雷鳴のアリシア
■ 本作について
本作は 世界観設定・アイディア構築・プロット立案をすべて著者自身が行っており、執筆の補助ツールとしてAIを活用しています。
■ 活用の具体的な範囲
自己規範にのっとり制作という一面はありつつも執筆であることは放棄しない方針です。
興味があればこちらをご覧ください→ChatGPT活用の具体的なイメージ[https://note.com/makenaiwanwan/n/nc92cf6121eb3]
■公開済エピソートのプロットを公開中
「主体性・創造性・発展性・連続性」を確保している事の査証が目的です。
https://editor.note.com/notes/n52fb6ef97d70/edit/
■ AI活用の目的とスタンス
本作は 「AIをどこまで活用できるか?」を模索する試み でもあります。
ただし、創作の主体はあくまで自分 であり、物語の本質やキャラクターの感情表現にはこだわりを持っています。
また、すべてを自身の手で執筆される方々を心から尊敬しており、競合するつもりはありません。
“技能:疾風迅雷Ⅳ”――彼女は雷そのものだった。
ギィギィギィーーーン!!
「よけるんじゃないわよっ!」
秒速十万メートルで駆けながら発せられる声は、もはやどこから響いているのかさえ判然としなかった。
轟音とともに、雷を纏った一閃がハルトに迫る。
その一撃の軌道は、細かくジグザグに蛇行しながら突き刺さる、極めて読みづらいものだった。
そして、アリシアはそのジグザグ突撃を、ほとんど間を置かず連続で繰り出してくる。
あまりに高速かつ連続するため、視覚上はまるで何人ものアリシアが、別方向から同時に斬りかかってきているように錯覚する。
実際には一回ずつの連続突撃。それでも、見えた者の目には“分身”としか思えない。
「ほらほら! こっちだぞ!」
当たれば首が飛び、掠っただけでも放電により全身を焼かれる。
“雷鳴のアリシア”――数多の魔族を葬りし、ヴェルシュタインの勇者。
その必殺の連撃を、ハルトはことごとく躱し続けていた。
「この! この! ふざけるなぁ!」
「はははは」
そのさまは、まるでじゃれつく仔犬をあやす飼い主のようだ。
ハルトは抜刀すらしていない。長剣を鞘に納めたまま、アリシアの連撃を切り払い、軌道をずらして受け流す。
二人が手にするのは、刀剣といった繊細な業物ではない。
両刃の剣であり、刃物で“斬る”というよりも、無骨な鉈に近い。
敵を叩き、両断するための代物だ。
とはいえ、剥き身同士でぶつかり合えば、刃こぼれは避けられない。最悪の場合、折れることもあるだろう。
だからこそ、鞘に納めたまま、受けに回るという選択肢には“理”がある。
だが、それと同時に“攻撃をしない”という意思表示にも見えてしまう。
「なめるんじゃないわよ!」
秒間十数回にもおよぶ突撃は、雷撃の檻を生み出し、捕らえた獲物を切り裂き――そして焼き尽くすはずだった。
「うん! 前に会った時よりも、格段に速くなっている!」
ハルトは戦っているというよりも、“手合わせ”を楽しんでいるような顔をしていた。
対するアリシアの瞳には、明確な殺意と、それに混じる焦りの色が宿っている。
彼女は、全力だった。
“戦技:雷閃突撃”――それは、リオネス王国の公爵家で剣術指南役を務めた父から授けられた、“ベルモンド流古式騎士剣”の突撃技である“閃鋼突撃”を基礎とする技だ。
そこに、“雷の女王”と謳われた母から継承した雷属性魔術を融合させた。
そうして完成させた、アリシアだけの必殺技である。
その一撃必殺の“雷閃突撃”を、間断なく連ねた進化形が“超戦技:雷閃連舞”――百撃百殺の連撃型奥義。
それをいま、彼女は放っている。
「……あわわわ……何が起きてるんですか?」
リーゼが震える声を漏らす。
「……解析不能です」
ミナは眼鏡を押し上げ、短く答えた。
竜騎兵であるリーゼはおろか、速さと暗殺技術に長けたミナですら空間のどこかで“何か”が動いている――その気配を感じ取るのが精一杯だった。
アリシアの姿を正確に捉えるなど、到底不可能である。
この速度を“視る”には、魔王フィデリアの魔眼でもなければ無理だろう。
すべてをことごとく躱しているハルトとて、目で追っているわけではない。
“技能:心眼Ⅱ”で気配をとらえ、“技能:見切りⅢ”で軌道を割り出し、その場から一歩も動かずに“技能:パリィⅣ”でいなしていた。
アリシアの雷閃は、空気を裂く刃となってハルトの目前を通過する。
刃の周囲にまとわりついた雷撃は、かすっただけで感電させるほどの高圧電流だ。
だが、ハルトには微塵のダメージもない。
彼には“技能:雷耐性Ⅲ”が備わっている。ただ、それだけのことだ。
次の瞬間――アリシアの足が、地を蹴った。
残る力を振り絞り、雷光を纏った突撃が放たれる。
地面に映る影すら置き去りにして、閃光のごとくハルトへと迫った。
「いいぞっ! さらに速いっ!」
ハルトの腰がわずかに沈み、長剣の柄に手がかかる。
最後の一撃が届く、その刹那にアリシアの雷鳴を迎え撃つように長剣が抜かれた。
閃光と閃光が交差し、空間が軋む。
ギャリィーン!
鈍い衝撃音とともに、光の奔流が二つに裂け、空へと消えた。
少し離れた位置で、アリシアが足を止める。
「はぁ、はぁ……」
アリシアの全身から噴き出す汗は、纏う雷に吸われて蒸発していく。
崩れ落ちそうな脚を震わせながら、それでも彼女は立っていた。
「もう終わりかい?」
一滴の汗すらかかぬハルトが、抜き放った長剣を軽く振り払う。
その口元には、屈託のない笑顔が浮かんでいた。
「そんなわけないでしょ! バカっ!」
アリシアの勝ち気は、実績に裏打ちされている。
これまでの魔王軍との戦いでは、一対一はもちろん、軍勢を相手にしても一度たりとも敗れたことがない。
部隊長クラスの強者を相手にしてすら、だ。それが“勇者”という名の武力の象徴だった。
唯一、ハルトだけは例外だった。
過去に何度も立ち会っている。だが、一度として勝負になった試しがない。
“負けた”という記録すら残せないほど、実力差は歴然だった。
そのハルトでさえ、魔王フィデリアには及ばないという。
ならば、あの魔王を打ち倒し、ヴェルシュタイン公国を魔王軍から取り戻すというアリシアの願い。
没落したベルモンド家の名誉を取り戻すその日が、訪れるには、あまりにも遠い。
「アンタも、すこしは動きなさいよ! ――これならどう!」
アリシアが手にした大剣を高々と掲げた。
その剣先は、真っ直ぐに天を貫くように突き上げられる。
「詠唱省略っ! サンダーフォール!」
晴れ渡る空に、突如として黒い雲が走る。
雷鳴とともに、純粋な破壊の一閃が天から降り注いだ。
焼け焦げる地面。轟音がすべてを包む。
「勇者さまっ!」
リーゼの叫びも、雷鳴にかき消された。
ドォン!
ドンドォォン!!
「この! この! このぉっ!」
アリシアの気合いに応じるかのように、さらなる雷が落ちる。
先程の突撃とは違い、今回の雷撃は空から一直線に降り注ぎ、大地を容赦なく抉り焼き払っていく。
落雷を剣で受け止めることなどできない。
だが、雷がハルトを焼くことはなかった。
やり方は変わらない。
アリシアの攻撃の気配を、“心眼”で察知し、落雷の軌道を“見切り”で読み取る。
そして、雷よりも速くその場を離れ回避する。ただ、それだけだ。
“技能:神移”――ごく近距離を、光速で移動する神業。
その一瞬の踏み込みが、不可能を可能にした。
「人の身でありながら、落雷を……本当に、あなたは驚かせてくれますね」
ミナは、雷の余波でズレた眼鏡を、指先でそっと直した。
その口調は呆れを含んでいたが、目元には誇らしげな色が浮かんでいた。
彼女もまた、魔王フィデリアを絶対の存在として敬愛する眷属であり――その夫たる勇者ハルトの“種”を受けることを許された、選ばれし受精体である。
この肉体に宿るかもしれない、新たな命の強さを想像するだけで、ミナの奥底にある何かが、ぞくりと震えるのだった。
「来る場所がわかっているなら容易いぞっ!」
容易くはない。
常人なら、撃たれたと気づく間もなく焼かれるのが落雷という現象だ。
避けられることなど最初から想定しておらず、いかに最短最速で撃ち込めるかをアリシアは磨いてきた。
その判断は正しい。
だが相手が“勇者”であるならば話は別だ。
どれほど完璧に見える一手でも、想定の外から平然と凌駕してくる。
それができるから“勇者”なのだ。
ハルトはその中でも、さらに突出した例外である。
アリシアがまだ若く、経験の浅さゆえにその現実を理解しきれていないのも無理はなかった。
「こんのぉ!」
ドンッ!
最後の雷撃は、アリシア自身の頭上に落ちた。
意図的な自爆ではない。わずかな魔力で雷を呼び込み、大量のエネルギーを体に取り込む戦術。
雷を纏った彼女の周囲には、それまでとは桁違いの電流が奔り、空気が焼ける音を立てていた。
その身を包む雷光は、濃く、太く、激しい。帯電音が空間を満たす。
アリシアが地を蹴った。
ドンッ!
ドンッ!
ドンッ!
“神移”で動き回るハルトと、強化された“雷閃突撃”を繰り出すアリシア。
もはや両者の姿は視認できない。
だが、空間のあちこちで爆ぜる雷鳴と衝撃だけが、その激突の存在を物語っていた。
空が軋み、地が震える。
ぶつかり合う音が響くたび、大気が悲鳴を上げた。
「……ひぇぇぇ……ミナさま! 逃げたほうが!?」
「どこにだ?」
ミナは冷静に答える。
ハルトとアリシアのぶつかり合いは、もはや地上も空中も関係ない。
周囲一帯を巻き込む神速の交錯が、あらゆる空間を戦場へと変えていた。
「頭を低くして、伏せていろ」
ミナの指示に従い、リーゼはその場で伏せた。ミナ自身も、慎重に体勢を低くする。
時間にして一分も満たなかったが、いったい何度の激突が起きたのだろうか。
ドウグォーン!!
ひときわ大きな衝突が大地を揺るがし、石造りの歩道が爆ぜた。
破片が四散し、巻き上がった砂煙があたりを覆い尽くす。
その中心、最後の雷が炸裂した爆心には、ふたつの気配が残っていた。
姿は見えない。だが、確かに“ふたり”がそこにいる。
やがて、砂煙の中から、ひとつの影がふわりと姿を現す。
後方へと下がるように飛び出し、そのままリーゼとミナの目の前に着地した。
砂煙の切れ間から浮かび上がったのはハルトであった。
「勇者さまっ!」
リーゼの声が砂煙を裂いて響いた。
その声に応えるように、ハルトがゆっくりと振り返る。
口元にはにこりとした笑み。だが、手にした長剣は油断なく構えられたままだ。
「心配ないよ、リーゼ。僕は無傷だよ」
静かな口調だった。
雷鳴にすら引けを取らない、いやそれ以上の速度で立ち会っていたというのに――その声に、疲労の色はまるで感じられなかった。
軽いウォームアップを済ませた後のような、そんな涼やかさがあった。
巻き上げられていた砂煙が、徐々に風に流されていく。
視界が晴れ始めたその先――そこには、小柄な少女がひとり、ぽつりと立っていた。
アリシアだった。
「勇者ハルト……アタシの剣技も魔術もことごとく――……流石ね……」
だが、彼女の姿に、ハルト、ミナ、リーゼの三人は、同時にわずかに身じろぎした。
何かがおかしい。誰も言葉にはしないが、明らかに“様子”が違う。
「それだけの力を持ちながら、魔王と結婚? なんでそんなバカなことしちゃったの!?」
アリシアが叫ぶ一方で、ミナは眼鏡の縁に指を添え、反射光をきらりと走らせた。
「あの……勇者さま。もしかして、あの娘……自分の状態に、気づいていないのでは?」
ミナの問いかけに、ハルトはわずかに苦笑を浮かべる。
「そのようだね。普段の彼女なら、ああならない様に魔術で対処しているんだけど……熱くなると、そういう細かい調整ができなくなるんだ。前より速くなったけど、そういうところはまだ甘いみたいだね」
「ちょっとぉ!? ハルト! なにをブツブツ言ってるの!? 決着ついてないんだから! 続けるわよ!!」
アリシアは息巻いている。だが、すでに“勝負”は終わっていた。
「……あっ……えっと、やめたほうがいいですよ?」
リーゼが控えめに、けれどどこか切実に忠告する。
「はぁ? なにアンタ? アンタなんか知らない! これはアタシとハルトの戦いなの! 雑魚はすっこんでてよ!」
相変わらずの剣幕。だが、ミナが淡々と状況を説明した。
「……大気圏内であの速度で動けば、当然、空気との摩擦熱が発生します。普通なら、衣類は保ちません」
さらりとした口調だが、内容は衝撃的だった。
ハルトの“神移”には、空気抵抗を無効化する技術も含まれている。
だが、アリシアの突撃には、それがなかった。
つまり――
「アリシア、キミと会うのは一年ぶりだったか? その……なんだ、色々と成長しているようだね?」
「なにをいまさら! アタシはアンタを倒すために、必死に修行してきたんだから! 当然でしょ!」
「……えっと、アリシアさん……? 服、服が……」
「は? 服がどうし――」
気づいた瞬間、アリシアの動きが止まった。
視線を落とし、自分の体を見下ろす。
摩擦熱で、戦闘装束は跡形もなく焼け落ちていた。
わずかに残った下着が、胸と股間の“核心”だけをぎりぎり隠している。
それ以外は、全身丸見えだった。
「きゃあああああっ!! ハルトっ! この変態っ! バカバカバカッ!!」
アリシアは叫びながら、体を丸めてうずくまる。
顔を真っ赤に染め、涙目で震えながら、ひとしきりまくし立てた。
「裏切り者のうえに、女の子を裸にするなんて! 最低! サイテー勇者っ!!」
ハルトの名誉のために補足するが、彼が服を切り刻んだというような事実は一切ない。
だが彼が事情を説明する間も与えず、アリシアは怒りと羞恥の混ざった声で一方的に怒鳴りつける。
「覚えてなさいよっ!!」
そして、雷鳴とともにその場を離脱――まさに“逃走”だった。
アリシアが現れてから、まだ十分も経っていない。
あれが、“雷鳴のアリシア”だ。
どこまでも真っ直ぐで、どこまでも騒がしく。
気づけば、嵐のように去っていく。
「勇者さま、ご無事ですか?」
ミナの問いかけに、ハルトは軽く息を吐きながら、微笑んで答えた。
「ああ、問題ないよ、ミナ。久しぶりに、いい運動になった」
手にしていた長剣を、ゆっくりと鞘に納める。
その仕草ひとつとっても、彼の落ち着きと余裕がうかがえた。
「勇者さま……あの方とは、お知りあいなのですか?」
隣に寄り添うようにしていたリーゼが、遠慮がちに尋ねる。
「そうだね。アリシアが、これくらいの時から知っているよ」
ハルトは空を見上げながら、穏やかな口調でそう言った。
そして、自分の腰の辺りに手をかざす。
子どもの背丈を示すような、そのささやかな仕草が、記憶の確かさを物語っていた。
「……なるほど……そうなんですね……どうりで……」
リーゼは、どこか意味ありげな表情を浮かべながら、視線をそらす。
ハルトは、そんな彼女の反応を見逃さなかった。
「ん? どうしたの、リーゼ? ……何か気になることでもあるのかい?」
その問いかけに、彼女はわずかに唇を尖らせ、言い淀んでいたが――ぽつりと呟くように言った。
「……さっき……アリシアさんの裸を見ながら言ってましたよね……? “成長したね”って……」
ハルトが返事をする前に、じとりとした視線が突き刺さる。
「……あれって、どういう意味ですか?」
「うっ……それは……」
言い訳の余地はなかった。
不用意に発したその一言が、どう聞こえたかなど、考えるまでもない。
有り体に言えば“体が大人っぽくなった”という、言わなくてもよかった言葉。
リーゼは、それを軽く流すほど、甘くはなかった。
「……変態……」
その静かなひと言は、雷鳴よりも重く、鋭く響いた。
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