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大丈夫、春は来るから 受験劣等生の合格体験記  作者: たてのつくし


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12/12

大丈夫、春は来るから

 無理をして、本命の大学を受験した私は、翌日からまた症状がぶり返し、石のように重たい胃袋に唸りながら、番茶をすする日々になってしまった。

 

 そうやって、過ごしながら、本命以外のすべての大学の結果があいたのだが、何の神様の悪戯なのか、どの大学も補欠か不合格ばかりで、すっきり合格が出ず、胃に悪いことこの上ない。最後にやっと、補欠だった滑り止めの大学が、合格をだしてきたのだが、なぜだか、私が願書を出した応用化学ではなく海洋建築工学科であった。


 応用化学学科の掲示板で補欠であることを自分で確かめていたから、なぜそんなことになったのか、未だに理解出来ないのだが、とにかく大学生にはなれるのだからと自分を励まし、入学してから一生懸命勉強して、必ずや海洋建築工学科から応用化学科への転科を目指そうと、消化によいものを食べながら、鬱々と考えた。


 私の本命の大学の合格発表の日は、その滑り止めの大学の入学金を納める期限の前日であった。

 合格発表の日、やっと何とか動けるようになった私は、よろよろと家を出て、二時間近くかけて、大学へと向かった。暖かな春の明るい日で、時折吹き付ける風は冷たかったけれど、気持ちが良かった。


 化学は出来た。英語の長文読解も、まあできた。しかし、数学がだめだったから、下手な希望は持つまいと思った。


 最寄り駅からバスに乗り、大学の正門の前で下りる。この正門から見渡す風景が好きだった。元気過ぎる校風も好きだった。そんなことを思いながら、正門をくぐり、キャンパス内をゆっくり歩いて、目的の発表場所まで少し遠回りして歩いた。


 早く来てがっかりするのが嫌だった私は、わざと少し遅れていったから、合格発表の張り紙の前は、もう人もまばらで、すぐに近づくことが出来た。

 お腹に力を入れて、毅然と張り紙を見上げる。探し始めてすぐに、見慣れた数字が、こちらこちらと浮かび上がって見えた。私の受験番号だった。

 その瞬間、巨大な喜びが、私の全身を震わせながら、駆け抜けていった。私は息が上がってしまい、一人でハアハアしながら、受かるとこんなに早く、自分の番号って見つかるものなのかと、唖然とした。


 震える体を両腕で抱きしめながら、合格するってこういうことなんだ、知らなかった、と思った。気がつくと、私は走り出していた。歩く事なんて、出来なかった。一刻も早く、本当に受かった証拠が欲しい。


 私は物凄い勢いで手続きの窓口に行き、震える手で受験票を渡した。

「合格、おめでとうございます」

笑顔と共に、何やら書類のいっぱい入った分厚い封筒を渡された。その分厚さが、どれほど嬉しかったことだろう。


「あ、あ、ありがとうございます」

私は封筒を抱きしめながら言った。

「受かったなんて、信じられません」

興奮してまくし立てる私に、係の人は、慣れているのか、落ち着いた笑顔で頷きながら、もう一度「おめでとうございます」と言ってくれた。


 封筒を大切に抱え、私は来た道を駆け足で戻った。母校となったキャンパス内を走りながら、嬉しくて嬉しくて、叫び出したいのを堪えるのが大変だった。

 これでやっと終わったんだ。そして、新しく始まるんだ。そう思った。今でも忘れられない思い出だ。


 さて、そんな訳で、私は無事に第一希望の大学に合格することが出来た。そしてそれが、私の大学受験生活の中で、唯一の合格だった。私はつくづくダメな受験生だった。でも、幸せな受験生かもしれない。


 もしあの日、と、時々思うことがある。もしあの日、目の前の現実が怖すぎて線路に飛び込んでいたら、私のこの未来はなかったのだ、と。


 だから、だからね。

 受験生の皆さん。死なないでくださいね。決して死なないでください。今は絶望の淵にいるかもしれないけれど、生きていれば、どんな未来があるか、わからないのだから。


 実際、私みたいなポンコツが、希望の大学受かったりするんですからね。



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