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私は公爵様とは結婚したくないのです  作者: 小平ニコ


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第2話


 それから私とウェインさんは、毎日話をするようになりました。


 よく話すようになって、初めて分かったのですが、ウェインさんは決して寡黙ではなく、冗談がとてもお上手でした。これまでは、主従の関係を守って、私に余計なことを喋らなかっただけだったのですね。


 ウェインさんと話すのは、とても楽しく、素敵な時間でした。


 私はあまり男性と話すのが得意ではありませんが、どういうわけか、ウェインさんの前だと、自分でもしゃべりすぎだと思うほど、あれこれしゃべってしまうのです。


 きっと、ウェインさんと私の年齢が、十歳近くも離れているからですね。

 こちらの些細な言動に目くじらを立てたりしない、包容力のある方に甘えるのは、なんて心地よく、心が安らぐのでしょう。


 しばらくして、その安らぎが、単なる好意ではないことに、私は気づきました。


 ……そう、私はいつの間にか、ウェインさんを愛していたのです。


 かつて、公爵様との婚約を断るために、『私には、好きな人がいるんです。どうか、許してください』と嘘をつきましたが、その嘘が、時を置いて、本当のことになってしまいました。


 私はしばしば、ウェインさんと結婚する自分を、夢想しました。


 私たちはとても年が離れていますが、ウェインさんもまだ二十代半ばですし、並び合っても、それほど不釣り合いということはないはずです。肩幅のがっちりしたウェインさんなら、結婚式の際に着るタキシードも、とても良く似合うことでしょう。


 私にとっての、初めての恋。


 何かしているわけでもないのに、胸がわくわくとして、それでいて、時折切なくなる、暖かくて、不思議な感情でした。……そして、悲しい感情でもありました。


 だって私は、いずれ公爵様のところに、嫁がなければならないのですから。


 私は、すべてを諦めていました。


 間違っても、公爵様に対し、ウェインさんへの恋心を打ち明けたりはしないつもりでした。……意中の女性を手にするためなら手段を選ばない、恐ろしい公爵様のことです。自分の婚約者が別の男性を好いていると知ったら、ウェインさんに、何をするかわかったものではありません。


 私は、不幸になってもいい。

 でも、ウェインさんには幸せになってほしい。


 私は、すべての気持ちを胸に秘め、『生贄』として、怪物の妻になる覚悟をしていました。


 ……だから、嬉しかった。

 公爵様が私から興味を失ってくれて、本当に、嬉しかった。


 公爵様が、私との婚約を破棄すると言ったとき、まず最初に感じたのは『えっ?』という驚き。次に『これは夢かもしれない』という、疑い。しばしの時間をおいて、『本当のことなんだ』という、圧倒的な歓喜。


 私の心は、これまで感じたこともないような、解放感と幸福に包まれました。


 それもこれも、お姉様のおかげです。


 お姉様は、とても魅力的な方ですから、公爵様が好きになってしまうのも不思議ではありません。それにお姉様は、私と違って男性経験豊富ですし、簡単に人の言いなりにはならないしたたかさも持ち合わせています。強いお姉様なら、あの公爵様とも、上手くやっていけるような気がします。


 ああ、お姉様。

 本当に、ありがとうございます。


 お姉様のおかげで、私は自由になれました。

 自由に、本当に好きな人を、愛することが許される身になりました。


 もう、いてもたってもいられなくなった私は、心の赴くままに、ウェインさんの元に行き、愛の告白をしました。……ウェインさんは、「俺なんかが、イザベルお嬢様の愛を受け取ることはできません」と言い、深々と頭を下げました。


 ふふ。

 これくらいは、予想していました。


 ウェインさんは主従の関係を大事にしていますから、そう簡単に、私の告白を受け入れたりしないでしょう。思いを打ち明ける前から、こうなることは、なんとなく分かっていたのです。


 でも私、諦めません。

 自惚れかもしれませんが、感じるんです。

 ウェインさんも、私に好意を持ってくれているって。


 私は毎日、より積極的に、ウェインさんに好意を主張し続けました。ウェインさんは、恥ずかしそうな、困ったような、それでいて、少しだけ嬉しそうな顔で、次のようなことを言います。


『俺とイザベルお嬢様では、身分が釣り合いませんよ』

『年齢だって十歳近くは離れてます。同年代の男と、一緒になった方がいい』

『俺は戦い方くらいしか知らない無骨者です。俺といても、退屈なだけですよ』


 どれもこれも、大した問題ではありません。


 身分が釣り合わない?


 それが、どうしたって言うんです?

 人が人を愛する上で、身分の差なんて、どうでもいいことです。


 年齢が十歳近くは離れてる?


 それが、どうしたって言うんです?

 私、同年代の男の子は、苦手です。

 年上の、包容力のある人の方が、好きなんです。


 俺といても、退屈なだけですよ?


 とんでもない。

 あなたといる時が、私の人生で、一番楽しい時間なんです。


 ウェインさん。

 あなたは私の、理想の人なんです。


 だから私、絶対あきらめませんからね。これまで、何もかもあきらめて生きてきた分、この恋だけは、絶対にあきらめません。


 覚悟してくださいね、ウェインさん。自分でも驚いていますが、こう見えて私、好きになった人には、けっこうしつこい性分みたいです。


 振り向いてもらえなくても、恋しい人を追いかける、楽しい日々。

 私の人生は今、長いトンネルを抜け、眩しいほどに輝いていました。

 次回からは、イザベルから公爵を奪った姉――ヴァネッサの視点となります。


 イザベル視点では、ヴァネッサがどんな人物で、どうやって公爵を奪ったのかが、ほとんど描写されませんでしたが、それは次回以降、明らかになります。イザベルとウェインの恋の結末も、物語の後半で語られます。

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