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【特別版】 吹奏万華鏡 青春(アオハル)の茂華楽章  作者: 幻創奏創造団
古叢井瑠璃世代
13/14

♪12楽章 アンサンブルコンテスト 【後編】

 笠松たちからのスパルタ指導を受けること、約1週間で既に技術は、最上級まで高められていた。

「古叢井、そこはもう少し音を小さく」

「うん」

新部長の矢野雄成の指摘に、瑠璃は頷き返した。

「…あと蓮巳と鈴衛の音。蓮巳は鈴衛につられてる。気をつけて」

「はい」

唯一の1年生部員の蓮巳(はすみ)(さくら)はトロンボーンの担当だ。

「桜ちゃん、そこはもう少し、音を大きくても構わんと思うよ」

「はい」

桜のトロンボーンの腕は、パート内トップだ。それくらいには、笠松から技術を買われていた。

(…役に立たなきゃ!)

だからこそ、トロンボーンを強く握りしめた。絶対に足を引っ張れない、そんなプレッシャーと共に。


(…蓮巳さん)

瑠璃は桜を見て、少し心配そうな顔をする。ひとり、プレッシャーを感じているようにも見えたからだ。

緩和してあげたいな、そんな気持ちは、次の合奏で吹き飛んでしまった。



 その日の部活終わり。ため息を吐く桜を誰かが呼び止めた。

「さくらぁー」

「…あ、きーちゃん」

それは希良凛だった。

「…アンコンの練習、どうだった?」

「うーん…、やっぱり指揮者いないとむじぃ〜」

桜のその声には強い疲労が滲み出る。ヘトヘトと歩く桜の肩を、希良凛は優しく受け止めた。

「危ないよー」

「きーちゃん、優しーい…」

「んもぉ、そんなにスパルタだったの?」

希良凛はスネアのソロコンだ。無論、アンコンメンバーのスパルタ練習など、知る由もないだろう。


「…ふぅ」

一方の瑠璃は、自分の使った打楽器を、完全に片付けていた。タムタムやシンバルをまとめた場所に置くと、入り口では凪咲が仁王立ちしていた。

「瑠璃、お疲れ」

「わっ、凪咲ぁ!お疲れ……」

「一緒に帰ろう?」

凪咲の誘いに、瑠璃は快く頷いた。


「…あれ?」

昇降口を出ると、目の前である2人を見つけた。

「…桜ちゃん?」

「蓮巳さんだよね」

それは桜と希良凛だった。ふたりは仲良く話している。

「何話してるんだろう?」

瑠璃が気になったことを、そのまま口にする。

「…さぁね?」

しかし、その会話を必死に手繰り寄せれば、それはアンコンでの愚痴だった。


「…ふぅ、桜ちゃんもアンコンなんて、始めてのはずだからね」

凪咲がため息を吐き出した。

「へぇ。私もだよ」

「それは知ってる。去年はアンコンじゃなくて、榊澤先輩とソロコンだったでしょ?」

「うん」

瑠璃は目を細めて頷いた。つい、1カ月前までは優愛が隣にいてくれた。だが今、彼女は受験勉強を頑張っている。



 それでも、このアンコンのことを優愛には、逐一報告していた。

『…アンコン、タムタムとかやってるんだって?』

『うん』

先日、図書室にいた優愛に、瑠璃は話しかけていた。キックするバスドラム、タムタム、シンバル、トライアングルを使用している。そう言ったら、優愛は安心したように肩をすくめた。

『…なら、安心したよ。鍵盤ばっかりじゃなくなって…』

『えへへ…』 

優愛は本当に嬉しかった。

(良かった、本当に)

きっと、瑠璃はまだまだ成長する。もっともっと強くなる。彼女には分かっていた。



 しかし、その心情を瑠璃は知る由もない。彼女はアンコンの未来を案じていた。

「…アンコン、どうなるんだろう?」

「笠松先生が言うに、1月の都道府県大会には、出たいらしいよ」

すると凪咲がそう言った。

「…ってことは、地区は金賞で選ばれなきゃ…ってことなのか」

「まぁ、できると思う。みんな上手くなってるし、来年こそは全国大会、目指せるかもね」

「…全国大会」

それは全日本吹奏楽コンクールの、東関東大会での上位5校に、選ばれなければならない。

「…それでも、神平中学校とかいるし、結構キツイだろうけど」

「…そうなんだ」

瑠璃は太鼓がやりたい。だからあまり結果には拘らなかった。それに…選抜に落ちた時の絶望感は、到底(とうてい)耐えうるものではない。

 しかし、そんな不安も時間は聞いてくれない。12月下旬、いよいよアンサンブルコンテストの地区大会が行われた。



――アンコン当日 ♪

「…指原さん、お手伝いありがとうね」

笠松が、合流した希良凛に言う。

「いえいえー。私もアンコン見たかったの…」

しかし、笑みに満ちた彼女の表情は、突如として引き攣ってしまう。

「……で!?」

なぜなら、笠松たちを見れば、全員が目をギラギラと光らせていたからだ。獣のように開いた瞳は、もはや異常とも言えた。

「えぇーーっ…」

希良凛はオイオイと言うような呆れ顔をする。瑠璃や凪咲もギラギラと、何かに取り憑かれたような目をしていた。


「朝、占ってきましたが、今日は吉!」

(…桜の占いよく当たるんだよね…)


「…東関東大会に絶対出るもんね!」

「ああ、我らが狙うは至高の誉れ……金!」

美心乃と音織の言葉にも、ただならぬ気迫が籠もる。


(こ、ここ来たの間違いだったかな…?)

強豪臭漂わせる先輩達に、希良凛は少しばかり後悔したような気がした。



 アンコンに出る瑠璃たちや希良凛は、途中まで他校の演奏を鑑賞していた。

「…さっきの、すごくうまかったね」

白磯(いらいそ)中学校…。アンコンの強豪だからね」

 休憩の時間、瑠璃の言葉に凪咲が解説する。

「…アンコンって、意外にうまい人を見つけられたりするから、結構いいんですよねぇ〜」

すると希良凛が、目を輝かせてそう言った。

「…確かに、ね」

コンクールでは大人数での参加が多い。そうなれば、誰の楽器がどれくらいうまいか、それを測ることは難しいだろう。

だがアンコンは少人数。それ故に、実は上手い奏者を発見した、などという話しも珍しくない。

「私たちって午後だよね。眠くならないか、心配」

「瑠璃はまず寝ないでしょ?」

 そうして矢が通り抜けるように、演奏は進んでいく。雄成はトランペットを凝視して学びを得ていた。音織も真剣な顔つきで、それぞれの音を聴き取っている。

(…なるほど)

瑠璃も打楽器をただ見ていた。

来年、どんな楽器をやるか分からない。だが、今のうちに技術を見ておかねば、と思ったのだ。



――そして昼過ぎ♪

 いよいよ本番が差し迫ってきた。ロビーから搬入口へ移動した希良凛は、瑠璃たちの楽器搬入を手伝った。

「ありがとう。さっちゃん」

「いえ!私は何も」

 全ての楽器を舞台裏へ置くと、アンコンメンバーは静かに黙り込んだ。黄昏色の段幕の先には、けたたましい楽器の音が鳴る。

 それは西(にし)大内(おおうち)中学校(ちゅうがっこう)。トランペットやトロンボーンの音に、スネアやバスドラの音が跳ねる。楽しげに響く音に、瑠璃は静かに息を吐いた。

(…緊張してきたぁ)

元より、瑠璃は緊張に弱い。だが震える手元を、凪咲が何も言わずに握ってくれた。

(瑠璃、大丈夫)

凪咲の優しさに、瑠璃は嬉しそうに唇を歪めた。


 西大内中学校が終わると、次はいよいよ茂華中学校の発表だ。アンコンはそれほど観客がいない。

 しかし希良凛と中北は、静かに彼女たちを見守っていた。客席から見て右から、楽器たちが出てくる。タムタムにバスドラムにサスペンドジンバル。そして吊るされたトライアングルが、中央に置かれた。

『19番。茂華中学校 管楽七重奏。曲は……』

(桜!先輩方!頑張ってください…!)

(瑠璃ちゃん、みんな……!!)

ふたりが祈るまま、ホールに音が鳴り響いた。


 瑠璃の打楽器、凪咲のクラリネット、美心乃のオーボエ、芽吹のサックス、音織のフルート、雄成のトランペット、桜のトロンボーン。それぞれの音色が、ホール中を駆け抜ける。

 その音色は煌びやかで、どこまでも続いては消えるような…美しい響きを放っていた。



――数日後 ♪

 笠松は、アンサンブルコンテストの結果について、部員全員を音楽室へ呼び出した。

「えぇ…、選抜したチームで出た、アンサンブルコンテストですが……」

瑠璃や雄成がごくりと生唾を呑み込む。

「……無事!東関東大会!出場となりました〜!」

なんと、笠松はそう言って拍手した。信じられない、瑠璃は目を丸めた。まさか、アンコンでも東関東大会行きとは。あまりの嬉しさに、目を何度もパチパチも瞬きを繰り返した。

「…ということで、1月の表彰式で表彰されますので、矢野くんと鈴衛さん!壇上に代表として、お願いしますね」

「はい!」

「了解しました!」

こうして、また1月、アンサンブルコンテストの東関東大会に出場した。



――1ヶ月後 ♪

 瑠璃は再び全力で、スティックを振り、バスドラムを踏み鳴らし、周りの美音に打ち震えたが……

『東関東大会の結果は…銀賞でした』

笠松から伝えられた事実は…銀賞だった。


 それを知った彼女たちの反応は、様々なものだった。それでも落胆する者は多かった。

「…やっぱり、全国大会で魅せるしか…ないのか」 

新部長の矢野雄成は、特に…。





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