一 赤の小部屋
硝子のビル群の隙間から切られた青空が覗いていた。午前十時。青色が最も澄む時間。アグダラの街は穏やかな活気に覆われている。
それに背くかのように、薄汚れた裏道を誰かが駆けていった。長閑な朝を破りつんのめりそうになりながら走る。走る。刺青を入れた男の顔は必死の形相で、荒い息を繰り返す。
その体が不意に傾いだ。悲鳴。太股から血が噴き出し、勢い余って転がり、水音と共に倒れ込み、そのまま動かなくなる。
ぜい、ぜい……
濁った呼吸の音が暗い路地裏にやたらと広がった。そこに近付く濡れた足音。
「全く、手間かけさせやがって。」
無感情な声音と共に一人の青年が男の前に立った。まだ幼さを残す彼の右手には銃が握られ、細く煙が伸びている。青年の表情は声音と等しく無感情、恐怖する男の腹をためらうことなく蹴飛ばした。男はあっさりと気絶し、死んだように動かなくなる。いや、このまま放っておけばそれは比喩ではなくなるだろう。先刻の男の他にも路地のあちらこちらには倒れた人影が見える。
青年は淡々と無線機を取り出し、呼び掛けた。
「こちら紅、任務が完了した。応答しろ。」
サー、というさざ波のような雑音。少ししてその奥から返答が返ってくる。
「はい、こちら蓍苳。報告、了解しました。他には何かありますか。」
「早急に医療班を寄越してくれ。何人か重傷者がいる。」
「分かりました。私もすぐそちらに向かいますので、待機していて下さい。では。」
ふつり、と会話が途切れれば静寂が青年……紅を襲う。紅は何の感慨もないため息を吐き、壁にもたれる。
その外見は異様なもので、十五、六の青年が身を包むのは軍服にも似た黒衣。自然にそうなったとはとても思えぬくすんだ灰色の髪と暗い紅色の瞳は人目を惹き、そのくせ青年の印象は褪せた写真のようにどこか希薄だった。それが更に見る者に異様さを感じさせる。
紅の後ろには点々と、赤い足跡が伸びていた。あちらこちらに鮮血が飛び、狭い路地裏には濃い鉄錆の匂いが籠っている。
それを見つめる紅の目にはやはり何の感情も浮かばないが微かに眉を寄せ、逃れるように空を仰いだ。青空はこの光景を嘲笑うかのように平穏のまま、じっと横たわっている。
だがすぐに紅は視線を地上に戻した。鮮血がゆっくりと、しかし着実にアスファルトの地面に広がっていく湿った音が耳に届いたような気がしたのだ。倒れた男の息遣いも心なしか、弱い。
このままにすれば、男は死ぬ。紅は懐から白い布を出すと手際良く帯状にまとめ、応急処置をしようと男に近付いた。
血溜りを踏み付ければぴちゃりと音がし、血が小さく跳ねる。
ぴしゃりぴしゃり。
鉄錆の匂いが一層強くなる。屈み込めば血の色は鮮烈に見える。
ふと、紅は胸騒ぎを感じた。殺気でも苛立ちでもなく、掻き乱されるようなどいしようもない焦躁、警鐘。
紅は自分の五感が乱れるのを感じた。
目の前には男の体と、血。血の赤が青空の光を反射し輝きを帯び、てらりと輝う(かがよう)。警鐘。
「嗚呼……なんて……どうして美しい……。」
唐突にぐわぁんぐわぁんという耳鳴りが紅の聴覚を奪っい、代わりに麻薬のような言葉がとぎれとぎれに聞こえだした。屈めかけた体が傾き、血溜りに手をつく。
水音、生温かさ、悪寒。
視界がぐらぐら回り出すなか必死に手を伸ばし、男に包帯を巻く。
「赤色……。」
幻聴は止まない。収縮と緊張を繰り返す自分の指の白さばかり……血の気が引いた、自分のものとは思えない色……が浮き出ている。
震える指でどうにかして包帯を結ぶと紅は血溜まりから体を引き剥がし、向かいの塀に寄り掛かり、蹲る。
紅の視界にはいつしか真夜中の闇が表れていた。カンテラの炎、投げ出された小さな腕、赤。揺れる狂う、泣き叫ぶ。胸元を重いものが這い上がるのを必死で押さえ、泡だった体を抱え込む。
これは現実ではない、これは現実ではない、これは現実ではない!
必死に己に暗示をかけても幻覚はますます酷くなるばかり。目の前の血が最早現実なのか幻想かなど分からない。青空が消えていく。呼吸が荒い、自分の息遣いが耳障りだ。
「嗚呼……命が消えて……嗚呼……。」
幻聴も止まない。止まない、血が悪夢が狂気が……。
「大丈夫ですか。」
ひやりと首筋に冷たいものが当たったような気がし、紅ははたと我に返った。幻覚はすう、と遠ざかり、静かな路地裏の光景が蘇る。いつの間にか目の前には長身の東洋人が立っていて、無表情な黒い瞳でじっと紅を見つめていた。ひやりと感じたのは彼の言葉か。
「……落ち着きましたか。」
男の声音は静かなものだったが、少し心配の色を滲ませていた。安堵故か紅の呼吸は徐々に平常のものに戻っていく。
「ああ。助かったよ、荊。」
そう返す頃には弱々しいながら苦笑できる位には余裕が出て来たようだった。その表情は実に人間らしい。
「私は何もしてませんけどね。」
荊は相変わらず無表情だったが、半ばおどけたように大袈裟に肩を竦めて見せた。
ちゅん、ちゅんちゅん。鳥の鳴き声が通り過ぎる。
薄汚い路地がばたばたと騒がしくなる。
「正直、この程度で倒れるとは思わなかった。」
言いながら、荊の手を借りて紅は立ち上がる。血はここそこに散ったままだったが、今の紅にとってはただの景色の一部分にしか過ぎない。
「だから無理はするなって言ってるでしょう。トラウマなんていつ出てくるか知れたもんじゃない。」
「もう十年近く経ったんだ、血だって見てれば慣れるもんだろ。」
「その認識は改めた方が良いと思いますよ、紅。」
荊は軽くため息を吐き、黒い手袋をした手でこめかみを押さえる。
蓍苳荊、それがこの男の姓名だ。丈の長い灰色のコートを無造作に着ている、その背丈は紅よりも頭一つ分は高い。ライフルをやはり無造作に背負い、その癖変に間が抜けたような印象を見る物に与えた。
「とにかく私達は先に此処を出ましょう。恐らくさっきの騒ぎで警察も勘付いていますし、見つかると厄介です。」
「いいのか? このままで。」
「ええ。後は彼らに任せます。」
彼が示した先には幾つもの人影……先刻紅が呼んだ処理班が入り、黙々と戦闘の痕跡を消す作業を始めていた。
その異様な空気の間を二人は通り抜け、黒塗りの車に乗り込む。パトカーのサイレンが遠くから聞こえてくる。
「これでここらのギャングも落ち着いてくれるといいんだがな。」
「ですねぇ。地元だからってこの程度の野暮用にまで駆り出されるのは勘弁して欲しいものです。」
後部座席に座った紅はぼんやりと窓の外を眺めた。スモークガラスに遮られた薄暗い景色のなかで人々は機械的に動いている。音は何一つ聞こえない。倒れている人影……ギャングの組員達に治療を施し手錠をかける。何もなされずそっと横たえられるのは、既に息絶えたということなのだろう。
作業をする人間達の顔は良く見えない。紅の胸には何の感情も浮かばない。
車が唐突に発車する。
紅はしたたかに頭を打ち付け、小さく悲鳴を上げた。
景色はぐいぐいと流れ、狭く折れ曲がった道を無理矢理通り抜けているのがはっきりと分かる。
「もう少し、丁寧に運転しろ……危ない!」
「貴方に限って酔う、なんてことはないでしょう?」
「そういう意味じゃない!」
さっきとは別の理由で真っ青な紅を余所に、荊はハンドルを切りアクセルを踏む。後ろから文句が聞こえてこようが、がりがりと車が壁に擦れているとしか思えない音がしようがお構いなしである。
「事故になったら……。」
「考えません。」
全く反省無し、といった風情の荊に呆れながらも、紅はようやく緊張がほぐれるのを感じていた。
戦闘にこれといった恐怖心がある訳でもないが、やはり殺気に晒されるのは精神を摩耗する。今回は、特に。
警報灯を赤く光らせパトカーが通り過ぎる。ここは既に平穏な街の大通り、青空が止まることなく広がっている。赤い色は遠ざかっていく。
「疲れてるでしょう? 少し眠ったらどうです。」
紅の頭が少しずつ傾いでいくのに気付いたのか。バックミラー越しに荊が声をかける。
「ああ……本部に着いたら起こしてくれ。」
力無い返事を一つだけ返すと紅は窓にもたれ、すぐに寝息を立て始めた。
その意識は勢い良く落ちていった。穏やかな闇の中へ、底無しの夢のなかへと。
――
赤。
床も壁も血塗れだった。部屋中が赤く濡れ、泣き喚いていた。
玩具と一緒に床に転がった銀のナイフ、青黒い腕。すえた鉄錆の匂いに吐き気を催し、恐怖が体中を駆け抜ける。走り回る。堂々巡り。
「何て、美しい……。」
影。黒い外套がずるりと這い、掠れた声は歓喜していた。男の口許は歪んでいる。真っ白な手は血に汚れている。その手が壁に触れ新たに幾何学模様が描かれ、ぐわりと赤色が口を開く。
陶酔。
「求めていた……ずっと……。」
声は徐々にはっきりとし、麻薬の煙のように蕩けた。その碧眼がこちらを向く。ゆらゆらと揺れる青い炎、魂を悪魔に食われた精神病者の眼、その酔いと虚ろ。狂っていた、男は徹底的に異端だった。力無く、頭は傾いでいる。口許は笑んだままの形で氷ついている。
男がゆっくりと向き直り、こちらへと近付く。逃げようとも、抗おうとも思えなかった。恐怖は最早恐怖でなく、思考も感情も茫然と真っ白になる。体は動かず、涙だけがぼろぼろと溢れる。
「大丈夫、今日はもうお終い。」
こちらへと向けられた声は慈しみに満ちている。狂っている。噛み合わない歯車、或いは数多の亡霊のさざめき。それは紛うことなき狂気。救いようも逃れようもない、絶対的なずれ。血の上を歩く、濡れた音が近付く。
「僕は夢を見ているんだ。」
男が屈みこむ。狂人の青い眼に覗きこまれれば戦慄が走る。ゆらゆら。海のような深淵に囚われ、プリズムのような煌めきに脳のどこかで警鐘が鳴る。
「君にも、その一欠片を。」
血をつけたままの手が、頬に触れる。温かさとぬめりと鉄錆の匂いが、どうしようもない恐怖が唐突に蘇り、体中に悪寒が走った。狂人は微笑んでいる。死に包まれて安らいでいる。
「良い夢を……。」
ブツリ。
サー……
……………ァ………
サー…………
……
――――
白い光が紅の目に飛び込んだ。一拍置いてそれが光ではなく、見慣れた自室の天井だと悟る。背に触れる柔らかな感触、ベッドの上に寝かされていることが分かった。聞こえるのは自らの浅い、弱々しい呼吸音だけ。
「……起きましたか。」
聞き馴染んだ声。首を動かそうとする間もなく、黒い目が紅を覗きこむ。
「荊……。」
「ひとまず大丈夫そうで何より。」
無表情の青年は何やら安心したように肩の力を抜き、伸ばしていた首を引っ込めた。
紅が頭を向ければ、補助椅子にゆったりと腰を下ろしている長身の影が見える。その膝の上には彼の故郷、日本の文字で書かれた文庫本、今この瞬間にもページがはらりと捲られる。ちらりと覗いた表紙には漫画のイラストが描かれ、ちゃっかりしっかり休憩していることをうっすらと伺わせている。
「随分有意義に過ごしたみたいだな……。」
看病を口実に仕事をさぼっているらしい荊に溜め息が漏れた。
「酷いですねぇ、私はちゃんと貴方の看病もしていますよ。」
「だからってさぼるな。」
言いながら、紅は汗に濡れた髪が首筋に張り付いているのを重い腕で引き剥がした。再び目を向けた天井は汚れた白、午前の日差しが入らない部屋は妙に暗い。窓の外の青空だけが唯一の光源だ。ぼんやりと眺める紅の脳裏には、ちらちらと先刻の悪夢が泡のように浮かんでは消える。それは幼い頃の記憶、十年前に負った傷。
「……もう大丈夫かと思ったんだがな。」
光を遮る時にするのと同じように腕を額の上に置き、呟く。荊がみじろぐ気配がする。
「やはり十年前の夢を見ていたんですね。」
「気付いてたのか。」
「随分酷くうなされてましたから。」
荊の声は抑揚がなく、白い光に縁取られた暗闇のなかに沈んでいく。口を噤めば部屋は酷く静かだった。耳を塞がれたように、世界に捨てられたように。
不意に紅が身を起こした。ベッドをバネに、勢いを付けて上半身を持ち上げる。ぐらり、と一瞬視界が歪み、思わず頭を押さえた。それも直ぐに引き、紅は少し伸ばした髪を赤いゴムで括る。
「しばらく任務を休んだらどうです。」
「血自体に恐怖はない。」
荊の言葉に紅はきっぱりと返した。さっきまで病人扱いされていたことなど忘れたようにベッドを出、てきぱきと服を着替える。
荊はため息を吐くと、手元の本を閉じた。そして持ち込んでいた補助椅子を、がちゃがちゃと派手な音をさせながら畳む。
「随分あっさり引くんだな。」
「貴方がそう言うなら私は止めませんよ。」
諦めたような口調だが、何処か温かさが滲む。紅が振り返れば補助椅子をがん、と蹴り飛ばし、無理矢理畳もうとする荊の姿があった。その姿に呆れつつも、何ともなしに気分が軽くなる。
「まあでも無理はしないで下さいよ。貴方はどうにも自分を大切にしない節がありますから。無神経というか……。」
「最後の一言は余計だ。」
段々とふざけた口調になる荊に紅は一段冷えた口調で抗議した。荊は何処となく楽しげに肩を竦め、紅の部屋の扉を開け放つ。
「さて、そうと決まれば早速昼食を食べに行きましょうか。あ、そういや食堂のメニューにあんみつが加わったの知ってます? どうです、貴方も一杯……。」
「なんで俺に勧める、食べるなら勝手に食べてくれ。」
「旅は道連れ世は情け、ですよ。」
「食堂であんみつを頼むことが旅と呼べるならな。」
「薄情ですねぇ。」
「……お前、俺が甘いものが苦手だって知ってるだろう。」
「好き嫌いはいけませんよ。」
「知るか。」
他愛もない会話。ふと紅が自室を振り返れば、そこには青空に照らされた無機質な部屋があった。白い壁は薄暗い影に沈み虚ろでもあり、窓の向こうの青空ばかりが眩い。
ぱたん。紅はそれらに背を向けて扉を閉めた。
機関本部ビルの食堂は昼時よりも少し早い時間帯のせいか、閑散としていた。それでもぱっと見回せば、様々な国や地域の人がいることが一目で分かる。
「国際捜査機関」、それが紅達の所属する組織の名だった。その役割は、国際警察を始めとする国連諸機関が手に負えなくなった事件・紛争に対し優れた人材を派遣し、調査や様々な作戦の遂行を請け負うこと。難事件の解決や紛争の和平交渉などの成果を上げる一方、時には公にできない、国際法に触れるようなことまで行う。人員こそさほど多くはないもののその道の尖鋭ばかりが集められ、条件さえ満たせば若干十六歳の紅でさえ機関の戦闘員として加わることができる。最も、これも裏の話なのだが。
紅や荊が生活する機関本部はアメリカ東部海岸、メガロポリスの一画にある街「アグダラ」に置かれ、世界の各地域の支部を統括する役割を果たしていた。国籍を問わず機関員のなかでも更に優秀なものが集められたここは、世界の凝縮とも言えよう。食堂のメニューもまたそれを反映したものとなっており、紅はラーメンを、荊は大盛りのカツ丼とあんみつを食べている。
「少しは落ち着いて食え……。」
細身でいかにもインドア派、といった風貌の荊がカツ丼を結構な勢いでがっついているのに、紅は思わずぼやく。
「ひんふぁいひは……。」
「食べながら喋るな!」
紅の目の前にいるこの男、蓍苳荊は紅の八つ先輩であり、機関の最高権力者・長官に次ぐ権限を有していると言っても過言ではない実力者だ。何が悲しくてそんな相手に突っ込まなければいけないのか。無性に空しくなり、紅は本日最大級のため息を吐く。当の荊はそんなことも露知らず、がっくりとうなだれる紅に不思議そうな表情を向ける。
「心配しなくても喉には詰まりませんよ。」
「そうじゃない……そうじゃないんだ……。」
紅はとうとう黙り込む。荊少しの間箸を止めていたが、すぐにカツ丼をかき込むとあんみつに手を伸ばした。小さな皿に盛られたそのスイーツはご丁寧に二人分用意されている。一番上に乗っかったさくらんぼを枝ごと口に放り込みながらふと思い出したように荊が口を開いた。
「そういや先程の任務の報告書を書いておいたんで、管制室まで届けてきてくれません?」
「……はい?」
荊の言葉に紅の動きが止まった。機関の任務報告書は紙とデータ、二つの媒体で作製されている。日夜変化する世界情勢を相手にする機関にとって速さは生命線、当然ながらどちらも任務が終わり次第すぐに、即座に出さねばならない。
「お前……。」
紅の目が少し剣呑なものになるが、荊は何処吹く風。
「そういやさくらんぼを口で結べる人はキスが上手いってよく言いますよね。私、できないんですけれど。」
「……。」
荊には全く悪びれた様子もなく、紅が文句を言おうと開きかけた口は結局何も言わぬまま閉じられた。のれんに腕押し、ぬかに釘。紅が何を言っても恐らく、いや十中八九無駄だ。
「……管制室に行ってくる。」
立ち上がりながら言う紅の声は沈んでいた。
「あ、じゃあ紅の分のあんみつ貰っても良いですか? どうせ食べませんよね?」
「好きにしてくれ。」
相変わらずのんびりとしている荊にもはや紅はため息も吐かなかった。余談だが、このあんみつ代もきっちり紅の懐から出ている。もしかするとこれも荊が仕組んでいたのだろうか、という疑問さえちらりと浮かぶ。
重い足取りで、紅は食堂を後にした。
管制室がある階にエレベーターが着く。滑らかに開いた扉の向こうには白い廊下が広がった。蛍光灯の色は青白く、窓が一切ないその場所は昼も夜も分からない。紅が一歩足を踏み出せば、戦闘を考慮して作られたブーツはかつんと固い音を響かせる。廊下は進めば進む程複雑に入り組み、迷路となって侵入者を阻んでいた。そのなかを紅は迷うことなく進んでいく。
やがて目当ての扉が現れる。紅は澱みない動きで暗証番号を押し、生体認証を済ませ、開かれる扉の向こうへと足を踏み出した。
「おはよう紅ー!」
直後に少女の声が弾け、その正体を認識するまえに紅の胸の辺りに強い衝撃が走った。そのあまりの勢いに紅はバランスを崩し、閉じた自動ドアにしたたかに背中を打ち付けた。どん、と鈍い音がし、紅はそのまま床に座り込む。
「痛っ!」
一拍遅れて背中に広がる痛みに紅が呻けば腕のなかの少女、つまり紅に飛び付き倒した張本人は不思議そうに紅を覗きこんだ。青と緑のオッドアイが、紅の目の前で煌めく。
「大丈夫ー?」
「誰のせいだと思ってるんだ……。」
「それは紅の腕力が足りないからだと思うよー。」
紅の文句に少女は悪びれた様子もなく答えた。薄茶色の長い髪がさらりと流れ、紅とは対照的な、白く裾の長いだっぽりとした服を纏う少女は十七という年齢よりもよっぽど幼く見える。実際、彼女の言動は子供じみている。
「お前が飛び付いてきたのはノーカウントか。」
「うにゃー。」
今度は奇声で返された。紅の言葉を全く聞く気がない少女に、もはや文句を言う気力も無くす。荊とどちらの方が質が悪いかと問われれば紅には答えられまい。どちらも常日頃から紅の頭痛の種となっているという現実、それだけで紅には既に十分である。そ考えれば考えるだけ空しくなるのが関の山だ。
「……どうでも良いから早く降りてくれ。動けない。」
「やだ。」
ひとまず目先の問題を片付けようとしても、紅の上に乗っかったままの少女はてこでも動く気はないようだった。だが、不意にその体が宙に浮かぶ。
「いつまでふざけてるんだ、葵。」
澄んだ声と共に、白い手が少女、こと葵の襟首をつまみ上げる。
「いいじゃん別にこんぐらいー。」
頬を膨らませ抗議する葵に、手の主である青年はやや大きい薄蒼の瞳を細めた。中性的で幼くも見える顔は、不機嫌な色を滲ませている。葵よりも薄い色の髪と病的なまでに白い肌を持ち、きっちりとスーツを着込んだ青年の名はレスト・アンドレス。荊同様、紅の先輩に当たる捜査官。
「紅を見ろ、死んでいる。」
そして、紅の頭痛の種その三でもある。やっと来たと思えた助け船に紅が下敷きにされように見えるのは、気のせいではない。
「えー死んでても紅は紅だよー。」
「死体は所詮ただの死体だ。」
「死体になっても君が好き! ねばーらぶ!」
「訳が分からん。」
扉の前にへたりこんだままの紅を余所に二人は何やら子供染みた言い合いを始める。
「そもそも勝手に人を殺すな……。」
力無く紅が突っ込めど、その間にもヒートアップし、言い合いどころか段々と手が出始めている二人には届くよしもなかった。もはや紅でさえ自分自身が不憫に見えてくるが、今に始まったことではない。これが紅の日常である。管制室の白い天井がなんとなしに恨めしい。
「それで、紅は何か用でもあるのか?」
ようやくレストが問い掛けたのは、紅が管制室に入ってかれこれ五分近く後のことだった。その頃には疲れ切った紅が扉にもたれたまま、半ば同化しかけていたといっても過言ではない。
「……報告書を届けに来ただけだ。」
そう、そもそも紅がここまで来たのはこのため。にも関わらず、何故自分が疲れなければならないのか。紅のなかで今更のようにそんな疑問が渦巻き、やりきれない疲労は結局全て空しさに変わっていった。全ては偶然にも救いようもない仕事仲間を持ってしまった自分の運の悪さを呪うしかない。
「荊が記入した。」
「ああ。」
紅が書類の束を渡せば、レストはそんなことは察しようとする気配もなくぱらぱらと捲りだした。時折眉を潜め、零れる愚痴は大方荊に対するものだろう。
「何の任務だったの?」
葵が問い掛けながら、立ち上がろうとする紅の腕を引っ張った。その勢いに再び紅はバランスを崩しかけるが、今度はしっかりと持ち堪える。
「アグダラにいついてるギャングの洗い出しと鎮圧。まだ本体が生き残ってるけど尻尾は掴んでるし、後は警察がどうにかするだろ。」
「ふーん。」
聞いた当の本人の返答は存外素っ気ないもので、興味は全くないようだった。代わりにすぐ近くから紅の瞳をじぃ、と覗きこむ。大きな青と緑のオッドアイが紅に迫り、無垢な光がきらきらと輝く。
「……どうかしたのか?」
居心地の悪さに絶え切れなくなった紅が問えば少女の瞳はぱちくりと瞬き、紅の頭にその手が乗せられた。驚きと気恥かしさがないまぜになったような表情を浮かべる紅をよそに、葵は無邪気に笑った。
「無理しちゃ駄目だよ、紅。」
「……お前らのせいで日頃から頭痛は絶えないが。」
「そこじゃなくって。」
紅の言葉に、葵は少し頬を膨らませた。乗せていた手で紅の頭を軽くはたくと、撫でているのだか擦りつけているのか良く分からない動作で動かした。
「何か嫌なことでもあったんでしょ。」
その言葉に、今度こそ紅はきょとんとした表情を浮かべる。
「何で分かったんだ。」
「顔に書いてあるよ。そんぐらい、ボクが見れば一目瞭然、快刀乱麻。」
少し得意げな葵の様子に紅は小さくため息……今までのそれとは違う、安堵にも近い……を吐いた。自然と紅の表情も緩む。
「……十年前の、あの事件の夢を見た。もう収まったと思ってたんだがな。」
「そっか……。大変だったね。」
あやすような葵の声は柔らかい。無垢な感情は幼いまま、けれども傷を癒す母の優しさもそこにはある。紅の外側からじんわりと染み入り、満たし、安らいでいく。
「……取り込み中悪いんだけど、次の任務が入ってる。」
不意に響いたレストの声が、二人の平穏を破った。ぱっと葵が離れ、レストの手元の分厚い書類を見にいく。側に感じていた気配が消えれば無機な現実が押し寄せる。
「えーとボクと紅と荊? って紅はさっき任務から帰ってきたばっかりじゃん。」
紅より一足先に書類を覗きこんだ葵は、早々に不平を言い出す。
「長官の指名だから仕方ない。」
レストが面倒くさそうに葵を押し退け、紅に書類を渡した。紙の一番上には幾つかの数字が印字され、それが今回の任務の重大さを――機関のトップである「長官」からの直々の命令であることを示していた。名も姿も何もかも知れぬその存在は機関内において絶対であり、その能力は超越している。
紅は書類を受け取るとざっと流し読んでいくが、頁を捲る度にその手はゆっくりとしたものになっていった。表情にはなんとなしに陰りが差す。
「虫の知らせ、て奴か……。」
「どうかしたの?」
「いや。」
紅の呟きに敏感に反応して葵が心配げな色を浮かべるが、紅はそれを避けるように背を向けた。
「じゃあ俺はもう帰る。書類、荊にも渡しておこうか?」
「いや、僕から渡しておく。……報告書の件も文句言いたいしな。」
レストの声はやや低いものになっていた。どうやら荊の記入に何かしらの不備があったらしい。荊は実力は確かなのだが、いかんせん真面目さが欠けている。こうして周りを困らせるのも今に始まったことではない。
「分かった。」
紅が振り返れば、レストは冷ややかな目で書類を眺めていた。酷く無感情で、見ようによっては殺人鬼にすら見える冷酷さが隠されることなく露になる。荊に対する抗議、それだけでは収まらない何かが覗いていたが、それにも背を向ける。
扉は音もなく滑らかに開く。
「紅。」
背後からかけられる少女の声に紅は振り向かない。歩を進める青年に、葵は構わずその言葉を告げた。
「あいしてるよ。」
静かな空気に、繊細な震えが走った。それでも紅は振り返らなかった。扉は音もなく、閉まる。
かつん かつん かつん。
白い迷路にブーツの音は延々と響いた。止どまることなく、早まることなく、規則的に続く音、音、その反響。歩む紅の足元に張り付く。
紅の顔に表情は無い。人格を構成する色さえも抜け落ちたそれは人形のようにも見えた。瞬きも殆どせず、隙のない表情はただ前を見ている。
葵の言動はいつものことだった。「あいしている」、その言葉に何ら他意はなく、紅に向けられるのは純粋で惜しみのない愛情以外の何物でもない。それは丁寧に磨かれた宝石のように煌めき、透きとおった感情。だが、紅にそれに答える術は無かった。ただ葵が一方的に紅を慕い、紅は応じることも反発することもなく時だけが過ぎていく。少なくとも紅の認識上はそうなっていた。
一体、いつからこんな関係になったのだろうか。五年前か七年前、それとも十年前の出会ったばかりのあの時から? 余りにも当たり前な日常と化した行動、始まりの記憶は探せば探す程に霞んでいく。
かつん かつん かつん。
足音は廊下に木霊し、前から後ろから膨れ続ける。静かな世界に響く音が耳に痛い。音と音の合間の静寂が痛い。
紅の思考はいつしか記憶を逆上るのを止め、来たるべき任務のことへと変わっていた。
――
宵闇は墨を塗り込めてぬるりと蠢き、底知れぬ深淵からは何かの潜む気配がする。それは血肉に汚れた猛獣の牙かもしれず、或いは萎れた一輪の赤い花かもしれない。灯で照らせばただの風に過ぎないのかもしれない。
青年はその暗闇のなかにひっそりと佇んでいた。何かをするでもなく、木のように微動だにせず立ち尽くす。敏感になった嗅覚をくすぐる濃厚な鉄錆の匂い、足元には生温い液体が広がっていた。空気の隅々にまで、死の気配は染み込む。静かに、静かに、浸食していく。
ふと、一筋の白色が差し込む。柔らかな光が床に広がった赤い色を浮かび上がらせる。
「月光か……。」 麻薬のような声には幸福の色が滲み、青年は感嘆の吐息と共にカーテンへと手を伸ばした。重い布を引けば、窓の向こうからは青白い月が優しく夜空を照らしていた。月光は血塗れた部屋もまた赤裸々に照らす。
その神々しく、されど何処か病的な光に血塗れの青年は目を見開き、食い入るように見つめた。その表情はあどけなささえ感じられ、純粋な感動が満たす。その瞳は炎の青色を湛え、月の輝きを写して煌めく。
「満月まであと三日……。」
煙のような声音で呟くと、青年はそっと口許に笑みを浮かべた。
――
涼やかな風が空へと舞い上がる。空は青く、どこまでも果てもなく青く、しかし西からは午後の日が辺りを黄金色に染めていた。遠い雲は脈打ち、魚の群にも大洋の波にも見える。いずれにせよ空というものは海に近しい。その深い暗い底は見る者の意識を食らう。見れば見る程に脳髄から吸い取っていく。そんな気がして、心なしか紅は自分がばらけたような錯覚に陥る。
「何黄昏てるんですか、紅。」
「荊の言うとーりだよ。折角なんだから楽しまなきゃ! 食欲の秋、遊びの秋。いやっはー!」
「誰のせいだと思ってるんだ……。」
現実逃避も束の間、紅の目の前では葵と荊が任務そっちのけでは騒ぎ、しゃぎ回っている。ずんずん歩く二人を追う紅の手には大量の紙袋。中身は全てデパ地下や駅中その他様々な店の銘菓。今回の任務先が日本の首都・東京、即ち荊の故郷であり、それが紅にとっては運のつきだった。荊が土地勘を無駄に発揮し、名店が集まる場所へと紅を上手く誘導していったのだ。一度はしゃぎだした葵を紅が止め切れる訳もなく、はたと紅が気付けば、引き摺り回されるどころか二人の荷物持ちと化していた。葵は愚か、荊までもが手荷物のアタッシュケースの他には何一つ手にしていない。
「くーれーなーいー! 早く早くー!」
葵が路上構わず大声で呼ぶ。その前には窓があり、なかでパティシエ達がケーキを焼いている様子が見える。
先に入っていく葵を追って店の前に来れば、その値段が目に留まる。
「……。」
結構な額、少なくとも紅が思うケーキの相場よりは数段高い。これをあの少女は買うつもりなのだろうか、という疑念が紅のなかで渦巻く。自腹ならまだしも二人のこと、経費からお土産代を落とす心積もりのような気がして、紅は軽く目眩を覚えた。因みに葵も荊も経費濫用の常習犯である。悲しきかな銀杏並木の黄金色、結局二人に振り回されるのが紅の日常。行き交う車と雑踏に包まれれば青い空さえ霞んで見える。
その足元に、ふと柔らかいものが触れた。紅が思わず身構えれば、そこには黒い塊があった。みゃぁ、と小さく鳴き声を上げ、紅の足に擦り寄ってくる。毛並みの良い黒猫がそこにはいた。
「わぁ、可愛いねー。」
黒猫にひかれたのか、気付けば葵が紅の直ぐ側に立っていた。猫は紅の足元をぱっと離れると代わりに葵に懐き、。葵が撫でればごろごろと喉を鳴らして目を細めた。
「野良猫って普通そこまで人に懐きませんよね。飼い猫、でしょうか……?」
面白そうに覗きこむ荊の顔もどことなく綻ぶ。和む二人の傍らで、紅はなんとなしに違和感を覚えて首を傾げた。そこにいるのは紛うことない猫のはずなのに、何かがしっくりこない。猫の青い瞳がこちらを向けば、違和感は既視感に変わった。空の蒼でもなく海の青でもない、蒼のなかに無数のプリズムを宿したような煌めき、青い炎にも近い揺らめき。紅の脳裏でなにかが閃きそうで閃かない。既視感は朧な感覚のまま、紅のなかでじりじりと疼く。
不意にその思考を破って携帯の着信音が鳴った。ピリリリ、というシンプルな機械音に紅の思考は遮られる。懐から任務用のそれを取り出せば画面には「非通知」の文字が写っている。
「io1ylg0……。」
電話口から漏れたのは無機質な機械音声だった。意味不明な言葉の羅列に紅の表情に微かに緊張が走る。同時に葵と荊の携帯も鳴り出す。荊が二人に目配せし、三人は早足で並木道を歩き始めた。
人の多い街の裏、僅かに伸びる細い路地へ、誰にも会話を聞かれず、かつある程度声が喧騒に紛れる場所を探し出す。
「qkm9aw……。」
やがて何かの店の裏に回り込むと、三人はそれぞれに文字列を電話口に向け呟いた。電話の向こうからはささめきのようなノイズが聞こえ、三人が言い終わってもなお単調音は続く。それに混じるようにして機械音声が遠くに聞こえ出した。声帯一致、本人コード一致、本人確認完了。
「コチラ機関本部。応答セヨ。」
最初にはっきり耳に届いた声はやはり機械の合成音であり、その緩みも早まりもしないリズムは尚更声を無機質なものにする。
「こちら蓍苳、現在9-176任務調査中。何かありましたか?」
「9-146事件ニオイテ、先程新タナ被害者ガ発生シタトイウ情報ガ入ッタ。真偽モ含メ、急ギ調査ヲ。詳細ハコチラカラ送ル。」
「了解しました。」
荊の声は色という色が抜け落ちていた。思考を決して読み取らせない、任務時の顔。名乗りこそはしないが、電話の向こうにいるのが長官だということを三人は既に承知していた。
紅と葵は二人の機械のようなやり取りを何の動揺も見せず、ただ傍聴する。その足元には、いつのまにかさっきの黒猫が寄っている。
「ええ……はい分かりました。荷物を受け取り次第現場に向かいます。では。」
荊が携帯を閉じれば紅達の電話もぷつんと切れる。荊は無言のままアタッシュケースからノートパソコンを取り出すと、未だ張り詰めた気配を纏ったままキーを叩き始めた。
「こんなとこまで着いて来ちゃったんだねーぼく。」
葵はそんなこともお構いなしに猫を撫で、その横で紅はぼんやりと空を眺める。海よりも深い青空、漠としたさかしまの荒野。
「さて、行きますよ。」
荊の声に二人は歩き始めた。
「バイバーイ!」
葵が猫に向けて大袈裟に手を振ってみせれば、猫はにゃあと一啼きし、建物の影へと身を翻していった。
9-146、それはある連続殺人事件とその犯人を示すコードである。事件の存在が認知されてから既に10年近くが経ってなお、犯人は捕まるどころか顔さえ割れず、世界各地を舞台に事件は断続的に続いている。ただ分かっていることは二つ、彼がノアールと名乗っていることと、彼が何の目的で事件を起こしているかということ。
紅達が日本に来たのも日本で、それも二件立て続けに彼のものと思われる事件が起きたからだ。その調査中……最もまだ葵たちは調査を始めてすらいなかったが……に新たな事件は起きた。
三人が現場へと向かえば、辺りは思いの外ひっそりとしていた。閑静な住宅街、と言うには余りにも異質な静けさ。昼間の真っ青な空が余りにも不釣り合いで、気持ち悪くさえ見える。 紅と葵はカラーコンタクトで瞳の色を黒く変えた上で深くフードを被り、一目ではそれが誰とは分からないようにしていた。紙袋の代わりに三人は布に包まれた細長いものを背負い、現場を隠す青いビニールを少し遠くに捉える。
「何人位中にいます?」
「二階に5、6人、下も同じようなものだろう。」
紅には数十メートル先の気配さえ分かっていた。荊がそれを元に何やら戦略を練っている。
「やはり警察にばれないように調べるのは難しいですか。」
「機関の権限を使えば良いんじゃないか?」
「余り目立つことはしたくないんですよ。貴方方が未成年だと知られても面倒ですし。」
荊はこつこつと指を自分の腕に軽く打ちつけた。その頭のなかではどれほどの速さで思考が働いているのだろうか。側に立つ葵は周囲に視線を巡らせている。
ふと、現場が慌ただしくなった。警官達が走り回り、緊張が走るのが遠目にも分かる。
「撤退……?」
何か聞き付けたらしい紅が眉を潜め、そのそばから警官達は現場から離れ始める。訝しがる紅達を残し一人また一人とパトカーに乗り、去っていき、気付けばそこには誰もいなくなっていた。
しん、と静まり返ったブルーシートの向こう。
「……本当に誰もいなくなったみたい、だな。」
しばらく気配を探っていた紅がそう言うのと同時に、荊の携帯からバイブ音が響く。「『警察には一度手を引くように指示を出した』、だそうです。今日一杯は警察側はこれ以上現場検証を行わないそうです。」
「長官か?」
「はい。随分とこの事件にご執心のようですね。」
長官から直接来たメールを読む荊の言葉は皮肉とも取れるが、その平坦な声音故に何の感情を灯すこともない。普段とはかけ離れた仮面のような表情には、十年近い付き合いとなる紅でさえ時折戸惑いを覚えてしまう。
「さて、行こっかー。」
対する葵は現場だろうがお菓子売り場だろうがそのテンションは変わらない。一人先行して現場へと歩き出す。二人がその後へと続けば、固い足音は何か不吉な予兆のように響いていった。
狭い部屋には死の気配が隅々にまでこびりつき、血の匂いと混じり合って酷く息苦しかった。壁という壁、天井にまで染み付いた血飛沫は既に黒ずんでなお鮮烈に、見る者の意識に食い込む。床には開かれたままの本や書類、ファイルなどが散らばってこの部屋の主がついさっきまでそこに居たかのような錯覚を与えた。それが尚更に部屋を凄惨なものにする。
紅は窓枠に凭れてぼんやりと部屋の様子を見ていた。葵が忙しなく動き回り、荊がノートパソコンで何かを調べているが二人とも紅を咎めるつもりは更々ないらしい。死臭に満ちた部屋で作業をする二人に表情もなく、粛々と調査は進む。気味が悪い程の静寂のなかで、血ばかりがその存在を高らかに叫ぶ。
犯人の動機は何なのか、どうやって殺害したのか。紅はぼんやりとそんな思考を繰り返していた。プロファイリングなら紅よりも荊の方が圧倒的に優秀だが、それでも紅はこの現場を見、考えなければならなかった。壁の血には人間の手によって塗りたくられた跡がある。そこにある狂気を紅は見つめる。
紅の背にある窓からは薄暗い光が降ってきていた。本来ならばもっと明るいはずなのだが、家を隠すブルーシートによって遮られている。
「なあ、昨日月はどの方角に出てた?」
ふと紅が口を開いた。突拍子もない発言に驚く二人を余所に、その視線は一面青色の窓に向けられる。
「月、ですか……ちょっと待って下さい。犯行時刻の位置で良いですね?」
「ああ。」
紅が答える間も無く、カタカタと荊が素早くキーボードを打ち込んでいく。
「月がどうかしたのー?」
「いや、少し気になってな。」
葵の問いに答える紅の表情はぴくりとも動かない。その様子は冷静を通り越して機械的でもあり、先のギャング掃討の時とは違って血に対する恐怖は全く無いようだった。
「犯行時刻、午前二時頃の月の位置は大体南、丁度あの本棚の辺りです。昨夜は満月の前日にあたります。」
「そうか……。」
紅の声音は平坦だったが、その瞳は少し細くなった。暗赤色の瞳の奥に何かを確信した、固い光のようなものがちらりと覗く。
「それと、先程警察の方から司法解剖の結果が出ました。被害者の死因は体を何十ヵ所も刺されたことによる失血死。他にも後頭部に打撲の跡……バットか何かで殴打された跡があったそうです。」
「相手を殴って気絶させてから殺害した可能性が高い、てこと?」
「はい。この辺りは夜になれば人気も無いですし、外で襲ってからこの部屋で犯行に及んだということも十分に考えられます。家の鍵も壊されていませんでしたし、犯人が気絶させた被害者から鍵を奪ったとみるのが自然です。」
「へー……。」
荊と葵が機械的に言葉を交わす。それを傍らで聞く紅の意識は再び血塗られた壁へと向けられていた。一面に広がる乾いた血、小さな部屋全体が一つの箱になり狂気を詰め込んでいる。けれども何かが決定的に足りない。紅の本能にも近い部分が違和感を訴えている。
「荊、恐らくこの事件の犯人は……。」
紅が口を開くが、唐突にその気配が様変わりした。半ば反射的に窓を振り返り、一面のブルーシートの青色を、その向こうの見えない景色をじっと凝視する。瞳には鋭い光が現れ、紅の纏う気配は固く張り詰める。
紅は背筋を嫌な冷たさが這い上がるのを感じていた。ブルーシートを越え、誰かの視線が部屋に入り込んでいるのを五感が捉える。それは甘すぎる毒のようにべったりと纏わりつく、熱を持った針のように肌に刺さる。全身が粟立ち、懐の銃を引き出す手にどうしようもなく力が籠る。
やはり視線に気付いたらしい葵が素早い動きで背の荷物を解く。布が落ちれば現れるのは真っ黒なライフル銃、表情を消した葵が窓の外へと銃口を向ける。
「どうかしましたか。」
「視線を感じる。」
唯一視線を感じ取れていないらしい荊が二人に問いかけた。その手にもいつの間にか銃が握られ、窓を向く紅達の背後にある扉へと向けられる。空気は引き裂かれんばかりに凍りつく、緊張が走る。
一秒、二秒、三秒……、じりじりと時間ばかりが過ぎていった。気配は重みを増していく。紅の先には一面のブルーシートがあり、その向こうから視線は遠慮なく突き刺さる。硝子の向こうでやたらと光を弾くシート、青色は撹乱され、膨張する。
一体どれほどの時間、そうしていたのだろうか。延々と続くかに思えた対峙は、始まった時と同じように唐突に終わった。視線が消え、ふっと部屋の空気が軽くなる。
「……消えたな。」
ようやく銃を下ろすと、紅は一つため息を吐いた。だが、すぐにその表情は険しいものに変わる。
「葵、荊。ノアールは恐らく今夜中に動く。急いだ方がいい。」
肩の力を抜く二人に淡々と告げると、二人が何か言うよりも前に紅は撤収の準備を始めた。
「少しは息抜きしようよ。」
「お前はしすぎ。」
葵の言葉もすっぱり切り捨て、てきぱきと働く姿を葵と荊は半ば惚け、半ば呆れながら眺めている。そうする間にもあちらに転がっていた鑑定道具が片付けられていく。
「ところで紅、さっきは何故視線を追わなかったんですか?」
ふと零れた荊のぼやきに、紅の手がぴたりと止まった。床に落としていた資料を拾おうとしたその姿のまま、固まっている。
「……忘れてた。」
「あららー。」
しばらくの沈黙の後、答えた紅の声は沈んだものになっていた。慰めているのか茶化しているのか分からない葵の合いの手にも、反応は無し。
「恐らく表に出ても真っ昼間から銃を振り回す訳にもいきませんし、追いかけるのは難しかったでしょう。そう判断するのが賢明でしたよ。」
荊が慰めるが、紅の背中には何か暗い影が落ちているかのようだった。どうやら今のミスが堪えたらしい。
「紅、大丈夫ー? ほら、飴ちゃん上げるから元気出して。」
「葵、それあんまり慰めになってないですよ。どうせならホテルに帰って、文迷堂のカステラでも食べましょうよ。」
「……嫌がらせかお前ら。」
段々と話題が逸れ始めた二人にはぁ、とため息を吐き、紅は資料を拾いまた片付けを始めた。葵達を振り返る表情には諦めがありありと見て取れる。
「というか、さっきからお菓子だの銘菓だの楽しそうにしてるが、それ、まさか経費で落とす気じゃないだろうな? むしろ今が任務中だと忘れてるんじゃないだろうな?」
注意する声はいつもよりも不機嫌さが何割か増し。
「あーばれてた?」
「少しは反省しろ! というか急がないといけないって言っただろ。」
「でも何か食べないと保たないよー。紅のせっかちー。」 葵の言葉に、再び紅が詰まる。
「あーむしろ短慮?」
「うるさい!」
完全に不貞腐れたらしい紅は、さっきよりも乱雑に書類を拾った。それを見た葵が笑い出し、更に紅が凹む。
「ひとまず、ホテルに帰りますか。作戦を立てましょう。」
荊が二人の間に入れば葵は元気良く、紅は完全に疲れ切った表情で振り返るのだった。
―――
パソコンの画面は白々と、昼の光をことごとく遮った薄暗い部屋を照らす。それをぼんやりと眺める青年の瞳に表情は無く、微動だにしない四肢は彫像のようで、呼吸さえもが止まっているのではないかと不安になる。しん、と静けさが落ち込む。空調の音だけが絶え間なく流れ、耳につく。
不意にパソコンの画面が動いた。光が色を変え、青年は薄青の瞳を瞬かせる。ピピ、という呼び出し音が鳴ると共に画面には青年がよく知る人物の顔が写し出される。暗い瞳、黒い髪、無表情を貼り付けた顔。
「定時連絡だ。遅れてすまない、レスト。」
画面の向こうの男の抑揚の無い声に、青年、レストは如何にも不機嫌そうに目を細める。
「全くだな。いい加減時間を守ることを覚えろ、荊。」
「頭の片隅にでも置いておく。埃を被るのが関の山だと思うが。」
そう話す荊は敬語が外れ、心なしか表情は柔らかい。それもそのはず、荊とレストは十年来の友人であり兄弟にも似た関係。当人らにそういった認識があるかはともかく、互いに大切の存在であることは揺るぎない事実である。
「それで、捜査の調子は。」
「大方予想通りに進んでいる。今夜にも接触できると思う。」
「ノアール、だっけか。一体今まで奴と何回やり合ってんだ。」
「機関全体ならこれが五回目、内二回は返り討ち、既に逃げられていたケースならごまんとある。」
画面に写る荊の表情に、やや苦いものが混じった。カップに入ったコーヒーと思しきものをぐいと飲みこむと、小さく息を吐き出す。
「酷いな。」
「全くだ。」
その様子をぼんやりと眺めながら、レストは空いた右手の指をデスクに打ち付けていた。こつ、こつ、という乾いた音が耳につく。パソコンの無機質な光が目に痛い。
「ああそれから一つ、今回の捜査の戦略は紅に任せている。」
「紅に? お前ではなく?」
「そうだ。」
目を見開くレストに、荊は一つ頷いて見せる。
「なかなか彼の勘は侮れない、特にこの事件に関しては。返り討たれなかった三回っていうのはどれも紅が担当だ。」
「へえ……。」
感心しているのか、それとも興味が無いのか。曖昧な表情で返事を返すレストを余所に、荊はカップの中身を飲み干す。同時にピピピ、と時計の鳴る音が荊のいる側から聞こえてくる。それもすぐに止み、代わりに仮眠を採っていたらしい紅の声が小さく聞こえてきた。
「日本警察に出す隠蔽工作の指示は本部に任せる。」
「了解。くれぐれも怪我なんかするなよ。」
「レストに言われるのは心外だな。言われなくてもそのつもりだが。」
荊が立ち上がる。画面の向こうからは紅が葵が起こそうと四苦八苦しているらしい物音が聞こえ、賑やかになっていく。
「じゃあまた明日の朝、いやそっちは夜か。また連絡する」
別れを告げる荊の無表情には微かに穏やかな笑顔が混じったかもしれなかった。
「ああ、じゃあまた明日。」
レストが答えれば、通信はどちらからともなく切れる。遠い海の向こうから届いていた音もまた消えれば、機械類の耳鳴りのような音がふっと蘇る。
ジジッ……。
部屋は深海のようにどこまでも静かだった。昼を排除した薄暗いそこで、レストは相変わらず白いだけの画面を眺めていた。微動だにしない姿は排他的で、薄青の瞳は凍りついている。
静寂は果てもなく深く、青年を飲み込んでいた。
―――
「穢らわしい……。」
声は深く闇のなかに沈んでいった。住宅街の外れに建ったビル、今にも落ちそうな屋上の端に黒い影が立っている。地上には仄かに青い光が満ち、満月は南の空にぽっかりと、穢されること無き白濁は凛としてそこにある。
ひんやりと皮膚を舐める冷たい風に、ビルの上に立つ影は微かに身震いした。青い炎を宿した瞳は幾つにも色合いを変え、しかし白い貌は死面のように無感情に張り付けられている。
「やはり、彼も来たのか。」
嘆息。男の吐息は空気に一抹の毒を落としたようだった。街灯の光はぽつり、ぽつりと青く不安定に揺れる。静寂は酷く薄ら寒く、月光に紛れ狂気が息を潜める。
「月は狂っている、赤もまた狂っている。」
貌唇を歪め、男は一歩中空へと足を踏み出す。ゆっくりと、泥沼に沈むように体は落下し黒い外套が翻る。
「嗚呼、今宵は楽しくなりそうだ。」
笑みを含んだ声は宵闇にゆるゆると溶ける。凍りついた夜景のなかで、男の影もまた闇のなかへと消えていった。
弱い風が一陣吹けば、跡には何も残りはしなかった。
―――
近い。
視界に捉え切れない闇のなかにその気配を感じた。道の隅の電柱、庭に降り積もった落ち葉と枯草、建設途中の鉄骨。無数に散らばった暗がりの、一つ一つに狂気染みたものが潜んでいる。月は青い。空気も、青い。
紅は至って平静だった。銃を手にした指先から汗が滲むこともなく、心拍が乱れることもなく、規則的な呼吸を繰り返す。ただ頭だけが熱を持ち、張り詰めている。
「こちら紅、近付いている。」
無線へと声をかければ、音はしんとした夜に呑まれる。機械の雑音さえ、静かだ。
「了解です。部屋の様子はどうですか。」
淡々とした荊の声が、緊張を物語る。
「変化無し。もうじき月が南中する、恐らくその時だ。」
「分かりました。相手はノアール、恐らくこちらも無傷では済まないでしょう。二人とも十分気をつけて下さい。」
「勿論だ。健闘を祈る。」
通信が途切れれば、静けさは体積を増したようだった。冷気はより深く張り、光は硬直する。
紅はライフルを構え直す。アパートの屋上からは辺りの景色が良く見えた。道路を挟んで向こうにはもう一軒アパートが建ち、銃口はその部屋の一つへと向けられている。荊と葵もまた部屋の入口に待機し、その時を待っているのだろう。白い蛍光灯の光が漏れ、時折人影が揺れる。時間がゆっくりと泥沼のように過ぎていく。
ざり、と。空気が唐突に変質した。
「来た!」
紅が叫ぶ、直後にばちんと蛍光灯が爆ぜる。悲鳴、肉を裂く生々しい音、扉を蹴り開ける轟音。銃声が響くのと血がカーテンに飛び散ったのはほぼ同時、何かが床に倒れ断末魔がぷつりと途切れる。
「紅!」
静寂が一瞬訪れ、直後に窓硝子を砕いて黒い影が飛び出した。重力を無視して空へと逃げようとするそれに向け紅はライフルの引き金を引く。
爆音にも近い銃声、また新たな赤色が散って月光に照らされる。影はバランスを崩し、アパートの屋上へ落ちて行く。
「葵、荊、上に急げ!」
無線へ向けて怒鳴ると紅はライフルを投げ捨て、代わりに両手にそれぞれ銃を取った。そして助走も無しに八メートルもの距離を軽々と飛び越え、反対側の屋上に移る。
着地するや否や両手の銃が一斉に火を吹いた。反動をものともせず、間断無く続く射撃は全て影へと向けられる。だがそれが届く前に影は姿を消していた。紅の目にはその全てが、真直ぐに進む銃弾が一つも当たらずコンクリートにめり込んでいく様がはっきりと見えていた。
先程とは比べ物にならない緊張感が紅を襲う。姿は見えねどもまだ殺気は消えていなかった。月光が背後から紅を照らし、青い影が足元に伸びる。静かに、静かに、それはぐにゃりと歪む。
紅が振り向き銃を撃った。弾が弾かれたらしい固い音がし、代わりに背中に悪寒が走る。咄嗟に飛び退けば黒い剣が紅を掠め、床を抉った。いつの間にか影が、いや黒い外套を纏った男が紅の背後に立ち剣を構えていた。剣はどこか現実感が無い。物理法則もなにもかも無視して影そのもののように伸び紅を狙うが、再び銃を撃てばそれはあっさりと砕けた。
しん、と辺りが静まり返る。二人は攻撃を止め、じっと対峙した。逆光のなかでも男の青い瞳は煌めき、紅の赤い眼とかち合う。
「やあ。随分久しいじゃないか、紅。」
最初に口を開いた男の声は酷く穏やかだが、どこか麻薬のような毒を滲ませていた。薄い唇は弧を描き、狂気めいた色が貌に浮かぶ。
「全くだな、ノアール。」
相対する紅は無感情そのもの。その指は未だ銃の引き金にかかり、銃口はノアールへ向けられている。
「前に会ったのは、二年前、ベルリンでだったね。確かあの時は白いお嬢さんも一緒だった。」
「あの時も、お前は自分の“絵”を汚したものを殺しに来た。」
「そして君達は僕を追い詰めた。流石は“国際異端者機関”の先鋭だけあるね。」
くすり、と。声こそ立てないがノアールは笑ったようだった。
「人を殺し、血で絵を描く。それの何処が“画家”だ。所詮お前もただの殺人鬼に過ぎない。」
吐き捨てる紅の眉間には少し皺が寄る。銃を握る手に力が籠る。
「何を以て美とし醜とするか、罪とし罰とするか。そんなものは人それぞれさ。僕はただこの赤色が欲しい。
赤という色は狂おしい色だよ。血の色、生死、狂気……、これは渇望そのもの、辛酸に充ち満ちた快楽さ。」
ぱた、ぱたとノアールの足元には血が滴っていた。それでもノアールは笑うことを止めない。輪郭を縁取る月光さえもが狂気めいてくる。紅の見据える先で光が揺れる、揺れる。
「紅!」
鋭い少女の声が響き、紅が銃の引き金を引いた。連射される弾の全てをノアールの外套は払いのけ、影が紅へと向かって伸びる。
直後、床が膨らんだ。
ひび割れたコンクリートが破裂し、二人は宙に放り出される。即座に体勢を立て直した紅に対し、ノアールは僅かにバランスを崩していた。
「今だ!」
紅が銃を撃つ、ノアールが紙一重で防ぎきる、降って来た瓦礫を紅が避け銃撃を止める。それらはほんの一瞬の間に起きた。そしてその一瞬の間に崩れた床の下から白い少女が現れ、二人の遥か頭上にひらりと舞い上がった。
少女の腕は人間のものではなく黒い鎌で、月光を受けぬめり、と凍えた光を帯びる。くるりと回転すると、風が爆発した。
襲いくる風圧。直撃を受けノアールは瓦礫の山のなかへと落下するが、待ち受けていたのは石ではなく茨だった。蜘蛛の巣のように広がった無数の蔦は自ら意志を持つかのように蠢き、伸縮し、鋭い刺でノアールを縛り上げる。茨の中央には黒い瞳の青年が立っていた。茨は全て青年の左腕から生え、その姿は正に、異形。
ノアールは一切の抵抗を止めた。首元に茨が絡み付いたためだった。
「“異端者”ノアール、捕縛しました。二人ともこちらに降りて来て下さい。」
無感情な声。紅達は十メートル近い高さから飛び降り、平然と着地し、捕らえた青年に銘々の武器を向けた。紅は銃を、葵は腕の鎌を。
その体は人のものではなかった。けれども確かに人の姿形をし、心を持ち、生きている。
「異端者」、それが人間の枠を外れた彼等の呼称だった。超能力者とも怪物とも言いうる人間の突然変異。未だ科学による解析もなされていない。そして紅達が所属する機関こと「国際異端捜査機関」は表向きには警察の上位組織を装いながら、裏では異端者の保護と犯罪者の取り締まりを行なっている。時には法に触れるような行為や、激しい戦闘もその任務内容には含まれる。
荊の茨にきつく縛られ、さしもの狂人にも苦悶の色が浮かんだ。それでも彼の唇は笑んだままだった。
「僕を捕らえる為だけに三人も使うとは……機関も随分とご執心で。」
嘆息とも、冷笑ともとれぬ声。
「貴方こそこうなると分かっていたでしょうに。模倣犯を自らの手で消そうとさえしなければ。」
「ははっ! それは無理な相談さ……僕は自分の“絵”が汚されるのが何よりも嫌いなんだ。」
ノアールの表情には赤裸々な嫌悪感が現れる。
今回の三件の事件には二人の犯人がいた。最初の事件を起こしたノアール張本人。人を殺し、その血で絵を描く殺人鬼の模倣犯。紅達がそのことに気付くのにさほど時間はかからなかった。日本警察が模倣犯の元に辿り着いたのも。ノアールがその模倣犯を自ら粛清しにくるだろうと踏んだ紅達はノアールを待ち伏せ、そしてその読みは見事に当たった。模倣犯の犠牲と引き換えに。
「犯罪者とはいえ僕をおびき寄せる囮にするなんて、機関も随分と酷いねぇ。彼は君達が殺したようなものじゃないか。」
ノアールは挑発するかのように首を傾げる。茨が掠り、うっすらと血が滲むが気にとめる気配もない。
「だとしても任務は遂行します。それが我々のやり方です。」
「正義のために?」
「ええ、“我々の正義”のために。」
荊の表情は微妙な変化さえなかった。紅も、葵ですらも、デスマスクを貼り付けたかのように何の表情も浮かべず、暗がりに埋もれていた。
沈黙。酷く静かに月が照り、影が孤立し、夜が息を止める。
ふ、とノアールの表情が歪んだ。調った眉がぴりりと引きつる。それに応じるかのように、茨がより強く絞まった。
「……やたら話を引き伸ばすと思ったら、そういうことか。」
初めて顔から微笑みが失せ、荊を睨むように見る。
「この茨、毒を持っているね?」
「おや、気付かれましたか。」
ノアールの纏う影が殺気を孕みさざめく。が、茨の拘束がそれ以上の抵抗を許さない。首にまで絡み付いた刺は、逃れようとすれば容赦なく殺すと告げている。
「貴方は影、並びにそれに付随するものを操る力を持っていることが分かっています。銃弾は弾き返すし、近接戦は更に分が悪い。」
「だから僕に毒を盛り、話を長引かせて僕が弱体化するのを待っていた……僕はまんまと君達の罠に嵌まった訳だ。」
やれやれ、と。ノアールは一つため息をつき、全身の力を抜いたようだった。再び三日月を描く唇、灯る瞳の炎。
「“異端者”を生きたまま捕縛する。それが私達の基本方針です。」
荊の声が闇に溶ける。海とも、プリズムともつかぬノアールの瞳のなかに月光がまっすぐに落ちた。そうして月はゆらゆら揺れ始める。紅はふと、背筋が泡立つのを感じる。
「全く以て感服したよ……こんなに追い詰められたのは初めてさ。至極愉快で滑稽。」
空気が変質する、月光が質量を持つ。紅は銃の引き金に触れる指に力を込めるが、ノアールの眼がこちらを向いた途端それは凍り付いた。警鐘。視界がくにゃりと捩じ曲がる。
不意に茨が緩んだ。我に帰った紅の先で、荊が崩れ落ちた。続け様に影が葵を打ち、茨を切り裂き、外套が生き物のように蠢く。
「僕は止められない。」
銃を握り直した時には既に遅かった。狂人の真っ青な、病んだ眼が紅の目の前にあった。冷たい指先が額に触れれば体は金縛りにされたように動かなくなる。
「やはり君だけが僕の“絵”を見分けることができた。サイコパスの真似事から、ね。」
「何が絵だ、所詮お前もただの殺人鬼だろうが……!」
紅の声が微かにうわずり、初めて赤い目に感情が現れた。鋭く、震える光は怒りの色。ノアールはその様子に意外そうに笑む。
「さては仲間を倒されてご立腹かな? 随分仲間思いになったものだね。」
「何が言いたい。」
「僕の記憶が正しければ、君はそこまで人間的じゃあなかった。もっと無感情で、その目の奥には虚無だけがあった……。」
ねっとりと絡み付くような言葉に、嫌悪感を覚える。紅は固くなった腕を無理矢理に動かしノアールの額に銃を突き付けた。恐怖故か、それとも狂人が見せている幻覚なのか。その視界が再び歪み出す。警鐘は鳴り止まない、月光が闇が膨らむ。手が震える。
唐突にノアールは哄笑した。虚を突かれたような紅を余所に、ふわふわと地に足つかないような声を立てる。
「面白い、本当に面白いよ、人間って奴は……君はまた随分と変わった。随分と矛盾した。」
銃を血のついた指先がなぞった。
「嗚呼、楽しくて仕方ないよ自分にもどうしようも無い位に。だから。」
青い目が紅を見る。いつかと同じように眼がぱっくりと口を開き戦慄する。警鐘が、月が恐怖が飽和する。
「良い夢を。」
ブツリ。
景色が暗転した。稲妻のような痛みが頭蓋に走り、瞼の裏で青い色と真っ赤な液体とがちかちかとめまぐるしく回り、やがて何もかもが真っ暗になって紅は意識を手放した。
―――
ああ、またこの夢だ。靄の向こうに見える赤を見て、紅はそう思う。繰り返し繰り返し見て来た残虐な記憶、巻き戻しと再生を続ける拙い回想。血がこびりついたパレットナイフの鈍い光も、仄かに残っていた懐かしい家の匂いも、隣りに眠っていた幼い妹の死に顔も、全て覚えている。
過去の残像は夢の実像となり、徐々に焦点を結ぶ。
あの狂人が紅の元に訪れたのは十年前、まだノアールが機関にも名を知られていなかった時のことだった。両親も妹も殺され、紅一人だけが生き延びた。生かされた。
靄が晴れ、狂気がくっきりと輪郭を持ち、最悪の記憶のなかに落ちていく。
目眩、嘔吐感、悪寒、恐怖。息が詰まるような感情の数々は全てこの記憶のなかに詰め込まれている。
壁一面に描かれる狂った絵画、その絶叫。
首を鮮血に染め上げた彼女の、狂おしいまでに安らかな顔。青白くなっていく。
何度この悪夢に苛まれたろう。何度この色彩に塗り潰されたろう。心のなかに飽和していく感情がふと灰色に変わったのは、いつのことだったろう。
景色が切り替わる。現れたのは、ぼうと光る液晶の画面。無機質なそこに表示される幾つもの血の絵の写真。真と贋、それらを紅は二つに振り分けて行く。耳鳴りのように張り付く機械音に半ば支配されながら、狂気と狂気を判別する。
繰り返す。満ちていく。赤に犯される。
誰か、助けを。
訳も無く上げた悲鳴は声にもならず、泡沫となって消えた。
―――
「まさかノアールが記憶操作までできるとは……。」
蜜柑を二、三粒ずつ口に押し込みながら、苦々しい面持ちで荊は天井を仰いだ。紅達が泊まるホテルの一室、荊から少し離れたところには未だ起きる気配の無い紅が寝かされ、それを葵が介抱している。
やつあたり混じりに食べ始めた蜜柑は、既に十個を越えただろうか。書類の上にオレンジ色の花が幾つも咲き、嫌味なまでに和やかな空気を醸し出している。
荊の記憶から既にノアールの顔立ちは失われていた。元々荊は抜きんでた記憶力を持っており、一度見たものはその細部まで忘れない。だが今回ばかりはそれができなかった。異様な光を放つ目の青、軟質な金髪、狂気の笑み。断片的な印象は焼き付いているのに全体像が思い出せない。
代わりに脳裏に張りつくのは己の記憶。紅が見ているであろう赤とは異なる、燃え上がるような夕焼けの色。
恐らく、ノアールには相手の記憶をぼやけさせたり、その人にとって強烈な記憶……トラウマなどを引き出すことができるのだ。似顔絵の専門家を使ったところで、果たしてどこまで再現できるか。捕まえられなかった自分達の不手際と言えばそれまでである。
「まぁ……、ノアールの能力の一部が分かっただけでも収穫、でしょうか。」
ため息。疲労ばかりがとめどなく押し寄せ、のしかかっていた。時計は午前三時を指す。秒針の音が無性に耳に障る。
「大丈夫?」
かけられた声は白い少女のもの。紅の傍らに座ったまま、心配そうな視線をこちらに向けている。彼女は多少の怪我を負っただけで、トラウマは引き出されずに済んでいた。気絶した紅をここまで運んで来たのも実は彼女である。
「どうにかこうにか、といったところでしょうか……。思わぬしっぺ返しを食らっちゃいました。」
大袈裟に肩を竦めておどけて見せれば葵はほんの少し表情を緩めた。
「荊のくせに頼りないなー。」
「全く、耳が痛い限りです。」
葵が紅の額に乗せていたタオルを取り、洗面器に浸し、絞る。ばたばたと水の落ちる濁音。丁寧に折り畳むと、微かな苦悶と汗の滲む額にもう一度あてがう。
ちく、ちく、ちく。荊の耳には相変わらず秒針が聞こえていた。蛍光灯に照らされた真夜中は蝕まれる他なく、ただ哀しく横たわっている。
ちく、ちく、ちく。
一つの律動がふとその閑寂を破る。
紅の指先がぴくりと動き、呼吸のリズムが変わった。少し間を置いてから瞼が開き、ぼんやりとした暗赤色の虹彩が現れる。
「紅?」
葵がそれを覗きこむ。状況が飲み込めないのか、紅はしばし呆然とした表情で葵を見つめ、荊を見、部屋を眺める。そして一通りそれを済ませると小さく嘆息を漏らした。
「そうか……。」
アイボリー色の天井を向く顔に表情はない。
「また、夢を見た?」
葵は静かに問い掛ける。紅は答えず、ただどこか遠くを見つめている。
「大丈夫、ボクは側にいるよ。」
「……ああ。」
ちく、ちく。
葵はそっと紅の手を握った。紅は人形のように仰向けになったまま、呼吸だけを繰り返していた。
ちく。
携帯のバイブ音がし、荊が慌てて席を立つ。窓の外は心なしか、闇が淡くなっていた。葵はじっと紅の傍らに寄り添い続けた。
夜はどうしようもなく寂しげに沈黙し、朝にひっそりと犯されていく。
―――
明け始めた夜の香り、自動車の音は耳鳴りのようにずっと耳に張り付いている。さー、と続くそれは波のようだと狂人は考える。それならばこの硝子のビル群は水であり、空は水面なのだろう。闇は薄く、掠れていく。赤の余韻はちらちらと瞼の裏で光っている。
水面を仰ぎノアールは寝そべっていた。ほうほうの体で辿り着いたビルの屋上の上で傷だらけの体を投げ出してかれこれ一時間程。応急手当てをしたとはいえ痛みが和らぐことはなく、毒も恐らく抜け切れていない。それでもこうして生きていられるのは異端者だからだろう。異端者は概して治癒力や生命力の強い者が多い。
「久々にスリリングだったなぁ……。」
ぽつり呟くその顔には充足感と苦いものが混じった微妙な笑み。ノアールが血を追い求め始めて十年余り、今までで一番危ない橋を渡ったかもしれない。
冷ややかな風が頬をなぜ、ゆるゆると東の空が白んだ。あの向こうにはほんとうの海がある。ぼおっと風の流れるままに、それを眺める。
何故紅を生かしたのか。その理由はノアール自身にも分からなかった。子供にまで手を出すのにためらいがあるのは確かだが、それなら紅の妹を殺すこともなかった。
あの少年に何かを感じた。それが一番近い答えなのかもしれない。何かはまだ分からないが。
鳥の鳴き声がした。ノアールはようやく身を起こす。太陽が出るまであと僅か、夜空は青い。大気が涼やかな静寂を孕む。
瞼の裏の赤が薄れていくのを名残惜しく感じ、目を閉じる。思い描くのは地獄、己を蝕む狂気。傷が治ればまた自分は“絵”を描きにいくだろう。そして地獄を大切に抱くのだろう。
目を開く。黒い外套が闇の残滓を吸収し、一つの生命体のようにはためく。
ノアールはビルの端へと歩み寄ると、ためらうことなく身を踊らせた。落ちる、と思う間も無く輪郭は闇に溶け、その姿はあっけなく掻き消える。
代わりにビルの下に一匹の猫が現れる。青い炎の目と黒い毛並み。猫は小さく鳴くと、地上の暗がりへとその身を翻した。
―――
無音の光のなかで、異形の姿を見た。灰色の髪、紅色の目、何の感情もない顔。それは見慣れた自分の顔だった。日は高く上り透明な光を落とし、少し離れたところからは馴染んだ声がひっきりなしに聞こえている。
洗面台の鏡に写る己は無機物のようだと思った。その上にもう一つ、あやふやな面影を重ねる。黒い髪と目をした過去、あの狂人に出会う前の幼い自分。紅が異端者となったのはあの事件の後だった。髪と瞳の色が今のものになったのも。
紅にとって、事件より以前の記憶はもはや遠い彼岸の出来事に等しかった。時折、断片ばかりが陽炎のようにゆらめいては消えていく。それだけ。だからなのだろうか、ノアールへに対して何の憎しみも抱かないのは。
鏡の虚像の目は紅色を貼り付ける。鏡の縁が銀色に光る。
一切はただ過ぎていく。紅は追憶を止める。
部屋に戻れば荊と葵が慌ただしく荷造りを進めていた。散らばった資料にお菓子の山、一気に賑やかさが紅を取り囲む。
「何でお前はそんなに荷物を持ってるんだ。」
「お土産さ、頑張った自分達へのご褒美。」
「知るか! お前それで給金貰ってるんだろうが。」
荊とレストがパソコンの画面ごしに何やら口論し、それを気にとめることもなく葵は片付けをしている。紅が部屋に入るとぱっと顔を上げ、青と緑のオッドアイがこちらへと寄ってくる。
「もう大丈夫なの?」
「ああ、別に怪我とかも無いしな。そういうお前こそ大丈夫か?」
「平気平気、全然おっけー。」
荊が反省する気配もなくばりばりと煎餅を食べ始め、レストの眉間に皺が寄った。ばきりと何かが壊れる音がスピーカーから聞こえ、険悪な空気が流出す。
「悪いな、心配かけて。」
「お互い様だよ、大変なのは皆同じ。」
紅は戸惑いとも呆れともつかぬ、なんとも言えぬ微妙な顔をした。何かを飲み込みきれないような、微小な色。
「……そうか。」
葵はいつものように爛漫な笑顔を浮かべいて、思い出したように紅に飛び付く。
「ていやっ!」
「うわあ!」
異端者の脚力をフルに活用して一息に紅の肩の辺りまで飛び上がり、上から覆い被さるようにして飛び付く。どうにか倒れるのを堪えた紅をよそに、葵は鼻歌を歌い出す。
「くれないくーれない あーいらーぶくれないー。」
「何だそれ。」
「紅の歌ー。くれないの鈍感ー!」
「おい。」
紅が呆れ果てたような顔をしても葵は少し音の外れた鼻歌を止めない。無垢な子供そのままにはしゃいでいる。
その横で荊とレストは相変わらず喧嘩を続けていた。いけしゃあしゃあとまた新たな菓子袋を開ける荊に、レストが画面の向こうで怒鳴っている。紅達はそれが二人にとっては日常的な、癖のようなものであることを知っている。
日が緩慢に昇る。平和に、実に穏やかに。
紅が顔を上げれば、真っ青な空が目に入った。急に覚醒させられたようにこの上なく眩しく染み込んでいく。静かな色、微動だにしない青。そうして漠然と、地獄を歩んでいるのだろうと考える。
離れる気配のない葵を仕方なしに抱えたまま、器用に書類を集める。無数の文字とグラフと血の写真とがぱらぱらと現れては消える。消えていく。葵はまだ歌を止めない。
辺りが片付くまでにさして時間はかからなかった。物という物が消え、あとにはホテルの一室だけががらんと残る。
荊がパソコンを閉じる。葵が紅の肩の上から降り、自分のトランクを手に取った。
三人はこのままアグダラの本部には帰らず、また新たな任務に赴くことになっていた。紅と荊はレストと合流して中国へ。葵は単身インドへ。
「私はチェックアウトを済ましてきますから、二人は先に荷物を車に入れてて下さい。」
「りょーかい。」
重そうなトランクを軽々と回してみせる葵に半ば引っ張られるようにして廊下を抜け、エレベーターに乗り、外へと出る。
ビルに切り取られた青空が、紅の視界に押し寄せた。その下で葵のオッドアイが光を弾いてきらきらと輝い、無垢な笑顔が太陽そのもののように光を帯びた。
ただひたすらに、眩しい晴天だった。紅は目をすがめ、てらてらと遠くで光る硝子のビル群を見つめる。灰色の鳥が一羽、その隙間をまっつぐによぎる。
「また紅と別れるのかぁ……寂しいな。」
トランクを必要以上に振りながら、葵はほんの少し名残惜しげな笑みを見せる。
「任務は任務だろ。」
「そりゃそうなんだけど。」
くるくる回りながら紅の手前へと歩いていき、白い服の裾がその軌跡を残した。
「やっぱり、寂しいもんは寂しいじゃん。」
空の彼方を向く葵の表情は見えないが、きっと笑っているのだろう。紅は答えない。答えないまま、じっと葵の背中と、青空の光とを見つめている。
葵は唐突に振り返る。真摯なまなざしが、紅の瞳を覗きこむ。
「ねぇ紅、ボクは紅のことが大好きだよ。」
真直ぐに二人の視線はかち合った。光の音が聞こえたような気がした。空を詰め込んだ青い左目と、哀しいまでの緑の右目。無邪気な色彩。
「そうか。」
紅は一言、そう返すだけ。
荊の声が聞こえる。葵が弾かれたように駆けていき、紅はその後をゆったり追う。
青空を、鳥がまた一羽飛んでいった。地獄などないのだと言わんとばかりに滑らかに、一直線に。
光はいつまでも、二人の去ったあとに残っていた。
虚構人形 一章
赤の小部屋
2011.6.15
後書き
サイト開設から二年余り。ようやく虚構人形一章が完結いたしました。
とりあえず、長 か っ た 。
虚構人形一章の第一稿が上がったのが二年半前。
一回目の改稿が二年前。
そして二回目の改稿が始まったのが半年前。
……長い。どうりで他の章が進まない訳だ。サイト開設から二年半経ったとは思えぬ……まだ五章とかorz
半年間も改稿に時間食ってしまったのも申し訳ないですo=rz
しかしこうして見返してみると自分の創作家としての意識と、文章の変化が手にとるように分かって面白いことこの上ないです。紆余曲折を経てようやく自分の文体に納得できました。まぁまだまだ改善点は膨大にありますが(滝汗)
紅達を始め虚構人形という世界との付き合いはたったの四年足らず、作者自身も未だに分かってないことが多いですが、とりあえず彼らに引っ張られてみたい。そう思う今日この頃です。
プロットプロットと叫んできたけれど、案外風呂敷を広げるだけ広げてから収集してみるのも面白いかもしれない……とか←
ここまでお付き合い下さった皆様、そして執筆にあたって様々なアドバイスをくれた友人・倉田に最高の感謝を!
2011.6.15




