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【特別版】 吹奏万華鏡 青春(アオハル)の茂華楽章  作者: 幻創奏創造団
榊澤優愛世代
11/13

♪10楽章 打楽器のいない日

 茂華祭の2週間前。文化祭でのソロコンテストを経て、ようやく仲良くなった瑠璃と希良凛が話していた。

「えっ?セルビアに告白されたんですか?」

「うん」

セルビアとは陵セルビア。希良凛と同じ小学校、同じ時期に転校してきた外国人の男の子だ。

「…ラブレターも渡された」

「彼らしいです」

彼の心情を察した希良凛が呆れる。

「…そうなの?」

しかしそれは希良凛とセルビアが旧知だからこそ、知っている事実だった。

「はい。彼、前にも好きな人いたんですけど、同じ方法で告白……」

「結果は?」

瑠璃がドキドキとした様子で訊く。もちろん、答えは何となく分かっているが。

「もちろん失恋です」

「そ、そうなんだ…」

ふたりは会話交じりに、渡り廊下を越えて、音楽室の前で立ち止まった。


その時。

「そうだ、さっちゃんは文化祭行く?」

「えっ?何ですか?文化祭って……」

瑠璃の突然の誘い。希良凛はそれに驚いた。

「…東藤高校の文化祭。行かない?」

「えっと…ふたりで?」

希良凛の声が驚きに満ちる。しかし嫌といった下向きな感情は、微塵も伺いきれなかった。

「……私たちと!だよ!」

その時、優愛が瑠璃の肩をたたいてやってきた。

「…文化祭っていつなんですか?」

しかし問いの答えも意に介さず、希良凛が訊く。

「…文化祭の1週間前」

「えぇ〜っ!?」

優愛の言葉に、希良凛は両手で口を塞いで叫んだ。


笠松は何というのだろうか?

希良凛は、それがただただ不安で仕方なかった。

「…えっ?いつ言いに行くんですか?」

 練習の休憩中、希良凛が優愛に尋ねた。その声には強い不安に満ちている。

「うーん…、前日だと(オコ)だから、明日にでも言おうかなぁ、って」

部活を休む。一見すれば普通のことにも見えるが、優愛たちの場合、本番の直前に休むことになる。それは笠松も黙っちゃいない。

「それに、私たち3人で、他校の文化祭…だもんねぇ…」 

ビブラフォンをたたいていた瑠璃も、作戦会話へ参謀した。彼女も同じく、交渉の難航を案じていた。

「…まぁ、人徳ですよ。人徳で何とかするしかないです!」

すると希良凛がバッサリと打ち切った。思い切りが良い後輩だな、優愛と瑠璃はそう思った。


「まぁ、さっしーの言う通り、そこは何とか…頼み込むしかないね」

「…うん」

優愛の言葉に、瑠璃は力なく頷いた。

(…やっぱりただの子供じゃないんだ)

希良凛はふとそう思った。

その理由……それはソロオーディションの前の会話にあった。




――数日前 ♪

『私と一緒だね』

『えっ?何がです?』

『誰かの為に必死になっているフリして、本当は自分の為に頑張っている所!』

突然こんなことを言われ、希良凛は直感的に、怖いと思った。

…だって、瑠璃は突然、深層にある本音を、軽々と言い当ててきたのだから。


この前までは、敵だと思っていた。自分のことしか考えていない癖に強がるヤツ。子供っぽい彼女を見ていると、自然とそんなイメージが定着していた。


だが…本当は違った。

誰よりも辛くて、悩んで、それでも純粋という武器を使って、必死に未来を変えようとしていた。

それが…

『誰かの為より、自分の為の方が、絶対に楽しいんだから』

……この言葉だった。

瑠璃の言葉に、希良凛の硬い表情が消えたのを感じた。

あれがあったから……たぶん、瑠璃に勝てた。

弟に対してのモヤモヤとした嫉妬心。それは自分への嫉妬だと誰にも言えなかった。

その本音を瑠璃が言って、認めてくれたことで、迷いなく本気を出せたから。




――現在 ♪

 パート練習のあと、つつがなく合奏が始まった。優愛と瑠璃、そして希良凛は笠松の顔色を伺っていた。

休むのならその分、完璧に!3人はそう思いながら、必死に合奏に臨んだ。

「指原さん、タイミングをよく見てください」 

「…はい!」

希良凛の握るスティックにも、自然と力が入る。

「それでは、もう1回!頭からやります!」

『はい!!』

 こうして部活が終わったあとも、彼女らは執拗に練習を続けていた。


「…瑠璃、珍しいね。どうして…そんなにビブラフォンたたいてるの?」

思わず、凪咲が瑠璃へと問いを投げる。

「え…それはね、ちょっと今週の土曜日、部活休まなきゃいけないから…」

瑠璃がアワアワと話すと、凪咲が肩をすくめた。

「はぁ〜。それでね。頑張ってね」

そう言って凪咲は、クラリネットを奏で始めた。彼女の音は本当に綺麗だ。伸びやかで大きな音。音楽室いっぱいにその音が響いた。


「凪咲ちゃんは絶対にソロ、安泰だよね」

「うん…」

優愛と瑠璃は、少し羨ましくなった。凪咲は根本から違う、上級の奏者だ。



――翌日 ♪

 優愛、瑠璃、希良凛は早速、音楽室へやってきた笠松に話し掛ける。

「…先生、すみません」

「はい?榊澤さんに、古叢井さんと指原さん?どうしたんですか?」 

笠松は、3人一気に来たことが意外のようだ。瑠璃と希良凛が少し気まずそうに、表情を歪める。

「今週の土曜日!お休みをもらいたいです!」

 しかし優愛は躊躇わずこう言った。笠松は「えっ?」と顔を驚きに満たす。それはそうだ。優愛が部活を休むことなんて殆どないのだから。

「や、休みぃ?ど、どうして?」

「…他校の…文化祭に行きたくて…」

優愛の声が少しずつ落ちていく。確信づいたような声は、みるみると萎んでいった。

「文化祭…?えっ、榊澤さんに、古叢井さんと指原さんも?」

「はい」

「はい」

とても気まずい。なぜなら、背後から楽器の準備をする部員たちに見られているからだ。

(…やっぱり駄目……!!)

「さ、3人もいなくなると…リズム系がいなくなっちゃうけど……」

(…ごめん!優月くん…!)

「まぁ…、本当は駄目だけど、許します」

しかし3人の想像を遥かに上回る答えが…出てきた。

「えっ?いいんですか?」

優愛が驚いたように目を丸める。

「ええ。本当は駄目だけど!どうせ、他校の吹部を見るんでしょ?」

「え、はい…」

(当たってる…!!)

優愛は図星と言わんばかりに、目を丸めてしまう。吹部の発表は計画にあったからだ。

「…その代わり、今週中は全部、居残り練習すること!分かった?」

しかしそこは流石、笠松明菜だ。やはりタダじゃ済まされなかった。それでも、イエスと言われただけマシだろう。

「はい!!」

こうして…本当に東藤高校の文化祭へ行くことができた。



 しかし、その日の合奏はかなり地獄だった。打楽器が全員いないので、管楽器の指導に力を入れさせられたからだ。

「今日は…打楽器が偶然!いないので、管楽器に力を入れて、ビシバシやっていこうと思います!」

(どんな偶然だよ…)

部員の1人が心の中でツッコミを入れると、笠松の眼力が更に強まる。それはメガネ越しでも伝わった。

怖い、部員は筆舌できない恐怖に、自然と背筋が伸ばされた。

「…みんなやる気ですね。今日はより楽しい合奏になりそうです」

そう部員へ言い放った笠松は、悪魔のようだった。







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次回の公開をお楽しみに♪

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