勇者パーティーの調理係
「この料理は、俺が勇者パーティーにいた頃、勇者と剣士に大人気だったんだぜ!」
そう言って、アラドは大皿に載った肉料理を客の前に出した。
「へ! 相変わらず勇者パーティーにいた設定か! ここの店主は面白いだろ? 店主、料理人のあんたが一体勇者パーティーで何をしていたって言うんだ!?」
「……調理師兼結界師」
「はっはっは! 優秀な聖女様と魔法使いのいる勇者パーティーで結界師? 調理師なら納得の味だけどな!」
泡だったエールをぐいっと飲みながら、客は連れてきた友人に料理を勧めた。
「あぁ。でも、本当に聖女様がこの店に通っているって聞いたぜ?」
友人が声を顰めてそう言うと、客が大口を開いて笑った。
「あの聖女様はただ、自分の職場から一番近い酒場で酒に溺れたいだけだろ! ほらみろ! 今日も浴びるように酒を飲んでやがる」
客の男が後ろを指さすと、聖女……いや、教皇としての分厚いローブを脱ぎ捨てた聖女がエールを一気に流し込むところだった。
「アラドぉぉぉ! おかわりぃぃぃ!」
聖女が差し出したグラスを受け取ったアラドが、仕方ないと言わんばかりにエールを注いで、聖女に言った。
「聖女、お前もう少し節制しないと早死にするぞ? 聖女が酒で早死になんて笑えねーだろ?」
「えぇぇ! だって、アラドの料理が酒に合うのが悪い!」
聖女の言葉にため息をついたアラドが、ぼそりと独りごつ。
「……勇者パーティーの時も大酒飲みだと思っていたけど、最近狂ったように飲みすぎだ」
「おい、アラドはここか!?」
突然酒場の扉が大きく開かれて、綺麗な格好をして鍛え上げられた肉体を持った勇者が入ってきた。生まれ育った街に戻って、小さな酒場の店主をしているアラドと違って、勇者は今や隣国の王配だ。国に戻った勇者は、自国の姫君と結婚したのだった。
「お、勇者か? 久しぶりだな」
アラドがそう言って笑って、勇者にカウンターに座るように勧めた。隣国の王配、元勇者。そんな肩書を持つ人間の登場に、酒場は一瞬静まり返り、皆が酔いが覚めたように騒めきたった。
「勇者……勇者だよな?」
「え、店主と知り合いってことは、本当に仲間だったのか?」
「いや、勇者だけなら、聖女の紹介で知り合った可能性だってあるだろ?」
勇者がアラドの出したエールに口をつけると、隣の客に出された肉料理を見て、顔色を変えた。
「あ、おい! これ、俺の好物じゃないか!? アラド! 早く俺の分も作ってくれ」
「はいはい。今焼き始めたから、焼き上がるまで待ってろ!」
「あー……こんなとき、魔法使いがいたら、短縮魔法を使ってくれるのに……」
勇者が待ちきれないと身体を揺らし始めたところで、また酒場の扉が大きく開いた。
「勇者! 抜け駆けはずるいぞ!?」
「ま、魔法使い!? ちょうどいい! あの肉料理に時間短縮魔法だ!」
勇者に言われて思わず時間短縮魔法をかけた魔法使いは、今や魔法使い協会の協会長だ。装飾過多なローブを脱ぎ捨て、肩を軽く回すと、勇者の隣に腰掛けた。
「お! 勇者と剣士の好物じゃないか! なら、私の好物も頼む!」
そう言って、魔法使いはアラドの差し出したワインの香りを嗅ぎ、ぐいっと一口飲んだ。魔法使いの注文にアラドが魚を捌き始めたところで、客たちはぼそぼそと相談し始めた。
「魔法使いまで来たぞ!?」
「まさか店主は本当に勇者パーティーの一員だったのか!?」
「本当だとしたら、俺たち結構とんでもない暴言を吐きまくったぞ?」
顔色を青くしたり白くしたり、すっかり酔いの覚めた客たちがざわめく中、突然酒場の扉が壊された。
「お前ら! アラドはゆずらねー! 戦いだ!」
酒場の扉を壊して、剣士が飛び込んできたのを見て、勇者と魔法使いが目を見開く。
「こいつが俺の動向を魔法で見張っていたのは予想通りだが、魔法使いだけじゃなくて剣士まで!?」
「痕跡は隠したのに、どうやってここにきた!?」
「あ?……野生の勘だが?」
勇者パーティーでの戦いの中、剣士の勘に散々助けられた勇者と魔法使いが押し黙ったところで、剣士が勇者の隣に腰掛け、肉料理を奪った。
「あ、おい! 俺の!」
「この肉料理は、もう俺のモンだ!」
肉にかぶりつきながら、剣士がアラドに言った。
「なぁ、アラド。俺、今、騎士団長しているんだ。うちの国で調理師として働いてくれないか?」
大量の料理を団員たちが美味しそうに食べるぞ? と、アラドに上目遣いで問いかける剣士に、勇者が待ったをかけた。
「あ、おい。俺が一番最初にアラドの勧誘に来たんだ! 俺、お前の料理が忘れられねー。うちの国の宮廷料理人になって、料理長として俺と妻の料理を毎日作ってくれ!」
「あ、勇者も剣士もずるいぞ!? 私の専属料理人になってくれないか!?」
魔法使いもそこに参戦し、おのおのが主張を始めた。
「うちの国の料理長になってくれたら、富も名誉も手に入るぞ!?」
「うちの魔法使い協会で私専属の調理師として働いてくれたら、待遇はいいし、調理も一人分でいいから負担が少ないぞ!?」
「うちの騎士団は大所帯だから、作り甲斐があるぞ! うちの調理に来てくれている子たちは、可愛い女の子だ」
「嘘つけ! 騎士団なんてむさ苦しいところにかわいい女の子なんているわけないだろ!?」
「……どれも俺にはもったいないくらいの話だよ」と、アラドはへらって笑った。
そんなアラドの肩に手を置いて、聖女が言った。
「そんなことで争わないの。アラドは、この国でこの酒場で働いていたいもの、ね?」
聖女にそう言われて、アラドがへらっと笑うと、聖女は続けた。
「今まで通り、うちの国の酒場で好きな料理を好きなだけ、好きな人にだけ好きな料理を出していればいいの」
「……聖女、お前……もしかして、この国のこの地域をお前の国の国王から買い取って、神聖帝国に変えた理由って……」
「お前、酒場に料理食べに行ってるんだろ!?」
「ずるい!ずるいぞ!」
「「「おい、アラド! 聖女は酒場に通っているのか!?」」」
「安心するからって、朝昼晩と食べに来ているけど?」
「「「聖女、お前!!!」」」
ずるいずるいと騒ぐ男たちを嘲笑した聖女が言った。
「あら? 調理師の優秀さを一番最初に見抜いて囲い込んだのだもの。あなたたちの行動が遅すぎるのよ」
「「「聖女! お前ーー!!」」」
「聖女じゃない! 悪女だ!」
「この悪女め!」
「国を壊してでも奪い取ってやる!」
「あら? この国に害をなすというの? アラドの優秀さは、あなたたちが身を持って知っているでしょう?」
そう聖女がクスリと笑った瞬間、三人は結界の外に吹き飛ばされて行った。
「仲間だし、一応自分たちの国に戻れるように調整しておいたけど……」
「アラドは相変わらず甘いわね。……まぁ、その方があいつらの再訪に時間がかかるから、いいか」
そう言った聖女がまたエールを飲み干すのを見て、客の一人が遠慮がちに問うた。
「も、もしかして、店主は聖女に惚れてるんすか?」
客の言葉に目を丸くしたアラドが、怯えたように否定した。
「やめてくれ! あんな酒乱聖女なんて、なにがあってもごめんだよ!」
「アーラードー?」
目の据わった聖女に、聖女の魅力を百、言い終えるまで解放されなくなったアラドに、客たちは同情しながら店を出るのだった。
「すまない、店主」
「尊い犠牲だ」
「さすが勇者パーティーにいた男は違う」
聖女に逆ハーレムタグを入れさせられました……




