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お待たせしました。
-5年後-
22歳になった遼哉は、日本に帰国し叔父の会社で建築士として働いている。
いろんなことであの学園で後継ぐ自信がなくなったからだ。
遼哉が日本にいることを知っているのは親友の誠だけだ。
帰国したばかりの頃、誠にこう頼んだからだ。
"あの2人には黙ってほしい"ってね。
遼哉の親友であった誠は今、23歳の若さで父の会社の副社長として働いている。
高校のときから交際してきた紗佳とは、3年前、結婚した。現在、1歳半の娘がいる。
紗佳は、とっくに教師を辞めていた。どうやら誠が辞めてくれって言われたらしい。
遼哉の元彼女であった美咲は、29歳になっており今もあの学園で教師を続けている。
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毎週金曜日、仕事が終わった後、誠と飲んで語り合っている。
遼哉がバイトしていた居酒屋「うみ」で。
「なぁ、もう2人に言ってもいいんじゃないかな?」
「美咲と紗佳サンに?」
「ああ。日本にいることを隠したいのは何か理由あんのか?」
「やましい理由じゃないけど…気まずい別れしたじゃん?」
「気にすんな。美咲サンはわかんねぇけど、紗佳は気にしていないと思うぜ。俺がいるから。アハハッ」
いつの間にかノロケ話になって話す誠をほっといて無言で酒を飲む遼哉。
「遼ちゃん〜無視しないでぇ〜」
「今度は乙女になっちゃったのか?おまえ、飲みすぎだぞ」
「遼ちゃん〜いつになったら俺んちに来てくれるの?会わせたいんだよ!愛華を」
愛華というのは誠の娘の名前だ。遼哉は、紗佳と顔合わせる気がないからその愛華ちゃんと会ったことがないのだ。
誠から写真などで見たことがあるだけだ。
「わかったよ…今日、行くよ。どっちにしろ、おまえ1人じゃ帰れないんだろ?こんなに飲んじゃって」
「今日、来てくれるのか?じゃ帰るべ〜!親父ぃ、勘定!!!」
「誠!静かにしろ!親父さん、すいませんね」
「いやいや、今日の誠はなんかいいことでもあったそうだね。機嫌いいね」
「なんかね仕事、うまくいったみたい。そのテンション、俺、追いつけませんよ。ごっちさんでした〜」
「また来いよ!」
その親父さんに見送られタクシーに乗り込んで誠んちに向かった。
誠を担ぎながらなんとか玄関にたどり着いた。
遼哉は、ため息しながらこう思った。
"紗佳サンとは…5年ぶりか。気まずいよな。でも、こいつがいるし…よしっ"
インターホンを鳴らしドキドキしながら紗佳が出てくるのを待った。
「はい」
「…(びっくりする)」
「どちら様で…」
「…遼哉です。誠が酔いつぶれたんで送ってきましたが…」
言いかけているとき思い切りドアが開けられた。
「遼哉くん?」
「あっ、こんばんは…」
「あっ、こんばんわ」
「誠、連れて帰りました。俺はここで…」
「待って、向こうに部屋に運んでくれるかな?あたし1人じゃ…」
「わかりました」
「運んだらココに来て」
リビンクのほうに指を指して言う紗佳。
「はぁ…」
言われた通り、誠を寝室だと思われる部屋に運び、寝かせてリビンクだといった部屋にビクビクしながら入る遼哉。
「コーヒーでいいかな?」
「…はい」
「そこに座って」
そう言われた遼哉はソファーに座り、周りをキョロキョロし始めた。
「はい。コーヒー」
「あっども…」
「久しぶりだね。元気してた?」
「まぁ…」
「5年ぶりだったよね?今、どうしてる?」
「5年前はすみませんでした。今は…建築士としてやっています」
「建築士?へぇ〜そっか。いつ日本に帰ってきたの?」
「・・・」
「あっへんな質問しちゃってごめんね。誠、送ってくれてありがとう」
「いえいえ。今日の誠、仕事うまくいったみたいでテンション高かったですよ」
「そうなんだ。誠のせいでごめんなさいね」
「気にしていません。俺、もうそろそろ失礼します」
「あっもう遅いから泊まって」
「えっ?でも…」
「そっちの部屋、空いてるから。ねっ」
紗佳に言われ泊まることに。
翌日、愛華ちゃんにいたずらされて目が覚めた。
「愛華!おじさん、寝てるからこっちにおいで」
紗佳がそう言いながら愛華ちゃんを呼ぶ。
「う〜」
「あっ…起こしちゃった?おはよう…といってももうお昼だよ」
「おはようございます…」
「ゴハンできてるよ〜」
「あっすみません」
ダイニングのほうに眠たい顔をしながら歩く遼哉。
「おっす。ゆうべは悪かったよ。いつの間にか寝てしもうた」
誠が話しかけてきた。
「な?紗佳、気にしていなかったんだろ?」
「確かに。ゆうべ、少し話したけどそんな感じなかったな…」
「俺の女房だから。ワハハッ」
「誠!何笑ってんの?早く食べなさい!遼哉くんもどうぞ。ゆうべ、家の人に連絡しなくても大丈夫だった?」
「はい。ん?家の人って???」
首をかしげる遼哉。
「これ」
紗佳の左手の薬指にはめている指輪を指しながらそう言った。
何の話が理解した遼哉は
「あっ…ああ…」
あいまいな返事をして紗佳と目合わせないようにしてゴハンを食べ始めた。
誠は、紗佳が遼哉は結婚していると誤解させたのを気付いて、遼哉にこう言い出した。
「なぁ、紗佳と会ったんだろ?なら美咲サンとも会ってもいいんじゃないのか?」
「・・・」
「おまえさ、なんで日本に帰ってきたことを隠すんだ?美咲サンにも紗佳にも」
「・・・どんな顔をして会えばいいのか…わかんねえんだよ」
「遼哉くん、ゆうべの質問改めて聞くね。いつ帰ってきたの?日本に」
「…半年前」
「誠は知ってたの?」
「知ってたつーか、遼哉がアメリカにいるときでも会っていたし、帰国してからも週一で会っていた」
「…美咲の今の気持ち、あなたならわかるはず」
「美咲の気持ち?」
「うん。あなたの心に美咲が住み続けているの。なのになんで結婚したの?」
紗佳に言われ気付く遼哉。遼哉は、美咲のこと忘れられずでいた。いや、忘れることができなかった。