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忘れることができなかった遼哉は、誠にぶつけた。
「あんときは、神崎のせいで別れる方法しかなかったんだよ」
「おまえの気持ちは分かる!でもさ、今は神崎いないんだよ。おまえを縛り付ける人が1人もいないんだよ」
「あの頃は、もう戻れないんだよ。もう美咲サンも俺もお互いに別々の道を選んだんだよ」
「そう思っているのは遼哉だけだ。美咲サンはそう思っていないぜ」
「なぜ、そう言いきれるんだ?」
誠の肩を揺らす遼哉。
「だって、おまえのペンダント、美咲サンが持っているぜ」
「ペンダント?俺がなくしたペンダントか?」
「ああ。今の時間なら海のほうにいると思うぜ。うそだと思うなら確かめて来いや」
「海のほうに?どこなんだ?」
「おまえが昔、よく行っていた所だ」
「…は?なんでそこに?」
「知らねぇよ。早よ、行け!」
「美咲ね、遼哉くんのこと待ち続けてみるって言ってたよ。会ってあげたら?」
誠と紗佳に背中を押さえられ、出て行った遼哉。
走り出す遼哉の後ろ姿を見届けながら誠は、
「今度こそ手放すんじゃねぇぞ!」
大声で叫んだ。
「ねぇ、遼哉くんって結婚してるんだよね?」
「ん?あっ、それな…」
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息切れした遼哉は、ベンチに座っている美咲を見つけ、近くまで近づいた。
「なつかしいな。ココ」
聞き覚えのある声を聞いた美咲は、後ろを振り向いた。
「…遼哉くん?」
5年ぶりの遼哉の姿をみて驚き、ベンチから立ち上がる美咲。
「ども…」
「変わったね…元気してた?」
「・・・」
「どうしてココに?」
「ココにいると誠から聞いたもんで来てみただけ」
「…いつ帰ってきたの?日本に」
「・・・」
「何も答えてくれないのね…」
「…久しぶりの再会だから何言っていいのかわかんねぇだけだ」
「そっか…」
「…いい人見つかったか?」
「…付き合っている人がいるわ」
「ふっ…じゃ今、幸せなんだね」
「あなたこそ。その薬指…」
遼哉の左手の薬指にはめている指輪を指しながらそう言う美咲。
「あっ…これか?」
確かに遼哉は指輪をはめていた。世界に1つしかないデザインをオーダーしてもらい作られた指輪なのだ。
実に言うと、はめているワケがある。
「あなたこそ、幸せなんでしょ?」
「…いや、幸せなんかじゃないよ。この指輪、女よけなんだ…」
「えっ?!」
「それにこの指輪と同じデザインで作られた指輪、ココにある」
チェーンを通して遼哉の首につけているネックレスを見せる。
「ん?」
「その人にあげようと思ったんだけど、あげる前にその気持ちを知ってしまったんだ。
…俺はフラレたんだ。もうこの指輪、必要ない…」
「その人は?」
「…どっかで幸せな生活を送っているんだろうね」
遼哉の好きな女性が自分だと気付いた美咲は、
「あたし、あなたと別れたと思っていないわ。5年前からずっとあなたがあたしのもとに帰ってくるまで待ってたの…」
「・・・」
「…ねぇ、あたし達、やり直さない?」
「…付き合っている人いるんだろ?」
「ええ、あなたとね」
「…俺?俺達、別れたはずじゃ…」
「もう一度、こっから始めない?」
「…いや」
首を横に振る遼哉。
「どうして?あたしじゃだめなの?」
「俺が言うセリフだ」
「えっ?」
「5年離れて分かったんだ。俺の人生には君が必要なんだということが。やり直すんではなく、俺と結婚してほしい」
美咲の目から涙がこぼれる。
「無愛想な俺を笑顔に変えてほしい」
涙で濡れた美咲の頬を拭く遼哉。
ネックレスにしていたチェーンから指輪をとり、美咲の左手の薬指にはめる遼哉。
「これ、プロポーズだよね?5年ぶりの再会なのに」
「違うのか?理想と。なら結婚やめようか?」
「ううん…あたしの理想より超えたプロポーズだからすっごく嬉しい」
「そっか。抱きしめていい?5年ぶりに」
「…(コクン)」
2人は、互いに抱きしめて唇を重ねた。一番長いキスだった。
「俺達のキスってこんなに長かったって?」
ご愛読ありがとうございました。
希望などあれば誠&紗佳の番外編も書きたいと思います。
また、いつかここで会いましょう。