♪3楽章 告白後 繋がる友情
3月7日、優月の誕生日の翌日に、卒業式は行われた。卒業式は厳格な雰囲気で行われた。
その卒業式の直後、近くの旧校舎施設で、伝統の中学校卒業の打ち上げパーティーが行われた。
――打ち上げパーティー会場(旧校舎)
食事会には、スマホの持ち込みも可能で、仮装してくる人も少なくはなかった。優月も黒縁の伊達メガネを掛けていた。
「優月!メガネ似合ってるな」
「伊達メガネだよ。八条くん」
「連絡先交換しよーぜ!」
「…あ、いいよ」
食事会が始まり、最初に話しかけてきた友達は、八条龍雅という男子だった。彼は成績優秀で生徒会でも活躍していた。
そんな彼だが、普段は気さくで、優月のように伊達メガネをかけている。
「…おっけーだね」
「QRコードでできるの、凄く便利だね」
優月はそう言いつつ、空の連絡ボックスを見る。取り敢えず、適当なスタンプを送った。
「よっ!優月くん!優愛ちゃんに告ったんだって!?」
「うわ、堀田くん!?」
「…連絡先交換しよ」
「いいよ」
次に俊樹と連絡先を交換した。
「…で、優愛ちゃんとは連絡先、交換したの?」
「え、スマホ初めて触ったの昨日だから、まだだよ」
「どおーりで、今まで告白できなかったわけだぁ」
俊樹はクスクスと笑う。優月は不遜そうに笑い返す。
「…まぁ、時間見計らって、連絡先繋ぐよ」
その時、ひとりの女の子が、プリンを手にして話しかけてきた。
「優月!優愛ちゃんとの連絡先、繋いだか?」
「え、あ、美咲!」
それは元吹奏楽部の御本美咲だった。ちなみに楽器はフルートだった。
「優愛ちゃんに告白できたんだろ?」
「うん。想大くんのお陰でね」
優月は胸に手を置いて言う。その想大は、他の美術部部員と話していた。
「…なら、優愛ちゃんに交渉しとく?」
そう言って彼女は、プラスチックスプーンを突きだした。半透明のスプーンに、安っぽい光が反射した。
「え、いいの?」
「うん。どうせ会えないでしょ?優愛ちゃんは部活ある訳だし」
「それは……助かる!」
もう告白した身だ。決着も付いている。優月は遠慮なく頼んでおいた。
「では、毎年恒例!!雑巾がけリレーをします!」
時間が経つと、雑巾がけリレーに参加させられた。早い順に景品が貰えるという。
「美咲と同じチームになるとは…」
「想大と一緒がよかったろ?」
「うーん…、想大くんは運動神経鈍いからなぁ」
そう言っていると、それぞれレーンに並ばされる。優月は仮装のメガネを外す。
「美咲は?メガネ外さないの?」
「外すか。本気になりたいし……」
その刹那、雑巾がけリレーがはじまった。
「うぉらぁぁぁぁあああっ!」
「頑張れ、美咲!」
優月は、美咲を応援する。美咲は猪突猛進型で、雑巾で進む他の選手を、吹き飛ばす勢いで突っ走る。
しかし結果は…3着と微妙な結果であった。
「あーっ、悔しい」
「お、惜しかったね…」
悔しがる美咲を、優月は優しく宥めた。
「…まぁ、景品もらえるしいいや」
しかし美咲は、景品を手にすると上機嫌に戻った。
(美咲って…自称拝金主義だもんな)
呆れつつも、残りのイベントを楽しんだ。
打ち上げが終わり、気がつけば夕方だった。山並みは夕日で萌えている。桃色の光が淡く夕方を告げていた。
「…優月、まだ連絡返ってこないんだ。ごめんね」
まだ優愛から返信が来ないと、美咲に謝罪される。
「う、ううん。どうせ付き合った訳じゃないし…。友達としてだから焦ってないよ」
優月はやんわりと言う。
「…また連絡するから」
「ありがとう」
やはり、美咲は俊樹とは違って、献身的に協力してくれた。
――数日後♪
しかし意外にも、優愛との連絡先は簡単に繋げられることとなる。
〈御本美咲〉からの連絡は待てど暮らせど、来る気配がない。優愛との交渉が難航しているのだろうか?
「…はぁあ」
ある日の午後、公園のブランコで遊んでいた。最近のポップスを聴きながら、目いっぱいブランコを漕いでいた。
「…優愛と連絡…まだかな」
告白して数日。優愛との連絡先は、まだ繋げていない。そもそも優愛は何と言うのだろうか?
流石に断らないだろうな、と不安に満ちていた。そんな時だった。
「…優月くん!!」
誰かがこちらへ名を呼び掛けてきた。
「…あ、優愛ちゃん?」
優月はつい驚いてしまった。
そこにいたのは、部活もなく早帰りの優愛だった。
「…優月くん、久し振りだね」
優愛はそう言って、そのまま話しかけに来てくれた。
「…優愛ちゃん、部活はないの?」
優月がやんわりと訊ねる。今、ここを通るには早すぎる時間だろう。
「…今日は水曜日だから、部活はないんだよ」
すると優愛はこう答えた。
「あ、そっか。今日は水曜日か」
中学3年生の春休みは、随分と長い。曜日感覚も失われつつあった。
「…そう。そういえば、優月くん」
「ん?」
「…御本先輩から連絡来てて、連絡先交換しない?」
「え、美咲から…?」
「うん。連絡先、繋ぐ?」
優愛が自然な言葉で問う。
「うん!」
優月は迷わずスマホを差し出す。すると優愛は学校帰りだというのに、普通にスマホを取り出した。淡い水色のスマホは、あまりにも可愛らしくて羨ましい。
「…いい?」
「うん!」
ふたりは連絡先を交換した。
「…よろしくね」
「僕こそ。よろしくね」
優月と優愛の関係は新しく、ここから始まった。
それから、優月と優愛はよくメールするようになった。
〈優愛ちゃん、吹部ってどう?〉
〈すごく楽しいよ〜〉
〈そうなんだ〉
〈優月くんは高校入ったら、部活はどうするの?〉
〈それなんだけどね……〉
〈?〉
〈僕も吹部、始めようかなって思って〉
〈えッ!?〉
〈優愛ちゃんの打楽器見てたら…やりたくなって〉
〈それは嬉しい!〉
〈どうかな?〉
〈いいと思うよ!〉
〈ありがとう〉
こうして、他愛もない連絡をしながら、優月はかつての幼少期を思い出していた。
――幼少期♫
優月は小さい時、女の子のような見た目をしていた。たまに髪もしばるので、優愛との家族ごっこでは母役もさせられていた。
『…優月くん、どうして髪をしばってるの?学校ではしばんないよね?』
『小学校でしばると…イジられるからね。優愛ちゃんは髪を縛ったときの方がいいんでしょ?』
『うん!ママみたいに可愛い!』
『そ、そうなんだ…』
優月は幼いながらも驚いた。
すると、優愛はおもむろにシロツメグサを摘む。
『…私、妹とか弟いないから、優月くんといると凄く楽しい』
『…そうなんだ。僕には妹いるんだ』
『へぇー。お名前は?』
『…美優だよ』
『いい名前だねー』
優愛は話しながら、シロツメグサを連鎖させる。徐々に王冠の全容が見えてくる。
『…だからさ、ヘアゴムとか大量に買ってたみたいで…。余ってるヘアゴムを消費させられるんだよね』
優月はそう言って呆れたように笑った。その表情はひどく穏やかだ。
『…そうなんだ。大事な妹さんだね』
そう言って優愛は、完成したシロツメグサの王冠を差し出す。
『…はい!完成!』
『器用だね。優愛ちゃん』
『へへ、幼稚園でいっぱい作ってたから』
『そうなんだ』
すると優愛は、優月へ王冠を被せた。
『うわっ、王冠…いいの?』
満足そうに笑う優愛に、優月は申し訳なさそうに訊ねる。すると彼女は楽しそうに笑う。
『いいの!こんなのいくらでも作れるから!』
『あ、ありがとう』
優月が和やかに笑って礼を言う。すると優愛は子供っぽくニヤニヤと笑う。しかし、その笑みは泥棒のように怪しく見えた。
『……その代わりに、優月くんはママ役ね!』
『え?』
『嫌なら娘役でもいいよ』
優愛のこの提案を、断り切ることができなかった。
『む、娘役で……』
こんなやり取りが、小学校高学年まで続いた。
――現在♫
思い出を整理するうちに、優月はひとつの結論へと辿り着いてしまった。
「…もしかして、直接…連絡を繋ぎたかったの?」
優月が優愛に問う。もちろん、推測の域は出なかった。
「…うん」
しかし優愛はこくりと頷いた。
「優月くんと…友達なんだし…直接繋ぎたかった」
彼女はこう言って、幼少期の頃のように笑ってくれた。
優月は淡い思い出を見つめる。もう戻れない過去。それでも愛おしく胸の奥には存在している。
もう戻れずとも、また…あの頃みたいに、たくさん話せたらいいな。
優月は恋愛とは違う感情を、優愛に芽生えさせていた。
――そして、この1カ月後、小倉優月は東藤高校吹奏楽部へ入部することになるのだ。
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