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第1章 糖の国グルコーサと甘き門番

糖の国「グルコーサ」──それは体の中で最初にエネルギーを生む場所。

異世界ビオティアに召喚された少年・リュウが出会うのは、甘き精霊グリコと、三つの門。

単糖、二糖、多糖。それぞれの性質と役割とは?

そして、体内の「消化と吸収」の冒険が始まる──!

光の道を進むと、リュウの前に広大な平野が開けた。

そこには、黄金色に輝く穂が一面に広がっていた。

 風が吹くたび、穂たちはさざめき、まるで生命の歌を奏でるかのようだった。

「ここが……糖の国、グルコーサ……」

セラから聞いた言葉を思い出す。

 ここは生命エネルギーの「第一歩」を司る地。体を動かすための燃料、糖質の源。

リュウは胸を高鳴らせながら、一歩踏み出した。

すると、道の途中に不思議な門が現れた。

 門は三つに分かれていた。それぞれの上には、古代文字が輝いている。

一つ目には「単糖」、二つ目には「二糖」、三つ目には「多糖」と刻まれていた。

「これは……試練か?」

戸惑うリュウの前に、ぽん、と何かが跳ねた。

 小さな、小さな、光る球体。それはまるで、甘い香りを放つ精霊のようだった。

「ぼく、グリコ! 糖の精霊だよ!」

球体はくるりと回転して、愛らしい声で名乗った。

「この国を旅するなら、まず糖質のこと、ちゃんと知らないとね!」

グリコは嬉しそうにぴょんぴょん跳ねながら言った。

 リュウはうなずき、グリコの後に続く。

最初の門、「単糖」。

グリコがぴたりと止まった。

「単糖はね、これ以上小さくできない、糖の最小単位なんだよ!」

リュウは門の前に立ち、そこに描かれた三つの紋章を見た。

グルコース(ブドウ糖)

フルクトース(果糖)

ガラクトース(乳糖成分)

「とくにグルコースは、ぼくたち生命体の"即戦力"エネルギーなんだ!」

グリコは胸を張った。

 リュウはその言葉に、今まで知らなかった世界への扉が開くのを感じた。

「単糖は、そのまま吸収できる。だから、これがエネルギーへの最短ルートなんだよ!」

リュウは門を押し開いた。

 光の粒子が舞い、彼の体を通り抜けた。

 次のステージへ──。

二つ目の門、「二糖」。

ここには、ペアになった二つの単糖が美しく組み合わされていた。

マルトース(麦芽糖)

スクロース(ショ糖)

ラクトース(乳糖)

「二糖はね、単糖が二つくっついたもの。でも、このままじゃ体に吸収できないよ」

グリコは人差し指を立て、ぴんと跳ねた。

「体の中に入るときは、ちゃんと"切り離して"単糖に戻さないと!」

門の中央には、銀色に輝くナイフのシンボルが浮かんでいた。

 リュウは手をかざし、ナイフで結びつきをスパッと切るイメージを描く。

──すると、門が静かに開いた。

「よし、うまいね!リュウ!」

グリコが手(?)をパチパチ打った。

三つ目の門、「多糖」。

ここはまるで、巨大な迷宮だった。

 無数の鎖が複雑に絡み合い、行く手を阻んでいる。

「多糖は、たくさんの単糖がつながった"巨大な貯蔵庫"だよ!」

グリコが言う。

 リュウは、迷宮の壁に刻まれた名前を読み取った。

デンプン

グリコーゲン

セルロース

「でも、多糖は分解が大変。デンプンやグリコーゲンは、人間の体で分解して吸収できるけど、セルロースは違う。だから、"食物繊維"なんだ!」

グリコが説明している間にも、迷宮の中に分岐が次々と現れる。

 どこを通ればいいのか──リュウは考えた。

「まずは、分解する力が必要だ。アミラーゼ……分解酵素だ!」

思いつくと同時に、リュウの手の中に光る剣が現れた。

 アミラーゼの剣を振るい、迷宮の鎖を断ち切りながら進んでいく。

やがて、迷宮を抜けた先に、金色に輝く広場が広がっていた。

「おめでとう、リュウ!」

グリコが嬉しそうに跳ねた。

糖の国、グルコーサの入口は、こうして開かれた。

 リュウは、まだ見ぬ冒険の続きに胸を高鳴らせた──。

金色の広場を抜けたリュウたちは、さらに奥へと進んだ。

目の前には、「消化と吸収の川」と呼ばれる巨大な流れが広がっていた。

 流れは三つに分かれ、それぞれ「口腔の川」「胃の峡谷」「小腸の大河」へと続いている。

「ここを渡らないと、糖たちはエネルギーになれないんだ」

グリコが真剣な顔で言った。

「リュウ、気をつけてね。ここからは酵素たちの世界だよ!」

そう言った瞬間、川のほとりに一人の小さな戦士が現れた。

「オレ様はサラミラーゼ! 口の守護者さ!」

赤いマントを翻したその男は、得意げに剣を振った。

 剣の刃には、なにやらキラキラした力が宿っている。

「こいつでデンプンをぶった切って、マルトースにしてやるんだ!」

リュウは思わず笑った。

 唾液アミラーゼ──口の中でデンプンを分解する最初の酵素。それが彼なのだ。

「よし、お願いするよ、サラミラーゼ!」

サラミラーゼが叫びながら飛び出すと、川を流れるデンプンのかたまりを次々と切り裂いていった。

 細かくなった粒たちは、マルトースの小舟になり、川を下り始める。

次にたどり着いたのは、「胃の峡谷」。

ここは酸の霧が立ち込め、ほとんどの酵素たちは活動できない場所だった。

「ここでは、糖質の消化はほとんど進まないんだ」

グリコが苦笑いする。

「胃の主役はタンパク質担当だからね」

リュウたちは、身をかがめて胃の峡谷を慎重に進んだ。

 谷を抜けると、いよいよ「小腸の大河」が見えてきた。

小腸の大河のほとりで待っていたのは、白衣をまとった美しい女性だった。

「私はパンクリアーゼ。膵臓から派遣されてきたわ」

彼女は優雅に微笑み、手に持った杖を振った。

「さあ、あなたたちをもっと細かくしてあげる」

パンクリアーゼ(膵アミラーゼ)の力で、デンプン由来の大きなかたまりはさらに小さなオリゴ糖に分解された。

その後、川の両岸に並ぶ三人の小さな騎士たちが現れた。

「オレがマルターゼだ!」 「わたしはスクラーゼよ!」 「オレっちはラクターゼだぜ!」

三人はそれぞれマルトース、スクロース、ラクトースに対応して、次々と単糖に分解していく。

グリコたちは喜びの声をあげた。

「これで、ぼくたち単糖は吸収できるんだ!」

リュウは目の前で起きている奇跡に見入った。

 すべてが、正確に、絶妙なバランスで動いている。

 まるで、巨大な工場の生産ラインのようだった。

単糖たちは小腸の細胞壁を通り抜け、血液の川へと乗り移った。

 リュウも一緒に飛び乗る。

「わあ……これが血糖か……」

川にはグルコースの舟が無数に流れている。

 そして、流れは「門脈」と呼ばれる本流へと合流していく。

「このまま肝臓へ運ばれるんだ」

グリコが解説する。

「肝臓はね、糖たちを一時的に蓄えたり、血糖値を調整したりする"管理センター"なんだよ!」

リュウはうなずいた。

体の中では、ただ食べたものがそのまま使われるわけではない。

 一つひとつが分解され、吸収され、管理されて初めて、生きるエネルギーになる。

「ねえ、リュウ」

グリコがふと真剣な顔になった。

「糖質にも、急に上がるやつと、ゆっくり上がるやつがいるんだ。これから、"血糖コントロール"ってすごく大事なテーマに入っていくよ」

リュウはその言葉を心に刻んだ。

すべての命は、繊細なバランスの上に成り立っている──。

 彼は、これから続く冒険の厳しさと尊さを、静かに感じ取った。

こうして、リュウたちは次なる旅路へ向かう。

 次なる舞台は、体内最大のエネルギー迷宮、「解糖の迷宮」だ──!


ここまでお読みくださり、ありがとうございます!


今回の冒険は「糖質」の基本と、消化吸収の流れを異世界ファンタジーとして描きました。

単糖・二糖・多糖の違いや、酵素の役割、血糖の旅など、

実際の体内で起こっている仕組みを楽しんでいただけたでしょうか?


次回は、「解糖の迷宮」──

糖がエネルギーへと変わる舞台で、リュウとグリコがさらなる試練に挑みます!


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夢から始まる壮大な世界観が好奇心を刺激しやがりましたね笑 疾患族という敵の存在や生命の工場という表現で生化学を冒険物語に落とし込んでいる点も斬新なアイデアですね 生化学という難しそうなテーマをこんなに…
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