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ヴェルシュタインの勇者

■ 本作について

本作は 世界観設定・アイディア構築・プロット立案をすべて著者自身が行っており、執筆の補助ツールとしてAIを活用しています。


■ 活用の具体的な範囲

自己規範にのっとり制作という一面はありつつも執筆であることは放棄しない方針です。

興味があればこちらをご覧ください→ChatGPT活用の具体的なイメージ[https://note.com/makenaiwanwan/n/nc92cf6121eb3]

■公開済エピソートのプロットを公開中

「主体性・創造性・発展性・連続性」を確保している事の査証が目的です。

https://editor.note.com/notes/n52fb6ef97d70/edit/


■ AI活用の目的とスタンス

本作は 「AIをどこまで活用できるか?」を模索する試み でもあります。

ただし、創作の主体はあくまで自分 であり、物語の本質やキャラクターの感情表現にはこだわりを持っています。

また、すべてを自身の手で執筆される方々を心から尊敬しており、競合するつもりはありません。

 ヴェルシュタイン公爵家の本城――その最上階、迎賓フロアへハルトは当然のように足を踏み入れた。

 この区画は魔王軍の直轄領として扱われており、城主である公爵ですら自由に立ち入ることはできない。


 魔王の夫にして軍の象徴たるハルトは“通された”のではない。

 そこは最初から彼の部屋だった。


 かつて貴族の謁見に使われていた重厚な空間は、いまや魔王軍の意匠に染め上げられている。

 赤と黒の絨毯(じゅうたん)に、壁を飾る魔王軍の紋章。

 人間の様式とは異なる異形の装飾が、旧公国の威光を無残に塗り潰していた。


 その部屋の扉の前には、リーゼ・シュトルムハイトが静かに立っていた。

 彼女が迎賓フロアに立ち入ることは可能だ。その資格も、権限もある。

 この城に仕える一般のメイドたちとは違い、彼女は“勇者ハルトの専属メイド”、すなわちこの地でVIP待遇を受ける立場にあるのだから。

 にもかかわらず、彼女は門番のように外で待機している。

 それには、彼女なりの理由があった。


「~~おっほぉ♡ 勇者さまぁあ♡♡♡」


 ハルトとミナが部屋に入って、すでに二時間は経っただろうか。

 重厚な扉の向こうからミナの声が漏れはじめたのは、半刻を過ぎたあたりだった。


 その声は言葉というよりも、もはや悲鳴に近い(あえ)ぎ。

 だが人払いは済んでおり、迎賓フロアに他の者はいない。

 この城を支配する魔王軍の領域で、ミナの乱れた声が人間たちの耳に届くことはない。


 ミナは少なくとも二度果てたはずだが声は止まず、三度目の絶頂が訪れたのだろう。

 リーゼは護衛任務のため、その場を離れることもできず、ただじっと立ち尽くしていた。


 そして、さらにしばらくの時が流れ――カチリ、と扉の錠が外される音がした。

 あれほどの声を上げていたミナが、何事もなかったかのような顔で現れた。


 わずかに朱が混じる(ほほ)と、微かに香るハルトの匂い。

 だが、背筋はすっと伸び、髪は乱れひとつない。

 眼鏡を指で押し上げるその仕草すら、まるで何もなかったかのように整っていた。


「リーゼ。いつまで扉の前に突っ立っているのですか」

「あっ……ミナさま……“お疲れさま”です」


 口にした瞬間、リーゼは自分の言葉を悔いた。

 そんなつもりではなかった。

 けれど、どこか含みを持たせたように聞こえてしまったのでは――そう思った瞬間、不安が胸を締めつけ、顔から火が出そうになる。


「リーゼ……あなたねぇ……」


 ミナは一歩だけ前に出ると、じっとリーゼを見つめる。

 なにかを言いかけたが、ため息をひとつ吐き、飲み込んだ。


「……まぁいいです、そんなことよりもリーゼ。本来なら、あなたも勇者さまのお相手をするべきなのですよ。それが、あなたの“役目”なのですから」

「……はい……申し訳ありません」


 小さな声で俯くリーゼの横に、気配もなくもうひとつの影が寄り添った。

 ミナの背後から、ハルトがゆったりと歩み出てくる。

 その姿はいつも通り飄々としていたが、目元には微かに柔らかさが宿っていた。


「ミナ、そんな風に(しか)らないでやってくれ。リーゼは良くやってくれているよ。まだその時じゃないんだ……だろう?」


 リーゼは驚いたようにハルトを見上げた。けれど、ミナは表情ひとつ変えず、ぴしゃりと言い返す。


「勇者さま、リーゼを甘やかさないでください。八千体の受精体の中には、この娘よりも若い個体などいくらでも存在します。ましてや彼女は専属メイド。その立場に見合う責任と報酬を受けているのですから」


 その言葉に、リーゼの肩が小さく震えた。

 母親に叱責された子供のように、彼女は静かにしゅんと項垂れた。


「まぁまぁ……今日の分はミナが頑張ってくれたんだから、問題ないだろう? えっと、何回だったかな?」


 ハルトの余計な質問に、リーゼは素直に答える。


「……三回です」

「ふたりともっ!」


 ミナの叱責が鋭く飛ぶ。


「……すみませんっ!」


 リーゼは反射的に頭を下げた。

 ハルトはミナがなぜ怒っているのか、心当たりがない様子だった。実にノンデリである。


(……勇者さまって、そんなに……たくさん……出されるんですか?)


 俯きかけたリーゼの視線は、自然とミナの下腹部へと向かっていた。

 気のせいか、ほんの少し、膨らんでいるように見えた。


(……やっぱり……私、勇気が出ません……)


 自分のような小柄な体に、勇者さまがのしかかることを想像するだけで、背筋がすくむ。

 嫌ではない。むしろ、ハルトは憧れに近い。けれど不安だった。


 どれくらい“出される”のかなんて、想像もつかない。

 リーゼは密かに、おしっこくらいの量を想定していた。

 それが全部自分の中に注がれたら……お腹が破裂してしまうのではないか、とすら思っている。


 そんな想像をしていた彼女の耳に、ミナの声が戻ってくる。

 金のポニーテールを揺らしながら、涼しげな顔でハルトに小言を言っている。

 その声は時おり、リーゼにも向けられていたが――彼女はぼうっとした表情で、ミナの目元を見つめていた。


(……ミナさま……こんなに綺麗なのに……あんな声、出してたんだ……私も……あんな風に……なっちゃうのかな……?)



  *



 ヴェルシュタインでの用件は滞りなく終了していた。

 ハルトとリーゼは、マンガナに騎乗して浮遊城(ザイゲンシュタット)へ戻ることになっている。


 ミナは残務処理のため城内に残る予定だが、「お見送りだけでも」と二人と共に出入口まで歩いていた。

 廊下には魔王軍の衛兵が並び、すれ違う者たちは一様に敬礼を送ってくる。


 ハルトとミナは並んで歩きながら、終始、真面目な顔で会話をしていた。


「“レジスタンス”と呼ばれてはいるけど、実態はただの“山賊”だ。問題なのは、やつらを“反魔王軍の象徴”だなんて持ち上げる連中がいるってことだよ」


 ハルトは苦々しげに言いながら、拳を軽く握った。


「支配への不満と反発を“正義”に転化する動きです。魔王軍に反抗すれば何でも英雄になる――その空気は危険ですね」


 ミナは静かに補足する。


「だから見逃せない。ああいう存在を放置すれば、“共生”の看板が嘘に見える」

「勇者さま、廊下に響いております。感情ではなく、実務として冷静に処理してください」


 そんな会話の後ろを、リーゼは一歩遅れて歩く。

 魔王軍の竜騎兵として最低限の甲冑(かっちゅう)は重ねているが、ベースとしてはメイド服。

 リーゼは膝丈のスカートを揺らしながら、黙って付き従っていた。


(……なんの話なんだろう? ……難しくて全然わかりません……)


 至って冷静で淡々としたミナ。

 時折、身ぶりを交えて熱く語るハルトーー二人は対照的だった。


 リーゼがハルトに抱いている印象は“爽やかな好青年”。

 きっと、多くの人が同じ印象を抱くだろう。

 だが今の彼の眼差しは、それだけではなかった。

 真っすぐで、まるで彼の信念そのものだ。


 リーゼは不意に言葉を漏らした。


「……かっこいい」


 自分でも驚くくらいの、素直なひとことだった。


「ん? リーゼ、どうかしたかい?」

「ひぃあっ!? ……ち、違いますっ! な、なんでもないんですっ!」

「……? 本当に? 何か気になることがあるなら、何でも言ってくれよ。力になるから」


 白い歯をのぞかせ、柔らかく微笑むハルト。

 その透明感と優しさに、リーゼの胸がかき乱される。


(……はわわ……素敵すぎます……勇者さま……)


 顔が熱くなって、声が出ない。代わりに思考だけが加速していく。


(でも……こんなに素敵なのに……さっきまで……あんなことを……)


 “あんなこと”とは、ハルトとミナが行った三回戦にも及ぶ子作りのことである。


 魔族は人間に比べて繁殖速度が格段に低い。

 これは、彼らが個体としての能力に優れ、かつ長寿命であることに起因している。

 人間ほど頻繁に新たな子を成す必要がなく、そのため受精の“ヒット率”は極端に低い。


 だからこそ、回数で補うしかない。

 ハルトは、ミナと――いや、彼女に限らず“受精体”たる面々と、昼夜を問わず“致して”いるのだ。


「……」


 リーゼは、そっとハルトの横顔を見つめた。

 心の内には、憧れとも、困惑ともつかない、複雑な感情が(あふ)れる。

 ハルトはリーゼの視線に気づき、ゆっくりと彼女の方を振り向いた。


「……? リーゼ?」


 まっすぐに向けられた栗色(くりいろ)の瞳。


「……変態……」

「急だなっ!?」


 リーゼは思考の暴走が止まらず、最後に浮かんだ単語がそのまま口から出た。

 ハルトは反射的にツッコむが、唐突すぎて面食らっていた。



  *



 リーゼの騎竜であるマンガナは、ヴェルシュタイン城の外壁の外――魔獣停留所で待機している。

 その場所は城下町とは逆サイド、川に面した開けた場所で、徒歩で五分ほどの距離にある。


 城の外縁から伸びる小道を辿(たど)っていくと、分かれ道に出た。

 右に進めば魔獣停留所があり、目的の場所だ。


「ミナ、リーゼ。少し歩かないか?」


 ハルトはそう言うと、返事を待たず左へ向かって歩き出す。

 城下町でも停留所でもなく、人目を避けるように川沿いの並木道を進んでいく。

 街の喧騒(けんそう)は徐々に遠ざかり、風の音と水のせせらぎだけが耳に届く。

 対岸には低い丘と、ところどころに畑が見えるが、このあたりには人の姿もほとんどない。

 (こけ)むした古い街灯が並び、整備が行き届いているとは言いがたい。


「勇者さま、どちらへ?」


 ミナが淡々と尋ねる。


「そのうち分かるさ」


 そう口にするハルトは足を止めず、表情も言葉も飄々(ひょうひょう)としている。

 だが腰に履いた長剣の(さや)をそっと整えていた。

 剣技における構えには至らないが、彼の心は確かに構えている。

 そのわずかな変化を、リーゼが感じ取ることはなかったが、ミナは気づいた。


「勇者さま。……いつからでしょうか?」


 ミナが小声で尋ねた。


「ずっとだよ、僕がここに来たときから。……まあ、さすがに城の敷地内には踏み込んでこなかったみたいだけどね」


 ハルトは視線を前に向けたまま、淡々と答える。


「……申し訳ありません。私としたことが、まったく気づけませんでした」


 ミナは反省の色を隠さず、ほんのわずかに眉を伏せた。


「仕方ないさ。“彼女”も、それなりに気配を消すつもりはあるみたいだしね」


 ハルトの言葉には、静かな警戒心と、それを隠すかのような苦笑が混じっていた。


 そのやり取りを聞いていたリーゼは、眉をひそめた。

 二人の会話の意味がわからない。

 浮遊城(ザイゲンシュタット)への帰路をわざわざ変更してまで歩くこの道に、何の意味があるのか。

 彼女は疑問をそのまま口にした。


「あの……お二人とも、何の話をされてるんですか?」


 その瞬間だった。ハルトがぴたりと歩を止めた。


「リーゼ」

「はいっ!」

「ミナと一緒に、その場から動かないでくれ」

「……えっ?」

「すぐに済むから」


 ハルトはそう言いながら、片手をゆらりと振り、背中越しに言葉を残した。


「リーゼ」

「……はい?」


 隣に寄り添うように立っていたミナが口を開いた。その表情は静かだが硬い。


「無闇に動かぬように。勇者さまの邪魔になる」

「……?」


 リーゼは戸惑いのまま、首を傾げる。

 だが、その意味を理解する間はなく、ハルトは二人から二十メートルほど離れた位置で足を止めた。

 軽やかな足取りはそのままに、足元を確かめるように踏み固める。

 左手が鞘を腰元まで引き寄せており、すでに抜刀の構えに入っている。


 ハルトにとって、剣とは使い慣れた道具でしかない。

 その“慣れ”ゆえに、普段は雑にぶら下げていることも多いが、今の彼は、確かに“それ”を使う気でいた。


「待たせたね! こちらの準備は整っている! いつでも構わないぞっ!」


 勇者ハルトが声を張り上げた。

 ここは、城からも町からも離れた川辺。

 辺りに人の気配はなく、ハルトの声は城壁に反響し、空へと吸い込まれていく。


「……勇者さま?」


 まだ状況を理解できていないリーゼが、小さく(つぶや)いた。

 ほんの少し前に「動くな」と命じられたばかりだというのに、思わず前のめりになってしまう。

 その体をほんのわずか、ハルトの方へ傾けた瞬間。


「リーゼっ! くるぞっ! 動くなっ!」


 ミナの鋭い声が静寂を裂く。

 その瞬間、雲ひとつない晴天に、あり得ないはずの雷鳴が(とどろ)いた。


 ゴッ……グワシャーーーーンッ!


 黄色い稲妻が地を()うように走り、一直線にハルトを襲う。

 視認すらできないほどの速さ。

 焼けた地面の痕跡で何かが(はし)ったのだと知れた。


 だがハルトは、大きく動くことはなかった。

 わずかに重心をずらし、最小限の動きで稲妻をかわす。


「勇者さまっ!」


 リーゼが思わず駆け寄ろうとした、その瞬間。

 ハルトは背中越しに片手を上げ、動きを制する。

 顔は煙の先、目と鼻の先に広がる前方を、じっと見据えていた。

 そして、まるで旧友にでも声をかけるような、飄々とした口調で言葉を放つ。


「やぁ、久しぶりだね。元気そうで何よりだよ」


 晴れていく煙の向こうから姿を現したのは、一人の美少女だった。


 金色の髪はミナと同系統だが、より明るく軽やかだ。

 うなじの辺りで二本のツインテールにまとめられ、左右に揺れている。

 年齢はリーゼと同じくらいだろうか。だが、控えめな彼女とは対照的に、目元も眉も表情も、どこか勝気な印象を与えた。


 ――ジッ……ジジッ……ジジッ!


 その小柄な体に、(はし)る稲妻が異様な存在感を加えている。

 雷に撃たれたわけではない。彼女自身が、それを“(まと)って”いるのだ。


 両手には、彼女の背丈ほどもある大剣があった。

 しかし、その重さをまるで感じさせない。

 木の枝でも扱うかのように、軽々と持ち上げる。

 その切先を、まっすぐにハルトに向けると 少女は()えた。


「リオネスの勇者! ハルト・アークブレイドっ!!」


 名を叫び、少女は大剣を構え直す。雷が弾け、地に火花が走る。


「アタシはヴェルシュタインの勇者――アリシア・ド・ベルモンド!」


 その声は空気を裂き、彼女の金色の髪を大きくなびかせる。


「逃がさないからね! あんたはアタシが斬るっ! この裏切り者! 覚悟しなさいっ!!」


最後までお付き合いいただき、感謝です!


「いいね!」と思っていただけたら、高評価をいただけると嬉しいです!


今後の励みになりますので、もしよろしければ……!

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