第十 迎える終焉
日差しはやさしく、空は澄み渡るようで、かすかな火事の残り香だけがその凄惨さを物語る。
「俺はね、オッドアイの子供たちは、馬鹿だったんだと思うよ」
木に寄りかかって腕を組んだ亜葵は言った。
「どこから来た奴かも分からない王にホイホイついていくなんてね。あのお伽噺ちょっと無理ありすぎ。苛められてた子供があんな純粋なわけないだろ。もっとこう、例えば零央みたいに荒むはずだろ」
「誰が荒んでるって?」
零央は肩の包帯を丁寧に巻き直すと、横目で亜葵をにらんだ。
誤魔化すように笑う亜葵に、零央は意地悪な気分になって聞いた。
「亜葵、結局美天と話さなかっただろう」
亜葵と再会を喜びあう間もなく、彼女は帰らぬ人となった。
「そうだねぇ・・・」
亜葵は目を伏せた。そのまま、少し笑う。
「・・・・・・」
「でも、いいよ。最後に零央といれて美天も幸せだっただろうし」
零央は渋面になった。彼女を看取ったのは自分だ。その優越感も少しくらいある。零央だって男なのだ。けれど。
(そんなところでいきなりイイオトコになるなよ)
こいつには適わない。
零央は内心ため息をついて、肩から下げた鞄から紙を取り出し、亜葵に投げてよこした。
「・・・?」
受け取った亜葵は怪訝そうな顔をする。
「美天からの手紙だ」
「!」
亜葵は目を一杯に見開いた。
「“処刑人”として俺たちが出てこなかった時の保険として、王に預けていたらしい。王が葉景を回収しに来た時、置いていった。俺にもあった」
亜葵は僅かに震える手で手紙を開いた。
零央は亜葵の表情をそっと盗み見た。
亜葵は、泣きそうな顔で微笑んでいる。
手紙を丁寧に折りたたんで仕舞うと、泣き笑いの表情で天を仰いだ。
「・・・・・なぁ、零央」
零央は無言で亜葵を見た。
「あのひとは、最後まであのひとだったか?」
零央は少し黙ったあと、答えた。
「・・・・・ああ。あいつらしい、最期だった」
亜葵は目を閉じた。一滴、頬を雫がすべりおちる。
零央も黙然と空を見上げた。
この空と同じ彼女の瞳。淡く儚いその色に、似つかわしくない程の凛とした強さ。
泡沫の天を映していた彼女。その儚さを打ち消すほどのまっすぐな輝き。
彼女のそばにいると、天が近く思えた。
彼女のような女性は、あとにもさきにも、ほかにはいない。
零央は焼け跡に目を移した。
大量出血で気を失った亜葵に剣を振り下ろした葉景を、零央が後ろから斬った。
葉景は亜葵のぶっかけた毒やら薬やらで五感が鈍くなっていて、肩から腰にかけて斜めに斬りつけるのはたやすかった。
迷いはなかった。
けれど、殺すことだけは出来なかった。
とどめを刺そうと何度も試みては、お伽噺の“罪人”が自分の父だと明かしたときの葉景の双眸の凄絶な痛みの色が思い浮かんだ。
それは、葉景が“血瞳”を利用し無罪の人々を殺した事実を正当化する理由にはなりえない。
けれど、知らなかったとはいえ、同じように人を殺した自分に断罪の権利はないと思った。
無知は言い訳にはならない。
そう判断したところに、焼け焦げた王が翔和を抱えて飄々と現れたのだ。日は沈み、暗くなっていたが、その存在は異様に目立っていた。
『もうひとり、暴走した部下を忘れていた』
反対側の肩に葉景を担ぎ上げると、折りたたんだ美天からの手紙を、満身創痍でしかも出血がひどく、気絶寸前の零央にわざわざ投げてよこした。
『ご生還、おめでとう、といったところか』
そして焦げたにおいを残して颯爽と暗闇の中へ去って行った。
お伽噺は終焉を迎えた。
あの王が次に紡ぐお伽噺は、どういう物語だろうか?
ふと隣を見ると、亜葵が同じ方向を眺めていた。
「行くか」
零央と亜葵は顔を見合わせて、どちらからともなく微笑んだ。
「そうだね」
帰ろう。自分たちのいるべき場所に。
彼女と出会った、自分たちの居場所に。
零央と亜葵は、“血瞳”の焼け跡に背を向けて、歩き出した。
ここまでお読みくださり、ありがとうございました。
この小説はこのサイトで初めて書いた小説です。拙い部分が多かったとは思いますが、最後までお付き合いくださった方に感謝申し上げます。
次作もどうぞよろしくお願いします。




