♪8楽章 集結! 鳴り響く茂華の音色
――9月下旬♪
茂華中学校が東関東大会を終えてすぐに、新しいイベントが舞い込んできた。
それは茂華小学校、中学校、高校が合同の演奏会をするというイベントだった。
合同演奏での演目の『東京スカパラダイスオーケストラ』。そのドラムの譜面が、珍しく瑠璃に配られたのだ。
そして瑠璃は早速、ドラムの楽譜の解読を始めた。
そんな中、優愛が突然、こちらを見てくる。
「あ、これフォービートじゃん」
彼女はそう言った。
「フォービート?」
「そう、ツ、パン、ツ、パン!っていうやつ」
それは通常より簡略化されたものだった。いかにも、初心者の譜面だ。
「へぇぇ」
瑠璃が、優愛の知識に感心する。
「取り敢えず、やってみよっか!」
「うん!」
瑠璃は大きく頷いた。取り敢えず、早く叩きたくて仕方がなかったのだ。
その後、楽器室にドラムの音が響き渡る。
「そうそう。いいじゃないこ」
優愛が、そう褒めて、瑠璃の頭を撫でる。
「えへへへぇ。ありがと…」
瑠璃は素直に喜んだ。優愛は更に頭をくしゃくしゃと撫でてやった。
すると瑠璃が少し重い口調で言う。
「私ね、いっこだけ嘘ついてたんだ…」
それは『嘘をついてた』という内容。優愛はその意味が皆目理解できなかった。
「んっ?」
思わず首を傾げた。それを待たずして、
「自由曲で、『メトセラ』やったじゃん?」
彼女は問いを投げ掛けた。
「うん」
優愛はその問いに頷いた。
「私、ソロで和太鼓やったじゃん」
「うん」
そう言って、ふたりは毛布の掛かった和太鼓の群を見る。
和太鼓のソロ。それは優愛と瑠璃が自由曲にて、和太鼓ソロを務めた『メトセラⅱ』だった。この曲を大会で演奏した所、東関東大会で銀賞であった。
しかし、それが一体どうしたと言うのだろうか?
「私ね、ここへ引っ越す前に、和太鼓習ってたの」
すると瑠璃は、恥ずかしそうにそう言った。
「えっ?初めて聞いた!」
それはまさに青天の霹靂。驚きの声が飛び出してきてしまった。
すると瑠璃は更に、恥じらうような素振りを見せた。彼女は口をぱくぱくと動かす。
「優愛ちゃんに、太鼓やったことあるって言っちゃったら、甘えられないと思って、最初からずっと黙ってたの」
「そうだったんだ」
優愛は大きく目を丸めた。それと同時、甘えたかったんだ、と優愛は、瑠璃の可愛さに笑みが出てしまった。
「すごく、でっかい和太鼓やってた」
瑠璃はそう言って両手を大きく広げた。余程大きな太鼓だったのだろう。
「…すごいね」
反射的に優愛はそう言って、にこりと笑った。それに呼応するように、瑠璃も目を細めて笑った。
ちなみに、その和太鼓クラブとは東藤町にある大規模クラブ『天龍』。後にふたりは、この団体の体験に引き込まれるとは、この時、知る由もなかった。
♪ ♪ ♪
――数日後♪
茂華中学校にて、合同練習会が行われた。この演奏会では、合奏だけでなく、更なる技術の向上の目的もあった。
「先輩、おはようございます」
朝一番、後輩の希良凛が話しかけてくる。
「あっ、おはよう」
優愛もニコッと笑い、挨拶を返した。
「眠いね」
「本当ですね」
2人は音楽室へと歩む。
音楽室に近づくにつれて力強いドラムの音が、鼓膜をたたいた。
「これ、瑠璃さんが叩いているんですか?」
音楽室へあと数歩という所で、希良凛が優愛へ訊ねる。
「そうみたいだね」
「最近、ずっとそうですよねぇ」
希良凛が呆れたように言う。しかし優愛は対照的に笑った。
「瑠璃ちゃんにとっては嬉しいんだよ。ドラムを任されたこと」
「えっ?」
希良凛は首をかしげる。
「ドラムは、打楽器奏者の憧れだからね」
そんな彼女に、優愛がそう言った。
「先輩も憧れたんですか?」
その言葉に感化されたように、希良凛が問う。しかし優愛は苦笑を返した。
「うーん。最初は少し。でも、やっていくうちに、憧れよりも、尊敬の方が大きくなってきたかな。難しいもん」
「へぇ…、私は、先輩ほどやったことないので、分からないんですが…」
2人は音楽室へ入り、近くの椅子に腰掛ける。瑠璃と凪咲は全く気付いてすらいない。
「さっちゃんも、すぐに分かるよ」
しかし希良凛は、瑠璃をまだ先輩として認めていないのか、少しぎこちない。子供っぽい所が気に入られていないのだろうか?
いずれにしても、仲良くなる日はいつか来る、と信じている。
ふたりが話していた間にも、まだ瑠璃と凪咲は打ち合わせをしている。瑠璃のドラムに、凪咲のクラリネットが美しく響いた。
「…うんうん。瑠璃、これでいい」
「ありがとね、凪咲」
その時、優愛も希良凛に問う。
「さっしーも練習したら?」
「私は結構です」
その時、大量の子どもたちがやってきた。
「…練習はここで、だよな?」
堀江玖打という男の子の声を皮切りに、様々な生徒たちがやってきた。
「…はいはい、こっちでーす!」
優愛の先導に、瑠璃と希良凛も大人しく従った。様々なパートの様々な奏者。音楽室には大量の人で埋め尽くされた。
そして笠松がやってきた瞬間、
「礼!お願いします!」
『お願いします!』
白夜の号令に続いて、全奏者が笠松へ挨拶した。
「お、お願いします…、はやいわねぇ」
そう言う笠松の声は感心しているようにも、呆れているようにも聞こえた。
「あははははっ…」
優愛も、挨拶したあと、何だか可笑しくて苦笑してしまった。元はと言えば、白夜の提案だったのだが。
こうして、各パートごとに練習が始まった。
――図書室前の広間(木管パート)
「私、ここわからないです」
「ああ、ここはねぇ」
ちなみに、木管はクラリネットやオーボエ、フルートなどだ。
そんな中でも、伊崎凪咲はクラリネットパートの中学2年生だ。凪咲は、小学生の女の子に、クラリネットを教えていた。
「あ、できた」
その女の子は、思うように音が吹けなかったようで、凪咲が教えると、すぐに吹けるようになった。
「分からないことが、あったら聞いてね」
「うん!凪咲ちゃん、ありがとう」
「…どういたしまして」
凪咲は、そう言ってクラリネットを構えた。
(合同練習なんて、春にやった演奏会以来だな)
そうつぶやいた。
一方、学校の垣根を越え、フルートパートも教え始めていた。
「…なるほどー。ここはもう少し息を吹き込むを早く。さすれば良い奏でが……」
「要するに、もう少し息を吹き込むのを、早くした方が良いってこと」
「は、はい!」
音織に補正を入れながら、白夜も小学生に教えていた。
「あ、ありがとうございます」
「ううん、こちらこそ。えっと、お名前は?」
「中畑みるくです」
「みるくちゃん、ここも、もう少し息を早めよっか?」
「はい!」
どうやら、普通に喋る白夜の方が適任のようだ。
その頃、音楽室。
音楽室は、打楽器パートの練習場になっていた。様々な声が飛び交う。
「あの、すみません」
古叢井瑠璃が練習していると、小学生の女の子が話しかけてくる。
「はい」
瑠璃は、少し声のトーンを上げる。目の前にいる女の子は少し小さい。
「えっと…えーっと…」
その少女は、瑠璃の胸元を見ていた。
瑠璃は、もしかして…と気付く。
「名前、分かる?」
「あっ…!」
問いの内容は図星だった。少女は瑠璃の名前が分からないらしい。
「私は、古叢井瑠璃だよ」
そう名乗って、柔和な笑みを浮かべた。
「あっ!ありがとう…、る、瑠璃…さん…」
「瑠璃ちゃん、で大丈夫だよ」
「うん!」
「えっと、君は?」
「私は…澤海奏水です…」
「奏水ちゃん、よろしくね」
瑠璃はそう言って微笑んだ。
その様子を見ていた希良凛が、苦笑する。
「苗字、何度見ても難しいですよねー?」
「だよね。でもカッコいいよね。文字が」
「そうですね」
「でも、本当に瑠璃ちゃんが、ちゃんとした先輩になれてよかった…」
すると、優愛が、ホッと息をつくように言った。
「えっ?」
その言葉に気になった希良凛が、こちらを見てくる。その目は疑問に満ちていた。
「瑠璃ちゃん、元々人見知りだったんだよね…」
「へぇ。初めてあった時は、そんな感じしなかったですけれどね」
「なんか…私のお陰らしいよ」
希良凛は、その言葉に目を細めた。
「影響力が強いんですかね。先輩」
「どうだろうね?後輩」
2人は、ふふっと笑った。
最近、この2人の仲は、更に良くなってきている。
その頃、高校生の女の子が、瑠璃へ言ってきた。
「あの、古叢井さん、ここ、もう一回いいかな?」
彼女は、少し驚いた表状をするも、
「分かりました」
と愛想よく笑った。
「…朱雀先輩、ここはどうやるんですか?」
「ここはね…」
瑠璃に話しかけてきた高校生。それは高校1年生の朱雀美玖音だった。
美玖音の打楽器の技術はプロレベルで、瑠璃の演奏を安定させていく。数分後には見違えるように、改善がされた。
「…うんうん!じょうずじょうず!!」
「ありがとございます!」
瑠璃が嬉しそうに礼を言う。
「…ふふっ、本番も頑張ろうね」
すると美玖音がそう言った。その表情は彼女への期待に満ちていた。
「おー!」
その返答には、瑠璃は腕を小さく上へ上げて、可愛らしい返事をしてみせた。
『可愛いー…』
『うちの吹部に入ってくれないかなぁ』
周りの女子は、瑠璃に向けて黄色い声を出している。余程、彼女の愛らしさがウケたのだろう。
「…瑠璃さん、本当にモテますね…。女子に」
「たぶん、男の子にもモテモテだと思うよ」
ふたりは、先輩女子と笑う瑠璃を、少し羨ましくも感じた。
「…あの、先輩方」
その時、ふたりの男の子が話しかけて来た。末次と堀江、彼らは正反対の性格をしていた。
「…堀江くん、すごく上手だね」
堀江玖打という男の子は、ボンゴをたたいていた。そんな彼はアドリブも入れた、かなり高度な技術を有していた。
「これくらい、俺にとっては朝飯前です。むしろ、もっと上手くなった方がよい」
それでも玖打は、更なる高みを目指しているようだ。プロ意識があるのだろう。
一方の秀麟という男の子は、希良凛からサスペンドシンバルを教わっていた。
「一気に…離す!」
「指原さん、分かりました」
「希良凛ちゃん、でいいよ」
「あ、では…希良凛ちゃん!」
「かーわいい」
秀麟の小学生らしい無邪気さに、希良凛は思わず、指導に力が入ってしまう。
このように、パーカッションパートも、和気あいあいと教え合っていた。
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