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05_Sun on moon  作者: μ
PR
1/1

Sun on moon

“5 Monica? Really?”

“It’s true.”

“Is it such a dangerous job?”

“Not that much.”

“Why me?”

“You are a girl.”

“What do you mean, Kerr?”

“I’ll send you details. It’s a wholesome job.”

“I pray that.”


Pi.


ピコン。


レニは歩道の端に寄り、届いたファイルを解凍した。薄汚れた壁に凭れ、ウォッチの画面をスクロール。


依頼人ロバート・ブラウン。46歳。第1層第2区在住。

「娘がいるのね」

名はレイチェル。12歳。バースデーが1週間後。


依頼内容に目を通す。娘の誕生日プレゼントを買いに行く、送迎含むボディーガード。雇用時間は8時間。

目的地を見てレニは頷く。

「誕生日プレゼントがジュエレッタね。そういうこと」

Jewelettaを販売する宝石加工店 “Moonlight Stone”の所在地は第6区イースト8。

第6区の人間には3世代かかっても払いきれない高額なオブジェが、2.5m×2.5mガラスの向こうに並んでいる。ショーウィンドウを眺める時の、住民たちの心は荒みがちである。


こんなの誰が買うの?


レニもそうだった。モリーに出会うまでは。

ウォッチをスリープ。レニは歩き出す。路面は凸凹していて、黒ずんで埃っぽい。

「時給62500yenのボディーガード。いいじゃん」

第6区はムーンバレーの最下層。ゴミは舞い落ち大気は澱む。

しかし、ここには風が吹く。換気ダクトの熱風だとしても。

一人娘の誕生日プレゼントを買いに、はるばる第6区にやってくる父親。美しい話かもしれない。


「死ななければね」


そう。暴徒に襲われないことを願う。レニは6区の暮らしが気に入っているのだ。






「やあ。今日はよろしく」

リニアカーの扉から現れた男は、開いた右手を差し出した。レニは自身の右手をズボンではらい、それに合わせる。

「ロバート・ブラウン」

「レニ」

第1層第2区ステーションロータリー。依頼人との対面。ロバート・ブラウンは気さくに微笑み、大きな歩幅で歩き出した。レニは彼の右に並ぶ。

「6-EW駅からは車?」

「そんなに遠い?」

「直線距離で2キロメートル」

「歩こう。ほら、スニーカー」

ブラウンは右脚を軽く上げた。おどけた仕草に、レニの頬が若干緩む。ブラウンが上目遣いにレニを見た。

「不思議そうだね」

「はい」

「おそらく、君はこう思っている」

改札を通過。ウォッチの点滅。プラットホーム。ダイヤのホログラム。遠景の発車ブザー。

「この依頼人は、お金持ちには見えない。報酬は大丈夫なのか?」

2秒沈黙。乗車アナウンス。

「あまり当たっていませんね」

「おや」

トローリーの扉が音もなく閉まり、発車する。

「どうして自分で買いに来るのかが不思議です」

座席の通路側でレニは聞いた。

「娘の誕生日プレゼントなんだよ」

「6区ですよ」

「そこに店があるからね」

「危険では?」

「だから君を雇った」

ウェリントンの眼鏡の右眼がウインクする。

「買い物に付き合って、家まで届けてくれたら終わり。健全な仕事だ」

「なぜ私?」

「娘が喜ぶと思って」

「?」

ブラウンは眼鏡の縁を節くれだった人差し指で持ち上げた。

「家に着いたら、小一時間くらい娘と話してもらえると嬉しい」


“You are a girl.”


カーの言葉を思い出す。なんだ、そういうこと。

車窓の景色はトンネル内部。通過していく等間隔の暖色灯。先に進んでいる気がしない。

「いつも1人で、話し相手がいない子なんだ」

「私でよければ」

ガラスに映るツーショットは、ロマンスグレーとブロンド。瞳の色は同系色。

6区DEエリア居住の親子に見えなくもない。





Product Name: Topaz girl


Flavor: Fresh and bitter

Polishing form: Slight

Emotion Content: 22%

Raw Ingredients:Gold and Topaz

Voice tone: High-pitched

Category: chuckle

Serving Suggestion:Room Temperature in the empty night





こんにちは。私はレイチェル。よろしくね。


レニ。何歳?……5歳違いだね。


今日はありがとう。パパのわがままに付き合ってくれて。


報酬?ふふっ、レニ、かっこいいね。


私のジュエレッタ、どんなだった?


トパーズ。太陽の石だね。



知らないの?



太陽神ラー。地球の砂漠の神様の石。


オプションは?へえ、笑う子なの?



嬉しい。ここ、退屈なんだ。月で一番、静かな場所のひとつだよ。


レニには教えてあげる。パパの秘密。


パパはね。今日、形見を買いに行ったんだ。私のね。


無菌室には、ほら。光学タブレット以外何もない。


パパは、私がここにいたって痕跡が欲しいの。データ以外の何かで。親心? 家族は私一人だし、わかるけど。



でも、それってまだよ。



私はまだ、生きてるんだもの。パパったら気が早いんだから。


生きている私に、もっとできることがあるって。そう思わない?


今日なんか、モニタ越しに2分10秒話すだけ。

レニみたいに、48分間の洗浄で無菌状態にしてもらって部屋に入るべきよ。今日はともかく、来週のバースデーくらいはね。


その時、私が生きていればの話だけど。






「モリー。メールだよ」


レニは窓際で振り返る。モリーは穏やかな微笑みを浮かべ、少しだけ首を傾げた。


レニはモリーの斜め前に自分の椅子を配置して、ウォッチの表示を拡大する。モリーの瞳の黒水晶に、光映像がくっきりと映り込む。


白い部屋に少女とオブジェ。一見すると姉妹のようにも見える構図で、レイチェルが笑っていた。


「いいフォト。ブラウン博士が撮ったのかな?」


レイチェルの屈託のない笑顔。ジュエレッタも同じように笑っている。


1週間前。トパーズ・ガールを送り届けた日のことを思い出す。


大きなトラブルもなく(スリ未遂が一件あったが、レニの顔見知りだったので穏便に解決した)ジュエレッタを購入し、第6区から搬送用リニアで移動。


第1層第2区医療エリア Southの一宅。そこにロバート・ブラウン博士の研究所兼自宅があった。


ブラウン博士は着くなり白衣姿数人に話しかけられ、スタッフ1人と指示を残してどこかに行ってしまった。


レニはジュエレッタの梱包を解き、取扱説明書をスタッフと共有。トパーズ・ガールはカートに乗せられ、殺菌室へと運ばれた。


“You come this way.”


レニは言われるがまま、白い通路をついて行った。厳重そうな扉や青色表示のワードに、そこはかとなく不穏で、果てしなく面倒な出来事を予感し、的中した。


26回の洗浄である。


バーチャンの家で何度か見た、23世紀製の洗濯機に放り込まれたらこんな感じだろう、という感想。皮膚も髪もスポンジみたいにスカスカに感じつつ、麻でできた服を着て、レニはレイチェルに会った。


皮肉屋のレイチェル。何もかもが真っ白な部屋。静脈の透ける肌と白髪。青褪めた唇を尖らせ、赤い瞳を釣り上げ拗ねた表情は痛々しかったが、フォトフレームの中、トパーズ・ガールと笑う彼女は晴れやかに眩しい。


トパーズ。化学式Al2SiO4(F,OH)2

地球の民に、太陽の象徴として愛された鉱物。


黄金色の輝きは、人々に癒しや希望を与えるという。


"Papa went to buy memento today, …of me."


ロバート・ブラウンは形見を買いに行った。そうかもしれない。


「ちゃんと生きてるじゃん」


She said.

“Not yet.”


「私が死んだら、モリーが私の形見になるのかな」


モリーは膝の上で手を重ね、両目を細めてにこりと笑う。


答えはない。なくていい。

私は今、生きている。


そんだけ。


“Refill. モリー。バースデーソングを”


モリーは立ち上がる。銅の両腕が開演の緞帳めいて広がる。


“ええ。レニ。いけとしいけるもののかつての生誕を祝して"


Happy birthday to you…

ロバート・ブラウン


登場回 05_Sun on moon


年齢 46歳

誕生日 1月21日


身長 179cm

体重 65kg

足のサイズ 29cm


髪色 ロマンスグレー

瞳  ブルーグレイ


好物 ブラックコーヒー

苦手 砂糖含有量3%以上のコーヒー




レイチェル・ブラウン


登場回 05_Sun on moon


年齢 12歳

誕生日 12月24日


身長 141cm

体重 38kg

足のサイズ 21.5cm


髪色 ホワイト

瞳  レッド


好物 ブルーベリーキャンディ

苦手 ない

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