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第3話 通過儀礼

 十二歳の朝は、どこか特別に感じられた。

 窓の外からは小鳥のさえずりが聞こえ、空は透き通るように青い。けれど胸の奥はざわつき、落ち着かない。


 テラは背に長剣を模した木剣を背負い、玄関を出た。腰に差すには大きすぎる剣も、背中にあると不思議と力強さをくれる。


「おーい、テラ!」

 声の主はリアムだった。弓を肩に掛け、笑顔で駆け寄ってくる。

「今日は絶対的中させてやる。見とけよ」

 そう言って得意げに弦を鳴らす姿に、テラは苦笑した。


 少し遅れて、ペネロペもやってきた。淡い水色の髪を揺らし、腰に短剣を模した木剣を差している。

「二人とも早いね。私も頑張らないと」

 緊張を隠すように笑うその瞳は、静かだが強い意志を宿していた。



 三人は村外れの育成場へと向かった。広場には既に子供たちが集まり、指導員たちの声が飛び交っている。


「もっと腰を落とせ! 剣は腕で振るんじゃない、全身で振るんだ!」

 父オリヴァーの声が響くと、子供たちは一斉に木剣を振り下ろした。


 テラも木剣を握り直し、素振りを繰り返す。風を切る感覚が腕に伝わり、背筋を震わせた。汗が額ににじむが、不思議と苦ではない。


 近くではリアムが弓を構え、的に狙いを定めていた。

 ――ヒュン! 矢が飛び、藁人形の中心に突き刺さる。

「よっしゃ!」

 歓声を上げるリアムに、周囲の子供たちが「すげえ!」と声を揃える。


 ペネロペは短剣を抜き、何度も突きの稽古を繰り返していた。肩で息をしながらも、動きは真剣そのもの。まだ形はぎこちないが、彼女のひたむきさに誰もが気づいていた。



 その時、広場に一人の少女が現れた。

 燃えるような赤髪に、赤い瞳。まるで炎が人の形を取ったかのような気配を放つ。


 彼女は誰とも話さず、木剣を構えた。その背筋の伸びた立ち姿は、ただそこにいるだけで周囲の空気を張り詰めさせる。


(……すごい存在感だ。あの赤髪に赤い瞳の子……名前は知らないけど、きっと強い)

 テラは思わず背中の木剣を握りしめた。



 鐘の音が鳴り響き、子供たちは教会へと集められた。

 中央の祭壇には、七色に輝く結晶が置かれている。これに触れることで、己の魔属性が判明する。


 神官が一歩前に出て、声を張り上げた。

「これより通過の儀を始める。心を静め、己が歩む道を知りなさい」



「リアム・コリン」


 最初に呼ばれたのはリアムだった。

 彼は緊張の面持ちで結晶に触れる。瞬間、結晶が緑に輝き、爽やかな風が広間を吹き抜けた。


「風属性」

 神官の宣告に、大人たちは満足げに頷いた。リアムは誇らしげに胸を張る。



 次に呼ばれたのは、赤髪の少女。

「カリーナ・ヴァルクス」

 その名が告げられると同時に、彼女は迷いなく結晶に触れた。


 炎が弾け、赤い光が教会を満たす。熱が広間を包み、人々が息を呑んだ。

「火属性」

 神官の声はわずかに震えていた。


(……カリーナ、か。やっぱり、只者じゃない)

 テラは心の奥で、その名を強く刻んだ。



「ペネロペ・スティッチ」


 続いてペネロペの名が呼ばれる。

 彼女は胸に手を当て、そっと結晶に触れた。


 瞬間――広間全体がまばゆい白光に包まれた。

「……光属性だと!?」

 神官の驚愕の声が響く。


 光は暖かく、柔らかく広間を満たし、人々を魅了した。

 神官は証明するように、掌に光を宿らせた。光は傷を癒し、肌をなめらかに戻す。

「光は癒しと浄化の力……数百人に一人現れるかどうかの希少な属性……」


 ペネロペは驚きで息を呑みながらも、必死に笑顔を作った。

「わ、私……光なんだ……」


 その姿に子供も大人も息を呑み、場の空気は一変した。




 最後に呼ばれたのはテラだった。

「テラ・クロフト」


 彼はゆっくりと結晶に手を重ねる。

 紫の稲妻がほとばしり、空気が震えた。


「雷属性!」

 神官の宣告が響き渡る。


 父オリヴァーが前に進み出て、子供たちに説明する。

「火と水、土と風は円環を成し、互いに対となる。そして雷は円環の中央に位置し、どの属性とも相性が良い。だが特別というわけではない。万能であるがゆえに、努力を怠れば凡庸に終わる。肝に銘じろ」


 テラは父の言葉を胸に刻み、残る紫光を見つめ続けた。



 通過の儀を終え、子供たちは己の力を知った。

 リアムは風、ペネロペは光、カリーナは火、そしてテラは雷。


 それぞれの未来が、今日から本格的に歩み始める。

 剣士育成場の門が開かれる時、遊びではない真の修行が待っている。


 テラは背中の木剣を握りしめた。

(ここからだ。俺たちの道は――)


 仲間とライバルと共に。

 少年たちは、新たな一歩を踏み出した。

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