表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
はながさく  作者: 92コ
2/6

じゃがいも 1

「どうしただ!何があった!」


「村長、この間、町に出かけたべ、その時に交通事故にあっただ。」

「そんなん、治るべ。」

「町の病院に入院したべ、そん時に今立候補している若いのがお見舞いに行ったと。

そたら、『おれは、辞退するから、村長頑張ってくれ。』と言ったそうだ。」

「そんな事あるか?」

「ホントか?」

「作り話だろ!」

「ホントだ。」


 無投票で

 波那村美子村長が誕生。

 40歳の女性で乙女座。



 始めの一年は、周りから批判的な目で見られていた。

それでも二年めに大豆を配った。月一回公民館で村民に向け育て方を説明した。

 いつも参加者は、数名。それももうすぐ収穫という六月は、参加者ゼロだった。


「参加者ゼロだすって。

 うふふっ、何が

『花の豊かな村』よね。

そんなんで立候補なんて言っているから。

ダメよね。まだまだ若いお嬢さんよ。」

「私達が、嫁に来た時から景色変わらないもの。

世の中の流れにのらないこの村だものね。」


 婦人達の立ち話は、沢山の花を咲かせたが、『花の豊かな村』には、程遠かった。


 そんな立ち話を何度も聞く前村長の栗林は、村の長老や顔なじみの家をそれとなく廻って歩いた。


「おぉ、村長、なげしたぁ。」

「いや、私は、もう村長じゃないよ。だからこうして頼みに来たんだ」

「村長の頼みは、何でもOKだ。」

村人達は、快く話を聞いてくれる。

「私は、村長じゃないから、

栗林と呼んでくれ。」と笑いながら何度もたのんだ。でもいつまでも呼び名は、『村長』のままだった。


「いや、今度の波那村村長だが、頑張り屋なので、応援して欲しくなりました。

それでお願いに廻っているんです。」と言い出し、皆の顔が啞然とした。でも構わず栗林は、続けた。


「大豆の種をみんなに配りましたね。あれは、自腹をきり、皆様に配布したんですよ。皆さん、育てましたか?」


「枝豆で食っちゃたんだ。」とあっけらかんと一人が言った。周りの人々も同じだった。


「枝豆にしたら、美味しかったですね。

村長の考えは、他にあってね。その中でいくつか種を残したら、また翌年蒔いて貰いたかったんですよ。


その翌年もそのまた翌年も。


沢山収穫したら、加工して村の特産を作っていこうと考えていたんですよ。」


「はぁー」

一人の声がした。



 「私が交通事故で入院した時にお見舞いに来てくれました。そして将来の話を沢山したんですよ。

 この村に数年前から移住してくる若者もいるが、定住しない。初めは、長く暮らす予定で引っ越してくるが、五年もいてたら、いなくなる。

 何故だろうか?」


 このまま、のんびりした村が良いと言う声も聞こえる。


「のんびりは、私も好きだ。

でも50年経ってだれがここで暮らしていますか?

 皆さんのお子さん達がUターンしていると思いますか?」


 村人は、黙ってしまった。


「皆でゆっくり考えながら、変えて行きたいと思いませんか?」


 そんな話を栗林は、村人に話して廻った。少しずつゆっくりでいいから、村人達の考えを変えていこうと思っていた。


 そして波那村村長は、翌年じゃがいも計画立てた。種芋を配り、公民館で栗林も加わり育て方を説明した。

 じゃがいもは、収穫とともに食べて良いと説明されて皆が半分食べ、残りを公民館で村内で使える買い物券と交換した。掘り立てのじゃがいもは、ひと味違い美味しかった。

「蒸すだけで塩かけて食べたよ。」

「わざわざ他のもんと煮なくても、いいよな。」

「美味かったな。」

「あんなに公民館に出さなくても良かったよなぁ。」

と言うものもいたが。

「買い物券貰えたから、良かったべ。」


 更に公民館に集まり、ポテトサラダやポタージュスープ、プライドポテトの料理教室を開いた。

 

 じゃがいもは、それぞれが庭の片隅で育て始めたが、徐々に作付面積が拡がりつつあった。

食べる部分が見えないので、枝豆の様にビールのつまみにしてしまう事がなかった。



 翌年は、ジュンジが沢山のじゃがいもを持って公民館に現れた。

「どうした?買って来たんか?」

「庭で。」と言うジュンジに皆が驚いた。


「えっ。だって去年食っちゃたろ。」

「はい。」


そろそろと廻に人が集まり始めた。


「自分の食べる分あるんか?」

「はい、少し。」

「すげえなぁ。」

「いくらになるべか。」


急に皆の注目が集まり、ジュンジは、恥ずかしくなりただ下を向いていた。


そんなジュンジを栗林は、だんだん村に馴染んできたように想い微笑みながら見ていた。


「どうやったら、そんなに沢山出来るんだ?」

「ジュン坊だけ種芋多かったか?」

「ジュン坊は、農家の生まれか?」

「北海道の芋農家だったべ。」

「来年は、オラも沢山作りたいな。教えてくれよ。どんな技がお前にあるんだ?」


 次々言われてただただジュンジは、頭を振るだけだった。


 公民館に集まった人々にジュンジは、注目され返答に困り果ててしまった。


 翌日は、栗林がジュンジを訪ねて来た。


「じゃがいも、沢山収穫していましたね。その方法を教えてもらえないだろうか。」


「えっ。あぁ。」ジュンジは、言葉につまり、

「はぁ。」と声が漏れただけだった。


「あぁ、突然来て悪かったね。ゆっくり話してくれたらいいよ。」


「あっ。」とジュンジが差し出したものは、スマホだった。


「そうだったのね、電話してから、来るべきだったね。

悪かったね。」と頭を下げる栗林にジュンジは、慌ててスマホのボリュームをあげた。


 スマホから、柔らかい音楽と共に『じゃがいもを育ててみよう』とタイトルが出た動画が始まった。

「じゃがいもには、ダンシャク、インカのめざめなど色々な品種がありますが、お好きな味、収穫後の料理によって決められたら良いと思います。

ただ野菜売り場で購入するのではなく、ホームセンター、園芸店などでお求め下さい。

植え付け時期は、地域にもよりますが、初心者は、春植えがおすすめです。」


と流れて来た。


「ジュンジ君は、これを見て勉強したのですね。」


 ジュンジは、ゆっくりと頷いた。


「そうだっのか。分かりやすいね。では、公民館に皆集まってじゃがいも講習会をやってくれないかい。」


 ジュンジは、慌てて頸を振った。


「どうしたんだい。人前は、苦手かい?」と栗林に聞かれゆっくりと頷いた。




 ジュンジの兄弟は、皆教師になっていたので何事にも自信が持てない性格だった。


 兄は、数学科。姉は、国語科。弟は、歴史科。勉強嫌いのジュンジは、幼い頃から、比べられていた。父親には、何度も

「やる気が無いなら、出ていけ。」と言われた。


 ジュンジ自身は、スポーツ選手に憧れていた。父親に叱られるといつも公園で鉄棒で回転にトライしていた。学校でも「落ちこぼれ」とレッテルが貼られていた。

 家族で食事をしていても 自分の居場所がここには、無いと想う事多かった。部屋に入るといつも絵を描いていた。

 だから、学校では、体育と美術の成績が良かった。しかし家で褒められる事など無かった。

「体育や美術の成績だけ良くても大学には、入れんぞ。」と言われて続けていた。


 そんな時、姉が、こっそり

「キャラクター募集」があるから応募していたらと勧めてくれた。それがきっかけで少しずつイラストを描き始めていた。

 そのキャラクターが採用されキャットフードが段ボール一箱送られてきたが、飼い猫は、いなかった。




 栗林は、それから三日続けてジュンジを訪ねてきた。その熱心さに負けてとうとう公民館に集まり、じゃがいも講習会を始める事になった。


「ジュンジ君は、居てくれたらいいよ。僕が話すから。」と4日めは、『育て方』動画を観に来た。

時折、ジュンジに

「あらかじめ土に石灰を混ぜると有るけれど、どのくらい前にやっておいたの?」などと質問しながら何度も観た。


 そして

「この動画を公民館で皆で観ることは、できるのかな?」と始まり

「来年のじゃがいもの種類は、何がいいかな?」と具体的に打ち合わせをしていった。


『じゃがいもを沢山収穫する知恵』と題して当日は、公民館に30人以上の人が集まった。それを見てジュンジは、動けなくなってしまった。

「大丈夫だよ。ジュンジ君は、僕が落ち着くために来てもらったんだよ。」

そんな言葉は、ジュンジには、理解できない状況だった。


 栗林がじゃがいもの育て方を説明し始めた。

ジュンジは、側で聞き落とす事ないように集中して聞いていた。栗林の説明は、同じ事を言葉を換えつつ繰り返す。分かりやすいとジュンジも思った。


 気が付くと後ろの方に村長波那村の姿が見えた。彼女も真剣な顔付きになっている。そんな表情を見てジュンジは、ますます緊張してしまった。


「お待たせしました。

後ろに村長が見えたので、皆さん拍手を。

種芋の予算を多くして頂きたいですね。」と笑いを誘った。


「沢山の方が集まられたのですね。来年は、さぞ沢山の収穫が望めそうで、私も楽しみです。

ジュンジさんの知恵を頂きこの小さな村が、心一つになって、マイペースに発展していく事と信じています。」と挨拶があった。


 ジュンジは、自分の名前が出た事でまた下を向いてしまった。


栗林から

「質問は、ありますか?」と続いた。


 ジュンジは、自分に質問がとんで来ると思い冷や汗が出てしまったが、質問には、栗林がどんどん対応していった。


「ジュンジ君、石灰は、何処で買ったのかな?」とやっぱり聞かれた。困った顔のジュンジを見て栗林が、

「通販だったかな?」と先回りする。


 ジュンジの方は、我に返り

「そうです。注文したら、すぐ届くます。」と小さな声で応えた。


「じゃぁ、皆の分をまとめて注文してもらえるかい?」


 下ばかり向いていたので、これくらいは、受けないと不味いかと思い、ジュンジは、頷いた。


「じゃがいもの種類は、何がいいかな。」


「ダンシャク、インカのめざめ、デストロイヤー。」


「なんだ?」


「インカのめざめは、甘みがあっておいしいですよ。

デストロイヤーは、ホクホクでおいしいです。

ダンシャクは、一般的ですね。くずれやすいのでコロッケなどにするとおいしいです。」


「みんなおいしんだな。」


「デストロイヤーって育てた事ないからやってみたいな。」


「簡単に手に入るのか?」


「デストロイヤーは、見た目良くないよな。」



 結局、種芋もジュンジが仕入れる事になった。


お読み頂きありがとうございます。

まだ続きます。よろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ