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6

遼哉の住むアパートに着き、美咲はインターホンを鳴らす。


「哀川くん」


−ん?その声…美咲?!−


遼哉が出てきて


「帰ったんじゃねぇの?」


「心配だからもう1回訪ねてみたの。コレ、差し入れ」


食べ物などが入っている袋を渡す。


いらねぇ、と渡された袋を落とす遼哉。


美咲は何も言わず、勝手に部屋に上がる。


「入っていいと言ってねえ」


「ちゃんと食べてる?」


「人の話聞け!」


「何か作ろうか?」


遼哉は、あきらめて自分の部屋に戻った。





「できたよ」


美咲は、遼哉のいる部屋をノックした。


反応がないことに気付き、美咲はそのドアのノブを回して開けてみた。


そこには、祖母の遺影を見ながら座っている遼哉の姿だった。


無言で、無表情に何かを堪えているのかのように。


美咲は、ゆっくりと遼哉に近づき遼哉の背後に立つ。


そこに両手を広げて遼哉を包み込むようにそっと後ろから腕をまわした。


一瞬、遼哉の体がビクッと震える。


「我慢…しなくてもいいよ」


遼哉の耳元に頬を寄せて、そっと小さな声でささやきかけた。


「…うっ…」


「泣いていいんだよ。思い切り泣けばいい」


そう言ってまわした腕に力をこめると、さらに遼哉の体が震えだす。


ポタポタっと、腕に涙が落ちてきて遼哉の口から詰まった声が漏れてきた。


遼哉は、しばらくの間美咲の腕をつかんで声を殺すようにして静かに泣いた。


美咲は、遼哉の体を後ろから強く抱きしめて遼哉の頭をなでた。





  +++  




「落ち着いた?」


抱きしめた腕を離して遼哉の顔を覗き込む美咲。


コクンと首を縦に振る遼哉。


「じゃ、食べよう。温めてくるね」


そう言い、キッチンのほうに向かった美咲。


−ずっと一緒にいたいって恋なのかな?ばあちゃん、教えてくれ−


遺影を眺める遼哉。


「できたよ。おいで」


キッチンから呼び声がした。


出来てる物が置いてあったのをながめる遼哉。


「少しだけでもいいから食べて。ねっ」


「…ああ」


と言いつつ、食べようとしない遼哉。


考え込む美咲は、紗佳にメールを送った。


"食べようとしないの。何かいい方法ない?五十嵐くんにも聞いといて"


紗佳からメールが返ってきた。


"食べさせるしかない、と誠が言ってたよ。実行するのは美咲次第よ"


美咲は迷うこともなくその手でいった。


後ろから腕をまわして遼哉の耳元にささやく。


「これでも食べる気しない?」


遼哉は、照れることもなくパクッと食べた。


「えら〜い!もうちょっとね」


と遼哉の口に運ぶ美咲。


"ゴホッゴホッ"


あわてて食べたせいかむせる遼哉。


大丈夫?と水を差し出す美咲。


水を飲んで遼哉は気付く。外が暗くなっていることを。


「今、何時?」


自分の腕時計を見る美咲。


「23時。もう帰らなくちゃ…」言いかけているとき、


「今日だけ、傍にいて」


美咲の腕をギュッとつかむ遼哉。


「…と思ったんだけど心配だからここに泊まるよ」


言いかけた言葉の続きを美咲は言った。


泊まることを理解した遼哉は、つかんでいた手を離した。




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