『エネルギアの書 ~命の工場をめぐる冒険~』プロローグ「召喚」
この物語は、異世界を舞台に“体の中”の仕組みを冒険として描くファンタジーです。
医学や生化学の専門用語も登場しますが、すべて物語の中で楽しくわかりやすく解説しています。
知識ゼロでも大丈夫です。
「冒険×学び×命の神秘」にご興味がある方、ぜひお付き合いください!
その日、リュウは夢を見た。
白く、どこまでも広がる世界。空も大地もない。ただ、光が満ち、ざわめきが聞こえる。
──命の声だ。
何かに呼ばれている気がした。耳ではなく、心臓の奥に直接響くような声だった。
そして突然、リュウの体は宙に浮き、意識は光に溶けた。
目を開けたとき、そこは見知らぬ世界だった。
壮大な神殿。白い大理石の柱が天空へ伸び、中心には巨大な光の結晶が浮かんでいる。
その周囲を取り囲むように、無数のシンボルが浮かんでいた。
螺旋を描く鎖のようなもの、燃える輪、細かな歯車、流れる川──すべてが命の営みを象徴しているかのようだった。
「目覚めましたね」
声がした。振り返ると、一人の女性が立っていた。
銀色の髪を持ち、深緑のローブをまとったその人は、リュウをじっと見つめていた。
その瞳には、果てしない叡智と優しさ、そしてほんの少しの厳しさが宿っていた。
「私はセラ。エネルギア神殿の守護者です。リュウ、あなたをここへ招いたのは、命の力を継ぐ者としての資質を持っていたからです」
リュウは戸惑った。命の力?エネルギア神殿?何のことだろう。
自分はただ、普通の世界で、普通に生きてきただけだった。
「ここは生命大陸ビオティア。あらゆる生命が紡ぎだす奇跡の地。だが今、その均衡が脅かされようとしています」
セラは、空中に手をかざした。すると光のスクリーンが現れ、そこに映し出されたのは──
崩れかけた都市、枯れた森、倒れ伏す者たち。
そして、その影に蠢く黒い存在。
「疾患族──。生命の工場の歪みにより生まれた怪物たち。糖尿病鬼、脂質異常獣、骨粗鬆魔……」
リュウはごくりと唾を飲み込んだ。
「あなたには、この世界を救う力が眠っています。ですが、そのためにはまず、命の工場を深く理解しなければなりません」
命の工場──体の中で休みなく営まれる、無数の化学反応のことだ。
糖質、脂質、タンパク質、核酸──生きるための四つの柱。
それらがどのように働き、どのように織り成され、どのように乱れるのかを、学び、知り、戦う。
「リュウ。あなたにこの世界のすべてを教えます。生化学──生命の科学を」
リュウの胸に、何かが灯った。
それは恐怖ではなかった。燃えるような、知りたいという衝動。
そして──守りたいという決意。
「行きます。俺、やります!」
リュウの声が神殿に響き渡った。
その瞬間、彼の足元に光の道が現れた。
糖の国グルコーサへ続く、最初の道。
すべての冒険は、今、ここから始まる──。
ここまで読んでくださりありがとうございます!
「召喚されて冒険……でも舞台は“体内”?!」
と、思っていただけたでしょうか。
次回からは“糖の国グルコーサ”を舞台に、エネルギーの源「糖質」の世界へと旅立ちます。
体の中に広がる大冒険、どうぞお楽しみに!
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