♪2楽章 月に叢雲花に風 幼馴染への告白
小倉優月のひとつ下の幼馴染、榊澤優愛。
優月が小学1年生のときに、近所の公園で出会って以降、好きになった女の子だ。絵を描くことや、ダンスをすることが好きだった。
そんな彼女が吹奏楽部へ入ったことは…意外だった。初めて聞いた時は、まさに青天の霹靂。あの時の感覚は忘れられないなぁ。だって入学前から一緒の美術部に入ろう、って彼女と約束してたから。
しかも1番驚いたことが、優愛は打楽器パートで大活躍していたこと。いつもの可愛らしい顔とは違って、すごく真剣に楽器を奏でている。しかも、すごく上手で初めて彼女の音を聴いた時、震えちゃった。
でも、そんな音色と憧れと引き換えに、小学校時代のようには、頻繁に話せなくなった。コンクールや演奏会で公園でも遊ばなくなった。
寂しかったけれど、その度、僕の優愛に対する憧れは、更に高まった。
だから僕もいつか…そんな音を出せる奏者になりたい。でも、その前に…優愛に告白する。
――卒業式の数日前♪
「瑠璃ちゃんに頼みがあるんだ!」
昼休みの音楽室前の廊下で、小林想大が誰かに頼み込んでいた。
「えっ?な、何ですか?」
その誰かとは古叢井瑠璃。榊澤優愛直属の後輩だ。そんな彼女は少し驚いていた。
「…優月くんが、優愛さんに告白するのを…手助けしてほしい!」
そして何を言うかと思えば、告白の助太刀だった。瑠璃はあたふたと慌てる。
「え…、小倉先輩が、優愛お姉ちゃんに告白する?」
瑠璃と優愛の関係は特別だ。本当の姉妹のように、ふたりは仲が良い。
それを承知して尚、想大は頭を下げた。
「…瑠璃ちゃん、優月君が優愛ちゃんに告白できるように、手伝ってほしいんだけど…」
改まった願い。本気だ。
想大がそう言うと、瑠璃は「えっ!?」と驚く。
「おねーちゃんに告白する人いるんだー」
瑠璃がしみじみと言うと、想大は「うん」と言った。
しかし刹那、瑠璃の口から出た言葉。
「私が優愛お姉ちゃんを狙う輩を、追い払ってたのに…」
「えっ?」
衝撃の言葉に、開いた口が想大は塞がらなかった。
――数ヶ月前♫
聞けば2人ほど、優愛に言い寄る男子生徒を、追い払ったらしい。
『風麻、優愛お姉ちゃんにナニしてるの?』
『え、いや…』
羽井風麻。サッカー部で、瑠璃のクラスメートだった男子だが、優愛にハンカチを拾われ、天使のように微笑まれたことで惚れたのだ。
『優愛お姉ちゃん困るよ』
『…な、なに言ってるんだ…!』
瑠璃は彼の付きまといを見抜いていた。それでも風麻は言い訳を続けようとしていた。
『これ以上、おねーちゃんに付きまとったら…』
しかし、瑠璃にとって優愛の危機は許さない。彼の前で平手を突き出す。
『ギュッとしてどーん…だよ』
刹那、彼女は悪魔のように、狂気的な笑みを浮かべて、拳を彼に触れる少し前まで突きだした。
『…分かったぁ?』
『…は、はひ』
瑠璃は純粋な笑顔で制約を迫る。風麻は顔を青ざめさせながら、優愛への中途半端な愛を諦めた。
この事件は当時、学年内では有名だったらしいが、そんなことを3年の優月と想大が、知る由もなかった。
――現在♫
「おねーちゃんに…彼氏かぁ…」
彼女はそう言ってはいるが、優月と優愛か付き合うことは多分無いだろう、と想大は思った。
……というか、大丈夫なのか?想大は心配になった。
「…優月先輩なら…いいよ!」
しかし瑠璃は意外にも、快諾してくれた。
「優月君だったら?」
だが、優月なら良いのか?気になったが、
「あの人、おねーちゃんも好きそうだもん」
これが瑠璃の答えだった。
「ありがとね」
瑠璃の好意的な返事に、想大は頭を下げる。
「…で、何すれば、いいんですか?」
すると瑠璃が具体的な内容を訊いてきた。
「…ちょっと、香坂さんって部長を引き止めてくれれば…」
想大の願い。それは告白への横槍の排除だった。新部長である香坂白夜が、優愛に付きっきりなばかりに告白できないのだ。
それを聞いた彼女がニコッと笑う。
「分かりました!来ないように言っておきますね」
その言葉に想大は安心した。
「ありがとな。瑠璃ちゃん」
その言葉に、瑠璃の胸はきゅん♡と撃ち抜かれた。
――告白前日♪
小倉家がほとんど寝静まった頃も、優月はミニカードに手紙を書いていた。何を書けばいいのか?頭の中で沢山の候補が踊っている。
「…ラブレターっぽい言葉…ないかなぁ」
優月は考えに考えた結果、ラブレターを優愛に送ることにした。
《優愛ちゃんのことが好きです》
文字に書いた頼りない一言。それをマジックペンでなぞっていく。
「…うーん、付き合ってとかは違う気が…。あの子も吹奏楽で忙しいはずだし……」
やっぱり、と優月はペンの動きを止めた。
「…好きでした、の方が失恋を受け入れやすいや」
優月の中で失恋は折り込み済みだ。それでも想いは伝えたい。こうしてラブレターを書いた。
そのあと、ミニカードにラメシールを貼り付ける。特別感が出てお勧め、と友達に言われたからだ。
「ミニカードの方が、大きな封筒に入れるより、目立ちにくいし…これで良いはず!」
優月は書いたラブレターを、小さな手紙入れに挿入した。
誰にも告白は聞かれませんように。願いながら、そのまま眠りについた。
――翌日♪
昼休み、優愛たちのクラスはお楽しみ会だったらしく、優愛は来れなかった。
奇しくも想大の計画通り、放課後に渡す展開となった。
「…優月君、頑張ろう!」
想大がそう言って、優月の背中を思い切り叩く。
バンッ!と硬い音が響く。
「う、うん…」
ロータリー近くは、下校する生徒の足音や話し声で溢れていた。
「…てか、本当にラブレター渡して終わりなの?」
想大が訝しげに訊ねる。
「…だって、皆に聞かれるじゃん…」
気弱に言う優月の手には、小さな真っ白の小さな封筒があった。これが昨夜書いたラブレターだ。
そのとき優愛が白夜と、そして瑠璃と話していた。楽しそうに笑う優愛は星のように煌めいている。
「…来たー」
優月は、頭の中が真っ白になる。恥ずかしくて逃げ出したい感覚に襲われた。
「…ホラ、行っけー!」
想大が優月の背中を押す。
一方、瑠璃は香坂白夜に、真剣な表情をして話し掛ける。
「白夜先輩、ちょっと…優愛お姉ちゃん借ります」
瑠璃はそう言って、白夜へ会釈したその刹那、優愛の手を引いて歩き出す。
ここまでは、想大の計画通りだ。さすが瑠璃だ。
優月もまた、優愛へ駆け寄る。千載一遇の告白を逃したくない一心で、彼は優愛を見つめる。
そして、優愛に真剣な表情で声を掛ける。
「優愛ちゃん、あの…伝えたいことがあります」
「…な、何?」
その真剣な声に、優愛はいつになく驚いていた。
言える!優月は勇気を振り絞って……想いを口にする。
「…優愛ちゃん、す、好きです!付き合ってください!」
しかし告白に熱が入り、思わず付き合ってください、と言ってしまった。恥ずかしさで頬を赤く染めた。
すると告白を聞いた優愛は「えぇ~っ!」と小さな声で叫ぶ。余程驚いているのか、丸い瞳がぷるぷると震えている。
「…優愛ちゃん、凄い部活、頑張ってる所みて元気出た…」
「…それは…良かった」
優月がありのままの気持ちを、驚愕している優愛へと伝える。これが今の気持ち、そして、ずっと伝えたかった想いだった。
それを遠目に見ていた想大に、瑠璃が微笑ましく話し掛ける。
「本当に仲良いんですね」
「…小さい頃から、遊んでた2人だったからな…」
想大はそう言って、肩をすくめた。ニヤニヤと面白がるような笑みはなく、映画を見て感動しているかのようだった。
「へぇえ。羨ましいなぁ」
「瑠璃ちゃんは…そういう子とかいたの?」
「ううん。ずっと…ひとりでした。いいなぁ」
瑠璃はそう言って、緩む頬を赤らめた。
その頃、優愛は肝心な返事を言う。
「……付き合うのは…ちょっと難しいけど、友達としてなら…いいよ」
「…と、友達として…なら…いいの?」
「うん!それと…もう遠慮しないで、話しかけてきてよ!」
その言葉は、優月の思っていた返事より、遥かに嬉しいものだった。
「ありがとう!優愛ちゃん!」
ふたりの髪が春風に揺れる。髪先は自由に踊り揺れた。夕日の淡い光にふたりは照らされる。
このふたりにとって、お互いの和み顔が世界のすべてだった。
僕は告白した達成感で、頬が緩みっぱなしだった。あの晴れ晴れとした気持ちは、一生忘れられない。けれど事実として振られた。それでも…まだ友達としていられる。
何より、僕はそれが嬉しかった。優愛とまだまだ居られるのだから。
彼女との時間。
それは…きっと何より、僕が欲しかったものだ。
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