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誠が落ち込みながらウチに帰ってくる。
「おかえり〜…どうしたの?」
様子がおかしい誠に気付く紗佳。
「遼哉のばあちゃんが…死んだ」
「えっ?」
「ずっと連絡取れなくて遼哉のバイト先に行ったんだ。そしたら店長からばあちゃんが死んだことを聞かれて、遼哉んチに行った。でも会ってくれなかった」
「ウチにいるの?遼哉くんは」
「物音がしたからいるはず。あいつ、1人だよ…」
「そう…いつ亡くなったの?」
「3日前らしい。火葬などは1人で済ませたらしい」
「3日前って…ペンダント取りに来た次の日?学校からは何も連絡がなかったから報告していなかったのかもね」
「らしいね。明日、学校だよな?あいつ来るかな?」
+++
遼哉が学校を休んで3日たつ。
担任の高津先生や誠が訪ねても会えず。
職員室で紗佳と美咲が話している。
「哀川くんは、あれから登校してこないね」
「3日もたつよね。誠から(小さくボソボソ)提案があってね、美咲だったら会ってくれるんじゃないかって」
「あたし?なんで?」
「それしか言わなかったからわからないよ。あたしも誠も行くから一緒に行こっ!」
「…(考え込む)いいよ。いつ?」
「今日、学校が終わってから。『うみ』という居酒屋、知ってるよね?そこの近くの喫茶店で待ち合わせね」
「うん」
放課後…
「「えっ?!」」
紗佳と美咲が同時に驚く。
木造2階建てでボロくて不気味なアパートが、遼哉の住むアパートだったからだ。
「ここなんだ。汚いところだから無理しなくてもいいよ」
誠が2人に言う。
「ううん、大丈夫」
「せっかく来たんだから訪ねてみよう」
紗佳と美咲は拒否せず答えた。
遼哉の部屋に着き、インターホンを鳴らしてノックする誠。
出てくる気配がない。誠は、紗佳の目を見て首を横に振った。
「遼哉くん、顔だけでも見せて!」
紗佳がドアの向こうにいる遼哉に声をかける。
「美咲センセも来てる。出てくれ」
誠が大声で言った。
ドアの向こうで物音がし、静かにドアが開く。
「遼哉!って…やつれたな…」
誠が閉められないようにドアの下に足をかけながら言った。
「悪いが帰ってくれ。1人にしてくれ」
そう言い、誠の足をどけてドアを閉めた。
「なんだよ。あいつは」
文句を言いながら階段を降りる誠。
「五十嵐くん、なんであたしだったら会えるって思ったの?」
美咲が突然聞いてくる。
「ああ…なんとなく」
テキトーに答える誠。それがウソだということを紗佳は気付き、
「誠!ごまかさないで」と怒った。
「オレの感だぜ。あいつさ、美咲センセと会ってから変わったんだよ。特に、女遊びなんかしなくなったよ」
「そういえば、警察に補導されなくなったね」
紗佳が思い出したように言う。
「そうなの?去年はひどかったってこと?」
「そうなるね。今年、入ってきた美咲にはわからないけどね。誠と遼哉は、ほとんどの先生に目つけられているのよ」
「へぇ…」あいまいな返事をしながら首をかしげる美咲。
「美咲センセ。もう1回訪ねてみて。美咲センセ1人だけだったら会って話してくれると思うから」
紗佳と美咲は誠の言葉で立ち止まった。
「そうだね。あたしたち帰るから」
「待って!あたし1人で今から?」
「親友である俺からも頼む」
誠は、頭を下げて言った。
じゃあね、と紗佳は誠の手をつかんで行った。
美咲は、仕方がなく遼哉のウチに向かって歩き出した。