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病院に出て、バイト先に向かった遼哉。
"ペンダント、見つかったよ。美咲センセが持っていたみたい"
というメールが着た。
"あとさ、遼哉のもので形見だということを言っちゃったんだ。マジでゴメン…"
遼哉は誠に
"別に気にしてない。サンキュな。俺が美咲センセのところに行ってくんわ。バイトの帰りに。美咲センセ、どこに住んでるか知ってる?"
と返信した。
居酒屋「うみ」でバイトをしているとき、携帯が鳴った。
誠からだった。たまたま休憩だったので出た。
『今、大丈夫か?さっき、メールが着てたことに気付いたんだ…悪い。で、美咲センセなら、俺が住むマンションの上の階にいるよ』
「上の階?!おいしい思いしてんな。紗佳サンと一緒に住んでいながら上の階には美咲センセが住んでいるとは…」
『偶然だよ。いや、俺が紗佳のところに押しかけて同棲し始めたからな』
「だろーな。まっ、ついでにおまえのところにも寄っていくんわ」
『ああ。紗佳がいても気にしないよな?』
「イチャイチャしなければな。アハハッ!」
『来る時、メール入れといてや。じゃあな』
誠との電話はここで切った。
−今、21時か…美咲が持っていたとは…助けたことがバレたな−
バイトが終わり、美咲が住むマンションに向かった。
その時、携帯が鳴った。誠からのメールだった。
"美咲センセ、今俺のところにいるよ。だから直接、俺のところに来い"
という内容だった。
遼哉は返信せず誠の部屋に行き、インターホンを鳴らした。
「はいよ」誠が出てきた。
「誰?」紗佳が聞く。
「遼哉。美咲サンに用で」
そうだったね、と誠に言い、美咲にそう言う。
「今ね、遼哉…哀川が来てるの。ペンダント取りに」
遼哉は誠に言われ部屋に上がる。
「こんばんは。美咲センセ。いきなりで悪いんだけど、ペンダント返してくんないかな?」
「ごめん、ペンダントならあたしの部屋にあるの。取りに行くから一緒に来て」
遼哉は美咲とともに玄関のほうに立ち、
「遼哉、襲うな〜」
誠が笑いながら遼哉をからかう。
"バコッ"
紗佳が誠の頭を叩き、
「そこまでにしなさい」と怒った。
美咲の部屋に着き、美咲が遼哉に部屋に上がるように言うが…。
「いいよ。返してもらうだけだからここで」
遼哉は、玄関に立ったまま答える。
「10分だけでいい。お礼したいから、ねっ」
美咲がそう言いながら遼哉の腕を引っ張った。
引っ張られた遼哉は、仕方がなく無言のまま上がり込んだ。
「コーヒーでいいかな?」
遼哉に聞きながらキッチンで何かを作る美咲。
「いらない」
「はい。コーヒー」
美咲は、遼哉のさっきの返事を無視してコーヒーをテーブルの上に置いた。
「あの時、あたしを助けてくれたのは哀川だったんだね?顔を見せてくれないまま帰っちゃったでしょ?だから名前聞けなかったの。ありがとうね」
遼哉は、ずっとだまったまま美咲の話を聞いていた。
ペンダントを渡しながら
「形見なんだって?誰の?いいデザインだね」
遼哉はペンダントを受け取り、無言で立ち上がった。
「待って!どうしてだまっているの?さっきから」
美咲が遼哉の服のすそを引っ張りながら引き止めた。
やっと口が開く遼哉。
「俺は、ペンダントを取りに来ただけ。話すことなんかひとつもない」
冷たく美咲を突き放した。
ドアの向こうに紗佳と誠が盗み聞きしていたらしく、出てきて
「その態度は何?」紗佳が怒鳴り、
「いつもの遼哉じゃないな。どうしたんだ?」
誠は、遼哉の肩に手を置きながら言う。
「もしかして、ばあちゃんに何かあったのか?」
それを聞いた紗佳と美咲は、ハッと目を大きく開け、
「そうなの?」「うん?」
と聞く。
遼哉は、何も言わずペンダントを首につけて帰っていった。