?」
あまりのマシンガントークにポカンとしてたが、うるさかったので一発殴った。
そのままぶっ飛び柱にぶち当たった。
「はっ?俺は何を?」
「お前があまりにもうるさいもんで殴ってしまった。すまない。」
「いえ、大丈夫です……んにしてもこんな失礼なことしてもあっさり許すなんて…頭大丈夫ですか?」
「はっ!!」
「ひでぶ!?」
今度は超能力で10メートルほど飛ばして屋根にぶち当たった。
「失礼すぎるにもほどがあるぞ…。お前は本来殺されても仕方ないほど無礼なことをしているが、お前に頼みたい仕事がある。」
「いてて、何ですかそれは?」
「復活早いな!?あぁ仕事は…異世界に転生して魔王を倒し代わりに魔王になってくれ。」
「……何故魔王を?」
「魔王に我が父、クロノスがとりつき異世界で力をつけ復活しようとしているからだ。」
「俺を勇者にするんですか?」
「いや、勇者として転生させてもいいのだが、仲間としてだな。それに……」
「それに?」
「勇者は軟弱すぎる。正義はお前の知っての通り周りが決めること、ように結果論だ。だがこの勇者は正義を自分で決め、良い面しか見ていない。全部他人任せで力もない。相手を殺すこともできない臆病者だ。そんなやつが我が父クロノスを殺せるとは思えない。」
「でも何故俺に?」
「お前は他人よりも偽善者を嫌い友をつくらず、我ら神々の本をよんでひっそりと一人で生きていた。だから人間の間違った正義を正してくれると思ってな…」
「そんな人間たくさんこの世の中にいますよ?まだ生きていたいですが俺を選ぶのは間違えていると思います。」
「それだけではない。お前には魔法の才能が勇者と同じぐらいある。まさに自然の賜物だ。」
ならやってみようかと少しばかり悩み決断した。
「わかりました。やってみます。」
「そうかなら加護を「いりません。」
「えっだが「いりません。」
「………「いりません。」
「何故だ?加護があれば魔王なんてあっという間だぞ?」
「わかってます。ですが加護をもらってあっという間に潰すのは面白くありません。ただ最強の力をもらって潰すことは誰にでもできます。それじゃ軟弱な勇者と同じだ。」
後半から素がでてしまったが構わず続ける。
「勇者と同じ才能をもち努力次第で延びるんだろ?なら努力の違いを勇者に見せつけ自信を打ち砕いてやる。魔王も抵抗してくる者を一人残らず潰してやる。」
「なるほど…お前はかなり歪んでいるな。だがそこが面白い!!自由にすればいい!!だがお前が転生する世界の全ての魔法が乗っている魔導書を渡そう。さすがに何もできないのはまずい。」
「ありがたい。後もうひとつ願いがあるのだが……」
「何だ?」
「俺を勇者が現れる1000年前に転生させてくれ。」