♪6楽章 運動会 行進のリズム
一方、優月たちは列車から降りて、茂華中学校へと向かっていた。
「…ほら、運動会終わっちゃう!急ご!」
「あ、待ってー!」
美咲と俊樹に、会った優月と想大。ふたりも美咲たちに付いていく。
「…優愛ちゃん、選抜リレーに出るの?」
しばらくして、俊樹が優月に尋ねてきた。
「え?さぁ?分からない…」
分からない優月は首を横へと傾げた。
「…なんだー。聞いてないんだぁ」
すると俊樹が意味ありげにそう言った。
「…ホラ、優月と優愛ちゃんは付き合えなかったんだから、そんなこと聞かない!」
「美咲、そんな慰め方はいらふぁいひょぉー…」
美咲のフォローは逆効果で、優月を更に追い込ませていた。陰鬱な雰囲気を気取った想大が、優月の肩をバシン!とたたく。
「痛っ!想大くん、なんでたたくの?」
「いや、元気なさそうだったから」
ケラケラと想大は笑っていた。
「そいや、想大は瑠璃ちゃんとどうなの?」
そこへ美咲が鉄槌を下した。
「うっ…!」
「あー、そういえば…夏休みに瑠璃ちゃんと、公園で遊んでたもんねェ」
そこへ俊樹も追撃した。途端に想大の顔が焦燥に滲む。何と答えればいいか?そう考えているのだと、優月はすぐに分かった。
「…うーん、まぁ、うまくいってる」
しかし想大はそれっぽく答えた。
「…嘘つけー!」
すると今度は美咲が、想大の肩を思い切りたたいた。
「いたっ!なんでたたくの?」
「いや、嘘ついてそうだったから」
「嘘じゃねぇー!」
さっきと同じようなやり取りに、優月は苦笑を禁じ得ることができなかった。
こうして、茂華中学校へと到着する頃には、既に3年生の選抜リレーが始まろうとしていた。
「…間に合った!」
優月が安心したような顔をして、走者がよく見える位置へと急ぐ。その刹那、ピストルが鳴り響く。
「…選抜リレー…、優愛ちゃんいるじゃん」
すると美咲がそう言った。
「…あ、本当だ」
優愛はバトンを待っていた。どうやら選抜されたらしい。
「…良かったな」
美咲が優月に言う。優月は「まぁね」と頷いた。しかし美咲は、何だか嬉しそうに見えた。
「優愛ちゃん、頑張れーーー!」
優月と美咲が声を上げる。
「…はっ!」
するとバトンを持ち、駆ける優愛がふたりを見る。来てくれたんだ、ふたりが間に合ったことに、思わず口角を上げてしまう。
更にスピードを上げれば、他の走者との距離が縮まる。ハチマキが風を感じるようになびいた。
「…よし!白夜ちゃんっ!」
「…あい!」
優愛が白夜にバトンを渡すと、白夜も勢いよく飛び出した。
「おーっ!白夜ちゃーん!!頑張れ!」
美咲は更に声を張り上げた。ちなみに、美咲と優月は同じ小学校からの友達だ。無論、優愛とも小学校からの仲、白夜とは同じフルートパートの仲であった。
「そういや、音織たちは?」
「音織?誰?」
白熱の収まった美咲は冷静に、他の後輩を探し出す。すると長髪の美女が、美咲の肩をたたいた。
「久しいですね。御本先輩」
「あ!音織ちゃん!」
「多忙の中、態態お越しいただいたこと、恩に着ます」
「いやいや、私だってさっき来たばかり」
「なんと…!部活お疲れ様です!」
変わった口調で話す少女、彼女はフルートパートの2年生のようだ。名前は鈴衛音織だ。
優月は(お邪魔かな?)と思い、その場には既にいなかった。
運動会とは、卒業した先輩が後輩に、会うことができる貴重な機会のひとつだ。
「…俊樹先輩、お久し振りです」
「うん、凪咲ちゃん、元気にしてた?」
「はい」
「このあと、クラリネット頑張ってね」
「ありがとうございます!」
クラリネットパートだった俊樹も、現役生の凪咲に会っていた。
「…想大先輩!来てくれたんだ」
「うん。暇だったし」
「嬉しい!」
瑠璃も想大と再会していた。瑠璃は想大の顔を見れて嬉しそうだった。ちなみに春のイベントで、一度ばかり会っていた。
しかし、そんな楽しい再会も、長くは続かない。特に吹奏楽部たちは、行進で使用する楽器を準備しなければならないからだ。
――音楽室♪
「打楽器パートは打楽器から、持っていってください!管楽器の子たちは自分の楽器をテントまで、終わったら打楽器を手伝ってください!」
『はい!!』
顧問の笠松から、改めて指示が下される。
瑠璃は早速、サスペンドシンバルを持っていく。渡り廊下を伝い、そのまま校庭テントへ出る。
「…楽器、外に置いていれば楽なのに」
美心乃が不満げに言う。
「無理よ。オーボエは日光に弱いから。毛布をかけて演奏しないと、なんだし」
「はぁい」
先輩の久奈も同じことを思ったことがあった。それでもオーボエの美しい音色があるからこそ、オーボエはやめられなかった。
「鈴衛さん、フルート置けた?」
「ああ、運搬完了だ」
音織のフルートは木管、凪咲のクラリネットと一緒だ。打楽器を手伝おうとした時、
「…重いぃ」
瑠璃はスタンドごとスネアを抱えていた。スネアが大き過ぎて、瑠璃の小さな身体に余る。
「あ!瑠璃!」
すると凪咲が思わず飛び出し、スネアを抱えた。
「ふたりで持とう?」
「ありがとぉ、凪咲」
凪咲と瑠璃のふたりで、スネアを抱えてテントまで運ぶ。音織はそれが羨ましくて、ちぇ…と舌打ちっぽい声を出した。
その間にも、ほかの生徒は、各部活動のユニフォームを着込んで、入場門付近で群れをなしていた。
「…部活行進かぁ。僕はずっとクラ吹いてたから、こういう景色はしんせーん」
俊樹があからさまに他人のように言う。
「そっか…。俊樹くんは吹部だったもんね」
「うん」
想大も横でそれを見ている。
「てか、優月くんと御本は?」
すると彼が辺りを見る。想大は優月と美咲の姿を、先ほどから見ていない。
「さぁ、美咲と優月くんなんて、見てないけど…、笠松先生のトコじゃない?」
俊樹が答えると、想大は俊樹の方を見る。
「じゃあ……いいや」
「笠松先生のことが嫌いなのか?」
「別に…」
俊樹の問いに、想大は閉口した。
♫ 行 進 ♫
数分後、行進が始まった。瑠璃は楽譜を凝視して、マレットとスティックを交互に振り下ろす。
優愛もそれに合わせて、スティックを振るう。刹那、細かいロールが響いた。
どん!ぱしん!どん!ぱしん!どん…!ぱしん…!
打楽器のけたたましいリズムと同時、トランペットの高らかな音が響く。3年生の横堀未久のトランペットがけたたましく鳴る。相当にうまいのか、演奏は全体的に安定し始めている。
「…うまいなぁ」
「優月にも分かるか?吹部だもんなぁ」
美咲は優月と、職員テントの横で高みの見物をしていた。安定的な音はまさに茂華中らしさだ。
「…うまいもん」
優月は素直に認める。
「…だよな。いつか…全国大会に進んでほしいわ」
美咲の言葉はまさしく本音だった。
「…うん」
優月はこくりと頷いた。
チューバの低音感が伸びやかに唸る。そこにフルートやクラリネットの穏やかな旋律が飲み込まれる。それが美しい音を響かせていた。
更に、トランペットは更に音の迫力を増す。また瑠璃の鳴らすバスドラが力強く唸りを上げた。安定的なリズムの波が、グラウンドに押し寄せる。
「…やっぱり、瑠璃ちゃんは音が大きいな」
「分かる…」
美咲の言葉に優月は同感した。確かに至近で聴いているが、瑠璃のバスドラは腹まで響く。もしかしたら彼女は、大型楽器の扱いに慣れているのだろうか?
そう考えていたのは、優愛も一緒だった。彼女は目だけを瑠璃にやる。スネアがじゃらじゃら…と音を立てる。綺麗な音を響かせていた。
(…やっぱり…瑠璃ちゃんは音が大きいなぁ。むしろ、それが慣れているようにも見える)
優愛はそう思いつつ、ロールを打ち鳴らす。
行進終了のホイッスルを、笠松が吹き鳴らす。それと同時、指揮を切り上げた。
ちなみに、瑠璃の鳴らす爆音の疑問。その答えを知る者は、ここに存在していた。
「…やっぱり瑠璃姉は、大太鼓やってたんだから、癖は抜けないよね」
その時、客席に座っていた1人の少女が、わざとらしく溜息を吐く。
「…そうなん…だ?」
そこへ幼女も寄ってくる。
古叢井小麦と古叢井樂良。ふたりは瑠璃の妹だった。
――閉会式後♪
こうして、運動会は無事に終わった。優月と美咲は、優愛に話し掛けに行った。
「美咲先輩!優月くん!久し振り!」
「元気してた?」
「はい!」
「お疲れ様」
「ありがと」
優愛は勝ったお陰なのか、晴れ晴れとした顔をしている。
……その時だった。
「…優愛お姉ちゃーん、スネア運ぶの手伝ってー!」
優愛が声を掛けてきた。
「あ、ごめんね」
優愛は瑠璃を一瞥して、ふたりと別れた。邪魔だったかな、とふたりは撤退することにした。
ふたりが去った後、瑠璃と優愛がふたりでスネアを抱える。
「運動会、楽しかった?」
「うん!」
優愛の問いに、瑠璃が大きく頷いた。
「あと、バスドラできて楽しかった!」
「それは良かった」
嬉しそうな瑠璃を見て、優愛は少し安心した。
「…来年はスネアできたら、いいね」
そして優愛がそう言った。
「ううん」
しかし瑠璃は首を横にふった。
「バスドラも楽しかったから、来年もバスドラやりたい」
そしてそう言った。
「…そう」
「やっぱり、私、大きな音が出る楽器が好きだなぁ」
優愛は、やっぱり変わった子だな、と改めて思った。
これが優愛と瑠璃……共に出る最後の運動会だった。
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