第五話 ギルド
「失礼するわ」
意を決してギルドのドアを開いた私に待っていたのは静寂だった。
周囲を見渡すと、鎧を纏った大男や白い外套を纏った魔法使い。よく分からない身なりの人まで多種多様な人が混在している。
その全員が私の姿を目にした途端に静まり返ったのだ。
この空気。私、粗相をしてしまったのかしら……?
私の頬に冷や汗が流れ落ちる。
(ちょっとバンシーっ!ギルドに作法なんて無いんじゃなかったの!?)
【きっとリズが珍しいから観察してるだけですよぉ。リズはギルドに来るような風貌じゃないですから】
(そうなの……?その、何というか。身体をジロジロ見られているような気がするのだけれど)
「お客様ー!クエストの依頼でしょうかー!!
でしたらこちらにどうぞーー!」
遠くにあるカウンターから女の人がブンブン手を振っていた。おそらくあそこがギルドの受付だろう。
彼女が案内をするとギルドにいた人達は腑に落ちたようで、次第に元の賑わいを取り戻していく。
「邪魔をしてごめんなさいね。貴女がギルドの受付さんかしら?」
「はい!ギルド公認、受付のナタリーです!本日はどのようなご用件でしょうか?」
「私はリズよ。突然で悪いのだけれど、冒険者として雇ってほしいの」
「はい!冒険者登録ですね……ええっ!?冒険者とうろっ!?あっ!はい!登録ですね!!かしこまりました!」
カウンターの近くにいた人からも、どよめきの声が上がる。
……私そんなに冒険者っぽくないのかしら。
先程の静寂といい、ギルドの雰囲気はあまり得意じゃないかもしれない。
♦︎♢♦︎♢
「じゃあ登録という事で、冒険者についてのご説明をさせていただきますね!」
「お願いするわ」
「はい!まず冒険者にはランクというものがあります。
下から『ビギナー』『カッパー』『シルバー』『ゴールド』そして最上位のランク『プリズム』。それと登録不要の日雇いに与えられる『フラット』の計六種類のランクがあります!リズさんは登録されて冒険者になるのでフラットを除いた五種類ですね!」
カウンターの上に6つのドッグタグが並べられる。
それぞれ階級に合った輝きを示しており、中でもプリズムだけは群を抜いて光り輝いていた。
【今はランクなんてあるんですねぇ。一つ前の契約者の時にはそんなものありませんでしたよ、等しく皆殺しでしたぁ】
今さらっととんでもない事を口走ったような……
「このランクが高くなるほど危険度の高い依頼を受ける事が出来ます!……ただしこの契約なんですけど、月毎に契約料を取られるんです」
彼女はカッパーのドッグタグを指差しながら話しを続ける。
「それもランクが高くなるほど料金が高くなります。相応に報酬も増えるんですが、依頼をこなしてもらわないとお金だけ取られてしまいますので注意してください。
特にカッパーのランクは料金に対して特に報酬金が芳しく無いので苦しくなると思います」
「なるほどね。最初はやっぱりビギナーからなのかしら」
「はい!原則としてビギナーから始まります!
これはどんな人でも同じです。しかし腕が立つのならすぐに上がっていきますよ!ファイトです!」
そうして一枚の紙を私に差し出して来た。紙面には冒険者名と役職、そしてパーティメンバーを記載する欄が……
……パーティメンバーは二人以上、必須?
「あの、パーティメンバーって……」
「あっ!そうでした!これは最近になって制定されたんですよ。ギルドに登録する際には必ず二人以上のパーティで届出を出さないといけないんです!」
「そ……そうなの……?」
「はい!あちらの掲示板にパーティメンバーを募集しているチームの張り紙があるんです!もし宜しければご覧になられてください。メンバーが決まりましたらまた私にお声がけくださいね!幸運を!」
「…………バンシー、貴方」
【僕は無理ですよぉ。大人しく人探したらど〜ですかぁ】
ここに来るまで、冒険者は一人でやるつもりだった。
というのも私は『仲間』としての付き合いがとても苦手なのだ。
使用人や領主の会議といった関係がカッチリと固まっている者に対しての付き合いばかりしてきたせいで、私には友達と呼べる人がただの一人も出来たことが無かった。
つまりこれは、私の18年の人生史上最大の窮地ーーーー!
パーティを募集している掲示板の前に立ち、必死に脳内シミュレーションを繰り広げる。
「仲間って、フランクな感じで接すればいいのよね?
こう……うっういーって感じで、い、いいのかしら?」
【これ面接式って書いてあるですよぉ。一回テキトーなの受けてみたらどうですぅ?】
「だ、駄目よ!!仲間というのは段階を踏むモノなのでしょう!?そんな軽い気持ちで受けたら相手に失礼よ!」
【うわぁ……面倒くさいですねぇ。これは友達も出来ないです】
「うるさいわね!そもそも貴方世界を滅ぼす神秘を謳ってるクセにどうしてそんな人間臭いのよ!!」
【リズが世間に疎すぎるだけですよぉ。人の世なんてそうそう変わりませんからぁ。ほらこのパーティとかどうです?】
「いや……私が決めるわ。私が決めないと相手に失礼よ」
散々悩みに悩んだ挙句、一つの小さな張り紙が目に付いた。
それは前衛職の戦士が張り出したもので、募集要項には小さな字で『後衛を一人募集中』とだけ書いてあった。
だが備考欄に書かれていた言葉に私は胸を躍らせる。
「この人にするわ。この人となら仲良くなれそう」
紙を剥がしてカウンターまで持っていく。
備考欄には、『呪いの装備を着用している』という文言が雑に書き殴られていた。