じゃがいも 2
その後、公民館に集まり、石灰や種芋を配り、育て方の説明会を開いた。
いつしか「ジュンジさん」と呼ばれるようになり、返事もすぐ返せるようになってきた。
数カ月後、栗林がジュンジと電話で次の説明会の打ち合わせをしている時に突然大声が聞こえた。
「どういう訳でウチの芋は、芽がでないんだ!」
ジュンジの声も聞こえてくるが、男の大声もよく聞こえる。
「うちは、皆より早く植えたんだぞ。水だってちゃんとくれてるんだ。何処が悪いんだ!
おれのところに悪い種芋配ったんじゃないか!
おい!何か言え!」
ジュンジの声は、ほぼ聞こえないが、大声の男の正体が薄々分かる。
「ジュンジ君、ジュンジ君!」と栗林が声をかけてもジュンジの声は、聞こえない。
「今からいくよ!」と言う栗林の声もジュンジには、届かなかった。
さらに大声男は、
「おい!おれの畑を見に来い!早くしろ!」と止まらない。
ジュンジは、自転車に乗る大声男の後を小走りで畑までついて行った。見るとさっぱり芽すら出ていない。ネズミにでも掘り返され食べられたようでもない。
「見ろ!だめだろ!どういう訳だ!」と男は、更に大声で言う。
ジュンジの見た目には、植え付けた時と何の変化も無い。
「あの。」
「何だ!」
「いつ植えましたか?」
「すぐだよ。」
「あの。すぐ植え付けられたんですね。」
「くどいな。
仕事は、さっさと片付けるのが、おれ様の流儀だ。当たり前だろ!」
「あのぉ。すぐですか?」
「そうだよ。それが悪いか!」
「そうですね。そこが失敗の原因です。」
「ばかやろう!おれ様の流儀だ!お前、おれの流儀が悪いと言うのか?」
そこへ息を切らして栗林が到着した。畑を見て少し呆然とした。あまりにも綺麗だ。畝も整えられて、これから植え付けますよと言う感じだった。
ジュンジがそっと掘り返して種芋を探した。
「何しやがるんだ。」と大声男が怒鳴った。
「見ないと判らないですから。」
「田中さん、ちょっと落ち着いて下さい。」と栗林が言ったが、田中と呼ばれた大声男は、更に
「余計な口を挟まないでくれ!おれの畑だろ。」と言う。
そんな二人の声が聴こえないかのようにジュンジは、土の中から種芋を掘り出した。
三人とも言葉が出ないほどの変貌した種芋だった。
「田中さん。まず落ち着いて下さい。」と栗林がゆっくり言った。
「私達が作った説明プリント読まれましたか?
少し芽を出させてから、植え付けると書いておきましたが。」
「そんなもの、あったか。おれは、もらってないぞ。」
「いいえ、種芋と一緒にお配りしました。」と言われ、
「そうだっか?」
少し田中の声が小さめになった。
「土も耕し石灰を混ぜ、十日ほどねかせるんです。」と言うと。
「そんな事知らねえ。」
「説明会にも参加されていましたね。その点も説明しました。」と栗林とジュンジが交互に言う意見にとうとう田ふ中は、黙った。
「原因は、それだけじゃないですが。水もやり過ぎるた芋が腐ってしまうんです。植え付けた頃、雨が多かったですしね。」
栗林とジュンジが相談して公民館の畑の苗をいくつかここに移す事にした。そしてもう一度説明プリントを渡した。
「ジュンジ君、この村になくてはならない人になったね」と栗林から言われた。
多少ジャガイモの育て方は、地域、環境により同じではないのでご承知おき下さいませ。




