♪5楽章 運動会 走る吹奏楽部
ご覧いただきありがとうございます!
是非、感想や評価、ブックマークやリアクション等を宜しくお願い致します!
次回の公開をお楽しみに♪
ゴールデンウィーク明け。登校した優愛は、職員室から出た笠松へ話しかけた。
「笠松先生」
「あ、榊澤さん」
優愛は重い口を開く。
「…あの、瑠璃ちゃんについて、なんですけれど……」
「古叢井さんがどうかしたの?」
「…あの…太鼓類をやらせてあげてほしいんです」
「……」
優愛は瑠璃との約束通り、こう頼んだのだ。
「…なるほど。それは運動会の行進曲で、ですか?」
「はい!」
優愛はこくりと頷いた。
「なるほど。今年はシンバルやらせる予定だったんだけど…」
しかし、笠松にとっては既にもう考えていたらしい。
「…明日、楽譜を配るはずだったんだけれど、榊澤さんの頼みなら……」
「ありがとうございます!」
笠松は、新3年生の優愛と、望む瑠璃の言う事を叶えてあげる事にした。
(…ホントに優しい先輩なこと)
優愛を背にした彼女は、心の中で小さく呟いた。細く閉じた目が感銘で震えた。
だから瑠璃は、優愛に強く懐いているのだな、と思った。恐らく、この結束力は部内に大きな力をもたらす、笠松はわかっていた。
――翌日♪
音楽室にて早速、楽譜が配られた。運動会の行進曲では鉄板の曲だ。
《鉄腕アトム 〜吹奏楽Ver〜 》
《威風堂々》
今年はこの2曲だった。鉄腕アトムは毎年やっているから、この中学校では鉄板の1曲だ。
「…打楽器の古叢井さんは、バスドラムとシンバルをやってもらいます」
「は、はい!」
笠松に口頭で言われ、瑠璃は思わず動揺してしまった。すると優愛に肩をたたかれる。
「…よかったね」
「うん!ありがとう、優愛お姉ちゃん!」
ちなみに今年度、この時期の打楽器パートは、瑠璃と優愛のたった2人だった。
その後、副顧問の中北楓に瑠璃は呼び出される。ちなみに優愛は、無論スネアドラムで、難しそうなロールを繰り返していた。
「…瑠璃ちゃんはリズム感がついてるから、今回はサスペンドシンバルとバスドラムを任せるよ」
そう言って中北が指さした先には、黄金色の円盤が柱に突き刺さったサスペンドシンバルと、少し小柄なコンサートバスドラムがあった。
「…はい」
瑠璃が返事をすると、中北は大きなマレットを手渡す。
「バスドラは、このふわふわなマレットを使いますよ。太鼓の皮も、硬めなものを使ってるけど、強く叩き過ぎないようにね」
「はい!!」
もう壊さない、瑠璃は心得ている。
「…サスペンドシンバルは、ドラムスティックで叩くよ」
「はい」
(へぇ…)
瑠璃は去年、合わせシンバルといわれるシンバルを演奏した。慣れない体勢に、楽器が重くて大変だったのを覚えている。
すると中北が瑠璃を、バスドラとシンバルの真ん中へと連れ出した。
「ふたつを挟むように置くから、瑠璃ちゃんは交互にたたくだけだよ」
「…おぉ」
「右手がバスドラ、左手がシンバルね」
「はい!」
これは打楽器パートの人数が2人と、人数が少ない故だ。それに太鼓類をやりたいと言う瑠璃には、ピッタリな形式だろう。
「…じゃあ、スティック持ってきておいで」
「はい!」
中北に言われ、瑠璃はスティックをバックから取り出した。
「あらあら、新品?」
「はい!ゴールデンウィークに買ったんです!」
「そうなんだぁ」
「優愛お姉ちゃんとお揃い…」
瑠璃は頬を赤くして笑った。中北はその反応に呼応するように、穏やかに笑い返した。
「…じゃあ、やってみようか」
「はーい!!」
かくして、瑠璃の特訓が始まった―――。
――その頃、東藤高校♪
部活帰り。優月と想大が運動会について、話していた。優月が吹奏楽を始めると、想大も吹奏楽をはじめた。ちなみに、優月は希望通りパーカッション、想大は成り行きでホルンになった。
「御本から誘い?」
「そう。美咲から誘い」
優月はスマホを見る。御本美咲は元フルート奏者だった。成績共に優秀な奏者で、御浦高校へ進学した。
「…美咲の誘いだし、妹の美優の運動会だし、行こうかな」
優月はそう言いながら、美咲へメールを返信する。
「はぁー、俺はどうしよかな」
「古叢井さんに会うんじゃないの?」
「…あー、そうだった!」
想大は頬を赤らめた。想大は瑠璃のことが好きらしい。
「…あと堀田くんも来るらしいよ」
すると想大がそう言った。
「…えっ?堀田が?」
堀田俊樹。茂華中学校吹奏楽部の元部長だった男子だ。
「まぁ…、美咲も行くし、友達いるなら…いいか」
ちなみに堀田とは、優愛への片思いの件で少々、因縁があった。
それも告白した今、きっと無効だろう。
――数週間後♪
土曜日。雨天に苛まれることなく、晴天に恵まれたまま、運動会は決行された。
しかし、優月たちにとっては最悪なものだった。
「…はぁあ。美咲先輩、午後まで来ないって」
「え…?部活なの?」
優愛に香坂白夜が話しかけてきた。ふたりは徒競走の直前だった。
「そう。美咲先輩のお母さんから聞いたの。さっき」
「それは…ドンマイ」
どうやら、美咲のいる御浦高校吹奏楽部は運悪く、午前中に部活が入っていたらしい。
「…なんか残念」
「そうだね」
優愛も必死に慰める。しかも、優月と想大も所属し始めた東藤高校吹奏楽部も、午前中は部活が入っているらしく、優月や想大も来ていない。
「優愛お姉ちゃん!想大先輩、部活だって…」
「…だよねぇ。残念」
瑠璃も案の定、落胆してきた。ちなみに瑠璃は、2年3組ということで、赤組のハチマキを額に付けていた。
しかし時間も競技も待ってくれるはずがない。流水の流れるように競技は進行していく。
「…はっ…はっ…はっ…!!」
学年選抜リレーに選ばれた瑠璃が、精一杯走る。そこに別クラスの久城美心乃が追いついてしまった。
「はっ…!」
瑠璃は美心乃を横目に見て、更にスピードを上げた。更にハチマキが風に揺られる。
「…瑠璃ちゃん、逃げ切れるー!頑張って〜!」
「美心乃!抜かしちゃえ!」
瑠璃の先輩である優愛はもちろん、美心乃の先輩の新村久奈も応援する。
「…オーボエが負けるわけない!」
久奈が優愛を見る。
「瑠璃ちゃんが負けるわけない!」
しかし優愛も負けじと、瑠璃を推す。ふたりのスピードはかなり拮抗していた。
「瑠璃ちゃーん!」
「美心乃〜!!」
ふたりの先輩は、後輩に声援を送っていた。
しかし、次にバトンが早く渡ったは……、
『赤組!!はやい!はやいぞー!』
赤組……瑠璃だった。
「きゃー!瑠璃ちゃんはやーい!流石!!」
「…ぐっ、」
瑠璃のスピードの方が圧倒的に速かった。優愛は歓声を上げて喜んだ。
「…あらあら」
そこへ音もなく白夜がやってきた。
「…ナギちゃんも速いし、赤組が勝ちそうね」
「…ぐぅ、美心乃ぉ」
悔しがる久奈に、白夜が肩をすくめた。
「美心乃ちゃんが遅いんじゃなくて、瑠璃ちゃんが速すぎるだけ」
美心乃も優秀なオーボエ奏者で、体力も当然申し分ない。だが、瑠璃の方が圧倒的に優秀なだけだった。
次に渡ったは、伊崎凪咲。部内トップクラスのクラリネット奏者だ。2年生ながら、既に全国レベルの奏者である。真面目な彼女は体力作りを欠かすことなく、足の速さも優れていた。
「凪咲ぁー!頑張ってー!」
「…はっ……」
親友の凪咲へ、瑠璃が声援を送る。大きな声が凪咲の背中を押していた。それを具現するが如く、更に、他の組との距離を離していく。
「なぎさ…!はぇえ!」
「伊崎と古叢井いれば、リレーと駅伝は何とかなるな」
吹部外のクラスメートにも言わせしめる、このふたりの活躍にて、2学年対抗リレーは赤組の圧勝だった。
「…やっぱり、ナギちゃんは優秀ね」
「…美心乃だって!」
「瑠璃ちゃんだって!」
この3年部員は、それぞれの自慢の後輩を掲げ、論争をしていた。




