第八話 指定された場所に物を届けるだけな依頼
「依頼は呪いに関係しているものを受けたいと思ってるの」
宴を終えて早々に、依頼が貼られたボードの前に立った私はリュウジにそう告げた。
呪いの事を隠す必要が無くなったため、私の意向を正直に伝えても問題ないだろう。
依頼が貼られたボードはランクに応じて区分けされておりビギナーからゴールドまでの依頼書が順々に貼り出されている。
……そういえば。
「ねぇ、リュウジってランクは?」
「そういや言ってなかったっけ。俺ゴールドよ」
「ビギナーとゴールドね……。ランクが離れてる人同士でパーティを組んだ時ってどこまで受けていいのかしら」
「今回だとカッパーまで受けれるな。基本下のランクのやつに合わせる」
「それならビギナーじゃないの?」
「ここ見てみ」
リュウジが指を差す。それは依頼ボードに記載された注意書きだった。
まさに私の様な疑問を抱いた人に向けてのものだろう。
『パーティメンバーのランクが二つ以上離れている場合、メンバー内の最下位ランクより一つ上のランクの依頼を受けられます』
「つまりゴールドランクの俺と組んだ場合、ビギナーはカッパー。カッパーはシルバーまで受けられるってことだ。シルバーがゴールドを受ける事は出来ない」
なるほど、つまり飛び級か。
「……ひとつ確認なのだけど、ビギナーのままカッパーの依頼を受け続けた場合はシルバーに飛び級って出来るのかしら」
「おっリズ鋭いな!出来るぜ。パーティを組む事の最大のメリットだな」
なるほど、これならランクはすぐに上がりそうだ。
依頼のランクが下がると相対的に収入が減る。ゴールドランクであるリュウジの収入を減らさないためにもさっさとランクを上げなければ。
「じゃあ早速依頼を受けましょ」
カッパーのランクに貼られた依頼にざっと目を通す。
スライム退治、運送の護衛、杖の試し撃ちに……
……結界の補強?
「何かしらこれ……『魔物を封印している結界を補強する依頼です。洞窟の入り口に張られている結界に、現地でお渡しする破魔の剣を刺していただきたいです』」
【剣を刺すだけでお金が貰えるんですかぁ。なら自分で刺しに行けばいいと思うんですけどねぇ】
「これにするのか?……ほーん、結界の維持か」
よくあるよなーといった感じでリュウジが首を縦に振っていた。よくあるんだこういう依頼。
「じゃあ『黒子ズ』初の依頼は結界の補強で!」
【いえーい!ドンドンパフパフ〜!!……今のは同調したリズの気持ちを代わりに表現してあげたですよ】
「ふふっ、面白い事言うのねバンシー。ねぇ?」
【リ、リズ怒ってるですかぁ?】
「別に、怒って、ないわ」
「こえ〜……」
♦︎♢♦︎♢
馬車に揺られて二時間ほどで洞窟の近くにある村に辿り着いた。
村は川に沿って家が建てられており、大きな水車があちこちに散見できる。
リュウジが村民に依頼の事を話すと、村長らしき老人が一層古びた小屋から白い剣を持って出て来た。
「これを入り口にある台座に刺してくだされ。よろしく頼む」
「これ、結構重そうな剣ね。重厚感があるわ」
「よし、リズ!持ってくれ!!」
「え?」
私が持つの?
パワーの比重的に普通リュウジが持つべきだろう。
私が持ったら洞窟に着く前に陽が落ちてしまう。
「俺呪いの装備着てるから呪われた剣以外持てないんだよ。本当にすまん」
「あぁ……そういえばそうだったわね……。じゃあ、よい……しょ」
ずしっと身体中で重さを受け止める。重い。
こんな結界、フィーナがいたら現地に行ってサッとやって終わるのに……。
【なんかちんちくりんですねぇ。剣に対してリズがちっさいですぅ】
「大丈夫そうか?リズ?」
「……大丈夫じゃないわ、だからはやく行くわよ」
依頼は始まったばかりなのに、私たちの先行きは不穏だった。