じゃがいも 1
「どうしただ!何があった!」
「村長、この間、町に出かけたべ、その時に交通事故にあっただ。」
「そんなん、治るべ。」
「町の病院に入院したべ、そん時に今立候補している若いのがお見舞いに行ったと。
そたら、『おれは、辞退するから、村長頑張ってくれ。』と言ったそうだ。」
「そんな事あるか?」
「ホントか?」
「作り話だろ!」
「ホントだ。」
無投票で
波那村美子村長が誕生。
40歳の女性で乙女座。
始めの一年は、周りから批判的な目で見られていた。
それでも二年めに大豆を配った。月一回公民館で村民に向け育て方を説明した。
いつも参加者は、数名。それももうすぐ収穫という六月は、参加者ゼロだった。
「参加者ゼロだすって。
うふふっ、何が
『花の豊かな村』よね。
そんなんで立候補なんて言っているから。
ダメよね。まだまだ若いお嬢さんよ。」
「私達が、嫁に来た時から景色変わらないもの。
世の中の流れにのらないこの村だものね。」
婦人達の立ち話は、沢山の花を咲かせたが、『花の豊かな村』には、程遠かった。
そんな立ち話を何度も聞く前村長の栗林は、村の長老や顔なじみの家をそれとなく廻って歩いた。
「おぉ、村長、なげしたぁ。」
「いや、私は、もう村長じゃないよ。だからこうして頼みに来たんだ」
「村長の頼みは、何でもOKだ。」
村人達は、快く話を聞いてくれる。
「私は、村長じゃないから、
栗林と呼んでくれ。」と笑いながら何度もたのんだ。でもいつまでも呼び名は、『村長』のままだった。
「いや、今度の波那村村長だが、頑張り屋なので、応援して欲しくなりました。
それでお願いに廻っているんです。」と言い出し、皆の顔が啞然とした。でも構わず栗林は、続けた。
「大豆の種をみんなに配りましたね。あれは、自腹をきり、皆様に配布したんですよ。皆さん、育てましたか?」
「枝豆で食っちゃたんだ。」とあっけらかんと一人が言った。周りの人々も同じだった。
「枝豆にしたら、美味しかったですね。
村長の考えは、他にあってね。その中でいくつか種を残したら、また翌年蒔いて貰いたかったんですよ。
その翌年もそのまた翌年も。
沢山収穫したら、加工して村の特産を作っていこうと考えていたんですよ。」
「はぁー」
一人の声がした。
「私が交通事故で入院した時にお見舞いに来てくれました。そして将来の話を沢山したんですよ。
この村に数年前から移住してくる若者もいるが、定住しない。初めは、長く暮らす予定で引っ越してくるが、五年もいてたら、いなくなる。
何故だろうか?」
このまま、のんびりした村が良いと言う声も聞こえる。
「のんびりは、私も好きだ。
でも50年経ってだれがここで暮らしていますか?
皆さんのお子さん達がUターンしていると思いますか?」
村人は、黙ってしまった。
「皆でゆっくり考えながら、変えて行きたいと思いませんか?」
そんな話を栗林は、村人に話して廻った。少しずつゆっくりでいいから、村人達の考えを変えていこうと思っていた。
そして波那村村長は、翌年じゃがいも計画立てた。種芋を配り、公民館で栗林も加わり育て方を説明した。
じゃがいもは、収穫とともに食べて良いと説明されて皆が半分食べ、残りを公民館で村内で使える買い物券と交換した。掘り立てのじゃがいもは、ひと味違い美味しかった。
「蒸すだけで塩かけて食べたよ。」
「わざわざ他のもんと煮なくても、いいよな。」
「美味かったな。」
「あんなに公民館に出さなくても良かったよなぁ。」
と言うものもいたが。
「買い物券貰えたから、良かったべ。」
更に公民館に集まり、ポテトサラダやポタージュスープ、プライドポテトの料理教室を開いた。
じゃがいもは、それぞれが庭の片隅で育て始めたが、徐々に作付面積が拡がりつつあった。
食べる部分が見えないので、枝豆の様にビールのつまみにしてしまう事がなかった。
翌年は、ジュンジが沢山のじゃがいもを持って公民館に現れた。
「どうした?買って来たんか?」
「庭で。」と言うジュンジに皆が驚いた。
「えっ。だって去年食っちゃたろ。」
「はい。」
そろそろと廻に人が集まり始めた。
「自分の食べる分あるんか?」
「はい、少し。」
「すげえなぁ。」
「いくらになるべか。」
急に皆の注目が集まり、ジュンジは、恥ずかしくなりただ下を向いていた。
そんなジュンジを栗林は、だんだん村に馴染んできたように想い微笑みながら見ていた。
「どうやったら、そんなに沢山出来るんだ?」
「ジュン坊だけ種芋多かったか?」
「ジュン坊は、農家の生まれか?」
「北海道の芋農家だったべ。」
「来年は、オラも沢山作りたいな。教えてくれよ。どんな技がお前にあるんだ?」
次々言われてただただジュンジは、頭を振るだけだった。
公民館に集まった人々にジュンジは、注目され返答に困り果ててしまった。
翌日は、栗林がジュンジを訪ねて来た。
「じゃがいも、沢山収穫していましたね。その方法を教えてもらえないだろうか。」
「えっ。あぁ。」ジュンジは、言葉につまり、
「はぁ。」と声が漏れただけだった。
「あぁ、突然来て悪かったね。ゆっくり話してくれたらいいよ。」
「あっ。」とジュンジが差し出したものは、スマホだった。
「そうだったのね、電話してから、来るべきだったね。
悪かったね。」と頭を下げる栗林にジュンジは、慌ててスマホのボリュームをあげた。
スマホから、柔らかい音楽と共に『じゃがいもを育ててみよう』とタイトルが出た動画が始まった。
「じゃがいもには、ダンシャク、インカのめざめなど色々な品種がありますが、お好きな味、収穫後の料理によって決められたら良いと思います。
ただ野菜売り場で購入するのではなく、ホームセンター、園芸店などでお求め下さい。
植え付け時期は、地域にもよりますが、初心者は、春植えがおすすめです。」
と流れて来た。
「ジュンジ君は、これを見て勉強したのですね。」
ジュンジは、ゆっくりと頷いた。
「そうだっのか。分かりやすいね。では、公民館に皆集まってじゃがいも講習会をやってくれないかい。」
ジュンジは、慌てて頸を振った。
「どうしたんだい。人前は、苦手かい?」と栗林に聞かれゆっくりと頷いた。
ジュンジの兄弟は、皆教師になっていたので何事にも自信が持てない性格だった。
兄は、数学科。姉は、国語科。弟は、歴史科。勉強嫌いのジュンジは、幼い頃から、比べられていた。父親には、何度も
「やる気が無いなら、出ていけ。」と言われた。
ジュンジ自身は、スポーツ選手に憧れていた。父親に叱られるといつも公園で鉄棒で回転にトライしていた。学校でも「落ちこぼれ」とレッテルが貼られていた。
家族で食事をしていても 自分の居場所がここには、無いと想う事多かった。部屋に入るといつも絵を描いていた。
だから、学校では、体育と美術の成績が良かった。しかし家で褒められる事など無かった。
「体育や美術の成績だけ良くても大学には、入れんぞ。」と言われて続けていた。
そんな時、姉が、こっそり
「キャラクター募集」があるから応募していたらと勧めてくれた。それがきっかけで少しずつイラストを描き始めていた。
そのキャラクターが採用されキャットフードが段ボール一箱送られてきたが、飼い猫は、いなかった。
栗林は、それから三日続けてジュンジを訪ねてきた。その熱心さに負けてとうとう公民館に集まり、じゃがいも講習会を始める事になった。
「ジュンジ君は、居てくれたらいいよ。僕が話すから。」と4日めは、『育て方』動画を観に来た。
時折、ジュンジに
「あらかじめ土に石灰を混ぜると有るけれど、どのくらい前にやっておいたの?」などと質問しながら何度も観た。
そして
「この動画を公民館で皆で観ることは、できるのかな?」と始まり
「来年のじゃがいもの種類は、何がいいかな?」と具体的に打ち合わせをしていった。
『じゃがいもを沢山収穫する知恵』と題して当日は、公民館に30人以上の人が集まった。それを見てジュンジは、動けなくなってしまった。
「大丈夫だよ。ジュンジ君は、僕が落ち着くために来てもらったんだよ。」
そんな言葉は、ジュンジには、理解できない状況だった。
栗林がじゃがいもの育て方を説明し始めた。
ジュンジは、側で聞き落とす事ないように集中して聞いていた。栗林の説明は、同じ事を言葉を換えつつ繰り返す。分かりやすいとジュンジも思った。
気が付くと後ろの方に村長波那村の姿が見えた。彼女も真剣な顔付きになっている。そんな表情を見てジュンジは、ますます緊張してしまった。
「お待たせしました。
後ろに村長が見えたので、皆さん拍手を。
種芋の予算を多くして頂きたいですね。」と笑いを誘った。
「沢山の方が集まられたのですね。来年は、さぞ沢山の収穫が望めそうで、私も楽しみです。
ジュンジさんの知恵を頂きこの小さな村が、心一つになって、マイペースに発展していく事と信じています。」と挨拶があった。
ジュンジは、自分の名前が出た事でまた下を向いてしまった。
栗林から
「質問は、ありますか?」と続いた。
ジュンジは、自分に質問がとんで来ると思い冷や汗が出てしまったが、質問には、栗林がどんどん対応していった。
「ジュンジ君、石灰は、何処で買ったのかな?」とやっぱり聞かれた。困った顔のジュンジを見て栗林が、
「通販だったかな?」と先回りする。
ジュンジの方は、我に返り
「そうです。注文したら、すぐ届くます。」と小さな声で応えた。
「じゃぁ、皆の分をまとめて注文してもらえるかい?」
下ばかり向いていたので、これくらいは、受けないと不味いかと思い、ジュンジは、頷いた。
「じゃがいもの種類は、何がいいかな。」
「ダンシャク、インカのめざめ、デストロイヤー。」
「なんだ?」
「インカのめざめは、甘みがあっておいしいですよ。
デストロイヤーは、ホクホクでおいしいです。
ダンシャクは、一般的ですね。くずれやすいのでコロッケなどにするとおいしいです。」
「みんなおいしんだな。」
「デストロイヤーって育てた事ないからやってみたいな。」
「簡単に手に入るのか?」
「デストロイヤーは、見た目良くないよな。」
結局、種芋もジュンジが仕入れる事になった。
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