勇者拡散防止条約
■ 本作について
本作は 世界観設定・アイディア構築・プロット立案をすべて著者自身が行っており、執筆の補助ツールとしてAIを活用しています。
■ 活用の具体的な範囲
自己規範にのっとり制作という一面はありつつも執筆であることは放棄しない方針です。
興味があればこちらをご覧ください→ChatGPT活用の具体的なイメージ[https://note.com/makenaiwanwan/n/nc92cf6121eb3]
■公開済エピソートのプロットを公開中
「主体性・創造性・発展性・連続性」を確保している事の査証が目的です。
https://editor.note.com/notes/n52fb6ef97d70/edit/
■ AI活用の目的とスタンス
本作は 「AIをどこまで活用できるか?」を模索する試み でもあります。
ただし、創作の主体はあくまで自分 であり、物語の本質やキャラクターの感情表現にはこだわりを持っています。
また、すべてを自身の手で執筆される方々を心から尊敬しており、競合するつもりはありません。
「で? ヴェルシュタインで何すんのん?」
飛竜マンガナが、時折、翼を羽ばたかせながら言った。
彼女の背に乗る勇者ハルトは、いま雲の上。
高度およそ四千メートルを飛行中だった。
この高高度は気流が安定していて楽だ、とマンガナは言う。
彼女自身も、そして騎手である竜人リーゼも空を住処とする者たち。
しかし、普通の人間にとっては高山病のリスクがある高度である。
だが、今日、同乗している男は“ぶっ壊れ技能構成”の勇者であり、“技能:環境適応Ⅲ”により、まるで地上にいるかのように平然としている。
彼は、視界の下に現れた渡り鳥の一団を目で追いながら、淡々と口を開いた。
「用事という程でもないんだけどね。ヴェルシュタイン公爵に“挨拶”をするだけなんだ」
あえて軽く言ったつもりなのだろうが、その声にはどこか言い切らない余韻が残っていた。
「なんやそれ〜、めっちゃ含みある言い方やん?」
「杞憂だよマンガナ。本当に挨拶なんだ。むしろ、挨拶だけなんだよ。その為だけに数時間も空の上だ」
「何かお祝いごと……でしょうか?」
リーゼが控えめに質問する。
「ちゃうちゃう、リーゼ。これはな、政治の話や。なぁ、勇者はん?」
マンガナの言葉に、ハルトは小さく笑みを返す。だがそれは、楽しげなものではなかった。
どこか乾いた、演技じみた笑いだった。
「ヴェルシュタイン公国……今は魔王軍、我が妻フィデリアの領土だ。だから“元”公国だね」
現在この地は“ヴァルエンツァ魔王軍ヴェルシュタイン領”が正式名称となっている。
数年にわたる魔王軍の侵攻により、貴族階級の大半は一掃された。
かつて最有力だった公爵だけが地位を残すが、側近はすべてフィデリアの息がかかった者たち。実質、ただの傀儡だ。
民の混乱を避けるため、“形式上の統治者”にすぎない。
「公爵殿への挨拶だよ」
「ほな、リオネス王国の勇者で、魔王のダンナはんがわざわざ来る。それだけで、十分メッセージになるわけやな?」
その言葉に、リーゼが首をかしげる。
「メッセージ……?」
「魔王軍は共に生きる気ぃありますよ~って、民に見せるんやろ。せやから……余計なこと考えんときや、ってことや。たぶん、知らんけど」
ダイスワールドの一面――人間界において、“勇者”とはすなわち“力”そのものである。
神族や魔族のような高位種族は、生まれながらにして強く、完成された存在だ。
だがその完成度ゆえに、変化も進化もない。安定しすぎた種は、いつしか成長を止める。
対して人間は、脆く、不安定で、寿命も短い。
だが、その不完全さこそが、世代交代の速さと進化の可能性につながっている。
極めて稀な確率、数千万分の一、あるいはそれ以下の“上振れ”。
その突然変異が、国家に匹敵する戦力を一人で担う。それが“勇者”という存在である。
基本的にこの“勇者”は“確率的に”人間の中でしか発生せず、その力は神族や魔族ですら一目を置くほどだ。
だが、あまりにも強すぎる力は、いつの時代も管理の対象となる。
“勇者拡散防止条約”。
人間界の五大国によって締結されたこの条約は、勇者の保有・育成・独占を“抑止力の観点から”制限するという建前で成立している。
実態は、勇者という戦力を小国に持たせないための、あからさまな牽制でしかない。
勇者を一人得た小国には、監視が入り、育成は制限され、複数人を保有しようものなら、経済制裁や武力介入の口実にすらなる。
力を持てば潰される。正義の名を借りた理不尽が、堂々とまかり通る世界。
“バランスブレイカー”を恐れた者たちが作り上げた、皮肉なまでに脆く、不公平な“秩序”。
それが今の人間界である。
「ごめんなさい……むずかしい話は、よくわかりません……」
リーゼが俯きがちに言葉を落とす。
「はははは、気にするなリーゼ。僕も似たようなものさ、妻と秘書に“行け”と言われたから。それだけの理由で向かっているんだからね」
肩をすくめて笑うハルト。その口ぶりは軽いが、どこか吹っ切れたようでもあった。
「そういや、あの堅物どうしたん? いつもアンタにピッタリついとるやん、金魚のフンみたいに」
「堅物……ミナの事かい? ミナなら段取りがあると言って、先に向かっているよ」
「ふ~ん、そうなんや」
マンガナが鼻先をぐいと前方に向けながら声を上げた。
「おっ、そんな事を言うてる間に、見えてきたで~」
ヴェルシュタイン公国――魔導機械の技術で発展した、黒鉄と魔力の都市国家。
魔力を動力源とする機械技術において人間界で一歩抜きん出たこの国は、かつてはダイスワールドが一面――“魔界”とも交流を持ち、魔族たちとの技術協定すら交わしていた。
その影響は街並みにも色濃く現れている。
黒と赤を基調とした建築群が幾何学的に並び、空から見下ろすその都市は、まるで魔界の小縮図のようだった。
街を囲む外縁部には村や工業都市が点在し、それらを越えて飛行してきたハルトたちは、やがて中央部に位置するヴェルシュタイン公爵家の居城を視界に捉える。
ヴェルシュタイン公国は、ヴァルエンツァ魔王軍ともかつては一定の関係を築いていた。
技術交流、物資の流通や人的なやり取りがあり、“対話できる魔族たち”という淡い期待もあった。
だがこの地は、今や魔王軍の支配下にある。
圧政や重税、腐敗しきった支配層への不満が民の中に燻っていたこともあり、いざ魔王軍が侵攻を開始しても、街にはほとんど抵抗の声は上がらなかった。
抗うべき“主”が、民の信を失っており、ヴェルシュタイン公国は、ほとんど血を流すこともなく魔王軍の一部と化した。
魔族とは、そういう存在である。
“共に歩もう”と微笑みながら、事情が変われば、容赦なく飲み込む。
だがそれは、魔族に限った話ではない。
力ある者は、いつだって“共生”の名のもとに支配を選ぶ。
それがこの世界の“秩序”であり、どの種族も例外ではない。
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