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【特別版】 吹奏万華鏡 青春(アオハル)の茂華楽章  作者: 幻創奏創造団
榊澤優愛世代
7/12

♪6楽章 運動会 行進のリズム

 一方、優月たちは列車から降りて、茂華中学校へと向かっていた。

「…ほら、運動会終わっちゃう!急ご!」

「あ、待ってー!」

美咲と俊樹に、会った優月と想大。ふたりも美咲たちに付いていく。

「…優愛ちゃん、選抜リレーに出るの?」

しばらくして、俊樹が優月に尋ねてきた。

「え?さぁ?分からない…」

分からない優月は首を横へと傾げた。

「…なんだー。聞いてないんだぁ」

すると俊樹が意味ありげにそう言った。


「…ホラ、優月と優愛ちゃんは付き合えなかったんだから、そんなこと聞かない!」

「美咲、そんな慰め方はいらふぁいひょぉー…」

美咲のフォローは逆効果で、優月を更に追い込ませていた。陰鬱な雰囲気を気取った想大が、優月の肩をバシン!とたたく。

「痛っ!想大くん、なんでたたくの?」

「いや、元気なさそうだったから」

ケラケラと想大は笑っていた。


「そいや、想大は瑠璃ちゃんとどうなの?」

そこへ美咲が鉄槌を下した。

「うっ…!」

「あー、そういえば…夏休みに瑠璃ちゃんと、公園で遊んでたもんねェ」

そこへ俊樹も追撃した。途端に想大の顔が焦燥に滲む。何と答えればいいか?そう考えているのだと、優月はすぐに分かった。

「…うーん、まぁ、うまくいってる」

しかし想大はそれっぽく答えた。

「…嘘つけー!」

すると今度は美咲が、想大の肩を思い切りたたいた。

「いたっ!なんでたたくの?」

「いや、嘘ついてそうだったから」

「嘘じゃねぇー!」

さっきと同じようなやり取りに、優月は苦笑を禁じ得ることができなかった。



 こうして、茂華中学校へと到着する頃には、既に3年生の選抜リレーが始まろうとしていた。

「…間に合った!」

優月が安心したような顔をして、走者がよく見える位置へと急ぐ。その刹那、ピストルが鳴り響く。

「…選抜リレー…、優愛ちゃんいるじゃん」

すると美咲がそう言った。

「…あ、本当だ」

優愛はバトンを待っていた。どうやら選抜されたらしい。

「…良かったな」

美咲が優月に言う。優月は「まぁね」と頷いた。しかし美咲は、何だか嬉しそうに見えた。


「優愛ちゃん、頑張れーーー!」

優月と美咲が声を上げる。

「…はっ!」

するとバトンを持ち、駆ける優愛がふたりを見る。来てくれたんだ、ふたりが間に合ったことに、思わず口角を上げてしまう。

更にスピードを上げれば、他の走者との距離が縮まる。ハチマキが風を感じるようになびいた。

「…よし!白夜ちゃんっ!」

「…あい!」

優愛が白夜にバトンを渡すと、白夜も勢いよく飛び出した。


「おーっ!白夜ちゃーん!!頑張れ!」

美咲は更に声を張り上げた。ちなみに、美咲と優月は同じ小学校からの友達だ。無論、優愛とも小学校からの仲、白夜とは同じフルートパートの仲であった。


「そういや、音織たちは?」

「音織?誰?」

白熱の収まった美咲は冷静に、他の後輩を探し出す。すると長髪の美女が、美咲の肩をたたいた。

「久しいですね。御本先輩」

「あ!音織ちゃん!」

「多忙の中、態態(わざわざ)お越しいただいたこと、恩に着ます」

「いやいや、私だってさっき来たばかり」

「なんと…!部活お疲れ様です!」

変わった口調で話す少女、彼女はフルートパートの2年生のようだ。名前は鈴衛(すずえ)音織(ねお)だ。

優月は(お邪魔かな?)と思い、その場には既にいなかった。


 運動会とは、卒業した先輩が後輩に、会うことができる貴重な機会のひとつだ。

「…俊樹先輩、お久し振りです」

「うん、凪咲ちゃん、元気にしてた?」

「はい」

「このあと、クラリネット頑張ってね」

「ありがとうございます!」

クラリネットパートだった俊樹も、現役生の凪咲に会っていた。


「…想大先輩!来てくれたんだ」

「うん。暇だったし」

「嬉しい!」

瑠璃も想大と再会していた。瑠璃は想大の顔を見れて嬉しそうだった。ちなみに春のイベントで、一度ばかり会っていた。


 しかし、そんな楽しい再会も、長くは続かない。特に吹奏楽部たちは、行進で使用する楽器を準備しなければならないからだ。



――音楽室♪

「打楽器パートは打楽器から、持っていってください!管楽器の子たちは自分の楽器をテントまで、終わったら打楽器を手伝ってください!」

『はい!!』

顧問の笠松から、改めて指示が下される。

瑠璃は早速、サスペンドシンバルを持っていく。渡り廊下を伝い、そのまま校庭テントへ出る。


「…楽器、外に置いていれば楽なのに」

美心乃が不満げに言う。

「無理よ。オーボエは日光に弱いから。毛布をかけて演奏しないと、なんだし」

「はぁい」

先輩の久奈も同じことを思ったことがあった。それでもオーボエの美しい音色があるからこそ、オーボエはやめられなかった。


「鈴衛さん、フルート置けた?」

「ああ、運搬完了だ」

音織のフルートは木管、凪咲のクラリネットと一緒だ。打楽器を手伝おうとした時、

「…重いぃ」

瑠璃はスタンドごとスネアを抱えていた。スネアが大き過ぎて、瑠璃の小さな身体に余る。

「あ!瑠璃!」

すると凪咲が思わず飛び出し、スネアを抱えた。

「ふたりで持とう?」

「ありがとぉ、凪咲」

凪咲と瑠璃のふたりで、スネアを抱えてテントまで運ぶ。音織はそれが羨ましくて、ちぇ…と舌打ちっぽい声を出した。



 その間にも、ほかの生徒は、各部活動のユニフォームを着込んで、入場門付近で群れをなしていた。

「…部活行進かぁ。僕はずっとクラ吹いてたから、こういう景色はしんせーん」

俊樹があからさまに他人のように言う。

「そっか…。俊樹くんは吹部だったもんね」

「うん」

想大も横でそれを見ている。

「てか、優月くんと御本は?」

すると彼が辺りを見る。想大は優月と美咲の姿を、先ほどから見ていない。

「さぁ、美咲と優月くんなんて、見てないけど…、笠松先生のトコじゃない?」

俊樹が答えると、想大は俊樹の方を見る。

「じゃあ……いいや」

「笠松先生のことが嫌いなのか?」

「別に…」

俊樹の問いに、想大は閉口した。



♫ 行 進 ♫

 数分後、行進が始まった。瑠璃は楽譜を凝視して、マレットとスティックを交互に振り下ろす。

優愛もそれに合わせて、スティックを振るう。刹那、細かいロールが響いた。

どん!ぱしん!どん!ぱしん!どん…!ぱしん…!

打楽器のけたたましいリズムと同時、トランペットの高らかな音が響く。3年生の横堀(よこぼり)未久(みく)のトランペットがけたたましく鳴る。相当にうまいのか、演奏は全体的に安定し始めている。


「…うまいなぁ」

「優月にも分かるか?吹部だもんなぁ」

美咲は優月と、職員テントの横で高みの見物をしていた。安定的な音はまさに茂華中らしさだ。

「…うまいもん」

優月は素直に認める。

「…だよな。いつか…全国大会に進んでほしいわ」

美咲の言葉はまさしく本音だった。

「…うん」

優月はこくりと頷いた。


 チューバの低音感が伸びやかに唸る。そこにフルートやクラリネットの穏やかな旋律が飲み込まれる。それが美しい音を響かせていた。

更に、トランペットは更に音の迫力を増す。また瑠璃の鳴らすバスドラが力強く唸りを上げた。安定的なリズムの波が、グラウンドに押し寄せる。

「…やっぱり、瑠璃ちゃんは音が大きいな」

「分かる…」

美咲の言葉に優月は同感した。確かに至近で聴いているが、瑠璃のバスドラは腹まで響く。もしかしたら彼女は、大型楽器の扱いに慣れているのだろうか?


 そう考えていたのは、優愛も一緒だった。彼女は目だけを瑠璃にやる。スネアがじゃらじゃら…と音を立てる。綺麗な音を響かせていた。

(…やっぱり…瑠璃ちゃんは音が大きいなぁ。むしろ、それが慣れているようにも見える)

優愛はそう思いつつ、ロールを打ち鳴らす。

 行進終了のホイッスルを、笠松が吹き鳴らす。それと同時、指揮を切り上げた。



 ちなみに、瑠璃の鳴らす爆音の疑問。その答えを知る者は、ここに存在していた。

「…やっぱり瑠璃姉は、大太鼓やってたんだから、癖は抜けないよね」

その時、客席に座っていた1人の少女が、わざとらしく溜息を吐く。

「…そうなん…だ?」

そこへ幼女も寄ってくる。

古叢井(こむらい)小麦(こむぎ)古叢井(こむらい)樂良(らら)。ふたりは瑠璃の妹だった。



――閉会式後♪

 こうして、運動会は無事に終わった。優月と美咲は、優愛に話し掛けに行った。

「美咲先輩!優月くん!久し振り!」

「元気してた?」

「はい!」

「お疲れ様」

「ありがと」

優愛は勝ったお陰なのか、晴れ晴れとした顔をしている。

……その時だった。

「…優愛お姉ちゃーん、スネア運ぶの手伝ってー!」

優愛が声を掛けてきた。

「あ、ごめんね」

優愛は瑠璃を一瞥して、ふたりと別れた。邪魔だったかな、とふたりは撤退することにした。


 ふたりが去った後、瑠璃と優愛がふたりでスネアを抱える。

「運動会、楽しかった?」

「うん!」

優愛の問いに、瑠璃が大きく頷いた。

「あと、バスドラできて楽しかった!」

「それは良かった」

嬉しそうな瑠璃を見て、優愛は少し安心した。

「…来年はスネアできたら、いいね」

そして優愛がそう言った。

「ううん」

しかし瑠璃は首を横にふった。

「バスドラも楽しかったから、来年もバスドラやりたい」

そしてそう言った。

「…そう」

「やっぱり、私、大きな音が出る楽器が好きだなぁ」

優愛は、やっぱり変わった子だな、と改めて思った。



これが優愛と瑠璃……共に出る最後の運動会だった。






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次回の公開をお楽しみに♪

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