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一射目!

何度も推敲したのですが…相変わらずですね。

ぼちぼち手直しするかもしれません。

あと、次話から弓道要素がちらほらと入ってくるかもしれません。

 うん、良い天気だ。

 このような日に、新しい生活がスタートするとは、俺はなんて幸せ者なのだろうか。

 俺こと佐伯さいきわたるは、透き通るような青空を見て微笑む。山から吹き降ろす風が、俺の肩まで伸びる側髪をゆらす。

 やはり、青空は雲ひとつ無い快晴が良い。

「くぅ……」

 大きく背伸びをすると、俺の体の全てがこの空模様を喜んでいるように思われる。

「昨日のどんよりとした天気とは大違いだな」

 真新しいリュックを背負って道を行く。歩くたびに後ろで束ねた一本の房がリズムを刻む。ふと足元を見ると、水溜りが目の前に迫っていたのに気がつき、あわてて急停止。決まったリズムはここで一旦途切れた。

 前日雨が降った場合、翌日は陥没したところに水溜りが出来ているので、用心しなければならないことを忘れていた。どうせなら、道路脇の田んぼに排水できるようなシステムがあればいいのになと思う。きっと、土手下の田んぼには迷惑だろうけど。

 少し離れたところにある町の中心部を目指しながら、もう一度空を仰ぐ。先ほどと変わらない空がそこにはあった。

「それにしても、本当に気まぐれだな……」

 俺の独り言に、電線に止まっていた雀が「仕方ないよ」と返事をするかのように鳴き、思わず笑みがこぼれた。

 

 俺が住んでいる波場はとば町は、平たく言えば過疎化が進んだ、四方を山に囲まれる緑の多い田舎町。

 全人口一万一千人という小さな町は荒んで、元気がない。

 でも、最近町の青年会が『波場バーガー』というB級グルメを開発。それがバカ売れし、全国的にこの波場という地名が知られるようになった。その影響か、街にやってくる観光客も少しずつ増え始め、町の活気が若干戻りつつある。

 しかしすべてがいい方向に働いたわけでもなく、これまで通り若年層が近隣の大都市に出稼ぎ等で出て行ってしまっているので、本当の活気が戻ってくることは無いと思う。

 そんな町だが、幸いなことに高校が一校ある。しかもその高校は、県内で最も歴史のある進学校の一つなのだ。

 必要偏差値も高く、生半可な気持ちで受験すると、100%落ちると言われている。

 基礎しか復習していなかった俺は、入試後、その通説通りになるなと思っていた。しかし、俺はそんな波場高校に奇跡的に合格した。

 まるで、運命のイタズラであるかのように、俺の受験番号が記入されていた。

 

 俺は特に頭のよろしくない、どこにでもいる平凡な一町民。何故俺がそんな高校を受験してしまったのかというと、単なるミスタイプ。

 俺の住んでいる県では、受験票をパソコンで作り、そこに各人の受験する高校名などを打ち込んでいる。

 その情報などはあらかじめ俺達受験生が記入したもので、パソコンにそれを入力する担当教師が誤って俺の受験高校名の欄に『波場高校』と入力してしまったのだ。

 なぜこんなことが起きてしまったのかは不明だが、しっかりと確認してほしかった。受験前日に誤植が発覚したときには心底驚いたが、今となってはとてもありがたい。その誤植があったからこそ、今の俺がいるのだから。

 もし別の高校を受験していたら、不合格だった。そういう可能性だって否定出来ない。

 もしかしたら、俺はラッキーだったのかもしれない。

 

 しばらく田んぼの中を通る農道を歩いていると、突然、後方から何か大きな音がした。

「ひゃ!?」

 情けないが、驚きのあまり女の子のような声を挙げてしまった。

 何事かと振り返ると、そこには波場高校の制服を着た上級生(ネクタイの色が違うから、きっとそうだろう)のが、乗っていた自転車ごと電柱に衝突してしまったようで、「いたた…」と呻きながら、倒れた自転車を起こしているところだった。

“何故こんなに明るいのに電柱にぶつかってしまったのか?”

 俺はふと考える。

 普通であれば、このような事故は起こらないはず。なのに、この人は電柱にぶつかったわけだから、余所見でもしていたのだろうか?

 俺は少し離れた位置にいる女子生徒に近寄ると、一声掛ける。

「大丈夫ですか?」

 すると、向こうはこちらに気付いて「見られた!」というような表情を浮かべ、恥ずかしそうに俯いた。そして「なんとか……」と呟いた。

“本当に大丈夫なのか……?”

 疑問に思ったが、口に出す前にそれを飲み込む。どうせ、口にしたところで得るものは何も無い。

 上級生と思われる女子生徒は、顔を赤く上気させ、覚束無い足取りのまま、再び自転車に乗って去っていく。

 ずっとこの場所にとどまる理由も無いので、俺も女子生徒の後を追うことにした。



 例の事故があった場所から離れておよそ十分後、俺は波場高校に到着した。

 昨日確認したクラスに入り、自分の席に着く。周りでは、同郷同士であろうグループが談笑したりしている。しかし、俺は町の小さな中学校から唯一この学校に進学したので、気軽に話せる友達を持っていない。そのため、自宅から本を持ってきた。鞄からそれを取り出すと、椅子の背に体重を預け、静かにページをめくった。


「あのぉ……」

 二十ページほど読み進めた頃、突然頭上からソプラノボイスが聞こえてきた。

 本に向けられていた視線を上げると、そこには一人の少女が立っていた。小顔で一重の、若干つりあがった目元と意志の強そうな瞳。

 形の整った唇に、まるで、これまで外に出されたことのないような程に白い肌。俺と同じくらいの漆黒の髪は絹のように鮮やかな光沢を宿している。俺はしばしの間、少女の顔をぽかんと眺めていたものの、読書の邪魔をされた怒りが込み上げてきて、少し怒気の含んだ声でつぶやいた。

 「……何か御用ですか?」

 すると、名前も知らない美少女はハッとして、そして俯く。その姿を見ていると、俺の中で燃えたぎっていた怒り感情は次第に鎮火していき、それに比例するように、俺の関心はこの少女の行動に移った。

 何だか、変わった子だなぁ……。

 心の中でそう呟き、彼女の挙動を見守る。

 そのうち、口がもごもごと動き出した。

 ……む?

 何か言いたいのはよくわかるが、このままでは何を俺に伝えようとしているのかが分からない。心の中で「がんばれ」とエールを送っていると、ようやく彼女の口から言葉おとが聞こえた。

「私と……友達になってもらえないでしょうか?」

「……えっ?」

 瞬間、固まった。

 彼女の口から飛び出してきた言葉は、俺の予想していたものとは遠くかけ離れていて、びっくりしてしまった。しかし、ずっとほうけているわけにも行かないので、俺は少女に尋ねる。

「こんな、女みたいな気持ち悪いヤツと友達になりたいの?」

 自虐的に俺は言った。女っぽい二重のぱっちりとした瞳に小ぶりな唇。あごのラインはすっと流れるようであり、小顔。身体の線は丸みを帯びていて、若干括れもある。髪はすぐに伸びるし、肌のきめの細かさは女性にも引けをとらない。過去にこの文句を言ったときにはみんな言葉を詰まらせていたが、この少女は違った。

「はい」

 即答した。俺は再びびっくりしてしまった。気づけば、机の下で膝が震えている。

 こみ上げてくるうれしさをこらえつつ、俺はもう一つ少女に質問した。

「そのうち、本当に女の子みたくなっちゃうかもしれないけど、それでもいいの?」

「えっ、は、はい」

 戸惑っていたけど、すんなりと答えた。

 もしここが学校という公の機関でなければ、俺はおそらく飛び跳ねていただろう。俺は机の下に潜らせた手で、歓喜に震える膝をどうにか押さえつけて、その後に深呼吸をする。

「それじゃあ、これからよろしくな。俺、佐伯渉って言うんだ」

 簡単な自己紹介、そして右手を差し出す。

 そのとき、少女は俺の美白でもしているのではないかと疑うほどの真っ白な手に驚いた様子だったが、すぐにそれを消して口を開く。

「私、夢野ゆめの明日香あすかっていいます。よ、よろしくお願いします」

 ハッキリとそう言い、同じく右手を差し出してくる。俺はその手を握って「よろしく」と一言つぶやくと、彼女、夢野明日香は、恥ずかしそうに微笑んでいた。


※2011年1月30日…構成を少し編集しました。

※2011年3月6日…構成を変更しました。

※2011年3月26日…前書きを一部削除しました。

※2011年10月17日…表記を変えました。

※2012年3月12日…本文を加筆・修正しました。

※2012年3月15日…誤字を修正しました。

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