風車小屋
■ 本作について
本作は 世界観設定・アイディア構築・プロット立案をすべて著者自身が行っており、執筆の補助ツールとしてAIを活用しています。
■ 活用の具体的な範囲
自己規範にのっとり制作という一面はありつつも執筆であることは放棄しない方針です。
興味があればこちらをご覧ください→ChatGPT活用の具体的なイメージ[https://note.com/makenaiwanwan/n/nc92cf6121eb3]
■公開済エピソートのプロットを公開中
「主体性・創造性・発展性・連続性」を確保している事の査証が目的です。
https://editor.note.com/notes/n52fb6ef97d70/edit/
■ AI活用の目的とスタンス
本作は 「AIをどこまで活用できるか?」を模索する試み でもあります。
ただし、創作の主体はあくまで自分 であり、物語の本質やキャラクターの感情表現にはこだわりを持っています。
また、すべてを自身の手で執筆される方々を心から尊敬しており、競合するつもりはありません。
「こんな所に隠れてたのかい?」
ハルトは蜘蛛の巣が張った、石造りの天井を見上げながら言った。
部屋の中央には巨大な歯車が横倒しになり、ガリガリと音を鳴らしている。
「別に隠れてるつもりはないけど? 空き家だったから、偶に寝泊まりしてるだけだし」
ここは浮遊城の表層の城下町――その喧騒から少し離れた位置に建つ風車小屋。
特に活用されることもなく、大きな風車だけが「キィキィ」と回り続けている。
内部は簡素な作業部屋になっており、木造りの机や椅子などが点々と置かれていた。
それらはどれも等しく古び、色褪せていたが、その中に明らかに最近持ち込まれたと思しき家具が混じっていた。
ひとり用のベッドも、そのひとつだった。
「これは?」
ハルトはそのベッドを指差しながら、アリシアへと視線を向けた。
「拾ったの」
アリシアはそっけなく答えた。
「どこで?」
「城の中」
「……落ちてたわけじゃないだろう?」
「じゃあ、借りたの」
ハルトは頭を抱え、ため息をひとつ。
「はぁ……アリシア。“ココ”がどんな場所かわかっているのかい?」
言葉に詰まるアリシア。その視線が鋭くなった、次の瞬間だった。
ドンッ!
風車小屋の狭い室内に、雷鳴のような衝撃音が響いた。
予兆すらない光速の貫手が、ハルトの顔めがけて突き抜ける。
「アリシア?」
ハルトは迫る一撃を、目の前でピタリと止めていた。
掴み取ったその手からは電撃がほとばしり、空気がチリチリと焦げる音を立てる。
彼に焦りは“微塵”もない。
そしてアリシアにも、“微塵”の手加減すらなかった。
彼が難なく止めることなど、最初からわかりきっていたからだが、それでもぶつけずにはいられなかった。
「バカなハルト……“ココ”がどんな場所か……ですって?」
怒気をはらんだ声。
金髪が黄金色に帯電し、空間そのものがきしむように震える。
少女の怒りが、雷となって風車小屋を揺らしていた。
「それはこっちの台詞だけど? アンタこそ“ココ”がドコだかわかってる?」
アリシアの唇がわずかに震えた。
怒りをこらえるほどに昂ぶる感情が、悔しさへと変わり、ついに涙を押しだす。
「アタシの故郷を奪った奴らの城よ? アンタこそ“ココ”で何してんの? 魔王と結婚……? 裏切りものがぁ……!」
涙は止まらない。
他人に弱みを見せることを何より嫌うアリシアが、顔を背けようとすらしない。
女の涙を惜しまなかった、裏切り者をすこしでも傷つけるために。
「ア、アリシア……すまない」
それは、ほとんど反射のような謝罪だった。
ハルト自身、何に対して詫びたのかわかっていない。
アリシアが何を責めたのか……きっと彼女自身も理解していない。
彼女の故郷が奪われたことか。彼が助けられなかったことか。
それとも、魔族と契りを結んだという“現実”そのものか。
いずれか。あるいは、そのすべてだろう。
ハルトはリオネス王国の勇者だ。
そして、国を救い、民を守り、勇者としてその任を全うした。
だが、アリシアは故郷を守れず、肩書きだけを残して、すべてを失った勇者。
その違いが、何よりも彼女を苦しめている。
名家に生まれた彼女であれば、その庇護のもとで、ひっそりと生き延びることもできただろう。
けれど、アリシアはそれを選ばず、たったひとりで戦い続けている。
ハルトに、アリシアの祖国を守る義務はなかった。
けれど、もし彼が剣を振るっていれば、変えられた運命も、あったのかもしれない。
だが、彼はそう“しなかった”。そして、“できなかった”。
勇者は、国の武力を象徴する存在だ。
他国の戦に勝手に介入することなど許されるわけがない。
彼の魔王フィデリアとの婚姻も、国を守るための政略結婚だ。
繰り返すが、ハルトはリオネスの勇者であり、その責務をすべて全うしたと言っていい。
アリシアには、それができなかった。
彼女はそれを理解できないほど幼くはない。
けれど、感情を押し殺して受け入れられるほど大人でもなかった。
「謝るくらいなら、こんな場所で生きるんじゃないわよ!」
アリシアは吐き捨てるように言うと、ベッドの隅に腰を下ろした。
ハルトには背を向けており、表情は見えない。
けれど、頬を伝う雫がわずかに光を受けていた。
震えるちいさな肩は、一騎当千とは思えないが、彼女の年齢を考えるならば、それはごく自然な“少女”の姿だった。
「……」
ハルトは、そんな彼女に寄り添うことも、部屋を出ることもできなかった。
時折、聞こえる少女のすすり泣きと、風車の軋む音だけが、静まり返った空間に響いていた。
何も言わず、何もできず、その音だけを頼りに時間が過ぎていくのを待つしかなかった。
それから、ほんの十五分ほどが経った。
ふたりにとっては、永遠にも思えるような、長い時間だったろうが――「ギィ」と、粗末な木造りの扉が、控えめな音を立てて開く。
「ミナ」
ハルトが目を向けると、そこにはアリシアと同じく金糸の髪を揺らす女の姿。
秘書服姿のミナが、静かに戸口をまたいで入ってきた。
そして、すぐに部屋の中へと視線を巡らせる。
どこから持ってきたのか不明な……いや、水車小屋には似合わない、質の良い家具であるから、“城内”から持ち出しているのは明白だが――ミナは、それらに一瞬だけ目を奪われながらも。何も言わず静かに入室した。
彼女は一瞬、ハルトにだけわかる目配せをした。「助け舟ですよ」とでも言いたげに。
ミナはもともと外で待機していたが、室内の膠着状態を察し、頃合いを見て介入してきたのだ。
「困りますね。城内の家具を勝手に移動されては」
ミナが一歩進み出て、事務的に告げた。
その視線は部屋の隅に置かれた家具に向けられている。
ほんの数秒の沈黙の後、アリシアがぽつりと返す。顔は背けたままだ。
「返すわよ。ちょっと借りただけだし……持って帰ってよ」
「もちろん返却は可能です。ただ、それで困るのはあなたのほうでしょう?」
「はっ?」
アリシアが顔をしかめて振り向く。
「生活するのに家具は必要でしょう?」
「アンタ……何を言って――」
困惑したまま口ごもるアリシアに、ハルトが口を挟む。
「ミナ?」
「客人扱いはしませんが、浮遊城に滞在すること自体は問題ない――と、魔王さまからことづかっております」
「はぁ?」
言葉の意味をつかみきれず、アリシアが目を見開く。
「それでは、私は失礼します」
ミナは一礼し、何事もなかったように背を向けた。
「あっ、おいミナ!」
ハルトが声を上げる。
「ちょっと! 待ちなさいよっ! アンタっ!」
アリシアは弾かれるように立ち上がる。声を荒らげながら、数歩詰め寄る。
ミナは立ち止まり、ゆっくりと振り返った。
「何か?」
「一体、何よ!? どういうこと!? 説明してよね!」
バタバタと腕を振り回すアリシアを前に、ミナは微動だにしない。
「説明が必要なことはあるとは思えませんが? 何を知りたいのですか?」
「アタシはアンタらの敵でしょ!?」
「そう考えているのはあなただけではないでしょうか? アリシア・ド・ベルモンド……あなたが勇者として所属していた国は、既に我々の手の内にあります。故に敵対する理由がありません」
ミナの淡々とした声。その声は少女の心を静かに踏みつける
「眼中にないってこと?」
「どのような理解でも、ご自由に」
「バカにしてっ! アタシを好きにさせるなら! アンタたちが崇拝する魔王が無事でいられないかもね!」
さらに一歩、前へ。アリシアの声に火花が混じっていた。
その瞬間、ハルトが低く名を呼んだ。
「……アリシア」
止めるつもりだったのか、それとも警告か。
だが、ミナはその声すら待たず、静かに言葉を発した。
「魔王さまは、その件についてもすでにご承知の上です……好きにすればよい、と」
「はぁ!?」
アリシアの叫びが部屋に響く。
それでもミナの声音は変わらない。
ただし、次の言葉の前には、ひと呼吸だけの間があった。
「――これは、個人的な意見ですが」
ミナはアリシアを見据えた。
そして、タイトスカートの奥、隠し持った短剣にそっと手を添える。
「ここは魔王さまの居城。我々の中枢です。その場所でそんな言葉を口にして、なお無事でいられるのですから……我が主君は、まことに寛大でいらっしゃいますね」
ミナは勇者専属メイド隊の秘書メイド長であり、アサシンメイドの長でもある。
感情も、殺気も、彼女にとっては制御できて当然のものだ。
そのミナが、いまは殺気を隠そうとしていなかった。
「……」
その場の空気が凍りつく。
アリシアも、ハルトも、言葉を失ったまま沈黙する。
そして、ほんのわずかな間を置いてミナの視線が、ゆっくりとハルトへと移る。
「勇者さま。もし、同じことをあなたの故郷で口にしたなら……どのような扱いを受けることになりますか?」
「……即刻、処刑だろうね……」
短く答えながら、ハルトはちらりと視線を動かす。
だが、アリシアはその目を避けるように背を向けた。
ミナが質問を続ける。
「勇者さまの手によって?」
「……そういう場合もあるかもね……」
淡々と応じるハルト。アリシアはその背で、わずかに身を強張らせた。
仮に彼女が本気で魔王に牙を剥くというのならば、その覚悟が必要だろう。
だが、ハルトにはわかっている。アリシアの力が、フィデリアどころか、自分にも遠く及ばないことを。
そして、その差が、絶対に埋まらないことも。だからこそ、魔王は“好きにしろ”と言った。
その余裕は、実力に裏打ちされたものだった。
厄介なのは、アリシア自身もそれを痛いほど理解していることだ。
彼女とて、かつては“勇者”と呼ばれた少女。
その名に恥じぬだけの実力も、自負も持っていた。
けれど今の彼女には、地位も名声もなく、プライドすら打ち砕かれていた。
それらを取り戻すには壁が高すぎる……余りにも……。
「何かが必要なら、盗みではなく正式に取引を……もちろん、対価はいただきますが」
ミナはそう告げて、静かに扉へと向かう。
扉の前で一度だけ立ち止まり、振り返ることなく言葉を続けた。
「仕事をお探しでしたら……紹介できるものもございますよ」
そのまま、無言で扉を開けて立ち去っていく。
ちいさく軋んだ扉の音だけが、部屋に残された。
しばしの沈黙のあと、ハルトがちいさく息をついた。
「えーと……つまり、君がここに住んでもいいってこと、だよな?」
軽く肩をすくめ、場の空気をやんわりほぐすように笑ってみせる。
だが、その次に口にした言葉が相変わらずのものだった。
「家、帰れないんだろ? よかったな!」
勇者はニッコリと、どこまでも爽やかに笑った。
アリシアはもともと大きな瞳をさらに見開き、つり上がった視線でハルトをにらみつける。
そして、叫んだ。
「なんなのよっ! バカばっかりっ!」
その声には、怒りとも悔しさともつかない、複雑な感情が滲んでいた。
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