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第2話 稽古場

村外れの小さな丘を越えた先に、開けた草地がある。

 そこは子供たちの稽古場として使われるようになって久しい。丸太を組んで作った的、刃を落とした木剣、擦り切れた藁人形。どれも村の大人たちが手作りしたものだ。


 テラは背に背負った木剣を引き抜いた。まだ体が小さい彼には腰に差すことはできず、長剣を模した木剣は背中に括り付けて運ぶのが精一杯だった。

 草を踏み分け、朝露が靴裏を濡らす。


「よし、今日もやるぞ。百本は振り切るからな」

「えー、また数えてんの? テラはほんと真面目だよなぁ」


 リアムはそう言いながら、短剣をくるくると器用に回した。けれど今日は短剣だけではない。彼の手には簡素な弓が握られていた。村の狩人が使うものを小型に作り直した、子供用の弓である。


「じゃ、俺はこっちで練習しとく」


 そう言うとリアムは的の前に立ち、矢をつがえて引き絞った。まだ腕の力は弱く、弦を引くたびに顔をしかめる。それでも矢は真っ直ぐ飛び、丸太の的に「トン」と刺さった。的の中心には程遠いが、倒れるほど弱々しくもない。


「ほら、なかなかでしょ?」

「……思ったよりいい音した」


 ペネロペが小さく感心するように呟く。彼女は短剣を握り直し、姿勢を整えていた。小柄な体に似合わず、その構えは凛としている。


「私も、テラに合わせて剣を振る」

「じゃあ三人で一緒にやろう」



 シュッ、シュッ、シュッ――。

 木剣が空を切る音が重なり、朝の広場に響く。

 剣を振り下ろすたびに両腕に重みが積み重なり、額に汗がにじんだ。最初は軽いはずの木剣も、五十本を越えたあたりで腕が熱を帯びる。


「はぁ、はぁ……七十……もう腕が棒みたいだ」

「まだだ、リアム。腕だけじゃなくて腰で振るんだって」


 テラの言葉にリアムは苦笑して肩をすくめる。


「そう言うとこ、やっぱテラのお父さんそっくりだよなぁ」


 図星を突かれ、テラは一瞬黙り込んだ。父オリヴァーの剣筋は、村の子供たちにとって憧れだ。いつかその背中に並び立ちたい――その想いが、彼を動かしている。



 百本を振り終えると、三人は藁人形に向かって模擬戦を始めた。


「ペネロペ、次はお前から」

「うん……えいっ!」


 短剣が藁人形の腕を叩く。音は軽いが、真剣さが伝わってくる。

 続いてテラが振り下ろすと、藁がはじけ飛んだ。重心を腰に落とし、父に教わった踏み込みを真似る。

 リアムは短剣を逆手に持ち替え、人形の足元を突いた。支えを崩され、人形が傾く。


「ほら、工夫すれば倒せるんだ」

「……なるほど」


 ペネロペが真剣に頷く。



 稽古のあと、三人は草の上に腰を下ろした。遠くで鳥の声が響き、広場は静けさに包まれている。


「なぁ……もうすぐ十二歳だよな」

 テラが呟く。


 十二歳を過ぎれば、剣士育成場に通うことができる。そして通過儀礼によって、自分の魔属性が判明するのだ。


「楽しみだよな。どんな色が出るんだろう」

「私は……母さんや父さんと同じ、水だといいな」


 ペネロペが小さく言うと、リアムが笑った。


「似合うよな。ペネロペなら水の剣士って感じだ」

「え、そ、そうかな……」


 耳まで赤くして俯く彼女の横で、テラは木剣を握りしめた。

 剣士育成場、通過儀礼、学園……。未来の扉はもうすぐ開く。今はまだ夢のような話だが、それでも胸の奥は熱く高鳴っていた。


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