母娘
■ 本作について
本作は 世界観設定・アイディア構築・プロット立案をすべて著者自身が行っており、執筆の補助ツールとしてAIを活用しています。
■ 活用の具体的な範囲
自己規範にのっとり制作という一面はありつつも執筆であることは放棄しない方針です。
興味があればこちらをご覧ください→ChatGPT活用の具体的なイメージ[https://note.com/makenaiwanwan/n/nc92cf6121eb3]
■公開済エピソートのプロットを公開中
「主体性・創造性・発展性・連続性」を確保している事の査証が目的です。
https://editor.note.com/notes/n52fb6ef97d70/edit/
■ AI活用の目的とスタンス
本作は 「AIをどこまで活用できるか?」を模索する試み でもあります。
ただし、創作の主体はあくまで自分 であり、物語の本質やキャラクターの感情表現にはこだわりを持っています。
また、すべてを自身の手で執筆される方々を心から尊敬しており、競合するつもりはありません。
浮遊城ガーデンテラス。
黒と赤を基調とした鎧に身を包んだ女兵士たちが、整然と列を成していた。
控えるのは十人にも満たないメイドたち。
その誰もが、一糸乱れぬ姿勢で静かに控えている。
中央では、三人の王族が黒銀のティーセットを囲んでいた。
魔王フィデリアと、その母アデリアーナ。そして、妹であるミリア。
銀の髪、灰銀の肌。高位魔族としての血を色濃く示す者たち。
ただ座しているだけで、場の空気を一変させるような存在感を放っていた。
兵士のひとりが、ごくわずかに喉を鳴らす。
メイドのひとりは、手にした水差しをわずかに揺らした。
それは恐れではなかった。威容と美、その両極を同時に突きつけられるような圧倒感。
王族とは、かくも人ならざるものなのか。そう思わされる“何か”が、そこにはあった。
三輪の花――そう形容したくなるほどの美しさ。
だが、花にたとえるには、魔王フィデリアはあまりにも威厳がありすぎる。
その視線の先には、母であるアデリアーナが居た。
母親似だと言われるフィデリアが、もし数百年かけて成熟したなら――まさにこの女王となる。
その枯れぬ美貌は、老いを超越する魔族や神族特有のものだ。
ひとつ決定的に違うのは、アデリアーナの魔眼は額の中央にひとつだけで、常に開かれていること。
代わりに、両の目は閉じられ、口元には絶えず微笑みが浮かんでいた。
フィデリアの四つ目は、父親譲りの特徴である。
「先王が逝去して、すでに五年……喪も明けよう。そろそろ、母上にも魔王軍のために働いてもらうとしようか」
「あらー? ついに私もなの? 楽しそうではあるけれど、お父さんに怒られないかしら?」
母と娘。面差しや髪の色はよく似ている。
だが、醸し出す気配も佇まいも、まるで別物だった。
アデリアーナからは、すべてを包み込むような柔らかさが漂っている。
言い換えれば、どこか間の抜けたような、のんびりとした雰囲気。
その印象は、魔族特有の異形の姿からは、とても想像できないものだった。
「人間界――いや、それだけではない、魔界も神界も含めた、ダイスワールド“全面征服”は我ら一族の悲願。父上が言うたのだ“覇道”を進めと」
アデリアーナの両目は閉じたまま。額の魔眼も、かすかに閉じられていく。
その表情には、苦笑が滲んでいた。
「それはわかっているけれど……ハルトくんはお父さんの仇でしょう?」
フィデリアはふっと、笑みをこぼした。
「母上、なにをいまさら。確かに父上はハルトに敗れはしたが、誇りを失ったわけではない。戦士として逝かれたのだ。そもそも、ハルトを“ものにしろ”とはじめに言うたのも父上だ」
フィデリアの父親。
ヴァルエンツァ魔王軍の前王は、勇者ハルトとの戦いに敗れた。
そのときに負った傷が癒えず、続く戦で本来の力を発揮できぬまま戦死した。
だが、その父は、人間であるハルトを高く評価していた魔族のひとりでもあった。
“世界征服”という一族の悲願のために、フィデリアに「ハルトを取り込め」と言い遺していた。
もっとも、フィデリアはその遺言を“拡大解釈”した。
結婚にまで発展するとは、さすがの父も予想していなかっただろう。
さらに、娘がそれ以上のことまで画策しているとは、なおのことだ。
己の娘が、自らの遥か先をいく強さに達していること。
一族の悲願を成すのは自分ではなく、娘であること。
前王は、とうに気づいていたが――魔王軍の女たち数千人にハルトの子を宿させる。
そんな桁違いの規模まで娘が踏み込むとは、さすがの父も想像していなかったに違いない。
「お父さまが望んでおられた……ということですか?」
母と娘の会話に、控えめに口を挟んだのは、もうひとりの娘だった。
第二王女、ミリアである。
整った顔立ちはたしかに姉譲りだが、まだ幼さが色濃く残っている。
長い髪をふたつに分けたお下げが揺れ、華奢な肢体を包む清楚な装束は、幼い王女の慎ましさを引き立てていた。
年若く、魔族として人間の基準でも未成熟とされる身には、王家の血にふさわしい気高さと芯の強さが宿っていた。
彼女にも魔眼がひとつ備わっている。だが、母とは対照的に、それは閉じられ、代わりに両目がぱっちりと開いていた。
「そう考えても、良いだろう」
フィデリアはミリアに視線を向け、はっきりと言いきった。
そして、母へと顔を戻し、続ける。
「……とはいえ、たとえ父上の意志でなくとも、母上には従ってもらう。今この一族を率いるのは、わらわなのだから」
その声には、揺るぎない決意が宿っていた。
たとえ母であろうと、女王であろうと従わせる。それが、今のフィデリアだった。
「わかってるわよー、フィデリアちゃん。ママは嫌だなんて言っていないでしょう? あなたがそうしろというなら拒否する理由なんてないんだもの。ハルトくん、すごく可愛いから〜」
アデリアーナは楽しげに言った。
両手を合わせて体を揺らすその姿は、まるで乙女。いや、どこか無邪気な少女にも見えた。
ゆったりとしたドレスに包まれた肢体は、成熟を極めた女そのものだというのに、言動には年齢の感覚がほとんどない。
柔らかく、豊かで、どこか神秘的な曲線。
フィデリアが“奇跡”と讃えられるなら、アデリアーナはその“完成形”。
ただし中身は娘たちより奔放で、気まぐれですらあった。
一方で、ミリアは複雑な表情を浮かべている。
その顔をフィデリアは見逃していなかった。
「ミリア。当然ながら、貴様もだ」
「!?」
驚きと、すこし戸惑ったような表情を浮かべるミリア。
だが、すぐにその顔を引き締める。
「とはいえ、貴様はまだ若い。無理だと言うなら強いることは――」
フィデリアの言葉を、ミリアがぴたりと遮った。
「いいえ、姉上さま。先ほど仰られましたよね? 一族の悲願であると。わたしもヴァルエンツァ家の娘なのです」
毅然とした、ミリアの決意の言葉だった。
彼女の両の目、そして額の魔眼が、わずかに開かれている。
フィデリアはそれを見て、ふっとちいさく頷いた。
その表情からは、魔王としての厳しさではなく、姉としての優しさが滲んでいる。
「お気になさらず……わたしの成長を待っていては、ハルトさんの命が尽きてしまいます」
年齢的にも、立場的にも、ミリアはまだ“未熟”と見られている。
けれどそれ以上に、人間と魔族の寿命差は絶望的だった。
自分が“完成”を迎える頃には、彼はもうこの世にいないかもしれない。
だからこそ、いま動かなければならない。
ミリアのまなざしには、姉への絶対の信頼と、揺るぎない決意が宿っていた。
「そうか、ならば。貴様にも働いてもらうぞ」
「はい。姉上さまの命であれば喜んで……」
ミリアは深く一礼した。
それは、魔王への忠誠ではない。
たったひとりの姉への、無垢な献身の証だった。
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