第11章「糖尿病鬼との決戦」、第12章「脂質異常獣と肥満魔」
命の工場に迫る“病の軍勢”──その先陣を切るのは、糖と脂質のバランスを乱す二大存在。
第11章では、リュウたちは「糖尿病鬼」と対峙する。
それは、インスリンの鍵が合わなくなった結果、体内を彷徨うグルコースの怒りが生んだ“血糖の魔物”。
乱れた代謝が、命を蝕む姿を見せつける。
続く第12章では、「脂質異常獣」と「肥満魔」が立ちはだかる。
エネルギーの過剰蓄積が招く、脂質の暴走と炎症の連鎖。
果たしてリュウたちは、この“見えない慢性の敵”に打ち勝てるのか──?
これは戦いであり、問いかけだ。
私たちは日々、何を体に取り入れ、どう生きているのか──
命の均衡を取り戻す旅が、ここに始まる。
第11章「糖尿病鬼との決戦」
均衡の地を旅立ったリュウたちは、暗雲渦巻く荒野に辿り着いた。
空は重く垂れこめ、地面には黒い裂け目が走っている。
その裂け目から、蒸気のような甘ったるい匂いが立ち上っていた。
「ここが……血糖暴走地帯……!」
グリコが眉をひそめた。
「血糖が制御不能になり、体を蝕んでいるんだ!」
リュウは剣を握りしめた。
ここに、疾患族の一体、「糖尿病鬼」が潜んでいる。
突如、地響きが起こった。
裂け目の奥から、巨大な影が現れる。
それは、どろどろに膨れ上がった鬼だった。
肌は糖の結晶に覆われ、目は血走り、手にはねっとりとした鎖を巻きつけている。
「グガアアア……! オレハ、トウニョウビョウキ……!」
糖尿病鬼が咆哮する。
「インスリンノ力ヲ奪イ、血糖ヲ支配スル!」
リュウは息を呑んだ。
インスリン──血糖を細胞に取り込ませるために不可欠なホルモン。
それが機能しなければ、血糖は血液中に溢れ、体を蝕む。
「リュウ、気をつけて!」
アミナが叫ぶ。
「この鬼は、二つの顔を持つ!」
一つは、インスリンそのものが作られない【Ⅰ型糖尿病】の顔。
一つは、インスリンがあっても効かない【Ⅱ型糖尿病】の顔。
「どちらも、体に深刻なダメージを与える……!」
鬼は雄叫びをあげ、黒い糖の鎖を振り回した。
周囲の草木が絡め取られ、たちまち枯れていく。
リュウは飛び込んだ。
剣を振り上げ、鎖を断ち切ろうとする。
だが、鎖はしつこく絡みつき、リュウの動きを鈍らせた。
「うっ……重い……!」
「それが高血糖の恐ろしさ!」
グリコが叫ぶ。
「血液がドロドロになれば、全身に酸素も栄養も届かなくなる。
目も、腎臓も、神経も、心臓も──すべてが侵される!」
リュウは必死に抗った。
だが、鬼の力はあまりにも強い。
そのとき──金色の光が走った。
「まだ諦めるな!」
現れたのは、インスリンの賢者だった。
彼は手に持った光の杖を振るい、リュウに力を送る。
「インスリンの力を、今一度!」
リュウの剣が輝いた。
彼は素早く動き、鬼の鎖を断ち切った。
鬼は呻き、後退した。
「ナゼダ……! 血糖ガ……整ウ……?」
リュウは叫んだ。
「血糖は、体と共に生きるものだ!
勝手に暴れ回るものじゃない!」
リュウは剣を振るい、最後の一撃を叩き込んだ。
糖尿病鬼は悲鳴を上げ、霧散していった。
暗雲も、少しずつ晴れていく。
静寂が戻った荒野で、リュウは深く息をついた。
「血糖って、本当に体にとって大事なんだな……」
グリコがうなずいた。
「そうだよ。高すぎても、低すぎても、命は危ない。
だからこそ、体は絶えずコントロールしてるんだ」
アミナが空を見上げる。
「でも──次は、さらに大きな敵が待っている」
リュウたちは、顔を引き締めた。
次なる戦いは、「脂質異常獣」との激突。
生活習慣病の闇、その本質へと挑む時が来る──!
第12章「脂質異常獣と肥満魔」
荒野を抜けたリュウたちは、黒く濁った湖のほとりに立っていた。
湖の水面には、どろりとした脂のような膜が広がり、
空には不吉な雷がうごめいている。
「ここが……脂質異常の地……」
グリコが顔をしかめた。
「脂肪とコレステロールのバランスが崩れ、命を脅かす地帯だ!」
リュウは剣を握りしめ、湖の中央を見つめた。
そこには、何か巨大な影が蠢いている──。
大地が揺れた。
湖から這い出してきたのは、
巨大な異形の獣だった。
体は厚い脂肪に覆われ、
背中にはトゲのようなコレステロールの結晶が突き出している。
「オレハ……脂質異常獣……!」
獣は低く唸った。
「血管ヲ、詰マラセ、壊ス……!
トリグリセリドヲ溢レサセ、命ヲ脅カス……!」
リュウは息を呑んだ。
「脂質異常症……!」
グリコが叫ぶ。
「悪玉コレステロール(LDL)が増えすぎたり、
善玉コレステロール(HDL)が減ったり──
血管に脂肪がたまり、動脈硬化を引き起こすんだ!」
獣は口から黒い液体を吐き出した。
それは血管を模した地面に染み込み、
どす黒い瘤を作り出していく。
「早く止めないと……!」
アミナが剣を抜いた。
「このままじゃ、血管が詰まって心筋梗塞や脳梗塞を引き起こす!」
リュウたちは獣に向かって突進した。
だが、獣の周囲には、さらに小さな怪物たちが群がっていた。
その中の一体が、膨れ上がった体でのしのしと歩み寄ってきた。
「オレハ……肥満魔……」
だらしない笑みを浮かべ、体中から余分な脂肪を撒き散らしている。
「余剰エネルギー、体ニ溜メ込ム……! 動キヲ鈍ラセ、病ヲ呼ブ!」
さらに別の影も現れた。
鋭い爪を持った細身の影──高尿酸鬼。
「オレハ……コウニョウサンキ……」
彼はにやりと笑い、体内に「痛みの結晶」(尿酸結晶)を撒き散らしていく。
「関節ヲ、腎臓ヲ、蝕ムノダ……!」
リュウたちは三方向から襲いかかる敵に立ち向かった。
「糖だけじゃない、脂質も、体を守るためにはバランスが必要なんだ!」
リュウは剣を振るい、脂質異常獣の結晶を砕いた。
アミナは素早い身のこなしで、肥満魔の脂肪を切り裂き、
グリコは光の矢で高尿酸鬼を打ち払った。
だが、敵はしぶとい。
日々の積み重ね──食生活、運動、ストレス。
それらが少しずつ少しずつ、命のバランスを狂わせ、巨大な敵を育てていくのだ。
戦いの末、リュウたちはついに三体を撃破した。
黒い湖は静かになり、空に光が戻った。
リュウは地面に膝をつき、息を整えた。
「日々の暮らしが……命を作るんだな」
グリコが微笑んだ。
「うん。
ちょっとの積み重ねが、大きな違いを生む。
体って、毎日が小さな選択の連続なんだ」
アミナがそっと言った。
「でも、気づいたら、取り戻せる。
今からでも、命は変えられる」
リュウは拳を握った。
「俺は……絶対に、命を守る力を身につける!」
次なる地は、骨の城。
命を支える「骨」と、それを守る「ビタミン」の力が待っている──!
リュウたちは、再び歩き出した──!
今回は「現代的な疾患」の代表格、糖尿病と脂質異常(および肥満)をテーマに描きました。
第11章では、糖が体内で適切に使われないことで起きる「高血糖状態」を、
インスリンという鍵と鍵穴のメタファーで表現しました。
鍵が合わなくなれば、糖は細胞に入れず、血中を彷徨い、やがて毒と化す──
その悲劇を「糖尿病鬼」として形にしています。
第12章では、余分なエネルギーが脂肪に変わり、炎症や脂質異常を招く過程を、
「脂質異常獣」「肥満魔」という存在に落とし込みました。
単なる体型の問題ではなく、慢性炎症、動脈硬化、インスリン抵抗性といった連鎖反応の怖さを描いています。
どちらも、日々の選択が積み重なった結果として現れる“生活習慣病”。
敵と向き合うことは、自分自身の生活と向き合うことでもあります。
物語を通じて、「知ること=防ぐ力」になることを願っています。