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第七話 パーティ解散の危機

「パーティ結成おめでとうございます!パーティ名は……く、『黒子ズ』……ですね?あぁいえ!素敵な名前だと思います!では登録をさせていただきますね!」

「気持ちは分かるぜナタリー……だが笑うとあいつの肘打ちが飛んでくるぞ」

「……じろっ」


 パーティの名前は『黒子ズ』になった。

 私がリュウジに肘打ちを喰らわして抗議したところ、彼が折れてこの素晴らしい名前となった。これが貴族の交渉術だ。

 そんな私たちの様子をナタリーさんは慈しみの目で見ていた。


「駆け出しだったころのリュウジさんを思い出します」

「……あんまりリズの前で昔の事を掘り返さないでくれ。

恥ずかしくて死にたくなる」

「えぇ〜!?昔のリュウジさんなんてもっと」

「あー!あー!ちょっと!リズ!先に酒場の席取っといてくれないか!!話しは俺が付けとくから!!」

「え、えぇ分かったわ」


 きっと彼も今の地位に至るまでそれなりの苦労があったんだろう。聞かれたくない話しの一つや二つあってもおかしくない。

 言われた通りにカウンターから離れて、冒険者たちが集う酒場へと向かった。

 席を見渡すと、ちょうど隅にある二人用のテーブルが空いていたのでそこで座って待つ。


「それにしても賑やかね。あっちの席なんて腕相撲してるわ」

【腕相撲!力の誇示のために人間が行う遊戯ですよねぇ!

僕は何でも知ってます!!】

「……バンシーはどうしてそんなに人間の文化に詳しいの?」

【それはリズの思考と僕が同調してるからですぅ。つまりカンニングですねぇ!もちろん自前の知識もありますけどぉ】


 そういうものなのか。

 ……と言う事は今まで取り込んだ神秘たちも私の嗜好に怯えてたりするのかしらね。

 なんて考えていたら、リュウジが私を探している姿が見えた。手には樽で出来たジョッキを二つ持っている。


「ここよ」


 リュウジに見えるように大きく手を振った。


「おお、隅っこだな。俺隅っこ大好き」

「……何か、初対面の時とだいぶ印象が変わったわね。そっちが素なのかしら?」

「あぁ。前の方がいいか?」

「今の方が可愛くていいと思うわ」

「そりゃどーも」


 ジョッキを二つテーブルに置きリュウジも椅子に腰掛ける。今の私たちを第三者が見れば、もう立派な冒険者に見えるだろう。


「それで……パーティ結成記念にパーっと宴をしようと思ったんだが」

「だが?」

「……リズがギルドに提出した書類。不備だらけだったんでこれ埋めてから宴をする事になりました」


 リュウジの手元には私が提出したギルドへの冒険者申請用紙があった。おそらくナタリーさんの代わりに記入を頼まれたのだろう、同じパーティだし。


「まぁさっきの面接は俺の事しか話してなかったからな。

リズの事を知るには丁度いい機会だろ」

「確かにそうね」

「じゃあまずなんだが……」


 そういってリュウジは用紙に目を落とす。


「出身地ってどこ?」

「…………リオよ」

「リオ王国?隣国からわざわざ来たのか。いや、リオにもギルドってあるだろ。何でわざわざ……」

「…………」

「…………リズの年齢って確か」

「……18よ」

「18の若さで冒険者……しかも華奢な女性。孤児にしては立ち振る舞いも精神も大人すぎる。……それに服もかなりの上物。そして生まれはリオなのにわざわざエリナまで足を運ぶ理由……」


 ブツブツと呟きながら、彼の中で推理が整っていく。


「リズってもしかして貴族の生まれ?」


 この男、一を聞いて十を知りすぎでしょ。


「そうよ、信仰の違いで勘当されたの。いわゆる根無し草ってやつ」

「信仰の違い」

「えぇ……あっ」


 まずい、またブツブツと呟きはじめた。

 そして推理が繋がったのだろう、彼はややオーバーぎみに閃いた素振りをした。


「あぁリズって神託者か。だから希望職が魔法使いなのに杖持って無かったんだな」


 そうか、一般人からしたら『魔法』は杖や魔導書を用いて発動するのが常識だ。おそらく杖を持たない私に対してリュウジも疑問に思ってたんだろう。


「んでもって信仰の違い……これは同じ穴のってやつかねぇ」

「リュウジ。他の不備って何かしら」


 少々強引に話しを逸らした。

 勘当の事は割り切ってはいるが、昨日の今日な出来事なので今の自分が聞くには少し傷心気味だったのだ。


「あぁすまん、あんまり話したくないよな。悪い」


 そんな私を見てかリュウジも話しを切り上げる。


「じゃあちょっと個人的に聞きたい事聞こっかな」

「何かしら」

「俺を選んだ理由とかってある?」


 …………あぁ〜……理由。理由ね……

 それはもう、貴方の装備を食べたかったからなのだけれど。それを正直に伝えてしまったら、結成して間もないこのパーティに解散の危機が迫ってしまう。


「えっ……と。それは」

【それはですねぇ。リズはお前を食べたいからですよぉ!】

「うおっ!?なんだぁ!?リズの方から変な声が聞こえる!?」

「ちょっとバンシー!変な事言わないでよ!!」


 その言い方だと私が卑しい人みたいじゃない!欲しいのは呪われた防具の方なのに!


「え、えーと今の声は、リズじゃないよな?」

「……私の中にいる神秘よ。喋るの」

【はじめまして人間!!僕は神から創られた世界を滅ぼす神秘!バンシーですぅ!存分に畏れ敬うがいいですよぉ!!】

「神秘!?そ、そうか神託者だもんな……身体に取り込んで神託を得るやつか」

「えぇそうよ。だから戦闘でも足手纏いになることは無いわ」


 動揺を見透かされたのか、リュウジは訝しむ。


「もしかして、俺と組んだ理由って防具(これ)か?」


 ……十どころじゃない。百知るわこの男。


「はぁ、貴方に隠し事は出来なさそうね……そうよ。

貴方と組んだ理由は呪いの防具が欲しかったからよ」

「身体目当てか。エッチだな」

「なっ!?えっ、ええエッチって!そんな目で見てないわよっ!!」


 思わず顔まで熱くなってしまう。

 そんな私のリアクションにリュウジは何故か楽しげな様子だった。



「……でも貴方と話した時に私が伝えた事も真実よ。

貴方は私と似ていたから、きっと仲良くなれるって……

そう、思ったの」


 精一杯の誠意を伝える。本心だった。私がリュウジと話した時の言葉に嘘偽りは一つもない。


「……やっと年相応の顔したな」

「……え?」


 リュウジは樽のジョッキを持ち上げて、ぐいっと口に運ぶ。

 困惑した私を他所に「旨い!」と感想を告げた後、ジョッキをテーブルに置き直す。


「それだけ聞けりゃあ十分!安心して背中を任せられるってもんよ!」

「……怒らないの?」

「何でリズに怒るんだよ。恩人に怒る理由なんて無いだろ」

「恩人って、私が?」

「そー」


 リュウジは私にジョッキを差し出す。受け取ると中にはミルクが入っていた。


「月並みな事しか言えねぇけどさ。俺はあん時のリズの言葉にかなり救われたんだぜ?だからさ、クヨクヨすんなって!呪いの装備なんて、リズになら幾らでもくれてやるよ!」


 そう言ってリュウジはジョッキを私の方へと向けてくる。

 私もミルクの入ったジョッキを持つと、カツンと軽い音とともに乾杯をした。


「それじゃあ『黒子ズ』結成記念に、乾杯!」

「乾杯。……ありがと、リュウジ」

「おう!」


 ジョッキに入ったミルクは、いつもより少し甘い気がした。

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