抵抗
■ 本作について
本作は 世界観設定・アイディア構築・プロット立案をすべて著者自身が行っており、執筆の補助ツールとしてAIを活用しています。
■ 活用の具体的な範囲
自己規範にのっとり制作という一面はありつつも執筆であることは放棄しない方針です。
興味があればこちらをご覧ください→ChatGPT活用の具体的なイメージ[https://note.com/makenaiwanwan/n/nc92cf6121eb3]
■公開済エピソートのプロットを公開中
「主体性・創造性・発展性・連続性」を確保している事の査証が目的です。
https://editor.note.com/notes/n52fb6ef97d70/edit/
■ AI活用の目的とスタンス
本作は 「AIをどこまで活用できるか?」を模索する試み でもあります。
ただし、創作の主体はあくまで自分 であり、物語の本質やキャラクターの感情表現にはこだわりを持っています。
また、すべてを自身の手で執筆される方々を心から尊敬しており、競合するつもりはありません。
浮遊城の上層部。
石造りの静謐な通路が伸び、その突き当りには一枚の木扉が控えている。
両脇を固める衛兵に、油断はない。
蟻一匹の侵入すら許さぬ、鉄壁の構え。
だが、この部屋の主はそれらを必要としていない。
この城の主、魔王フィデリアに次ぐ強者。
ここは勇者ハルトの私室だった。
天井は高く、白い壁に囲まれた空間は広く清潔に整っている。
部屋の中央には、天蓋付きのベッドが鎮座していた。
サイズも過剰なほどに大きく、圧倒的な存在感。
周辺には、シンプルながら上質な机と椅子。
暖炉のまえには、厚みのあるソファセットが並ぶ。
壁際の本棚には、難解な活字本や専門書がびっしりと整然に並んでいる。
だが、そのすぐ隣のサイドテーブルには、開きっぱなしの漫画や雑誌が無造作に積まれていた。
本棚の方はほとんど手つかずのまま。ハルトが目を向けるのは、もっぱらこちらだった。
武器ラックも置かれているが、そこにあるのは二振りの長剣だけ。
ひとつは使い込まれた鋼鉄の長剣、銘を持たない量産品。
もうひとつは、フィデリアから贈られたヴァルエンツァ家の儀式用の長剣。
彼は“技能:武器熟練Ⅲ”を持ち、あらゆる武器に精通している。
それにしてはあまりに寂しく、ラックの空きスペースが虚しく目立つ。
武力の象徴である“勇者”にとって、武器は商売道具のはずだが、ほんのすこしの執着もない。
その気になれば、素手で魔物を屠る彼にとって、大事にする程のことでもないのだろう。
「ふぅー……暑いなぁ」
ハルトは大窓の向こう、バルコニーに視線を向けた。
遥か眼下に城下の街並み、さらに遠くには雲の海が広がり、そこからサンサンと太陽光が降り注ぐ。
汗ばむ首筋を腕で拭い、手のひらでパタパタと風を送る。
襟なしの薄手シャツに、膝上丈の短パン。足元はサンダル。
色あせた私服感のつよいラフな格好。王城には不似合いだった。
「勇者くん。窓、あけましょーか?」
静かな声が背後から届く。
二十四時間、三交代シフト制。三百十六名の専属メイド隊のひとり、ネメラである。
夏用の半袖エプロンドレスに、薄手のガーターストッキング。足元はローヒールのパンプスでそろえている。
布地こそ軽いが、型はしっかりしており、正装の格式は崩れていない。
薄着だが涼しそうには見えない。その格好は、美観と品位を最優先にしたものだった。
ラフすぎるハルトの装いと並ぶと、温度差がすごい。
「うん、頼むよ」
ハルトの返事を受けて、ネメラはハタキを手にしたまま壁際へと歩み寄った。
まず手をかけたのは、大窓。日中に陽光を取り込む方角に面している。
フレームが擦れる音を立てながら、窓は押し開かれた。
涼しい風とまではいかないが、室内に籠もった熱気がふっと外へ逃げていく。
次に、バルコニーへとつながる硝子戸の錠を外す。
小柄なネメラが両手で押すと、大きな扉がゆっくりと動き出した。
ほのかな夏の匂いをまとった風が、緩やかに室内へと流れ込んでくる。
「ふぅ~……」
ハルトはため息をひとつ。部屋の片隅に設置された魔導空調機を見上げた。
可動音はせず、静かに壁に埋まっているだけ。
熱交換魔導石によって、室内の熱を室外に“捨てる”仕組みの魔導機械。
だがそれも、数日前から故障したままだった。
「こんな時期に、魔導空調機が故障するなんてね……ついてないよ」
頬をつたう汗が、じんわりと流れる。
ダイスワールドの一面、人間界にはいま、夏が訪れていた。
この面で最も数が多いのがヒューマン族。いわゆる、普通の人間たちだ。
ドワーフやノームなど、似て非なる種を“亜人”と呼び、しばしば見下す傾向にある。
だが、実際には彼らよりもはるかに脆く、寿命も短い。
真夏の炎天下であれば、一時間と持たずに熱中症に陥るほどだ。
ヒューマンとは、それほどまでに脆弱な存在である。
「そんなに暑いですか?」
そう口にしながら、ネメラが振り返る。
頭を振った勢いと、窓からの風。その二つが、彼女の髪をふわりと揺らした。
「汗だくだよ」
ハルトは肩をすくめて応える。
シャツの襟を引っ張ると、布地には大量の汗が染み込んでいた。
「どうして? 勇者くんって、火も水も、ほとんどの属性がまったく効かないですよね?」
ネメラが小首をかしげる。
いまでは彼女も、ハルト専属のメイド。
勇者の子を宿すことを役目とする“受精体”のひとりである。
けれど、ほんの一年前まで、ふたりは敵同士だった。
隣国ヴェルシュタイン公国を征服し、リオネス王国への侵攻を開始したヴァルエンツァ魔王軍。
資源国家だったリオネスは軍備が手薄で、亡国の危機に瀕した。
だが、正規軍の奮戦と何よりハルトの活躍によって、その侵攻は退けられ、リオネスは危機を脱した。
その頃、魔王軍死霊部隊長だったネメラは、何度もハルトと剣を交えた。
彼女もまた、ヒューマン族である。短命なはずだが、その生まれは数千年前に遡る。
ネメラは、寂れた集落の長の娘だった。それでいて、魔術の才に恵まれていた。
寝る間も惜しんで地下室にこもり、黙々と研究に打ち込んでいた。
両親は何も言わなかった。魔導書でも、触媒でも、欲しがれば何でも買い与えた。
才ある娘を自由にさせ、何も制限しなかった。それが、間違いだったのだ。
魔術の深淵に触れたネメラは、生きたまま死んだ。
そのまま地下室にとどまり、研究を続けた。両親が死に、村が朽ちても、彼女は動かなかった。
やがてその廃墟は迷宮化し、ネメラは“迷宮の主”と呼ばれるようになった。
それが、ほんの五十年前のことだ。
ネメラは死霊術を最も得意とするが、原始精霊魔術にも通じている。
火・水・土・風――あらゆる属性を自在に操る、達人の魔術師。
火と風を組み合わせた“爆炎系”の複合属性魔術。火と水の相克を逆手に取った半属性の禁術。
原始精霊と深く契約しなければ行使できないそれらも、ネメラは難なく扱ってみせる。
術体系こそ古く、燃費も悪いが、その威力は近代魔術を凌駕する。
その強力な術の数々を、ハルトは過去にすべて受けてきた。
だが、彼には通じなかった。
「うーん、たしかにそうなんだけどさ。暑さ寒さは感じるんだよ。汗もかくし、不快ではあるよ」
ハルトは、雷に撃たれても無傷。
溶岩が満ちたプールでも、きっと平然と泳げる。
だがそれは、ただの“抵抗”にすぎない。感覚がないわけではなかった。
四六時中、気を張っていれば別だが――暑さ寒さは普通に感じるし、汗もかくし、寒ければ震えもする。
「へぇ~そうなんですね!」
ネメラが感心したように頷いた。
火球も、魂を穢す波動も、即死の呪いすら。
あらゆる術を通さなかった勇者の本音に、素直な驚きを見せる。
「そういうネメラはどうなんだい?」
「うーん、わたしは暑さ寒さはそんなに感じないです! 死んでるからかなぁ?」
小首をかしげたネメラの頬に、柔らかな光が差し込む。
肌はひんやりとしていて、見ているだけで涼しさを覚える。
時おり輪郭がかすかに透け、頬骨や鎖骨の形が浮かび上がった。
死してなお歩む者、リッチであることの証だ。
「あれ? 勇者くん、どうしました? わたしの顔に何かついてます?」
ネメラは、じっと見つめる熱っぽい視線に気づいた。
自然とハルトと目が合う。彼はぼんやりとした顔で、ネメラを見つめていた。
「勇者くん?」
そのまま、ハルトがすたすたと歩き出す。
真っすぐ、ネメラの方へ。
「ちょっと失礼」
そう言いながら、ためらいもなく彼女に抱きついた。
あまりにも自然体で、戸惑いすら感じさせない。
「勇者くん? どうしたんですか? 今日のわたしは部屋の掃除当番です! 夜伽は……子作りは別のメイドが担当ですよ!」
ネメラの声が、すこしだけ上擦る。
ふたりには身長差があるため、ハルトに覆いかぶさられるような形になる。
ネメラの視線は、部屋の天井を仰いでいた。
「いや、そうじゃなくて。ネメラの肌がさ、冷たくて気持ちがいいんだ」
ネメラはわずかに眉を寄せ、「そういうこと……?」とでも言いたげに、ハルトを見上げた。
そのまま、彼の背中にそっと手を回す。
「暑いんですか?」
ネメラが尋ねると、ハルトは抱きついたままちいさくうなずいた。
「暑い……」
「わたし……気持ちいいですか?」
「気持ちいい……」
「勇者くん! ……なんだか、照れちゃいますね……」
ネメラの声はくすぐったげだった。
それでも、ハルトは涼しい顔のままだった。
彼女の体はひんやりと冷たく、周囲の熱気を和らげている。
魂が凍りつき命を落とすリッチの体温も、彼にとっては“ちょうどいい”ものだった。
暑さによるだらけ。生来のノンデリ気質。
そのどちらかが原因で、次の言葉を自然と口にしてしまう。
「なんでだい? いつも“シテいる”ことだろう?」
それを聞いたネメラが、ぐっと身を引く。
「勇者くん! 本当に最低です!」
「なんでっ!?」
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