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大丈夫、春は来るから 受験劣等生の合格体験記  作者: たてのつくし


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1/10

まずは母親の顔に泥を塗る

 一言で言えば、私は入試劣等生だった。


 最初の不合格は、中学受験だ。季節は早春、2月の初め頃だった。私の代わりに学校まで発表を見に行った父からの電話の声は暗く、私は結果を聞かずに、受話器を母に渡したことを、よく覚えている。


 暗い顔で、受け答えする母の横顔を見ながら、今日は何時間、母からの厳しい叱責を受けるのだろうかと思い、それだけが怖くて、私は泣いていた。母も、母の姉や母の従姉妹も通った、さらには私の姉が在校生である、私立F女学院受験を失敗することは、我が家では許されないことだった。


 予想に反して、電話を切った後の母は、静かだった。

 沈んだ声で、

「落ちてしまったものは、仕方がない」

とだけ言うと、台所へ行ってしまった。


 私は一人、母のいなくなった居間でじっとしていたが、しばらくすると、何も知らずに帰宅した姉の、

「どうだったぁ」

という、のんびりした声が聞こえてきた。

 少し間があった後、

「落ちたわよ!」

 母の切り裂くような声を聞いて、私は膝をぎゅっと抱えた。小さな丸になって、母の視界から消えたかった。日が暮れて部屋の中が暗くなっても、ずっとそのまま、動かなかった。


「晩ご飯だよ」

 姉に起こされて、自分が眠っていたことに気がついた。すでに日はとっぷりと暮れ、恐る恐る食卓に着くと、母が、怒ってはいないことが分った。父も母も、不合格という結果にがっかりしていたが、私を叱ることはなかった。ああ、よかった。叱られさえしなければ、結果なんてどうでもよかった。


 ずっと、やりたいことの多くを禁じられ、勉強することを強いられてきた。特にこの二年は、毎日毎日、機嫌の悪い母の監視下で、大量の問題集を解いてきた。でもそんな日々も、今日で終わる。そう思うと、母の顔に泥を塗った事より、開放感の方がずっとずっと大きかった。

 沈鬱な食卓を囲みながら、私は内心、うきうきしていた。

 


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