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魔王さまは臭くない

■ 本作について

本作は 世界観設定・アイディア構築・プロット立案・執筆の体部分などすべて著者自身が行っており、執筆の補助ツールとしてAIを活用しています。


■ 活用の具体的な範囲

自己規範にのっとり制作という一面はありつつも執筆であることは放棄しない方針です。

興味があればこちらをご覧ください→ChatGPT活用の具体的なイメージ[https://note.com/makenaiwanwan/n/nc92cf6121eb3]


■公開済エピソートのプロットを公開中

「主体性・創造性・発展性・連続性」を確保している事の査証が目的です。

https://editor.note.com/notes/n52fb6ef97d70/edit/


■ AI活用の目的とスタンス

本作は 「AIをどこまで活用できるか?」を模索する試み でもあります。

ただし、創作の主体はあくまで自分 であり、物語の本質やキャラクターの感情表現にはこだわりを持っています。

また、すべてを自身の手で執筆される方々を心から尊敬しており、競合するつもりはありません。

 空調の効いた玉座の間は、人間であるハルトには快適そのものだった。


「キミら魔族が、暑さ寒さに強いのはわかったけどさぁ……」


 彼はそう言いながら、メイドのひとりが差し出した果実酒を口にする。


「まだ何か言いたいことがあるのですか? ……まったく、男というのは無駄に言葉が多い」


 ミナがキレ長の瞳をさらに細めた。


「あっ! ミナ、いまどきソレはないぞっ! 男だろうと愚痴のひとつやふたつあるだろう? いや……そうじゃなくて、愚痴を言いたいわけじゃない。ただの“疑問”だよ」

「疑問、ですか……大した内容とは思えませんが、どうぞお話しください」

「ひどいぞ。聞いてみないとわからないだろう?」

「聞かずともおおよその見当はつきますので……では、どうぞ」


 ミナは細くしなやかな指先で、ハルトの言葉を促した。

 その態度にムッとしたハルトは口を(どが)らせる。


「そんな言い方はないだろう? 言いたくなくなったな」

「そうですか……こちらは別に困りませんので」


 ミナはそう言って、そっぽを向いた。


 ハルトは勇者であり、魔王フィデリアの伴侶でもある。

 本来ならミナにとって主にあたる存在だ。

 その彼に対し、ここまで素っ気ない態度を取るのは、不敬と受け取られてもおかしくない。


 しかし、誰も(とが)めない。

 ミナの立場もあるが、それ以上に日ごろのハルトの言動が原因だった。


「まった! わかった! 言うよっ、言うからっ、聞いてくれ!」


 ミナは魔王の側近であると同時に、ハルト専属メイド隊のトップであり、秘書メイドの長でもある。

 四六時中ハルトに付き従い、受精体としての任務も率先してこなしている。

 伴侶であるフィデリアよりも遥かに多くの時間を彼と共にしているのだ。

 心の繋がりは別として、肉体的な繋がりという点では、魔王軍随一であろう。

 なんなら、ハルトと他の受精体との行為を身近で“確認”し、着床率の向上を目的とした研究すら行っている。


 そんなわけで、ミナの態度は“不敬”ではなく“親密さ”として周りには映っていた。


「フィデリア」

「どうしたハルト?」

「その、いつも履いてるブーツってムレない? ほら、女の子も臭くなるって言うだろ?」


 ハルトの問いかけにフィデリアが応じた。

 そして、彼が首をかしげて続けたのは、そんな台詞だった。


「勇者さまっ!」


 怒号が玉座の間に響いた。


「うわ……ビックリしたぁ……ミナ、どうしたんだよ?」


 耳の奥に「キーン」という音が残る。


「驚いたのはこちらです! ま、魔王さまに向かって……く、臭いなどとっ! 言語道断ですっ!」


 ミナは理路整然としていて、感情ではなく理屈で動く才女だ。

 だが、ときおり……いや“たびたび”発せられるハルトの“ノンデリ”には、感情が先に立つ。

 それも、魔王を慕えばこその反応だ。


「いや、女の子でも臭くなるものは臭くなるだろう? 仕方ないじゃないか?」


 この場に存在する魔王フィデリアを含む百の受精体に、“整って”いない者はいない。

 容姿端麗の品評会のようだが、その魔族女性たちを“相手”するハルトもまた眉目秀麗である。


 彼は、その“美眉”をしかめた。


「そんな話をしたいのではありません! 不敬だと言ってるんですっ!」


 ハルトは道理の通じない男ではないし、知力が低いわけでもない。

 ただすこし“常識”に欠けているのだ。

 それがゆえの腹立たしさをミナは感じていた。


「臭いって言うのが?」

「違いますっ! い、いえ……そういう話でもありますがっ! と、とにかく色々とダメなんです! そもそも魔王さまは“臭くない”のですっ!」

「そうなのフィデリア? 臭くないの?」


 ハルトは玉座の隣に設置された椅子に腰かけている。

 そこからラフに半身乗り出して伴侶を見やった。


「勇者さまっ!!」

「よいよい……ミナ。夫であるハルトがわらわに興味を持っているのだ、嬉しいことだ。それが“匂い”の話であってもな」


 いよいよ殺気すら帯びたミナの怒りを、フィデリアは静かに(いさ)めた。


「……しかし、魔王さま……」


 当の魔王がそう言おうとも、ミナは腹に収めかねていた。

 勇者のノンデリはいまに始まったことではなく、接する機会の多い彼女には、日に数度“口を滑らされる”ことも珍しくない。

 もはや、慣れていると言ってもよい。


 しかし、魔王に対しての“ソレ”を許すわけにはいかない。


「構わぬ、と言っておる。証明してみせれば良いのだ。“臭くない”とな」

「はっ!」


 フィデリアはそのままミナへ視線を向け、怒りも忠義もすべて見通したように、ひとつ(うなず)いた。

 それだけで“納めよ”という意を伝えた。


「ん? 証明って何をだい?」


 ハルトの質問に答える代わりに、フィデリアは身をかがめた。

 王の椅子に座したまま、長い指先がロングブーツへと伸びる。その動きに合わせ、ハイサイの隙間から肉感のある太腿(ふともも)がわずかに覗いた。

 周囲の面々は畏れ多さに視線をそらしたが、ただひとり、ハルトだけは目を離せずにいた。


「フィデリア……?」


 自らが生唾を飲み込む音が聞こえるようだった。

 目を背ける必要はない。なぜなら、フィデリアは自分の妻なのだから。


 それが裸であろうとも、見てはいけない理由はどこにもない。

 一国の王であろうと、神族であろうと、魔族であろうと、上位の神々ですら(とが)める理屈は持ち合わせていないのだ。

 彼の正当性は、薬指のリングが証明するからだ。


「ほれ、匂うてみい」


 フィデリアはそう言いながら、ワインの注がれた杯でも差し出すようにロングブーツを向けた。

 ぽっかりと開いた脚口には、履かれていた痕跡が生々しく残っている。


「ええっ!? フィデリア! 本気なのか?」


 太腿(ふともも)に気を取られていたハルトは、呆気にとられた。思いがけない提案だった。


「冗談などであるものか」

「うーん……」


 目を見開く夫に対し、淡々と返す妻。

 とはいえ、ここで席を立ってブーツへ顔を寄せる――そんな行為を平気でとれるほど、ハルトも分別のない男ではない。

 判断に迷う彼を前に、玉座の間には妙な沈黙が落ちた。


「魔王さまっ! そんなことしたら勇者くん喜んじゃいますよ!」


 その空気を破ったのは、ある意味で彼以上に“ノンデリ”なネメラだった。


「ネメラっ! 何言ってるんだよ! そんなことで喜ばないよっ!」


 ハルトは、そのネメラの発言に全力で乗った。

 戸惑っていた彼にとって、判断を先延ばしにできる、ちょうどいい逃げ道でもあったからだ。


「だって、勇者くんってば、匂いフェチじゃないですかぁ?」

「誰がだよ!」


 部屋の壁際に整然と立ち並ぶメイド隊。

 その先頭にネメラは立っていて、ハルトからはすこし離れた位置にいる。


 当然、その距離でのやりとりなので、ふたりは声を張り上げていた。

 厳かであるべきこの場所で、本来はあり得ない喧騒(けんそう)だった。


 しかし、ハルトとフィデリアが結婚してからというもの、この喧騒は日常となっている。


「アナタだよー!」

「ご褒美だよね?」

「変態フェチ勇者!」


 ここぞとばかりに声をあげるメイドたち。


「おいっ! お前ら勝手なこと言うな!」


 勇者ハルトとの子を“(はら)む”ことを任務としている彼女たちではあるが、それは軍への、魔王への忠誠によるところが大きい。

 彼自身を慕っているわけではないのだ。

 むしろ、機会があれば文句のひとつやふたつ、届けなければと考えている。


 それもまた、彼と彼女たちの日常となっていた。


「でも、事実じゃないですかぁ? 勇者くんって、髪の匂いとか、嗅いで来ますよね?」


 ネメラは指先をくるくる回しながら、悪びられる様子もなく、むしろ楽しげに言った。


「嗅いでない! 呼吸だよ!」

「胸の谷間とかー、首筋とか? 脚とか? 嗅いでますよね? もしかして、バレてないって思ってました? 勇者くん?」

「それは愛撫(あいぶ)だろっ!」


 ネメラの追撃を受け、ハルトも咄嗟に言い返す。

 が、流石にこの“返し”は筋が悪すぎたと気づき、言葉を整えた。


「いや違うっ! なんかいまのは違うっ! だーかーらー、呼吸してるだけなんだよっ!」

「へーそうなんですかぁ? あれは呼吸なのかぁ? へぇ?」


 ネメラは悪戯っぽい笑みを浮かべると、白い肌が透け、頭骨の影が浮かんだ。

 その後の言葉を続けたのは、彼女の背後にいるメイドたちだった。


「くんかくんか言ってるのに?」

「下着の匂いまで嗅いでますよね?」

「バレバレですよ? ド変態勇者さま?」


 何時も通り、この場に百人いるメイドの誰が発言しているかわからない。

 特定ができないように巧妙に連携しているからだ。


「おい、辞めろ! 変態扱いするな!」


 悪口を言った個人が誰かはわからない。

 であるから、ハルトは声のした方にいるメイドたちに向かって叫んだ。

 ありとあらゆる攻撃を見破り、回避、迎撃する勇者の感覚(センス)だが、彼女たちはそれを易々と欺いてくる。


 ダイスワールドが一面、人間界にはこんな言葉がある――女の嘘を男は見破れない。

 隣接する一面である魔界でも似たような(ことわざ)は多く語られている。

 どの世の中でも、男は阿呆であり、その阿呆さに気づかない程に馬鹿なのだ。


 ともかく、厳粛な雰囲気であったはずの部屋は、ハルトとメイドたちの喧騒(けんそう)で包まれた。

 だが、その賑やかさも次の瞬間に静まり返る。


「オマエ達っ! 魔王さまの前で無用な口を挟むなっ! あの御姿勢のままお待たせしているのが解らないのかっ!」


 ミナが一喝とともに指し示した先には玉座があり、ブーツを差し出したままの魔王フィデリアが居る。

 彼女の凍えるほどの美しさは、その滑稽ともいえる姿すら、一枚の名画のように変えてしまっていた。


 とはいえ、間抜けと言えば間抜けでもある。

 あるメイドは青ざめ、また別のメイドは全身から吹き出す冷や汗を感じた。


「「「申し訳ありません!」」」


 メイドたちは一斉に姿勢を正した。背筋に芯の通った見事な直立不動だった。


 メイド隊の主は、“建前上”ハルトということになっている。

 しかし、彼女たちはメイドである前に魔族であり、ヴェルエンツァ魔王軍に所属する軍人でもある。

 勇者のことはどうでもいいが、魔王への非礼は万死に値する。


「すまんフィデリア……こいつらがさぁ……」


 流石のノンデリも、バツが悪そうに()びた。

 とはいえ、悪いのは茶々を入れたメイドたちだという、その気持ちは譲れない様子だ。


 すこしの沈黙が流れた後、改めてハルトは妻の目を見る。

 フィデリアも夫の視線を堂々と受け止めた。


(どうやら冗談ではなさそうだ)


 そんな考えがハルトの頭をよぎった。

 脱ぎたてのブーツを“嗅げ”というフィデリアの言葉に嘘がないからだ。


 そもそも、これが冗談で言っているとしたら落としどころが難しい。

 鼻を近づけた途端に「ジョークだ」では、あまりに無慈悲だ。

 ただ相手に恥をかかせるだけの行為でしかない。

 フィデリアは王なのだ、そのような“下品”はしない。


「僕が言い出したことだからなぁ……引かないでくれよ?」


 そんな台詞を口にしながらも、ハルトは胸の高鳴りを感じていた。

 フィデリアとは相思相愛で、正真正銘の夫婦ではあるが、彼女に関する多くのことをまだ知らない。


 寝相は良いのか悪いのか、いやそんなことよりまずは寝顔を見てみたい、きっと美しいのだろう。

 触れてみたい――頭のてっぺんからつま先まで、そのすべてに触れてみたい。

 外から中まで、魔王のすべてを知りたいのだ。


 メイドたちの言うように“匂いフェチ”などではない……と、本人は信じている。

 だが、もういまは“どんな匂い”がするのか、気になって仕方がなかった。

 いまさら“なし”にはできない。


「なぜそんな心配をする? わらわから言い出したことだぞ?」


 それはそうなのだ。

 そして、その保証があれば、彼には迷う理由がない。


「では失礼して……(すんすん)……あれ? (すんすんすん)……なんだって!?」

「どうした? 我が夫よ」

「臭くないっ! むしろ“良い匂い”がする!」

「ふふふ。そうか“良い匂い”か」


 フィデリアの傍に控えるミナが、キラリと眼鏡を光らせる。


「当然です。臭気の原因は、汗や皮脂を分解する常在菌の活動にあります。しかし魔王さまの皮膚は、肉と魔力、そして微量の重金属元素によって構成されており、雑菌の繁殖は物理的に不可能です。さらに“高位魔族(エピックデーモン)のオーラ”によって、空気中の菌すら寄せつけません。結果として魔王さまの体表は常に清浄……いわば、“絶対清潔領域”なのです」

「そ、そうなんだ……でも、それなら無臭でもおかしくないだろ?」


 道理である。“悪い匂い”を断つというのであれば、“良い匂い”が消えてしまっても何もおかしくはない。

 では、なぜそうならないのか?


「女性型魔族の魔力源は下腹部、つまり“子宮”にあります。そこから全身へ魔力が循環する過程で、微量の“魔香素”が揮発します。それが勇者さまの仰る“良い匂い”の正体です。いわばフェロモンの一種で、高位になるほど香気は強く、心地よく感じられます」

「なるほど。そうなのであれば納得だよ。レベルが高ければ高いほど……“良い匂い”ってことだろ?」


 ミナの淡々とした説明に、ハルトが関心したように(うなずく)く。


「そんなに“良い匂い”なのか? 自分ではわからぬでな」


 フィデリアは目を細く閉じ、ふっと笑みを浮かべてそう言った。


「ミナの説明が確かなのであれば、リオネスで……いや、ダイスワールドで一番“良い匂い”に決まっているだろう。我が妻よ」

「そうか、貴様がそういうのならそうなのだろう。我が夫よ」


 見つめ合う勇者と魔王のふたり――お互いがお互いに一番であると疑わぬ夫婦だ。

 ミナもメイドたちも、ただ見守るだけしかできなかった。


「勇者くん。聞かせてください! ちなみにどんな“良い匂い”なんですか? 薔薇(ばら)とか? 果実とか?」


 そんなふたりの間に割って入るのは、やはりネメラだった。


「うーん……そうだなぁ……」


 ハルトは顎に手を当て、少し考える。


(けが)れのない……“女の子”の匂いだな」


 爽やかに答えたその一言が、場の空気を変えた。


「えっ……あ……」


 ネメラは目を丸くする。


「ん? おいなんだその目は!」


 ハルトがすぐさま噛みつく。


「勇者くん。なんだか……“キモい”です」


 ネメラは表情を曇らせる代わりに、皮膚が透過し、骨格が丸見えになった。

 あまりの驚きに受肉体が霊界へと引っぱられたのだろう。リッチならではのリアクションである。


「おいなんだよネメラっ! キミが聞いてきたんだろ?」


 反論するハルトをよそに、メイド隊が口々に不満を漏らす。


「もっと言いようあると思う」

「だよねー……」

「もうやだこの変態勇者……」


 その三つの声を手始めに、玉座の間のあちこちからも、同じようなヒソヒソとした(ささや)きが漏れ始めた。


「おいっ! 陰口やめろっ!」


 叫んだその手には、フィデリアのブーツがしっかりと握られていた。

別の連載作品がクライマックスなので、そちらメインで執筆を続けています。

とはいえ、夏の間に終わらせたかったエピソードが終わってなかったの急遽ねじみこました!

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