じゃがいも 3
ジュンジは、誘われるまま栗林について来た。
栗林の家の玄関を入ると、クレヨンで描かれた可愛い絵が飾ってあった。
部屋に通され、お茶が出されると栗林が、話し出した。
「僕は、以前小学校の教諭をしていてね。
あの玄関の絵は、教え子の作品なんだ。一枚だけ飾ってあるのは、あの子は、家族と山に遊びに行ってそのまま行方不明でね。
ああやって飾っていたら、帰って来るように思ってね。」
ジュンジは、ゆったりと栗林の話しを聞いた。
「その子、愛ちゃんの父親は、とても教育熱心だった。ある時に教室で元気がなさそうで、声をかけると
『お父さんね、ひらがな、書けないって叱られたの。』とそれで一緒に練習したりしてたんだよ。でも休み時間などもぽつんと一人で教室にいる児童だったね。
何か自信がつくと明るくなるだろうと考えてみたりしたんだ。歌が上手いとか、絵が上手いとか、褒めるようにしてみたんだ。
色々心残りがあるんだよ。」
ジュンジは、自分の事の様にも聞こえた。
「歌を歌うのが、好きだったかな。上手だったと思うけど、一人で人前で歌う事が苦手だから、なかなかその能力を伸ばせる事が出来なかったな。」
ジュンジは、つい自分が育った家庭を思い出してしまった。イラストを描く事を姉が勧めてくれなかったら、『キャラクター募集』に応募していなかったら、今どんな仕事をしていただろうと考えながら、聞いていた。
不意に
「僕は、よく公園で鉄棒の大技に挑戦していたんです。家族から逃れたくて、公園には、一人でよく行っていました。
雨の日は、お絵描き。
色鉛筆が好きなんです。細かく描けるからね。
水槽の熱帯魚ばかりでした。赤と青のボディの綺麗なネオンテトラしかいない水槽で。
エサをあげようとすると皆集まって来るんですよ。」と話し出した。
「あっ。」話し出した自分に気付き会話を止めた。
「聞かせて欲しいな。ジュンジ君の話。ここに来る前は、どんな生活だったのかな?」
ジュンジは、あまり自分の話をした事が無かった。ここに移住前もいつも一人で過ごしていたように思う。自分の事を話して、相手に理解してもらおうと考えていない。
「ネオンテトラは、学校でも飼っていた事があったよ。
自分の事を話す事で相手が少し理解する。
まぁ、一般的にはね。
そして相手もつい自分の事を聞いて欲しくなる。
でも僕は、相手に根掘り葉掘り聞くのは、好きじゃない。自分のペースで話してくれた方が理想だけどね。
お互い少しずつ話す事でお互いを理解する様になる。
そんなものじゃないかな。
こんな小さな村は、助け合いながら生活するのが大事なんだよ。ジュンジ君も大分慣れてきたかな。」
そんな時、玄関に来客。
「村長!」
の声を聞き、栗林が縁側から玄関を見ると
「あ、いらした。
何だか田中が怒鳴ったって。ジュン坊に向かって。田中すぐかっとなるからね。ジュンジさんも気の毒だ。村中、噂で。
ジュン坊、大丈夫ですかね。引っ越しされないかな、心配だよね。
家にいないみたいでさ。
今いなくなったら大変だよね。」
「心配してないで上がって下さい。」と言われ、部屋の端で正座するジュンジをみつけ、驚くが、すぐ安心顔になる。
「田中に殴られた?」
「凄い勢いだったろ。」
「勝手ばかり言う人だからな。」
矢継ぎ早に一方的に言うので栗林の方が、
「落ち着いて。大丈夫ですよ。」と笑いながら言った。
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